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跡継ぎがいない場合、事業を存続させる方法とは?

はじめに

高齢による引退後も、自社の事業を可能な限り継続させたいと願う経営者は多いことでしょう。しかしながら、引退を決めた経営者が自社の事業の継続を望んでいても、肝心の経営の跡継ぎがいないという問題に頭を抱えている経営者が多いことも現実です。
それでは、自分になり代わって会社経営を任せられる後継者が見つからない場合、廃業を避けて事業を存続させるにはどうすればよいのでしょうか?
この問題について、中小企業の事業承継におけるエキスパートとして活躍中の、税理士法人中山会計の常務社員税理士である小嶋純一さんに解説していただきました。


1.跡継ぎ不在の事業承継

引き継ぎのイメージ

引退する経営者が自社の事業の継続を望んだとしても、肝心の跡継ぎがいない場合に、M&Aを選択するという流れが近年よくみられるようになってきています。
日本の中小企業の多くは戦前から続く「家父長制」の習慣が戦後も根強く続いており、家長である父親が経営する会社はまず長男が跡継ぎとなる暗黙の決まりごとがありました。なんらかの理由で長男が継げない場合は次男、その次の跡継ぎ候補が三男で、男子の子供がいない場合は娘に婿をとって継がせることで「家名」ならぬ「社名」を守るというわけです。

老舗の旅館や専門店など、長年にわたって築き上げた自社事業のノウハウや「ブランド」に強いこだわりを持つ業界にはこの傾向が強く、現在も「親族経営(一族運営)」というこの慣習が続いている企業も少なくなく、それは上場企業も例外ではありません。親族経営については「会社の私物化」「旧態依然」という批判も根強くありますが、世界でもまれな長寿企業が多い日本独特の企業文化と評価する向きもあります。

一族経営方式での事業承継では、子供や親族が跡継ぎをすることが絶対条件となります。しかしながら、時代の流れとともに親から子または親族に会社を引き継ぐやり方は少なくなってきたという事情があります。後継者不在には「子供がいないケース」「子供が跡継ぎを拒否するケース」「親が子供に継がせたくないケース」があり、それぞれのケースが増えて来ていることが背景にあるようです。

親族に後継の適任者がいない場合、従業員の誰かが後継者となるケースも考えられます。昔の商店でいえば「番頭が跡目を継ぐ」というパターンです。しかし、それもダメとなると廃業するか第三者に譲るという二つの選択肢しかありません。そしてこの「第三者に事業承継する」選択肢が今では「M&A」とほぼ同義語となりつつあるのです。

2.後継者不足問題の原因

会議室のイメージ

日本の中小企業における後継者不足問題の第1の原因は「少子化」にあります。終戦直後の1947年に5.45人だった「合計特殊出生率(1人の女性が生涯で産む人数)」が、1974年には2.04人となり、以降はずっと1人台となっています。すなわち、2020年現在で成人して会社経営ができる人材は一人っ子または2人兄弟ということになり、長男がダメなら次男・三男という昔のようにはいかない時代になっているということです。
特に戦後のベビーブームの年に誕生した、いわゆる「団塊の世代」の経営者がすでに70代となり、多くの経営者が引退の時期を迎えているのに対し「団塊ジュニア」の数が少なく、バトンを渡したくても渡す相手がいないという状況に至っている中小企業が多く存在するという事態に陥っているのです。

第2の原因は「子供の世代が跡継ぎを拒否している」ことが挙げられます。戦後の経済成長期以降に数多くの中小企業が創業しましたが、その次の世代が後継者となるには会社自体に魅力を感じなくなったというわけです。この事態は、決して「親に反抗する子供」という次元では片付けられない根深い問題をはらんでいます。
また、業種にもよりますが、昭和の時代に起業された会社の事業に現代の若い世代の視点で魅力が少なくなってきていることも挙げられます。業種の多様化が加速度的に進み、若者が好む新しい業種が増加したことで、旧来の業種である「親父の会社」を経営しようという意欲ある世代が減少しているという側面もあるでしょう。

「子供が親の事業を継ぐのは当たり前」という世相から「憲法が保証する職業選択の自由」を堂々と主張する若者が大勢を占め「古い事業よりも新しい仕事を」という選択をする若い世代が増え、これに少子化が拍車をかけるという一種の世代間の断絶現象が起きているとみてよいでしょう。

そして、後継者不足の傾向は都市部よりも地方で顕著に見られます。たとえば、成人した子息が都市部の大企業に就職し、すでに家庭を持ち安定した生活を送っている場合、家族ごと地元に帰り魅力を感じない親の事業をわざわざ引き継ぐ選択をするケースはまれです。このようなケースが地方の中小企業をめぐる後継者不足の時代背景となっているのです。

3.事業承継の主な方法

一致団結のイメージ

経営者の引退に伴う後継者問題あるいは事業承継をどうするべきかという問題は、経営者にとっても何度もある事態ではありません。経営には手腕を振るってはいても、事業承継については初体験という経営者が大半なので、この問題で悩むことは仕方ないことでしょう。
問題点の解決には、考えられる解決法を全て挙げてみて、自社にとって最も良い方法を選択することが望ましいといえます。
それではここで、中小企業の事業承継のパターンを挙げてその内容について解説しみましょう。

(1)親から子への承継

「家父長制」の伝統にのっとり、経営者の長子が引き継ぐ(戦前の習慣では男子優先だったが、戦後は男子がいない場合女子が承継するケースも多い)。長子が承継できない場合は次子、三子の順番となり、女子の配偶者が「義理の子供」として承継するケースもあります。長子優先という習慣は江戸時代の家督相続制度に習っており「出来の良い子供に継がせる」という方法では「お家騒動」が起き、骨肉の争いとなる可能性があるからといわれています。

(2)子供以外の親族への承継

子供が跡継ぎを拒否した場合、あるいは子供がいない場合には、いとこや甥など子供以外の親族が承継するケースも少なくありません。あくまでも経営者の身内で会社を運営するという方法です。長年培ってきた事業のノウハウを外部に流出させないという側面では有効ですが、「会社の私物化」という批判もあり、時代に合わない習慣といえるかもしれません。

(3)従業員への承継

血縁者や親族への承継が不可能な場合に、次善の策としてあるのが「従業員への承継」です。副社長や専務、常務などの要職にある会社役員あるいは思い切って若手の営業部長などに社長引退後の会社の舵取りを任せるという選択肢もあり得るでしょう。
しかしながら、ここでよく考えなければならないのが、いかに優秀な人材であっても「従業員の立場と経営者の立場とは全く異なる」という点です。会社経営とは、それなりの重責を伴います。特に中小企業は少なくない借金を抱えている場合が多く、経営者となると借入金の債務保証をせねばなりません。また、経営者が代わると金融機関の借入がうまくいかないケースも考えられます。後継を指名された従業員本人にやる気があっても、これらの障壁がネックとなって「やりたくてもできない」というパターンが少なくないのです。

4.M&Aという選択肢

事業承継のイメージ

親族に後継者がおらず、従業員にも適任者がいないとなれば、残された選択肢は「廃業か第三者への譲渡か」の2つに1つ、ということになります。状況によっては、廃業がベストな選択というケースもあるのですが「従業員の継続雇用」「取引先との取引継続」という現実を鑑みると「第三者への譲渡=M&A」がより良い選択といってよいでしょう。
実際に、今の日本の企業社会において、M&Aが活性化してきているのは、地方の中小企業の親族への事業承継が機能していないという現実が背景にあるのです。それに、廃業では1円もお金が残りませんが、M&Aならその対価を得られるという金銭的メリットもあります。

5.M&Aの注意点

相談のイメージ

跡継ぎがいないとなれば、会社を存続させる唯一の方法がM&Aです。かつてはマイナスのイメージが強かったM&Aも、事業の安定的継続という側面が理解されるようになり、現在では引退を決めた経営者が積極的にM&Aを進めるようになってきています。後継者不在でやむなく廃業した後で「あのときM&Aをしておけばよかったのに」と後悔しないためにも、M&Aの選択は中小企業にとって、会社の生き残りをかけた決断ともいえます。それでは以下に、M&Aを進める際の注意点を列挙しておきましょう。

(1)会社の魅力を強くアピール

M&Aとは企業の売却です。端的にいえば「自社を売りに出す」ことなので、買手から買ってもらう努力が必要です。そのためには、自社の魅力を最大限にアピールする必要があります。
どの会社でも自社商品を買ってもらうために、その商品の良い点を並べ「買ったら得する」ことを重点的に宣伝しています。これと同じことを、事業組織としての会社に当てはめてアピールする必要があるわけです。

(2)自社の価値を正確に把握しておく

買手が関心を示す会社の特徴はいくつかありますが、経営者自身が判断するとどうしても偏りがでてきます。自社をM&A市場に出すには、会社の価値がどれほどなのか、第三者である専門家に冷静かつ正確に把握しておく必要があります。
また、企業の譲渡となると相続税の問題がありますので、M&Aで実績がある業者や税務面に詳しい税理士などの専門家に企業価値を依頼するのが無難でしょう。

(3)買手の選び方

M&Aに名乗りを挙げても、買手がすぐに現れるわけではありません。それに、オークション市場のように買手候補が何社も同時に手を挙げてくれることもありません。また、買手があったとしても売却価格に折合いがつかず見送った場合、次に高値を付けてくれる買手が出てくるとは限りません。
「あのとき売っておけばよかった」と後悔するケースもありますし、M&A成立後にもっと高く買いたいという買手が出てくる可能性もあるのです。このような点をよく考えて、慎重に、理想に近い買手を選ぶことが大切です。

(4)タイミングが重要

M&Aを成功させる最大のポイントは、売る時期のタイミングを見極めることです。タイミングといっても、自然災害や感染症の蔓延など、社会には自分ではどうしようもない災厄が突然襲ってくることがあるので、その見極めは非常に難しいといってよいでしょう。
2020年に世界を震撼させた「新型コロナウィルス」の感染流行では、ホテルや飲食業界が大きな経営的打撃を受けました。本来ならM&A市場では人気業界となるはずの飲食店はこの悪影響で買手が付きにくくなってしまい、M&Aの売値も低い状況となっています。

6.まとめ

日本では、後継者不足で廃業を余儀なくされる企業が増えてきています。また、M&Aをしようにもノウハウが分からず二の足を踏んでいたり、M&Aをしたものの、相場よりも低い評価で「買い叩かれて」しまい、成立後に後悔したりという実例も少なくないようです。一方で、適正なM&Aが実現できた実例も数多くみられるようになりました。
業種を問わず業績が伸びている会社や将来性のある会社は必然的に評価が高くなり、高値で売れるということになります。いずれにせよ、後継者が見つからずM&Aを選択した企業の経営者は、M&A専門のアドバイザーに相談をするのが一番の近道といってよいでしょう。


話者紹介

小嶋 純一さん
税理士法人中山会計
常務社員税理士 小嶋 純一

横浜国立大学卒業後、税理士法人中山会計にて常務社員税理士を務める。相談しやすさNo.1を体現する税理士として自社の経営の実践並びにお客様の経営のサポートを兼務。M&Aスペシャリスト及びM&Aシニアエキスパートの資格を有し、事業承継の出口をサポートするコンサルティングを15年来推進。保険会社・銀行・商工会議所・各士業等とのタイアップによるセミナーなどで講演を全国にて多数行い、身近な相談窓口として活動中。

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