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動物病院のM&Aについて解説。売手のメリットや企業価値の算出方法は?

2020/01/17
更新日:2021/02/09

はじめに

ペットの高齢化や飼育するペットが多様化している中、ペットにかける費用は年々増加していますが、ペットの飼育頭数は減少傾向にあるといわれています。

ペットのケガや体調不良を治療する動物病院は、個人経営の小規模なところが多く、最新の医療機器や医療技術の導入に対応しづらいのが現状です。また、後継者不足により継続が困難な小規模なクリニックも出ており、このような動物病院では廃業を検討するところも出ています。M&Aは、動物病院の廃業を避け、後継者を探すための一つの方法となっています。

今回は、動物病院における廃業の背景とM&Aのメリットを、アドバイザリー株式会社 代表取締役社長 蒲さんに解説していただきました。

目次

  1. 動物病院の廃業の背景
  2. 病院・クリニックの売手側のメリット
  3. 気になるM&Aの相場の算出方法を解説

 

1.動物病院の廃業の背景

動物病院が廃業する理由は、ほかのビジネスと同様に特殊な理由はあまりなく、きちんと利益が出ていれば外部から後継者を探せるなど、「残したい」という意図さえあれば残せます。地域貢献をしていたり、たくさんの従業員を抱えていたりする動物病院は社会的なインフラの要素を持っており、必要性が高いと考えられます。

動物病院は全国に1万軒以上ありますが、平均売上は3,000万円程度です。売上が少ない動物病院などは、必要とされていないとみなされて淘汰されるでしょう。以前から規模の小さい動物病院が廃業していますが、この流れは今後も続くと考えられます。

獣医師は免許制であるため、動物病院は獣医師にしかできません。また、免許制に支えられているので病院ごとの規模が小さくシステム化されておらず、人的資源に依存してしまいがちです。このような理由から法人化や大規模化が難しい側面があります。

さらに、廃業には以下に挙げるようなデメリットもあります。

(1)撤去費用

動物病院に限らず、基本的に廃業するとなると計算書上で資産とあがっているものも価値をゼロにしなければならず、どんなに内装費用にお金をかけたとしてもゼロにせざるをえません。

価値をゼロにするためには、費用がかかります。例えば、レストランでは営業中は厨房やカウンターなどの設備に価値がありますが、廃業するとそれらは価値がなくなり、お金をかけて撤去する必要が出てきます。つまり、本来価値があるものでも、廃業するとゼロどころかマイナスとなってしまうのです。

撤去にかかる費用は病院の規模により異なりますが、原状復帰にかかる費用の目安はおおよそ500万円程度、規模が大きい動物病院の場合は3,000万円かかるケースもあるでしょう。反対に、中古の機器を売却してプラスマイナスゼロで廃業できた事例もあります。

(2)税金

廃業の際は、税金もかかります。前述の廃業コストに加え、残余財産をオーナーに戻す際にかかる税率が高くなります。M&Aの主力である株式譲渡なら株式を移転するので、かかる税金は20%と復興特別所得税のみです。しかし、所得税は累進課税となるため、同じことをしても残るお金の額が変わってしまうというわけです。

2.病院・クリニックの売手側のメリット

動物病院

ここまで説明したように、動物病院の廃業にはいくつかのデメリットがあります。しかしM&Aを選択することによって売手側が得られるメリットもあります。それが、以下に挙げる2点です。

(1)後継者不足の解消

動物病院は規模が小さいところが多く、しかも免許制です。規模が大きい病院であれば外部から後継者を探すことができますが、先述のように小規模な動物病院が多い日本では親族内承継が一般的で、ごく当たり前です。ところが、獣医師は免許制であるために、もし親族が免許を取得できなかった場合、親族による引き継ぎができなくなってしまいます。親族以外の従業員に引き継ぎをする、EBO(エンプロイー・バイアウト)という方法もありますが、従業員が院長と同じ信用を得ることや、いきなり経営者になることは実際のところ困難です。

そこで第三者事業承継、つまり外部に後継者を求めるのが、M&Aです。外部に獣医師を求められ、資本と経営を分離できるのがメリットです。

(2)経営安定化

高齢で後継者がいない、または40~50代前半の小規模な動物病院の経営者がM&Aを行うケースが多くあります。10年後の将来を見据えると、単独でやっていくよりも大きな資本を持つグループなどの外部と連携をした方が、経営の安定化が図れます。

動物病院では、高度医療機器など設備にかかるコストが高くなりがちです。そこで、大きな資本を持つ外部のグループと連携して組織として事業を継続すれば、安定した財政基盤の元で設備投資ができたり、外部から人材を雇用したりすることも可能となるといえます。

(3)地域医療の存続のために

「雇用を守るため」というのはM&Aの大義名分で、本当のところ本筋ではありません。M&Aは万能ではないので、全部の病院を救うことも不可能です。M&Aは社会に必要とされている企業を再生させるのが本質なので、儲からない動物病院は淘汰され、利益が高い病院のみ残るのは自然なことです。

クリニックや動物病院は専門職なので、参入障壁も利益も高いところが多いものです。すべての動物病院を残せるわけではないので、利益が高いところのみを残し、利益が少ない病院は企業価値を見ても残せないのでは、というのが本音です。

とはいえ、地方都市では地域で唯一の病院の存続を希望する人も一定数存在します。

(4)コストを抑えられる

一から動物病院を開業する場合、お金が出ていくばかりです。土地の取得と建物の建築、医療機器の導入などの費用で、最低でも2,000~3,000万円ほどが必要となります。

M&Aなら不動産や建物はもちろん、医療機器も引き継げるので、開業コストを抑えることができます。しかも、継続雇用も引き継げるため、最初から人員が確保でき、明日からでも利益が見込めます。

動物病院を買いたいと思ったとき、充分なお金を持っていなければ銀行から借りるケースが多いでしょう。銀行から実際に借りられるのは設備資金と運転資金、そして投資資金です。銀行はM&Aに積極的といわれますが、貸しているのはM&Aの資金ではなく、設備資金と運転資金なのです。よほど資金があり、なおかつリスクを負いながら利益を確保できる買手は貴重なのです。

不確実でどうなるかわからないことを「リスク」と呼びます。法務リスクや財務リスク、業務リスクがある場合、普通はリスクが怖いと感じるでしょう。ですが、なにかをすれば結果が変わる可能性もあります。このように、達成したときに得られるもののブレが大きい状態が、「リスクが高い」状態です。そのため、リスクが高ければ高いほど利益を上げられる確率も高くなるといえます。リスクを上手にコントロールできる人がいなければ損をしてしまいますが、逆に人材がいればいいので、人を採用するノウハウがあればリスクの変動を防げるでしょう。

(5)クリニックの認知度を活用できる

人員も引き継げるので、元々の動物病院に以前からかかっている患者もついてくることが多いです。その地域での信頼や認知度が高い病院なら、長年培われた患者からの信頼、地域での認知度も引き継いで活用できるのが、M&Aの大きなメリットでしょう。

(6)人材獲得

人材は営業権に含まれるので、以前から働いていた従業員を継続雇用できます。地方の動物病院であれば、その地域の雇用に貢献できる点もメリットです。

3.気になるM&Aの相場の算出方法を解説

蒲氏のインタビューシーン
M&Aにおいて、相場価格は最も気になる点ではないでしょうか。動物病院のM&Aでは、以下のような方法で相場を算出します。

(1)市場基準方式

M&Aですべての問題が解決できるわけではないので、後継者を探すためにM&Aが有効とはいえません。動物病院に限らず、企業でも自然淘汰していかなければならない会社があるのは厳然たる事実と考えています。

しかし、そんな中でもたくさんの従業員を抱えていたり、地域貢献をしていたりする動物病院があります。また、動物病院というところは社会的インフラを持っていることもあります。そのような儲かる儲からないにかかわらず、潰すには惜しい動物病院は、「残したい」と思う意図があれば残せるでしょう。

M&Aは、コーポレート・ファイナンス(会社の財務)の一種で、本来は10年後の将来得られる売上をお金で買うという考え方です。しかし、現在の日本はマーケットが成長していないのが現状で、将来的に右肩下がりのマーケットを買うということは、減収・減益を買うことになってしまいます。

(2)DCF方式

DCF(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー)法とは、将来会社が生み出す価値をフリーキャッシュフローをベースとして割引き、現在価値に換算する企業価値評価法の一つです。

車や不動産には相場がありますが、会社はほかに同じようなものがないため、相場観という考え方は難しいところがあります。将来の事業計画を用いた企業評価が正しいといわれているものの、DCF(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー)法を用いた企業評価は中小企業には当てはまらないと思います。当てはまったとしても、それなら最初から後継者問題は解決できているのではないでしょうか。後継者がいないということは、10年先の将来が見えていないことを意味するのですから。

上場企業ですら、10年先の将来は不確実です。大企業の場合はそれほど大きなブレはないでしょうが、それでも本当に10年後の将来がどうなっているかは確実ではありません。そのため、不確実な分を割引します。これが、「割引率」です。割引率は適当に決められるので、いくらでも安くできます。

(3)試算基準

譲渡する資産の価値、たとえば医療機器や在庫の価格などは、現在の価値の資産額で譲渡するのがフェアです。しかし、この方法では売手にメリットがなくなるので、廃業を選択するのと変わらなくなってしまいます。そこで、一般的な価値の算定方法として、「年買法(年倍法)」が用いられます。年買法では、過去3期、5期に出た利益に数年分の営業権を掛けて上乗せする、つまり譲渡資産に営業権を加えて算定します。

営業権は、業界によって異なります。たとえば飲食業界の場合、2年後どのような業態の飲食店が流行しているかはわからないでしょう。実際、2年間客が入り続けている店は少ないものです。そのため、将来の「のれん」がどの程度か判断できず見にくいものであるため、飲食業界では2年分ほどの営業権しか取れません。

企業には、資産や負債があります。この資産から負債を差し引きし、将来の利益を買ってもらうのがM&Aなので、基本的に儲かっているところにのみ適用されます。製造業の場合、廃れない業種であれば10年の営業利益を見てもいいのですが、設備投資が大きいため、業種や業態にもよりますが10年後を予想することは難しいものです。しかし売上があるという意味では、医療業界は底堅いと考えています。営業利益は、5年ほど見ても損はしないでしょう。

4.まとめ

人口が減少傾向にある日本は、右肩下がりの縮小市場となっています。人口が減っているということはペット飼育頭数の減少につながりますが、それでも病院や動物病院は営業を継続できています。その理由は、人間もペットも寿命が伸びて単価が上がっているからです。この状況はマーケットが成熟した状態といえるため、今後10年ほどでマーケットが縮小していくと見込まれます。先に触れましたが、40~50代の経営者が病院を売り切ろうとしているのも、このような背景があります。人口が減少している日本のマーケットはマーケットとしての価値がなくなり、今後は海外にしか活路がなく、小さい規模の会社でもクロスボーダーとなっていくでしょう。

動物病院は地域で必要とされるインフラですが、今後M&Aで劇的に売却価格が上がるとはいえません。ただし、今ある仕事を一生懸命行って実績を上げた人から順に経済的評価につながり、救われるものと考えています。この経済評価は、最終的な企業の「通信簿」になります。

評判と利益を上げてからバトンを渡すのが、M&Aの本質です。企業価値が低い病院のバトンを受け取る人はいないでしょう。売手側はM&Aに夢を見たり幻想を抱いたりする前に、目の前の患者さんと日々しっかり向き合ってきちんと診ていれば、その先に「売却」という選択肢が見えてくるのではないでしょうか。

 


話者紹介

蒲さん

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今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。

アドバイザリー株式会社
代表取締役社長
蒲 鉄雄

1974年、愛知県生まれ。アドバイザリー株式会社代表取締役社長、一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)正会員、JMAA 認定M& Aアドバイザー。中央大学法学部在学中よりいくつかの事業を手がけ、M&Aによる企業および事業の買収·売却の双方を経験。2013年4月にM&Aの支援·仲介に特化したアドバイザリー株式会社を設立し、さまざまな規模やスキームのM&Aを累計100件以上支援。企業や経営者のマッチングだけのM&Aにとどまらず、企業や事業の強みやリスクを見出し、対応策を提案するなど、M&Aの特徴である戦略性にフォーカスし、経営者の立場に沿った支援を行っている。

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