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会社を売りたい! 自分に合った方法と注意点を知る

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はじめに

充分働いたので今後は少しゆったり過ごしたい、経営に限界が見えはじめたのでそろそろ引退したい、一度利益を確定させて次の事業を考えたい…。このような理由から、自分の会社を売りたいと考えたことはないでしょうか。

しかし、そもそも「会社を売る(以下、譲渡する)」とは、どういうことなのでしょうか。そして、どのような点に気をつければ、より良い条件で会社を譲渡することができるのでしょうか。中小企業のM&Aに詳しい、クレジオ・パートナーズ株式会社の土井一真さんに、会社譲渡の基本について教えていただきました。
 


土井一真さんプロフィール写真

話者紹介

クレジオ・パートナーズ株式会社
常務執行役員 土井 一真(どい かずま)
公認会計士・税理士。高校卒業後、闘病生活を経て21歳で公認会計士試験に合格。中小M&Aブティックで、新規事業の設立、運営(特に資金調達)、株式公開準備に携わる。その後大手上場会計系コンサルティング会社にてM&Aの仲介・FAや上場準備会社の資本政策・相続対策等を担当。2018年に起業し、現職に就く。

 

 

1.「会社を譲渡する」とは?

土井一真さんのインタビュー写真1

「会社を譲渡する」とは、会社の所有権を他者に渡して対価を得ることです。売買(以下、譲渡・譲受)に関する一連の流れの中には、従業員の雇用や取引先の維持、事業承継対策など、多くの要素が関わってきます。現在、多くの中小企業がM&Aによって会社を譲渡していますが、その理由にはさまざまなものがあります。

①親族や従業員の中に後継者がいない

経営意欲が減退する年代の経営者には、後継者がいないことに悩み、会社の譲渡を検討することがあります。後継者に指名できる子どもがいない、子息が都心の大企業に勤めていたり地元で公務員を務めていたりする、従業員に「社長はできない」「株は買い取れない」と断られた、などのケースが多くを占めています。

②不採算事業と採算事業を譲渡したい

複数の事業を展開していると、採算が取れない事業や今後は売上高が下降していきそうな不採算事業を抱えていることがあります。逆に、今は採算が取れているけど将来的な事業発展には不安がある事業を抱えていたり、経営者がより注力したい事業を選択したいと考えたりしたときに、採算事業の一部を譲渡することもあります。

③成長速度を加速させたい

企業が急激に事業を拡大した場合、組織の管理体制が不十分だったり、会社の成長に与信が追い付かなかったりすることがあります。経営者が孤軍奮闘するだけでは企業を成長させることに限界があるとき、より資金力の大きな企業の傘下に入ったり一部を譲渡したりすることで、その後の成長速度を加速させる準備をすることができます。

2.会社を譲渡するための主な方法と、メリット・デメリット

土井一真さんのインタビュー写真2

会社を譲渡する方法は主に3つあり、それぞれにメリットとデメリットが存在します。

(1)株式譲渡

株式譲渡とは、株式を譲渡することで会社の経営権(支配権)を移転するものです。事業承継に伴う株式譲渡の場合は経営権の全てを譲渡することになるため、売手(以下、譲渡)側は株式の100%を譲渡することになります。中小企業の事業承継型M&Aは、このケースを指すことが多いです。

①メリット

株式譲渡契約書(SPA)締結後に、買手(以下、譲受)側が譲渡側の株式に対して契約書で定めた対価を支払い、株主名簿の書き換えなど会社法等に定められた手続きを行えば譲渡・譲受が完了します。他の手続きと比べ、手続きを簡単かつ短期間に行うことができます。

②デメリット

会社の事業と関係なく賃貸マンションや太陽光等を保有しているなど、譲渡側の経営者のプライベートな資産が譲渡する会社に含まれている場合、会社分割等をしないのであれば当該資産を買い戻さなくてはならないことがあります。その場合、買い戻し時に当該資産の含み益に対して法人税等が課税されたり、登録免許税等がかかったりと、追加コストを負担する必要があります。

(2)事業譲渡

事業譲渡とは、譲渡側の特定の事業について、一部または全てを譲渡する取引行為です。事業譲渡を選択する場合、売り手側は譲渡対象とした事業についての経営権はなくなりますが、譲渡しなかった事業については引き続き経営権を保持することができます。

①メリット

譲渡範囲は、契約書等に定めれば有形や無形を問わず、資産・負債・従業員・取引関係など含めて、どの事業を譲渡するか選ぶことができます。

②デメリット

譲渡する権利や義務について個別に引き継ぎをする必要があるため、他の手法に比べ手続きが煩雑で長期間かかる場合が多いです。例えば、従業員の雇用契約書や土地建物の賃貸借契約書なども譲受側が再度締結し直す必要があり、その際には今までの不満などが噴出することもあります。また、許認可事業では、許認可の取り直しが必要になる場合が多いです。

(3)会社分割

会社分割とは、譲渡側が経営している特定の事業に関して、権利義務の一部または全てを包括的に譲受側に承継してもらう組織再編行為です。非事業資産と事業資産の分割または再生のための手段として、利用されることが多いと言えます。M&Aのスキームとして選択する場合には、ある程度長期の検討期間や実施期間が必要です。昨今の税制改正でメリットが出るケースもあるので、一考の価値はあると言えるでしょう。

①メリット

事業を移転させるという点では事業譲渡と似ていますが、会社分割では事業を包括的に移転させることができるため、事業譲渡のデメリットで挙げたような譲渡する権利義務について個別に引き継ぐ手間はかかりません。分割の仕方や許認可の種類にもよりますが、許認可も引き続き使用可能なケースもあります。

②デメリット

債権者保護手続きのための期間が最低でも1カ月はかかるなど、株式譲渡よりも長期にわたる検討期間と実施期間が必要です。また、組織再編行為は法律等が複雑で、適切な論点をすぐに整理できる仲介会社は少ないのが現状です。特に、組織再編行為と仲介業務の両方を提案する専門会社・担当者は限られていると言えます。

3.高く譲渡できる会社の特徴

土井一真さんのインタビュー写真3

会社の譲渡を考えたときに、以下のような要素を満たしていると譲渡額が高くなることがあります。

①財務状況が健全

譲渡したい会社の事業が利益を出していることは、譲渡額を引き上げる大きな要素になります。表面的には赤字に見えていても、細かい財務を調査していくと実体的には黒字になったり、赤字幅が少なくなったりするケースもあります。

②譲受先がジナジー効果を見込める

譲受によって譲受側が相乗効果を期待できる場合、例えば、譲渡側が特定の商圏に強かったり、業界で特殊な技術を持っていたり、豊富な取引先・特殊な仕入先と付き合いがあったりする場合などが該当します。

③法務・管理体制が健全

法務や組織の内部体制でリスクが見えると、譲渡額が引き下げられてしまったり、場合によれば交渉自体が成立しなかったりするケースがあります。未上場企業が上場企業並みのコンプライアンスを遵守することは難しくても、事業を行う上での最低限の法令等は守るべきでしょう。

④経営者に事業が依存していない

譲渡後に会社を去ることになる経営者に事業が依存していると、譲受側は譲受にメリットを感じにくくなります。そのため経営者に事業が必要以上に属人化していない方が、譲渡額を高く見積もられるケースが多いと言えます。

4.会社を譲渡するにはどんな準備が必要?

土井一真さんのインタビュー写真4

では、会社を譲渡したいと考えたら、どのような準備が必要なのでしょうか。順を追って見ていきましょう。

(1)自分の会社の価値を把握し、気持ちの整理をする

具体的にM&Aを進める前に、今一度自分の気持ちの整理をすることが大切です。経営者は育ててきた自社への思い入れが強すぎるがゆえに、その価値を高く見積もりすぎてしまうこともあります。

ご自身が見積もった価値が相場と極端に離れている場合は譲渡が難しくなるので、専門会社・金融機関・公的機関などに相談しながら自分の会社の価値を客観的に把握するようにしましょう。その後家族などにM&Aを検討していることを話し、会社を譲渡する覚悟を決めます。

(2)数社の専門会社を比較検討する

多くの場合、専門会社に譲受候補先を紹介してもらうことになります。専門会社によって、M&A取引における強みはさまざまです。数社の専門会社と会うようにして、信用できる担当者を探すことが重要です。

譲渡には通常半年から1年の長い時間を要するので、それだけの期間を共に過ごせ、任せることができそうな専門会社と担当者を見つけることが何より大切です。

(3)必要書類を専門会社に提出する

候補先に打診するための事前準備として、専門会社のヒアリングに応えたり、各種資料を提出したりと、やることは意外とたくさんあります。候補先へ打診する前に1〜2カ月程度準備するのが通常です。

実際に候補先と具体的な話が進んだ上で、重要な情報を伝え漏れていたりすると破談になる可能性があります。もし譲渡で強い要望があればできるだけこの段階で伝えるようにしましょう。担当者と信頼関係を構築するためにも気になることはどんどん伝え、隠し事はしない方が賢明です。

(4)譲受先を探す

譲受先を探す、「お見合い」がスタートします。通常1カ月半〜3カ月かかることが多いです。顔合わせに相当する事業者面談を踏まえて、譲受候補先から意向表明書を提出してもらいます。その後、諸条件を調整した上で、仮契約に相当する基本合意書を締結します。基本合意締結前後、M&Aコンサルタントと相談の上、会社のキーマンにM&Aの計画を伝えましょう。噂と不安が広がらないように、キーマン以外の社員にはまだM&Aの計画は秘匿します。

同じく基本合意書締結後、譲受企業は譲渡側の情報をより詳細に確認する、デューデリジェンス(以下、DD)を行います。現場の感覚として、譲受候補先が上場企業や大手企業になるほど負担が大きくなり、交渉が長引く傾向にあります。

(5)契約の手続きをする

DD後、諸条件交渉が終われば、最終契約を締結します。契約書の内容は、今まで調整してきた諸条件に加えて、譲渡企業が法律に則り適切に設立されているか、決算書に粉飾がないか、各種許認可が適法に取得されているか、未払い残業代がないかなどを売り手が保証する表明保証条項が入るのが一般的です。すべての確認が終わり双方が納得をすると契約締結の手続きがとられ、決済の上、譲渡・譲受が完了します。

基本的に従業員には、最終契約締結の当日以降に一斉に伝えることになります。最終契約締結前に譲渡の情報が漏れた場合、不安に思った従業員が離職するなどして会社の価値が下がったり、そもそもの交渉が頓挫したりすることがあるため注意が必要です。

5.赤字の会社でも譲渡することはできる?

考えるビジネスマン

赤字や債務超過であると、会社を譲渡することは難しいと思うかもしれません。しかし、実際のところはどうなのでしょうか。

(1)赤字や債務超過でも譲渡を諦めない

私の現場感覚では、黒字企業では6〜7割は譲渡ができるのに対し、赤字企業で譲渡に成功するのは1〜2割程度です。赤字企業でも譲渡できないというわけではないので、諦めずにまずは検討をしてみましょう。

特に、計画的な設備投資を直近でしていたり、不慮の事故などで瞬間的に赤字に陥ったりしている場合など、合理的な説明がつきそうな企業については充分可能性があると言えるでしょう。また譲渡側にとっては残念なことですが、損切のために部分譲渡をしたいと考えている場合には、それまでの投資額に見合わない金額でもM&Aを検討しているのであれば、譲渡が成立する可能性があります。

(2)こんな会社は赤字でも譲渡可能!

以下のような条件を備えている会社は、赤字でも譲渡の可能性を模索できます。

①魅力的な資産、技術がある

土地建物や特許など魅力的な資産で他社にはない資産を保有している等の事実があれば、譲受先が見つかることがあります。都心のベンチャー企業などでは、エンジニアなど優秀な人材・チームなど人を目的に譲受されるケースもあります。

②特徴のある仕入先・販売先がある

魅力的な仕入先や安定した豊富な販売先などがあり、この先収益を増やすことに目途がつきそうであれば譲渡が可能になることがあります。この場合では、どのような法人とどれくらいの深さの付き合いがあるのかが肝となります。

③収益性の良い事業がある

会社全体では赤字であっても収益性の高い事業を経営していれば、事業譲渡や会社分割によってその事業のみを譲渡することが可能です(その売却資金等は、既存の借入金の返済等に充てるケースもあります)。

6.会社を譲渡したいなら、どこに相談するべき?

土井一真さんのインタビュー写真6

会社を譲渡したいと考えたら、どこへ相談すべきなのでしょうか。主な相談先は、以下になります。複数の専門会社に相談して進めるようにしましょう。

(1)M&A仲介会社

譲渡側と譲受側の間に入り、中立的な立場で双方の条件を詰めながら成約までの手助けをしてくれるM&Aの専門会社です。譲渡側と譲受側の双方と契約を結び、M&Aを成約させたら双方から手数料を受け取ります。中小企業がM&Aを実行する際には、最もよく利用されます。最近は、さまざまなM&A仲介会社が出てきているため、選択が難しい状況にあるかもしれません。各社の特徴や担当者の姿勢を見るべきだと思います。

(2)金融機関(銀行・証券会社)

譲渡したい会社のことをよく知っている銀行などが相談にのってくれることがあります。しかし、自行内でマッチングやM&Aの手続きを行えるのは先進的にM&Aに取り組んでいる一部の大手地銀までで、大方の場合はビジネスパートナーであるM&A専門会社を通して譲受先を探すことになります。現場を見ていると、委託先のM&Aコンサルタントは営業面でアグレッシブな方が多く、対して、優しそうな雰囲気の金融機関の担当者とは印象が大きく異なり、そのことに戸惑う経営者も散見されます。

(3)各種専門家(税務・会計・法律事務所)

まずは、譲渡したい会社に詳しく、付き合いの長い顧問税理士や顧問弁護士に相談するケースがあります。しかし、候補先探しから手伝ってくれるケースは少なく、(2)と同様にビジネスパートナーであるM&A専門会社を通して譲受先を探すことが多いです。場合によっては、顧問先にM&Aを進めることを理由なく止められることがあります。

(4)マッチングサイト

マッチングサイトを利用すれば、より多くの譲受候補を探すことができます。手数料が低く抑えられることもあるでしょう。しかし、条件交渉を自力で行わなくてはならなかったり、自社の価値について客観的な視点を持てなかったりと、さらには信頼関係をうまく構築できずに最終契約・決済まで進めることができないケースもあります。また情報漏えいが起きやすいこと、長期間譲渡案件として候補に出されている案件は値踏みされやすいことなどに注意が必要です。

(5)M&Aアドバイザリー(FA)

M&Aにおける一連のサポートを行ってくれる点ではM&A仲介業者と同じですが、M&A仲介業者が譲渡側と譲受側の中立的な立場でマッチングを行うのに対し、M&Aアドバイザリーは譲渡側か譲受側のどちらか一方の立場から契約締結をサポートします。黒字の中小企業の事業承継型M&Aで利用されるケースはあまりなく、上場企業のM&Aや再生型M&Aに用いられます。

このように会社を譲渡することは、デメリットだけでなくメリットも多くあります。もし「会社を譲渡したい」と思ったら、まずはよく自分の心の整理をして、信頼できるアドバイザーを探すことが大切です。自分に合った方法や注意点を踏まえつつ、しかるべき機関や人に相談しながら、会社の譲渡を考えてみてください。

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