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介護付き有料老人ホームのM&Aのメリットは?業界動向、M&A事例について解説

はじめに

高齢化の進展と共に介護ニーズが高まる中、有料老人ホームのニーズも依然として拡大傾向にあります。一方で、恒常的な人材不足や人件費の上昇が経営を圧迫し、小規模事業者を中心に倒産を余儀なくされる事業者も存在します。介護付き有料老人ホームの業界動向、M&A事例、売手が気を付けるべきポイントなどについて、かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社の稲川貴法様に聞きました。


1. 有料老人ホームの業界動向、市場環境

02_有料老人ホームの業界動向、市場環境

日本は世界に例を見ないスピードで高齢化が進んでおり、2025年には65才以上の高齢者人口が全人口の30%を超え、ピークとなる2042年まで増加していく見込みです。65才以上の要介護者数も2005年は218万人でしたが、2015年には600万人を超えました。有料老人ホームの施設数(届出数)も、介護保険制度が始まった2000年には全国で約350施設でしたが、2013年には約8500施設にまで増加。総定員数も約3.7万人(2000年)から約35万人(2013年)にまで増加しています。

【介護ニーズは拡大を続けるも恒常的な人材不足】

高齢化の進展に伴い今後も介護ニーズは拡大していくと見られ、立地さえ問題なければ、ほとんどの有料老人ホームで定員が埋まっている状況にあります。一方で、介護報酬の引き下げや恒常的な人材不足、人材コストの上昇などにより、経営が悪化して廃業や倒産を余儀なくされる事業者も存在します。特に、介護業界は給与水準が低く、労働環境も過酷な傾向にあるため、他の業界に比べて人材の離職率も高く、恒常的な人手不足に悩まされています。

【意識の高い職員を確保することが最大の課題】

介護施設には病院同様に人員配置基準が設けられており、適正な介護サービスを提供するためには一定数以上の人員を確保しなければなりません。人員配置基準を満たさない場合、報酬の返還や、場合によっては事業所の指定取消や営業停止などの重い処分が科されることもあります。それを避けるために正社員を採用するのですが、仮に採用できたとしても早期退職する人材も多く、派遣社員に頼らざるを得ないという状況も見られます。派遣社員の人件費は高い傾向にあるばかりか、介護サービスの質も問題となりやすいため、さらに経営を圧迫する要因となっています。

介護施設はレピュテーション(評価・評判)も非常に重要です。意識の高い職員もいますが、なかにはそうでない職員も少なからずいます。こうしたレピュテーションリスクは企業価値の毀損になるため、注意が必要です。入居者に怪我をさせたりして悪評が立つと、入居率が次第に低下し、経営を維持していくことが難しくなることも。つまり、高い意識で業務に取り組む職員を揃えておくことが、有料老人ホーム等の介護施設における最大の課題と言えます。

【出口戦略としてM&Aが最も有効な選択肢に】

複数の施設を運営する規模の大きい事業者であれば、一時的に人材が不足しても施設間で人材の融通を効かせることも可能です。しかし、一施設だけを運営する小規模事業者は、わずか一人の退職でも人員配置基準を満たさなくなるケースがあり、どうしても派遣社員に頼らざるを得なくなります。人手不足と人件費の上昇により、特に小規模事業者は厳しい事業運営を強いられています。

事業運営が難しくなってくると、倒産を避けるために廃業か事業承継かを検討することになりますが、入居者がいる以上廃業することは難しく、事業承継を検討することになります。その際、親族への承継も選択肢の一つですが、残念ながら他の業界に比べて介護施設を承継したいと考えるご子息が少ない傾向にあります。従って、親族承継ではなく第三者への事業承継、すなわちM&Aが最も有効な選択肢となってきます。


2. 有料老人ホームのM&A動向・事例

03_有料老人ホームのM&A動向・事例

高齢化により、今後も有料老人ホームの需要が増加していくと考えられますが、一方で総量規制がかかっているため新設が容易でなくなっており、既存の有料老人ホーム等に対する買収ニーズは高まっています。買手候補となるのは、同業者のみならず、医療法人や不動産会社などさまざまです。一方、人手不足による稼働率の低下や人件費の上昇による経営難、後継者不在などにより、M&Aで売却を検討する事業者も増加傾向にあります。その意味で、M&Aを行うには好機が到来していると言って過言ではないでしょう。

【買手は規模を求める傾向にある】

単独の施設を運営するよりも、複数の施設を運営した方がスケールメリットが大きく、人員確保や医療機関、ケアマネジャーとのネットワークなどの点でも有利になると想定されます。そのため、買手は既に展開しているエリアの近隣エリアの施設を買収し、エリアを拡大させていきたいという意向が強いと見られます。買手が医療法人の場合も、医療連携の図りやすさから、近隣の介護施設を買収する傾向があります。

【異業種参入は多いが決して容易ではない】

介護事業は日本国内における数少ない成長産業と考えられており、人材業や不動産業など異業種からの新規参入も数多く見られます。中でも有料老人ホームの経営は不動産的な側面もあり、賃料収入もあるため、他の介護事業に比べ入居者さえ確保できれば収支は比較的安定します。

しかし、介護事業は「儲かる事業」というわけではありません。介護報酬の部分を見ても大きく稼げる構造にはなっていません。加えて、運営するには特殊なノウハウが求められるだけでなく、人の命を預かる事業ですので、ビジネス感覚だけでは難しい側面も。異業種から参入しても、うまくいかないケースが散見されます。

【有料老人ホームを巡るM&A事例】

ここからは、有料老人ホームを巡る最近のM&A事例について紹介します。

①介護大手のソラストによる複数の介護事業者の買収

2020年2月、介護大手の株式会社ソラスト(東京都港区)は、大分市を中心に介護施設を運営する株式会社恵の会(大分県大分市)を33億円で買収することを発表しました。恵の会は、有料老人ホーム(7施設)、サービス付き高齢者向け住宅(3施設)などを大分市内で展開しています。ソラストは、介護サービスの提供エリアを、2030年に現在の約3倍にあたる300拠点に拡大する方針を掲げています。関東、関西を中心にM&Aを積極的に展開してきており、今回の買収により九州初進出となりました。

また、これは当社が担当した案件ですが、2019年7月、同じく介護大手の株式会社ソラスト(東京都港区)は、有限会社イフ21(兵庫県神戸市)が運営する介護付有料老人ホーム(定員35名)を買収しました。ソラストにとって、これが兵庫エリア初の介護付有料老人ホームの開設でした。オーナーは、介護保険制度が始まった2000年頃に有料老人ホームの運営を始め、順調に利益を出しており、教育も徹底しており、従業員の対応は非常に丁寧で、ご入居者様からの評判も良かった。しかし、70歳を超え、親族内承継も難しいことからM&Aによる第三者事業承継に踏み切りました。1施設でも、買手のニーズにマッチすれば十分買収対象企業として検討されると言えるでしょう。

②福岡県の創成会グループによる全国展開

2019年11月、社会福祉法人創生会(福岡県福岡市)は、破産申請した株式会社ハーモニー(北海道函館市)の介護付き・住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、グループホームなど8棟を事業承継しました。また、同時期に、有料老人ホーム6棟などを運営する株式会社エイジケア(大阪府吹田市)を買収しました。2020年1月には神奈川県の2つの介護老人保健施設も承継し、これによりグループ全体の総定員数は1万1500名を超え、運営数は9,000室弱、売上高400億円に達する見込みです。

③揚工舎による小規模事業者の買収

2019年5月、株式会社揚工舎(東京都板橋区)は全30室の介護付き有料老人ホームを運営している株式会社光風苑(千葉県館山市)の発行済全株式を取得し、100%子会社化しました。光風苑は、冬でも温暖な気候の南房総・館山にて介護付有料老人ホームを運営している企業。リゾート地のように観光や散策、スポーツなどの趣味が楽しめるのが特長の施設運営を行っています。揚工舎は、有料老人ホーム(6施設)などの介護サービス、介護資格取得のための教育事業、介護人材の紹介・派遣事業などを幅広く展開しています。この買収により、揚工舎は有料老人ホーム事業の一層の拡大を図る意向です。

④大和ハウスグループによる介護施設の買収

2019年9月、大和ハウスグループの大和リビングマネジメント株式会社は大和リビングケア株式会社(東京都江東区)を設立し、介護付有料老人ホームやサービス付高齢者向け住宅などを運営する株式会社ライフコンプリート(佐賀県佐賀市)と株式会社ライフコンプリート東京(東京都立川市)の両社から会社分割で介護事業を譲り受け、2020年1月に介護事業を開始しました。大和ハウスグループは首都圏を中心にサービス付き高齢者向け住宅を14施設運営しており、今回の事業承継で新たに首都圏や九州の8施設が加わることになりました。大和ハウスグループは介護事業を中期的に一つの柱にする考えでM&Aにも積極的に取り組んでいます。


3. 有料老人ホームのM&Aで用いられるM&Aスキーム

ここでは、有料老人ホームのM&Aで用いられるスキームについて説明します。

【株式譲渡か事業譲渡か】

介護付有料老人ホームのM&Aスキームはさまざまですが、主に事業譲渡か株式譲渡が用いられます。M&Aを行う際に検討事項として挙がるのが許認可の問題です。株式譲渡の場合、許認可を引き継ぐことができますが、事業譲渡の場合は改めて許認可を取得する必要があります。その際、旧法人を廃止して新法人で許認可を申請し直すと、自治体にもよりますが、通常、2~3か月を要します。従って、他の業種よりも事業承継のハードルが高いと言えるでしょう。その点、株式譲渡だと許認可の問題はクリアされますが、一方で簿外債務を引き継ぐリスクが生じます。

従業員数や複数施設を運営する大・中規模事業者を買収する場合、許認可をはじめとした各種契約関係を巻き直すのが煩雑であるため、株式譲渡がより好まれます。一方、小規模事業者会社を買収する場合、許認可等の手続の煩雑さよりも、簿外負債を監査するためのデューディリジェンスをしっかり行う必要がある点や子会社が増えて管理コストも増える点などから事業譲渡が好まれる傾向があります。

【不動産ごと売買するかどうか】

不動産ごと売却するかどうかもケースバイケースです。買手によって、不動産のような重い資産を取得することを嫌う場合があります。
その場合は、介護事業のみを売却し、M&Aの結果、売手は不動産業だけを営む大家さんになるというイメージです。


4. 買手側・売手側双方のメリット

04_買手側・売手側双方のメリット

ここでは有料老人ホームのM&Aを行うメリットについて、買手と売手双方から説明します。

【買手のメリット】

まずは、陣取り合戦のように自社が展開するエリアを、時間をかけずに拡大できる点が第一に挙げられます。2つ目のメリットはシナジー効果です。医療法人の場合、自社の病院の周辺地域の施設であれば医療連携が図りやすいため、シナジー効果が期待できます。医療法人以外の業種、例えば生活サービス系の給食会社や葬儀会社なども同様にシナジー効果が期待できるでしょう。そして3つ目のメリットとしては、やはり人材の確保が挙げられます。

【売手のメリット】

売手のメリットとしては、人材の問題から解放されることが一番だと思います。採用難の中で頑張って採用し、時間とコストをかけて教育しても定着率が低く、その繰り返しで疲れ果ててしまう。その問題を解消できるメリットは大きいと思います。また、事業承継問題の解決や経営改善が可能になるといったメリットもあります。不動産を残して介護サービスの部分だけを譲渡すれば、普通に不動産オーナーとして安定収入を得ることも可能です。

有料老人ホームは決して大きく儲かるビジネスではありませんが、不動産業のように比較的安定した収益が見込めます。介護のニーズは今後さらに高まっていくと見られる中で、M&Aのニーズも一層高まってくるでしょう。また、ストロングバイヤーもいますので、少しでも気になるようでしたらできるだけ早めにM&Aを検討することをおすすめします。


5. 売手が押さえておきたい成功ポイント

05_売手が押さえておきたい成功ポイント

売手としてM&Aに成功するためには、買手が売手を見るポイントを理解しておくことが大切です。

買手が売手を見るポイントは、1番目が立地、2番目は入居率、3番目はスタッフです。立地が特に問題なければ買手が付きますし、立地が良ければ高く評価される可能性もあります。入居率については、介護ニーズが高いためにほとんどの事業者において問題ないと思いますが、人手不足、サービスの質の低下、悪い評判などによって入居率が下がると買手が付きにくくなります。スタッフについては、資格保有者の数、年齢、定着率などで評価されます。5年10年と長く勤めているスタッフがいるとそれだけで良い施設とみなされます。

その他、施設整備も重要です。綺麗で整った施設であれば賃料もしっかりと取れます。築年数や建物構造の材質なども含めて、施設自体の魅力は一定程度大事であり、一般的な不動産的な要素として見られます。また、居室数が多いほど収益が見込めるため、ある程度規模の大きい施設の方が検討されやすいのは確かです。人員配置については、介護独自の視点として、どれだけ工夫して加算が取れているかという点は見られるでしょう。


6. 売手が気を付けるべきポイント

06_売手が気を付けるべきポイント

最後に、売手がM&Aに関して気を付けるべきポイントについて説明します。

①業績の良い時に売る

これは有料老人ホームに限りませんが、業績が良い時に売るべきです。オーナー本人が元気で、入居率も高く、人材も十分機能している時に売却すれば高く評価されます。事業承継も比較的スムーズに行うことができ、短期間で成約できる可能性が高まります。一方、業績が悪くなった時、例えば人材の問題が発生して組織がうまく回っていなかったり、人員基準を満たせず2~3割の人員を派遣で回していたりすると、次第に評判も悪くなっていき、売却しにくくなることも。そうなる前に早めにM&Aを検討するようにしましょう。

有料老人ホームのニーズは、今後も高まると考えられるため急ぐ必要はありませんが、今は買収ニーズが比較的高い時期。M&Aを考える時期として最適でしょう。

②M&Aに必要な資料をしっかり準備しておく

これも一般的な話ですが、M&Aに際して必要となる資料(株、不動産、消防点検関連の資料など)は、事前にしっかりと準備しておく必要があります。

③自社施設のアピールポイントを理解し、劣位点は改善に努める

自社施設のアピールポイントを理解し、他の施設と比べて劣っている部分があれば改善に努めることが大切です。買手によって異なりますが、地域での評判を気にする買手もいますので大事なポイントの一つと言えます。

④建物の修繕が必要かどうかを確認する

買手は、不動産的な要素として建物の状態は当然考慮します。加えて、介護の場合、消防やバリアフリーなどの基準もあります。最終的には売手と買手のどちらが負担するかという実務的な問題になりますが、修繕が必要かどうかを事前に確認しておきましょう。

⑤現在の人員配置の状況を確認する

特に1つの施設しか運営していないような小規模事業者の場合、最低限の人員で運営しているため、1人でも欠けると人員配置基準を満たさなくなり、施設を運営できなくなります。一般的にM&Aはクロージングまでに6か月程度の期間を要します。また、介護の場合、許認可の問題が絡み、最終契約締結からクロージングまでに数か月要する可能性があります。

一般的に最終契約締結後に従業員説明会を開きますが、その際に従業員が辞めるケースもあります。通常、クロージングの前提条件として人員配置基準以上の人員が残ることを最終契約に入れるため、ケースバイケースであるものの、通常は売手が最低限必要な人員を確保しなければなりません。人員配置基準を満たすかどうかは売買契約締結後も重要なポイントになるので、M&Aに先立ち、現在の人員配置の状況をしっかりと確認しておきましょう。


話者紹介

07_かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社 稲川 貴法
かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社
マネージャー
稲川 貴法(いながわ たかのり)

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社にて、主にM&Aアドバイザリー、事業再生コンサルティング、財務分析業務、バリュエーションを担当。かえで税理士法人(兼務)では、国内中堅中小企業・外資系企業の税務、組織再編コンサルティング業務に従事。東京大学経済学部経営学科卒。『後継者不在の中小企業の売却』(税経通信2019年 2月号)寄稿。

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