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農林業業界・農業法人の事業承継とM&Aについて徹底解説

はじめに

旧来からの業界構造が根強く残っており、依然として大胆な業界再編が進まない「農業」。しかし、水面下ではM&Aを通じて、小さな変化が各地で進行しつつあるのも事実です。農業界の市場動向・市場環境、M&A動向と事例、売手が押さえておきたい成功ポイントや注意点などについて、かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社の佐野泰久様に聞きました。


1. 農業界の市場動向・市場環境

02_農業界の市場動向・市場環境

農業の再興は日本における大きな社会課題の一つとなっています。農林水産省が発表した「農林水産統計」によると、2018年の農業総算出額は9兆558億円。ピーク時の1984年(11兆7,000億円)に比べると20%以上も減少しています。同じく農林水産省が出した食料自給率(カロリーベース)によると、1965年の73%から2017年の38%にまで低下。農業人口も1960年の1454万人から2019年の168万人に減少し、平均年齢は2000年に60歳を超え、2019年には67歳と高齢化が進んでいます。一方で、耕作放棄地(1年以上耕作が行われていない土地のうち、耕作再開に整地や障害物の除去といった再生作業が不要な土地)は1975年の13.1万ヘクタールから2015年の42.3万ヘクタールにまで増加しています。

こうした状況のなか、国や地方自治体は、日本における農業の再興と活性化のために、農業のプロの育成、異業種からの参入促進、耕作放棄地の有効活用などの施策を展開しています。

特に注目すべきは2009年と2016年の農地法改正です。2009年の農地法改正により、農地の借用に関する規制が緩和されました。2016年の農地法改正により、農地の所有に関する規制が緩和されました(農地所有適格法人の要件緩和)。これらにより、一般企業が農地を借用または所有して農業に参入することが容易になり、異業種からの参入が活発化しました。

しかし、かつて異業種から参入した企業の多くは、現時点で農業から撤退しているか、継続していたとしても一時期の勢いがなくなっています。その要因はさまざまですが、地域の組合を中心とする業界構造が根強く、ビジネスライクに事業の効率化や規模の経済を追求できなかったことが主因と考えられます。

ただ、この10年で何も変化が起こらなかったのではなく、隠れた制度変化が進行していたと見るべきでしょう。実際、あまり表には出てきませんが、隠れた業界プレーヤー間での業界再編が進んでおり、水面下では密かにM&Aが行われています。農業の再興にはほど遠いですが、そうした見えない変化が進んでいることを理解しておく必要があります。


2. 農業界のM&A動向

03_農業界のM&A動向

先述のように、旧来からの業界構造が依然として続いていることもあり、農業界においてM&Aを行うのは難しい状況にあります。そもそも、キャピタルゲインが見込める業界ではないため、他業種のように大規模なM&Aはほとんどありません。垂直統合、つまり農業における川上から川下までを統合し、生産から消費者へ届けるまでを自社で一括管理して価格変動リスクを自社で負うといったスタイルのM&Aもなかにはありますが、決して多くはありません。

一方で、「隠れた革命」とも言える水面下での業界再編が密かに進行しています。特に夫婦で農業を営み、高齢によりリタイア局面を迎えるも後継者不在で、八方ふさがりになっている農家は数多くいます。表にはあまり見えてきませんが、「売りニーズ」も「買いニーズ」も高い業界で、事業承継を目的としたM&Aがホットなテーマになっています。

ただ、そうした細かなニーズの発掘が、心理的、距離的、あるいはコスト的にも難しいという課題があります。農家の間には「M&A」に関する認知もまだ進んでおらず、仮に知っていたとしてもネガティブなイメージを持っている方も数多くいます。そのため、M&A仲介会社のような存在を警戒する傾向にあるでしょう。

また、インターネットを利用して情報収集・発信する農家は多くありません。そうなると、M&Aの効果やメリットについて直接伝えるしかありませんが、距離の問題もあって難しい状況です。一方で、M&Aは後継者不足の解決・対策になるため、具体的にM&Aの話がまとまると非常に喜んでもらえるという現状もあります。農業は高齢者が非常に多い業界で、他業界に比べると「再編待ったなし」の状況にあります。M&Aに携わる者として、この隠れた変革を後押ししていく必要があると考えています。

【農業の組織形態とM&Aの実態】

農業を営む組織形態は、大きく分けると個人事業主と農業法人に分類されます。農業法人は、さらに農業組合法人と会社法人(株式会社、有限会社、合名会社、合資会社)に分けられます。

当社が携わったM&Aはほとんどが会社法人で、株式会社と有限会社が中心です。実態としては1人または夫婦が運営している法人で、一般的なイメージのM&Aと異なっているように見えるでしょう。農業の会社法人は、基本的に個人にリスクとリターンが帰属しており、融資も個人に付きます。ファンドが大量の資金を投入し、複雑なM&Aスキームを用いて大きなキャピタルゲインを狙うM&Aのイメージとは異なる世界がそこにあります。ただし、個人事業主であっても、良い作物を作り、ある程度の規模があればM&Aの対象になります。売上規模的には、一般的には年商5000万円ぐらいから可能だと思います。

なお、農業法人が自社の規模拡大を目的に別の農業法人をM&Aするケースが最も多いですが、M&A仲介会社を通さずに地域間、法人間で話がまとまるケースが大半と見ています。

【農業におけるM&Aスキーム】

農業においては、事業譲渡や資産譲渡のスキームを用いることがほとんどです。これは買手が被るリスクの切り離しのためで、株式譲渡を用いた場合、簿外債務をそのまま引き受けるリスクが存在するからです。帳簿を付けて経営管理できていない農家も多いため、個別の資産を譲渡する資産譲渡を選択するケースも多々あります。

株式譲渡は一般的な会社のM&Aで最も利用頻度の高いスキームですが、農業法人のM&Aにおいて利用する場合には注意が必要です。というのも、株式を取得される会社が農地を所有している場合には、株式譲渡後も農地所有適格法人の要件(法人要件、事業要件、議決権要件、業務執行役員要件)を維持する必要があるからです。そのため、原則としてその法人が行う農業に従事する者が議決権の過半数を持っていなければ農地所有適格法人の要件を満たせませんし、個人であっても常時従事者でなければそもそも過半数の株式を所持することができません。そもそも農地(土地)に価値があるのであれば、事業や土地の売買だけで済ませるべく事業譲渡や資産譲渡が選択されるケースが多いのです。


3. 農業界のM&A事例

04_農業界のM&A事例

農業界のM&Aは表に出てこない案件がたくさんあると見ていますが、事例を紹介します。

【事例1:飲食店オーナーがトマト農家を子会社化】

これは当社が支援したトマト農家の案件です。とてもおいしいトマトを作られている農家なのですが、長年販路開拓における課題を抱えていました。ある飲食店オーナーにトマト農家を紹介したところ、新たに農業法人を作り、その農家を子会社化することになりました。その飲食店オーナーは飲食店経営以外に酪農系商材を持ち、独自の販路を開拓していました。傘下に入った農家は、飲食店の販路を活用することで、より最終消費者に近いところで野菜を作れるようになっただけでなく、従来よりも高値で野菜を販売することができるようになり、売上も増加しました。

【事例2:サイゼリアが農家から田んぼを借り受けてトマト農場を運営】

イタリア料理店チェーンの株式会社サイゼリヤ(埼玉県吉川市)は、自社で農作物や畜産物を生産して自社で最終消費者に提供するSPA(製造小売業=Speciality store Retailer of Private label apparelの略称)を展開しています。メインとなるオーストラリアの自社農場・工場以外に、国内で仙台トマト農場を運営しています。これは、東日本大震災の被災地支援の一環として、津波の被害を受けた仙台市若林区の田んぼを農家から借り受けて始めた事業です。関連会社の農業生産法人白河高原農場(福島県白河市)が運営し、露地のトマトが出回る夏場を除いて主にサイゼリヤに出荷しています。

【事例3:大和フーズ&アグリが平洲農園に資本参加】

2020年3月、大和証券グループの子会社である大和フード&アグリ株式会社(東京都千代田区)は、株式会社平洲農園(山形県東置賜郡)に資本参加し、カゴメ株式会社との連携のもと、トマト生産ビジネスに参入しました。大和フード&アグリは、農業やそれに付随するビジネスへの投資、運営、管理を主に行っており、2019年4月には熊本県菊池郡で現地パートナーとの協働によりベビーリーフ生産ビジネスに参入しています。平洲農園は山形県川西町で低コスト耐候性ハウスを用いたトマトの栽培・販売を行っています。カゴメはトマト栽培ノウハウを持っており、カゴメの連携のもと、平川農園の経営に参画し、社会課題の一つである農業の活性化を図るとしています。


4. 農業業界のM&Aにおけるメリット・理由

05_農業業界のM&Aにおけるメリット・理由

【M&Aのメリット】

買手側のメリットとして挙げられるのは規模の拡大です。耕作地を広げることで、単純に売上増が見込めます。また、数は決して多くありませんが、垂直統合、つまり農業の川上から川下までを統合するM&Aの場合、生産量や価格を自社ですべてコントロールできるというメリットがあります。

一方、売手のメリットは、後継者問題を解決できる点が挙げられます。また、譲渡益で借入金を返済してプラスになる可能性もありますし、これまで育ててきた事業を継続して見守ることができるというメリットもあります。

【M&Aを行う理由】

M&Aを行う理由として、収益性の悪化が最後の引き金になるケースがほとんどです。大規模農家であれば、一部の野菜で病気が流行っても他の野菜でリスクを分散することができます。しかし小規模農家の場合、一回の疫病で大きな痛手を被り、資金繰りが急速に悪化します。また、価格変動リスクにも弱く、種を仕込んだ時期には高値で売れていたものの、収穫時期には豊作のために売値が大幅に下落するといったことが発生します。廃業できればまだいいですが、M&Aを知らないと残された選択肢は破産しかないという状況も十分考えられます。

一方、買手は、規模の拡大(農地の取得)のため、あるいは垂直統合のためであり、この2つのパターンがほとんどです。


5. 売手が押さえておきたい成功ポイント・注意点

06_売手が押さえておきたい成功ポイント・注意点
最後に、M&Aの失敗を避け、成功するためのポイントについて説明します。

①作物の改善を図る

M&Aを行う際の譲渡価格は直近の業績や作物の状況に左右されます。少しでも高値で売却するために、田んぼや畑を整備し、作物の見栄えと味を少しでも良くしておくことが大切です。そのためには、1~2年程度をかけて準備することが必要。というのも、日本は年サイクルで作る作物が多く、あまり良い作物が作れていないとしても2サイクル程度あればかなり改善できるからです。味については、他の農園の農産物を食べてみたり、消費者の好みを調査してみることも有益でしょう。

②農機具を綺麗にする

農機具を綺麗にしておくことも大切なポイント。その見栄えで買手の対応が変わることもあります。反対に、農機具の手入れが悪いと不安視されることも。

③買手の意思決定者に農地や作物を見せる時期を考える

買手の意思決定者に農地や作物を見せる時期も大切です。例えば、桃であれば7月頃が出荷の最盛期になりますが、その出荷直前の時期に買手側の意思決定者が来るように逆算してスケジュールを組みます。例えば、その1年前の秋から準備を始め、M&Aアドバイザーに1月に入ってもらい、買手側の現場の担当者には3月、意思決定者には6〜7月に来てもらうといった具合です。あるいは、桃を育てる過程で特別な工夫をしている時期があれば、その時期に来てもらうことも良いでしょう。

なお、M&Aに関する相談は、顧問税理士や司法書士、特に農業は許認可の関係でお付き合いしている司法書士が考えられます。その方を通じて信頼できる地元の会計事務所を紹介してもらうのが良いでしょう。地域のことは、地域の方が一番知っていると思います。ただ、M&Aに詳しい専門会社に依頼したい場合は、当社のような農業分野に詳しいM&A会社に相談することをおすすめします。相談する際には、どういった買手がいるのかを確認してみましょう。


話者紹介

07_かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社 佐野泰久
かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社
マネージャー
佐野 泰久(さの やすひさ)

東京都庁、かえでキャピタルマネジメント株式会社、PwC アドバイザリー合同会社を経て、かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社に入社。主にM&Aアドバイザリー、事業再生コンサルティング、財務分析業務、バリュエーションを担当。かえで税理士法人(兼務)では、国内・外資系企業の税務業務に従事。慶應義塾大学法学部政治学科卒、京都大学公共政策大学院修了。大学院では公共政策について研究し、現在もパブリックな課題に関係する案件を中心に多数のM&A案件に携わっている。

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