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建設業におけるM&Aの現状とM&Aを進めるうえでの注意点

2020/07/22
更新日:2021/06/01

はじめに

建設業はほかの業界と違い、大量生産や画一的なサービスを提供する場面が少なく、基本的にオーダーメイドのものづくりを行っている業界です。

地域性が強く、会計に関してもほかの業界とは違う制度があるなどの特徴があります。そんな建設業でもほかの業界と共通しているのが事業承継や人手不足に関する問題です。

建設業でもM&Aによる事業承継は広がっていくのでしょうか。また、建設業がM&Aを進めていく場合、どのような点に注意する必要があるのでしょう。

今回は、建設業の現状やM&Aを行うメリット、M&Aによって事業承継を行う場合の注意点などについて、M&Aや事業再生を専門とする企業U&FAS代表で公認会計士・中小企業診断士でもある氏家洋輔さんにお話を伺いました。


1.建設業の現状と業界の動向

建設業のイメージ
まずは、建設業の現状や業界の動向について紹介します。

(1)建設業はどんな業界?業界の特徴について

1 建築業と土木業とは別の業種

建設業とは、ビルや住居などの建物を建築する「建築業」と、道路や橋、ダムなどを造成する「土木業」の総称です。建設業で生産される完成物は、建売住宅やアパートを除くと基本的に単品生産であり、大量生産はできません。土地や自然環境によって工法や設計が変化するのも建設業の特徴です。大量生産ができないことから、重機などの大型建設機械を除くと機械化が遅れており、労働集約型産業の代表ともいえるでしょう。

2 建設物に応じて許可が必要

建設業を営むためには、分野ごとに都道府県知事または国土交通大臣の許可が必要です。道路や橋を作る場合には「土木一式工事」、建物を建築する場合には「建築一式工事」、鉄塔を建築する場合には「鋼構造物工事」、道路を舗装する場合には「舗装工事」など、工事の種類に合わせてそれぞれ許可を得なくてはなりません。

3 元請けと下請けから成り立つピラミッド構造

受注産業であり、発注者から工事全体の進行管理を請け負う「元請け」と、元請けから一部分の仕事を請け負う「下請け」に分類されます。元請けと下請けも許可が分かれています。また、元請けとして1件あたり4,000万円以上(建築工事の場合は6,000万円以上)の工事を受注する場合には、「特定建設業」の許可が必要です。4,000万円以下(建築工事の場合は6,000万円以下)の場合は、一般建設業の許可が必要となっています。

4 人材不足を抱える建設業

建設業は長年にわたって人材不足という問題を抱えています。経済産業省の資料によると、平成9年(1997年)度の就業者数685万人をピークに、平成27年(2015年)度には約27%減の500万人にまで落ち込んでいます。就業者の年齢構成をみると、65歳以上が全体の42.4%とトップで、反対に15~29歳の若年入職者は35.7%しかいません。65歳以上の入職者の大半が10年後には引退すると予想され、若年入職者の確保と育成が喫緊の課題です。

(2)建設業の歴史と動向

建設業の市場において、シェアの半数を公共事業が占めています。残りの半数が民間工事です。ほかの業界と違って公共事業への依存度が高いことから、政治との繋がりが強いとされる業界の一つでしょう。

戦後復興から高度経済成長期、バブル期までは、「豊かな国を作る」という国の方針とともに一本調子で成長を続けてきました。万博などの国のイベントに合わせた高速道路や新幹線など、地方への交通網を整備して国土を豊かにしてきた経緯があります。しかし、国土の開発が一段落し、平成初期にバブルが崩壊すると、建設業の成長も停滞の時期を迎えました。

平成時代の建設業は、「イベント」や「災害」に左右されています。特に、自然災害が発生すると復興特需が発生。代表的な事例が東日本大震災です。瓦礫(がれき)の除去や復興には建設業の力が必要とされ、全国から建設業者が駆り出されました。近年では、首都圏を中心とした建設ラッシュが起こっています。このように、近年の建設業は市場環境よりも社会動向に大きく左右される業種であるといえるでしょう。

今後は、高度経済成長期に建設された建物のメンテナンスや建て替え、公共施設の耐震化や水道管、道路橋など社会インフラに関する更新工事の需要が控えています。人手不足によって廃業が相次ぐ建設業では、事業さえ継続できれば廃業に追い込まれることは考えにくい状況です。

(3)建設業の市場環境と個別企業の経営状況

建設業は、バブル崩壊によってほかの業界が不況にあえぐ中でも成長を続け、平成4年度には建設投資が84兆円と過去最高に達しました。しかし、建設業には公共事業で潤っていた企業が多かったため、マスコミや国民からバッシングを受けました。民意を受け、政府も「構造改革」や「新自由主義」、「小さな政府」といった民間競争を加速させる政策に舵を切り、公共事業への予算を削減し始めました。

年々公共事業は削減され続け、ついには「コンクリートから人へ」というスローガンで政権を獲得した革新系与党によって、平成22年にはピーク時の約半分にあたる41兆円にまで公共投資が削減されました。

約20年にわたる建設業への逆風により多くの建設業者が倒産し、事業者数も、平成27年にはピーク時の約21%減となる47万事業者にまで減少しました。

今後も公共インフラの更新工事だけでも膨大な需要が見込まれています。さらに公共施設の耐震化工事や自然災害の拡大を未然に防ぐための治山・治水事業など、建設業が取り組まなければならない事業は山積です。したがって、今後10年〜20年は、建設業が需要不足に悩む状況になることは考えにくいといえるでしょう。

個別企業の状況を見てみましょう。現在も事業を続けているのは、建設業にとっての「冬の時代」ともいえる平成を乗り切った企業ばかりです。経営者の能力やビジネスモデルが優れている企業でなければ生き残れず、一定の質と能力がある会社が現在まで存続していると考えることができます。

ただし、赤字の企業も数多く存在します。特に原価の見積りがずさんで、経営管理の甘い会社は一定数存在します。見積り作成能力が低いと受注後に追加の費用が発生し、その損失を別工事の利益で補填するという本末転倒な経営を行っている企業も。このように、全ての企業の業績が順調という訳ではありません。

こうした背景には、建設業界の状況があるように思われます。経済産業省の資料によると、建設業者数は平成11年(1999年)度の約60万業者をピークに、平成27年度(2015年)度には約22%減の約47万業者にまで下落。建設投資もまた平成4年(1992年)度の84兆円をピークに、平成27年度には約38%減の約52兆円まで落ち込んでいます。

2.建設業におけるM&Aの状況は?

建設業のイメージ
建設業におけるM&Aはどのような状況なのでしょうか。M&Aの現状について紹介します。

(1)建設業界におけるM&Aは増えつつある

建設業界のM&Aは元来、多くありませんでした。建設業は地域性が強いため、他地域の同業他社を買収して新たな地域に進出しようという概念をほとんどの経営者は持っていませんでした。建設業では、仕事の規模が大きくなるほど1社で仕事を完結させることが難しいため、ほかの業界に比べて業界内の横の繋がりが重視されてきました。

また、基本的には地域ごとに異なる強みを持った企業がお互いを補完しながら事業継続を行うエコシステムがすでに構築されていました。例えば「水道工事はA社に」「道路舗装はB社」、「内装ならばC工務店」のように、地域内で事業を完結できる仕組みが既にあるため、他地域で新たにビジネスを始める必要性がありませんでした。

ただし建設業界のM&Aは増えつつあります。2019年には建設業界のM&Aの件数は121件と過去最高を記録しました。増加の背景には建設需要が高いことに加えて、地方から都市圏、都市圏から地方へと、建設企業が事業拡大のためにM&Aを推し進めていることが挙げられます。また、家電メーカーや不動産など異業種の企業もシナジー効果を期待して建設業界のM&Aに参入しています。

(2)粉飾決算がM&Aの障壁になる

実務面では粉飾決算が多いこともM&Aの障壁になっていると考えられます。

粉飾決算が多い理由1:会計の特殊性

建設業界で粉飾決算が多い理由の一つは、会計の特殊性にあります。建設業では、数ヶ月単位から数年単位にわたるプロジェクトまで様々な事業があります。特に年度や会計期を跨ぐ工事も発生することから、特殊な会計基準が設けられています。それが「工事完成基準」と「工事進行基準」という二つの基準です。

工事完成基準は年度を越えない短期間の工事で用いられ、現場ごとに工事が完了した段階で売上や利益を計上します。この場合は、売上実績ベースで会計を行うため、不正はあまり発生しません。しかし、工事の完成時にしか売上の計上を行えないがゆえに、細部の費用計算が曖昧になりやすく、実態を正確に捉えた会計になりにくいといった側面があります。

一方、工事進行基準は工事が長期間にわたる場合に用いられ、工事が完成していなくても期末ごとに収益と費用を計上します。会計期に合わせて売上や利益を按分することで、実態に近い会計処理を行います。建設業の費用が発生するタイミングは「着工時(契約時)」、「中間検査時」、「竣工時」などプロジェクトの区切りの良いところで切り分けられ、分割払いするのが一般的です。

この仕組みを利用して、決算書の内容を良くするために売上や利益の前倒し、後ろ倒しが可能となります。例えば「今年は工事受注額が多かったから、現在進行中の工事の売上を次年度に多めに計上する」など、恣意的に操作すると粉飾決算が可能となるのです。

大手建設業者の場合は監査法人が厳格に監査を行うため、工事進行基準を用いても問題が発生することは多くありません。しかし、中小企業は会計監査を行うことが少なく、資金繰りのために決算書の内容を良く見せたいと考える場合には、工事進行基準によって売上や利益を計上する時期を調整することがあります。工事進行基準では事前に見積もった利益率から売上高を逆算できるため、利益率を調整して計上する売上高と利益を調整することが可能です。

このように、中小企業では売上や利益を調整できることから、融資のために決算書の内容を操作し、税負担を低くするために利益率を調整するなど、粉飾決算を行いやすい環境にあります。

粉飾決算が多い理由2:経営事項審査

粉飾決算が多い二つ目の理由は、「経営事項審査」の存在です。地方自治体などの官公庁が公共事業を発注する際には入札が用いられます。この入札に参加するには厳格なルールがあり、経営事項審査において設定される基準を満たした企業だけが入札に参加可能です。経営事項審査は、優良な建設業者のみを入札に参加させることを目的として設けられており、次のような審査基準が存在しています。

・工事種類別年間平均完成工事高評点:工事種類別に、平均してどれだけの完成工事高を上げたかを審査

・自己資本額及び平均利益額:適正な資本を保有し、経営状況が優良であるかを審査

・建設業種類別技術職員数及び工事種類別年間平均元請完成工事高評点:社内の資格取得者の人数を点数化して審査

・経営評価点:決算書の財務内容を数値化して審査

・その他の審査項目:雇用保険や健康保険、厚生年金、営業年数や営業停止処分など行政処分の経験、研究開発費等で審査

このように、決算書の内容が経営事項審査の基準とされています。公共工事に依存している建設業者は、特にこの点数が事業存続を左右するため、入札の参加資格を得るために粉飾決算へ結びつく可能性があります。

(3)M&A価格の相場

建設業のM&A価格は、企業価値の算定方法により異なります。どの手法で企業価値を算定するかもケースバイケースです。ただし、労働集約型産業で人材雇用に一定のコストがかかっているため、IT業界など利益率の高い業界と比べると、それほど高い企業価値を得ることは難しいでしょう。

3.建設業におけるM&Aのメリット

建設業のイメージ

M&A・事業承継を検討している方へ

当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。


建設業でM&Aを行うことにはどのようなメリットがあるのでしょうか。売手と買手双方のメリットを紹介します。

(1)売手のメリット

1 売却益を得られる

最も大きなメリットは、売却益を得られることです。特に引退を考えている場合には、売却益で新たな事業を始めることも可能であり、退職金がわりにして今後の生活を安定させることもできます。

2 後継者問題の解決

M&Aによって事業を引き継いでくれる人が見つかれば、後継者問題が解決できます。また、一緒に仕事をしてきた従業員の雇用も維持できる可能性が高くなることがメリットとして挙げられます。

3 原材料の仕入れ効率化、重機の活用

M&A後も事業を続ける場合、原材料を安定して安価に入手することと、重機などの建設機械がグループ間で活用できることがメリットです。

原材料の入手に関しては、例えば建設工事で大量に使用するセメントやアスファルトの場合、工場で作られてから現場に運ばれて施工(工事)されます。しかし、セメントもアスファルトもすぐに固まってしまうため、工場で作られてから2〜3時間程度しか時間的余裕がありません。

大手建設企業やそのグループ企業は、全国各地にセメント工場やアスファルト工場を所有しています。M&Aによって大手企業の傘下に入るとこれらの工場が優先的に利用可能となるため、材料の安定確保を見込めます。また、グループ価格で入手できれば、ほかのセメントやアスファルト工場で購入するよりも安く手に入り、利益率の向も可能です。

重機などの建設機械の活用についても、例えば降雪地帯の建設業者は自前の除雪用重機を所有しています。しかし、降雪地帯でない地域では、地元の建設業者は除雪用重機を所有していません。除雪業務の備えとして、年間契約で除雪用重機をリースしているケースがほとんどでしょう。

このリース料は、年間数百万単位の支出を必要とするため、利益を圧迫しています。大手企業のグループ傘下に入れば、ほかの地域から降雪時だけ重機を融通してもらうことができるなど、建設機械の活用が可能です。

重機は「穴を掘る」「土を均す」など単一作業にしか使えない種類が多く、しかも1台数百万円から数千万円と高価です。リースをしても高い費用が発生することから、グループで重機を共同所有して必要な時期だけ利用する方が安上がりとなり、収益を向上させることができます。

このように、引退であれば事業承継問題の解決ができること、企業成長を見越したM&Aにより大手企業の傘下に入れば、材料や資機材を活用できることがM&Aを行うメリットとなるでしょう。

(2)買手のメリット

1 有資格者の確保・人材不足の解消

買手にとって一つ目のメリットは、有資格者を社内に取り込めることです。建設工事では現場ごとに必ず「現場代理人」という責任者を配置することが義務付けられています。世間で「現場監督」と呼ばれるのがこの現場代理人です。

民間企業が発注した工事の場合、複数の現場を一人の現場代理人で兼務することがあります。しかし、都道府県によって違いはありますが、公共工事ではおおむね発注額が2,500万円を超える工事では、一つの現場に一人の現場代理人を専属で置くことが義務づけられています。

つまり建設業者は、各種施工管理技士の在籍人数が受注可能な金額の上限となることがあり、企業を成長させるためには有資格者を増やすことが大切な要素です。また、M&Aによって有資格者を取り込むことができれば人材不足の解消にも繋がり、企業が存続かつ成長する大きなチャンスとなるでしょう。

2 事業エリアの拡大

二つ目のメリットは、事業エリアをスムーズに拡大できることです。建設業の特徴は地域性が高いことであり、新たな地域に進出しても参入できないことがほとんどでしょう。しかし、M&Aによって元からその地域で事業を営んでいた企業を買収することができれば、その企業と取引のあった建設業者との関係が構築しやすくなります。

建設業は横の繋がりが強い業界です。新たな地域で建設業のエコシステムに加わることができれば、進出が成功する確率が高くなります。このように、進出先の建設業者とスムーズに関係構築ができる点もメリットの一つです。

3 異業種への進出

建設業法に基づいて建設工事を請け負う場合には、建設業者は原則、建設業許可を国から受けなければなりません。建設業許可が必要な業種は電気工事・管工事・鉄筋工事などの計29業種もあり、各工事を行うためには業種ごとに許可が必要とされています。

自社が保有していない建設業許可を持っている会社に対してM&Aを行うことで、異業種に進出して競争力を強化できます。これが三つ目のメリットといえるでしょう。

4 資機材を調達する上でのスケールメリット

四つ目のメリットは、資機材を調達する上でのスケールメリットです。建設工事では資機材を大量に発注します。小規模に資材を調達するよりも、M&Aによって規模を大きくして発注すれば単価を下げることができます。

売手のメリットと同様に、原材料費を抑えられるかが収益を左右します。建設業では一つの現場で何十トン、何百トン単位の資材を使用するため、1%でも単価を下げることができれば大きな利益に繋がります。それだけスケールメリットの大きい点が買手のメリットの一つといえるでしょう。

4.建設業のM&Aで買手が確認すべきポイント

建設業においてM&Aを成功させる場合、買手がどのようなポイントを押さえておくべきかを紹介します。

(1)取得資格の確認

まず、売手がどのような資格を取得しているかを確認することが重要です。法務面でのデューデリジェンス(売手企業の調査)によって保有資格状況を正確に把握しておきましょう。冒頭で紹介したとおり、建設業は資格によって施工可能な工事が決まります。建設業が許可されるには、次に挙げる四つの要件を満たす必要があります。

①5年以上経営者としての実務経験がある人材がいる

②資格を持った専任技術者がいる

③財産的な基礎が安定している

④許可の取り消しなど欠格事項に該当しない

特に、有資格者の確保はM&Aの目的の一つになるため、M&A成立後に「許可の更新を怠っていた」、「有資格者が退職して更新できない」などの問題が露呈しないように資格の取得状況をきちんと確認することが重要です。

また、労災に関する事故や事件を起こすと、入札参加停止などの行政処分が下されます。このような処分歴は資格の取り消しや更新停止に繋がる可能性があるため、過去の経歴についても把握しておきましょう。

(2)建設業界の周辺環境に配慮

建設業は横の繋がりが強い世界で、経済的な合理性だけでは成り立っていない世界です。無茶な納期の依頼や欠陥工事などの非合法な対応を行っていないかなど、周辺環境も含めて調査する必要があります。またM&A後には取引先や従業員との人間関係に充分に配慮しないと、有資格者の引き抜きや施工拒否といった被害を受けることがあります。

M&Aによって異業種から建設業へ参入する場合には、特に業界経験者を雇用してアドバイスを得られるようにします。地域の建設業者と人間関係を構築してうまくエコシステムに参加できるように配慮しましょう。

(3)粉飾決算に注意

金融機関からの融資や経営審査のために粉飾決算を行っている場合があります。これは経営陣の意識改革によって改善できることです。しかし、現場で粉飾決算が行われているケースもあるため注意が必要です。

建設業界の粉飾決算として代表的なのは、架空の売上や原価を計上するのではなく、実在する工事で売上や原価を計上した原始証憑の日付や物件名の偽装、改ざんにより計上時期を変えることで利益を計上するケースでしょう。粉飾決算を共謀で実行されると発見は難しいものの、財務諸表の分析や現地調査を深く実施することで粉飾決算を発見する確率を上げることが可能でしょう。

建設業では工事現場ごとに決算を行うため、現場代理人ごとの成績が評価しやすいという特徴があります。しかし同時に、典型的な体育会系の業界であることも特徴です。
成績を良く見せたい代理人が無茶な作業を要求し、逆らえない現場が工事の進捗状況を正しく報告せず、結果として粉飾決算につながってしまうリスクがあります。
ほかの業種に比べて粉飾決算が多いといわれる業種ということもあり、この点には十分注意しておきましょう。

5.建設業で会社を売却する際の注意点

建設業で会社を売却する際に注意しないといけないのが、次の3点です。

(1)売手が抱える案件の引き継ぎ

M&Aを開始する段階で売手が進行中または建設予定の案件を抱えている場合には注意が必要です。請負中の案件はM&Aを実施する前に完了させるのがベストですが、売手が長期的な案件を抱えているケースも考えられます。その場合、買手あるいは同業他社に引き継いでもらうかどうかを検討しないといけません。買手が案件を引き継ぐ場合には、費用分担の割合を両社で話し合い、トラブルにならないようにしましょう。また、案件の引き継ぎに関しては、発注者に伝える必要があります。

(2)建設業許可の引き継ぎ

建設業許可の引き継ぎについては、譲渡によって変わるので注意が必要です。株式譲渡の場合には、建設業許可はそのまま承継されます。一方事業譲渡や会社の合併・分割の場合には原則、売手が保有する建設業許可は買手に承継されません。その場合、買手は改めて必要とする建設業許可を取得しなければなりません。建設業許可を申請してから許可されるまでには期間を要するため、M&Aのスケジュールを予め調整しましょう。特に買手に工事の案件を引き継ぐ場合には注意が必要です。

ただし改正建設業法が令和2年(2020年)10月に施行され、売手と買手が都道府県の知事あるいは国土交通大臣など許可行政庁に認可を申請すれば、建設業許可の引き継ぎが可能になりました。この背景には、建設業許可の申請には最大で4カ月程度かかってしまうため、許可の空白期間が発生してしまい不利益をもたらすことが挙げられます。

(3)買収のメリットを買手に伝える

建設業界におけるM&Aには、市場規模の縮小や入札価格の問題などのデメリットがあります。加えて、事業譲渡の場合先述したような建設業許可の引き継ぎや経営事項審査などの煩雑な業務があるため、買手はM&Aに前向きにならないこともあるでしょう。そのため、M&Aによって技術力を持った従業員を確保できる、自社にはない建設事業を補完できる、建設事業の内製化を図ることができる、工事の実績を引き継げるといったメリットを伝えておきましょう。

6.建設業のM&A仲介会社の選び方

建設業者は債務超過に陥りやすい傾向にあり、資金繰りに悩む会社も多いでしょう。このように、建設業界はほかの業種と比較して特殊なケースがあるため、建設業界に精通したM&A仲介業者に相談してみるのがいいでしょう。M&A仲介会社に建設業界におけるM&Aの実績がなくても、建設業界の実績を多くもつ担当者を抱えるM&A仲介会社でも構いません。もちろん通常のM&Aと同様に、弁護士や税理士、司法書士、銀行、投資ファンドなどの士業や金融機関とのネットワークをもっているかなども、M&A仲介会社を選ぶうえで重要でしょう。

7.まとめ

建設業のイメージ
建設業界は慢性的に人手不足で、どの建設業者も特に有資格者を求めている状況にあります。有資格者をまとめて獲得することができる点は、M&Aの大きなメリットです。

一方で、業界の特徴として多くの協力業者の手を借りなければ仕事を進めることができず、地域性も強いことから横の繋がりが強く、人間関係が業務の進行に大きな影響を及ぼす業種です。特に経営管理面で課題を抱えている会社も多いため、M&Aを進めるにあたっては充分なデューデリジェンスを行いましょう。

<話者紹介>


U&FAS
代表
氏家 洋輔(公認会計士・中小企業診断士)

建築学科卒業後、会計専門職大学院を首席で卒業。大学院在学中に公認会計士試験に合格し有限責任 あずさ監査法人大阪事務所に入所。一部上場企業をメインとした、製薬業界、医療業界等の製造業、金融機関、卸売業、建設業等の監査業務に従事。M&A、事業再生、事業計画策定、経営改善、IPO支援、IFRS対応支援、不正対応等に従事したのち、2019年にU&FASを創業し代表に就任し、M&A・事業再生案件に多数関与。

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