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IT・ソフトウェア企業のM&Aとは?M&Aの動向と成功させるためのポイント

2019/07/04
更新日:2021/06/01

はじめに

M&Aは業界を問わずに行われている経営戦略ですが、業界によってM&Aが行われる状況は異なります。年々市場規模が拡大するIT・ソフトウェア業界において、M&AはIT人材を確保するための欠かせない戦略として注目されています。今回は、IT・ソフトウェア業界におけるM&Aトレンドと成功事例をもとに、M&Aの流れやM&Aを成功させるポイントをM&Aアドバイザーの岩永敦司氏に解説していただきました。


1. IT・ソフトウェア業界におけるM&A動向

ITとはInformation Technologyの略称であり、ソフトウェア、アプリ、システム、情報処理など、インターネットに関連する情報技術のことを指します。近年はクラウドサービス、ビッグデータ、IoT、VRなど様々な技術に注目が集まり、そのビジネス領域も拡大し続けています。2020年11月に公表された矢野経済研究所の調査によると、IT・ソフトウェア業界の市場規模は年々右肩上がりで成長しており、2020年度には12兆9,000億円に達すると予測され、今後ますます重要性を増してくると考えられています。こうした市場規模の拡大を背景に、IT・ソフトウェア業界におけるM&Aの件数も増加傾向にあり、2018年には1,070件と国内で初めて1業種1,000件を超えました。

 

■IT・ソフトウェア業界のM&A件数 推移(単位:件)

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
223 180 195 206 321 395 421 501 748 1,070

※統計データは株式会社レコフデータの集計結果(2018)より抜粋


2. IT・ソフトウェア業界でM&Aが増えている理由

(1)人材不足の解消・新技術の獲得

IT・ソフトウェア業界でM&Aを検討する大きな理由は、人材不足の解消と新技術の獲得です。経済産業省によると、IT企業とユーザー企業の情報システム部門に所属するIT人材は、現在17.1万人が不足していると推計し、2030年には不足数は78.9万人に上ると予測しています。人材不足の理由はいくつか考えられますが、IT・ソフトウェア業界では技術の変化・進化が著しく、技術を身につけても、その技術がすぐに古くなっていくため、新しい技術に人材が追いつかないという状況が生まれているのです。

新しい技術に対応できる人材の育成や研究開発には多大な時間がかかります。しかし、そのような技術を持つ企業に対してM&Aをすると、技術と人材をそのまま取り込むことができるため、技術開発や人材育成にかかる時間的・金銭的コストを削減できます。ITが発展し続ける限り、IT・ソフトウェア業界の人材不足は続くと考えられています。また、アプリやゲームを開発する優良IT企業や上場企業に人材が集まり、そうではない中小企業・小規模企業には集まらないというように、人材の二極化が加速しているのもIT・ソフトウェア業界ならではの特徴といえます。

人材確保を目的としたM&Aは、今後さらに活発化していくと考えられます。新たな技術やプログラミング言語に精通した人材や、他業態のナレッジを持った人材、社内システム開発・運用の内製化を推進できる人材など、企業が強化したい業態によりM&Aのターゲットは異なりますが、IT・ソフトウェア業界で起きているのは競争力に直結する人材確保のためのM&Aなのです。

(2)利益率の改善

売手からM&Aを検討するケースも増えています。IT・ソフトウェア業界でM&Aが検討されるもう一つの理由は、利益率の改善です。IT・ソフトウェア業界の構造としては、発注者のシステム開発依頼を受ける一次請けが大手企業、さらに開発・運営業務を担う二次請け、三次請けが中小企業というようなピラミッド構造になっています。下流工程になるほど利益率は下がる傾向にあり、利益を上げるためには人材を増やす必要がありますが、人材を確保することが難しく、負のスパイラルに陥っている中小企業も少なくありません。

そうしたIT企業はどこに活路を見出すかというと、売手市場の波に乗るということではないでしょうか。あらゆる業種においてデジタルシフトが叫ばれ、これまでIT企業の顧客であった大手ユーザー企業やメーカーの間でも、異業種であるIT企業をM&Aで買収し、システム開発・運用の内製化を実現しようとする事例も見受けられます。経営が安定した大企業のグループに入って安定成長を目指したり、大企業からのM&Aを目的に起業したりする経営者も増えています。


3.IT・ソフトウェア業界におけるM&Aで注意すべきこと

IT・ソフトウェア業界におけるM&Aの流れは、他業界における流れと大きく異なるわけではありません。ただし、IT業界のM&Aでは、いくつか注意すべきことがあります。

(1)エンジニアのスキル確認

IT・ソフトウェア業界のM&Aでは、人材の見極めに力を入れる必要があります。通常デューディリジェンスは、事業・財務・税務・法務・人事の視点から売手のリスクや財務状況、収益力などを把握するための監査です。優秀な人材を確保することが企業の競争力に直結するIT・ソフトウェア業界では、売手企業のエンジニアが習得しているプログラミング言語、技術的なスキルに焦点を当てて調査することが一般的です。

例えば、売手企業のエンジニアが取得している資格や、これまでの開発実績・経験、職務経歴書の開示は最低限確認したほうがよいでしょう。それらを盛り込んだ企業価値評価を行いますが、エンジニア一人あたりの価格設定を行い、人数分をかけて売却価額として算定することもあります。売手にとっては、買手が求めるエンジニアの能力に達していなければ、それだけで成約が難しくなってしまうため、日々のITエンジニア育成は重要なポイントになります。

(2)マッチングからクロージングまでの早さ

IT・ソフトウェア業界のM&Aでは、マッチングからクロージングまでの早さも意識する必要があります。売手と買手の間に大きな価格差がなければ、トップ面談からクロージングまで3カ月ほどで完了するケースも多く、買手にとっては買収を迷っているうちにほかの企業に先を越されるというケースも少なくないためです。このスピード感はIT・ソフトウェア業界ならではといえます。まとまった現金を手に入れられることから、IT・ソフトウェア業界のM&Aでは、合併ではなく事業売却によるM&Aが一般的になっています。合併など一般的なM&Aを希望する場合には、IT・ソフトウェア業界に精通したM&A仲介会社を選ぶのも一案でしょう。

(3)従業員のモチベーション低下

また、企業買収・売却後に大きな問題となるのが売手企業に属していた従業員のモチベーション低下です。M&Aスキームが事業譲渡の場合、新たに買手企業と従業員との間で雇用契約を結び直す必要があります。従来の給与や退職金から大きく下がることも考えられ、ここで重要なキーパーソンとなる社員を逃してしまうようでは、M&Aの意味合いも半減してしまいます。キーパーソンの退職はほかの従業員に連鎖することもあるため、細心の注意が必要です。買手は、重要なキーパーソンとのコミュニケーション量を増やし、M&Aの最終合意の前段階から買収後の報酬体系や運営体制について議論を重ねたほうがよいでしょう。また、特定の人物の継続雇用をクロージングの前提条件として設定する買手もいるため、個別に面談するなどして引き留めを行うこともM&A成功のポイントの一つです。

(4)従業員への告知タイミング

業種を問わず、従業員にどの企業とM&Aを行うのかの告知タイミングは重要なポイントです。それは企業・事業の売却を従業員に反対された場合にM&Aが成立しなくなってしまうためです。かつては、最終契約書を締結するまでは従業員に告知しないというのが一般的でしたが、告知するタイミングに正解はありません。

M&Aを告知するタイミングが早すぎるとM&Aの妨害にあいますし、遅すぎるとM&Aの理解が十分に得られず従業員が離反する恐れがあるでしょう。IT・ソフトウェアの企業はキーパーソンによって事業が支えられていることも多く、キーパーソンには基本合意締結後に告知するのも一案です。いずれにせよ、 IT・ソフトウェア業界は人材の価値が会社の価値だからこそ、いつ、どのように伝えるか慎重に検討することをおすすめします。


4.IT・ソフトウェア業界のM&A成功事例

IT 業界のM&A成功事例

IT・ソフトウェア業界の重要性が高まるにつれ、M&Aが活発化していることは紹介しましたが、どんな企業が買収されているのでしょうか。M&Aに成功した企業の事例を参考に、株式譲渡・事業譲渡を行う際のヒントを見つけましょう。
売手は、東京都内でソフトウェアの受託開発を行っていたA社。創業から10年が経ち、業績も順調でした。従業員も20名を超えるなど安定した業績を残してきましたが、人材不足に陥ることを懸念した経営者は、資金繰りが悪化する前にIT事業を売却し、コア事業に集中したいと考えていました。
A社の経営者が希望したのは、A社で働くエンジニアの雇用維持。すでに従業員の高齢化が進んでいたこともあり、従業員の不安を取り除いた上でM&Aを行いたいという経営者の想いがあったからです。複数の買手の中からA社が選んだのは、同業種のB社でした。B社は業績規模でA社の8倍ほど大きい中小企業で、M&Aを活用することで人材不足を解消し、売上拡大を図っていました。
B社がA社を高く評価したポイントは、人材の量と質の高さです。B社も慢性的な人材不足に陥っており、通常の採用活動では追いついていない状況でした。質の高いエンジニアやIT人材を一度に複数確保したいと考えていたB社にとって、A社は最良の会社。A社にとっても、経営が安定したB社に譲渡することで、従業員の雇用が守られ、労働環境を維持することもできます。
M&Aを行うことで、双方が抱えていた問題を解決できることがわかり、無事成約に至りました。この事例のポイントは、お互いのメリットがマッチしてこそ理想的なM&Aが実現できるということです。A社は経験豊富なエンジニアを抱えているものの、人材の採用に課題を抱えており、展望は決して明るくありませんでした。B社にはA社のエンジニアを安定的に雇用できる経営基盤があります。A社のエンジニアが活躍する土台をB社が持っていたというのが、売却を決定する要因になったといえるでしょう。


5.売手がM&Aを成功させるために準備すること

握手(IT業界のM&A締結)

売手企業が準備不足のまま会社売却を進めてしまうと、買手が見つからないということもあり得ます。売手がM&Aを成功させるために必要な事前準備を紹介します。

(1)労務管理の徹底

まずは社会保険など労務面の整理を行います。基本的に社会保険に未加入だったり、残業代の未払いがあったりする会社については売却することが難しいと考えておきましょう。また、合意したあとに未払いの残業代があったというのも買手企業へ迷惑をかけてしまうことになるため、事前に労務面を整理しておくことが重要です。

(2)買手とのコミュニケーション手段の確保

M&Aを進めていくためには、社内の体制づくりも欠かせないポイントです。特に、会社の所在地が売手と買手で離れていると、遠隔で管理できない、買手から売手に人材を派遣できないといった理由で買収を見送る買手もいます。そのため、早期から売手に人材を派遣し、信頼できる人への権限移譲を始めて管理者として育成することが重要です。

(3)キーパーソンへの勤続意思確認

会社や事業を売却したあとに、技術や営業の中核を担うキーパーソンが継続して仕事をしてくれるのかという意思確認も済ませておきたいところです。キーパーソンが辞めてしまっては買手にとって大打撃であるため、キーパーソンが仕事を続けられない場合には、早めに代わりとなる人材を確保し、経営者がいなくても会社を運営できる体制を作れるかどうかがIT・ソフトウェア業界でのM&A成功の鍵といえます。

(4)スキルシートの作成

意外に見落としがちなのが、従業員のスキルシートの整理です。先ほど紹介したように、IT・ソフトウェア業界におけるM&Aでは、従業員の評価が会社の評価につながります。買手から開示の依頼があった場合には、速やかに書類を提出できるよう、日頃からスキルシートを準備しておきましょう。自社のホームページを活用して、開発実績やメンバーのスキルなどを更新し、常に開示できる環境を作っておくこともいいかもしれません。


6.IT・ソフトウェア業界におけるM&A仲介会社の選び方

(1)IT・ソフトウェア業界でM&Aの実績がある

IT・ソフトウェア業界におけるM&Aの件数は増加トレンドにありますが、IT・ソフトウェア業界に精通したM&A仲介会社は多くありません。M&A仲介会社はすべてのプロセスに関わるため、IT・ソフトウェア業界の知見がある仲介会社に依頼することで、交渉はスムーズに進みます。M&A仲介会社によって得意とする業種や規模は異なりますが、過去にIT・ソフトウェア業界の案件を経験しているM&Aアドバイザー(M&A仲介会社)を選ぶことが大切です。IT・ソフトウェア業界のM&Aの特色として、優秀な人材の確保と自社にはない技術やノウハウの取得が挙げられます。そのため、シナジー効果を期待できるような買手あるいは売手のリストを提示でき、類似する分野のM&Aの経験があるなどの強みのあるM&A仲介会社を選ぶのがいいでしょう。

(2)仲介手数料の種類と金額

M&Aを行う上で、負担になるのが仲介手数料です。手数料の種類・相場は様々で、支払う額や支払うタイミングもM&A仲介会社によって異なります。M&Aで会社や事業を売却する前に、手数料は必ず確認しましょう。特に着手金が必要なM&A仲介会社の場合、M&Aが成立しなくても着手金として50〜200万円もの手数料を支払う必要があるため、手数料を抑えたい場合は注意しましょう。


7.まとめ

経営者の中には地方にいるからM&Aできないと誤解される人もいますが、決してそんなことはありません。インターネットの普及に伴い、いつ、どこにいても仕事をすることができる環境が整備されつつあり、テレビ会議やチャットアプリでコミュニケーションを取りながら、クラウド環境で開発することも可能です。他業界と異なりオンライン上で仕事を完結することができるなど、地方であることがそれほどM&Aの障壁となることは少ないでしょう。買手が重視するのは、あくまでエンジニアの技術。エリアを気にするよりも、むしろ新しい技術の開発経験を増やしたり、ニーズのあるプログラミング言語を身につけたりすることが重要でしょう。

また、IT・ソフトウェア業界は多様化が進み、今後はWebメディアやスマートフォンアプリ、AIなどさらに業態の多様化が進むと考えられています。最近はインターネット上でM&Aの相手を探せるマッチングサイトも台頭しており、エンジニアを求める買手と企業・事業を売却する売手とのマッチングが成立しやすくなっています。M&Aマッチングサイトの魅力は、M&A仲介会社がマンツーマンで買手を探す通常のM&Aと比べて、一瞬で買手にアクセスすることができ、幅広い会社にアピールできるということ。また、比較的小規模なM&Aを取り扱っているため、これまでM&Aをあきらめていた方でもM&Aを実現できる可能性は高いということができます。

ただし、M&Aマッチングサイトは自分から買手を探せるという反面、質の高いM&A仲介会社を自分で用意しなければならないという側面もあります。最適なM&A仲介会社を選ぶことがM&Aの成功を左右するため、M&A仲介会社選びは慎重に行うことをおすすめします。最近では一度に複数のM&A仲介会社を比較し、売手の要望に合ったM&A仲介会社・買手企業を選べるサービスもあるため、M&A仲介会社に依頼する前の選択肢の一つとして利用を検討しましょう。


<話者紹介>

岩永 敦司(一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会認定 M&Aアドバイザー)

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当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
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一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会認定 M&Aアドバイザー
株式会社エクステンド M&A事業部
岩永 敦司 Iwanaga Atsushi       

一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)認定 M&Aアドバイザー(CMA)。金融機関・不動産・M&A仲介会社での経験を活かし、中小企業の資金調達(融資、リース)から、経営戦略の立案、M&Aによる事業拡大、M&Aによる財務リストラ、経営承継など企業のステージに合った提案を行う。

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