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ソフトウェア開発業
譲渡事例
2019.04.09
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諦めずに一途に思い込むことで情報を呼び込む努力が大切
トータルITソリューションを提供し、技術支援部門と医療パッケージ部門を両輪で事業を展開するアルカディア・システムズ株式会社(本社:大阪府大阪市)。2013年には歯科医向けパッケージソフトウェア会社を買収し、2019年には技術支援事業の強化のために株式会社小山コンピュータサービス(本社:栃木県小山市)を買収するなど、積極的にM&Aを展開しています。アルカディア・システムズの取締役、小山コンピュータサービス取締役社長を務める奥村史朗様に、M&Aを考え始めた経緯、M&Aを行う上で重要視した点、譲渡企業(売手)を探す上での苦労、M&A成功の秘訣などについて語っていただきました。
株式会社小山コンピュータサービス
※M&A実行当時
情報システムの企画から構築、運用まで一括して提供する技術者集団。各種プログラミング言語に精通しており、自動車メーカ、電機メーカをメインクライアントに、システムコンサルティングサービス、ソリューションサービス、マネージメントサービス、ホームページ作成サービスを手がける。
アルカディア・システムズ株式会社
創業以来、ネットワーク構築・運用、業務系アプリケーション、ミドルウェア開発など、幅広い領域で技術支援を行う。医療、ヘルスケア分野を主なターゲットとして、医療機器管理システム「CEIA」、透析業務支援システム「Seraph」など、独自のシステムソリューションを発信。また、委託から派遣、業務請負まで、お客様の要望に合わせた技術(人材)支援を提供する
当社には、システム開発技術者(エンジニア)の派遣支援を行う部署と、自社独自の医療系サブシステムの開発・販売を行う部署があります。前者の技術支援部門は、リーマンショックを発端とする経営危機から、複数のメーカでプロジェクトが滞り経営的にかなり厳しい状況にありました。ちょうどその時に、医療法改正の流れを受けて、当社のオリジナルパッケージ製品である医療機器管理システムのニーズが増加。医療機器のトレーサビリティシステム(ME機器の履歴管理)を特徴としたシステムなのですが、ニーズの高まりによって技術者の賃下げや解雇を一切することなくリーマンショックの危機を乗り越えることができました。そこで、さらなる事業拡大と医療パッケージ部門の強化を行うために、M&Aを活用することにしました。
最初のM&Aは2013年になります。この時は、歯科医のインフォームドコンセント、つまりこれから行う治療内容・検査方法・予防方法などを、3Dアニメーションを用いて患者さんにわかりやすく説明できるパッケージソフトウェアを提供する企業を買収しました。当社は、技術支援部門の売上が全社の7割を占めていますが、中期的には医療ソリューション部門の売上比率を上げていく計画です。
一方で、技術支援部門の強化も急務でした。当社は大阪に本社を構えており、事業を拡大する上で東京支社の体制構築が必要です。特に、当社には顧客先に常駐して技術支援を提供する技術者は数多くいますが、システムを受託する体制がありませんでした。関東圏のシステム・ソフトウェア開発企業をM&Aすることで、優秀な人材や技術などのノウハウを手にし、事業規模・商圏を拡大したいという思いがありました。
「当社の強みで相手の弱みを補完できるかどうか」「その逆もまた可能かどうか」です。当社は、東京にある技術支援部門の体制強化のために、システムの受託体制を持ち、かつ自分たちとは異なるチャネルに強みを持つ企業をずっと探していました。小山コンピュータサービスは1980年の創業以来、電機メーカや自動車メーカの業務用システム開発を手がけてきた実績もあり、各種プログラミング言語に精通している技術者も抱えています。そのネットワークを相互に活用することでシナジー効果が期待できると判断し、M&Aを決断。最終的には、両社の代表が同世代ということもあり、意気投合して速やかに成約できました。ただ、小山コンピュータサービスの社員の間に動揺が広がり、優秀な人材が離職してしまってはいけません。先方の代表には1年間留任していただき、十分な引継ぎを行った後に、私が取締役社長に就任することになっています。
一途に思い込むことで、情報を呼び込む努力が大切だと思います。「待っているだけ」では、情報は入ってきません。当社もM&A仲介をお願いした仲介会社、事業承継総合センターをはじめ、さまざまな方と積極的に面談を行いました。何度も空振りがありましたし、成約寸前まで進んで最後に破談になったこともあります。経営者同士の相性の問題であったり、予算が合わなかったり、さまざまな原因がありましたが、「必ず希望の相手に出会える」との強い思いを持って何年間も取り組んできました。小山コンピュータサービスも社内に後継者がいないということで、4年ほど譲受け企業探しをしていたそうで、今回の成約までに並々ならぬ苦労があったと聞いています。しかし、お互いが理想とする相手と出会ってからは、トップ面談からわずか1か月程度でクロージングまで進むことができたのです。M&Aを行う上で、諦めずに続けることが何より重要だと思います。
リクルートの事業承継総合センターを通じて、仲介会社から小山コンピュータサービスの紹介を受けました。当社の代表が先方の代表の誠実さに惹かれたと聞いています。私もある会合で小山コンピュータサービスの代表とお会いしましたが、多くの方が挨拶に来られているのを見て「地域の方々から信頼されている経営者」という印象を持ちました。また、両社の代表は世代が同じで、経営者ならではのさまざまな苦労を乗り越えてきたこともあり、お互いのフィーリングが合ったという点も大きかったと思います。実際、両名とも経営に対して実直なタイプで、社員を大事にするなど、考え方が非常に似ているなと思います。
やはり先方の代表の誠実さに加え、ビジネスの「補完」という関係だけでなく、「相乗」を期待できる関係が大きいと思います。つまり、両社の強みと弱みが補い合えるというところです。それに、技術者のスキルシートもキチンと階層化されており、新卒採用を毎年行っていた点も決め手の一つ。長年勤務されている技術者も多く、会社の実態も良いに違いないと考えました。先方としては、M&Aのプロセスを進めるなかで、希望条件が実現するか、社員の待遇はどうなるかなど、不安に感じていたようですが、希望条件を含めて最終的には当社の代表の人格、信頼性が決め手になったようです。
印象に残ったのは先方から支給された技術者のスキルシート。参加したプロジェクトの内容や種類、期間、システム環境、フェーズ、人員、担当業務などがひと目でわかりました。また、誰がどのプロジェクトに参加してどんな役割を担ったかがすぐに把握できたため、安心して検討することができました。
前述したように、先方の技術者が残ってくれるかどうかが一番の課題でした。「人」が最も重要な価値を生むビジネスですので、一人でも辞めてしまうとその分の企業価値が下がることになります。M&A後のマネジメントについて対策を講じる必要がありました。
対策としては、先方の代表に1年間残ってもらうことで社員の不安を少しでも少なくするようにしました。また、全社員とマンツーマンに近い形で何度も面談し、「両社は上下の関係ではなく共存の関係」であることをくり返し伝えました。「相互に自立し、協力しながら強い会社を作っていこう」とも伝えたと思います。特に年配の方や役職のある方は、M&Aされるということに対して不安を抱えているので、「これまで通り、あなた方が主体的に業務を進めてほしい」ということも伝えています。
また、現在も両社の営業同士、技術者同士でコミュニケーションを図り、私も定期的に交流しています。特に技術者同士がお互いにリスペクトできる関係というのが一番大事です。今では相手が取り組んでいるシステムやプロジェクトに興味を持ち、両社の技術者が協力して一つの案件に携わるケースも増えており、とても良い形でスタートを切れたと思っています。
やはり売手と買手がWin-Winであること、共存関係が成り立っていることが重要だと思います。M&Aは契約締結後の統合プロセス(PMI)が特に重要ですが、先述の面談以外に、売上管理システムを両社で作りあげました。これまでの当社のやり方をベースに、先方で工夫を加えてもらうことで、同じ目線をもってシステム統合を進めています。
先日も小山コンピュータサービスに行って話をしたのですが、「M&A後、1年経つとは早いですね」という話をしたら、役員全員が「早いですね」と言ってくれました。「つらくて長かった」と言われたらショックを受けていたと思いますが、そうではなかったので「M&Aをして良かった」と思いましたね。今後の目標ですが、やはりシナジー効果の追求です。初年度の決算は黒字でしたが、M&Aの成果が明確に出ているとは言えません。お互いが自立し、両社の強みと弱みを補完し合い、お互いの事業を高めていきたいと考えています。
先の見えない時代において、会社の形を主体的に変化させていかなければ、生き残っていくことはできません。その際に、いたずらに何かを大きくするのではなく、相互に強みと弱みを補っていかないと舵が切れなくなると思います。M&Aは言葉が変に独り歩きしていて、ネガティブなイメージを持つ方もいますが、決してそんなことはなく、相互に良かったなと思える出会いがあるものです。「買手だから」と上から構えるのではなく、「企業や従業員の命を預かる」という気持ちで誠実に向き合うことが大切だと思います。当社としても、素晴らしい会社と出会えて本当に良かったと思っています
■売手経営者からのメッセージ
創業時よりシステム開発の統括を担ってきたものの、高齢にともない事業承継が当面の課題となっていました。一時は代表取締役を退いたものの、人材不足も相まってM&Aを検討。当初、取引先の金融機関と地元の事業引継ぎ支援センターに相談しましたが、数ある企業のなかから個別に企業を選択することが難しい状況にありました。その後、縁あって事業承継総合センターとお会いしたところ、担当者のM&Aに関する成約実績とノウハウが心強く、お世話になることを決めました。
アルカディア・システムズを選んだ理由は、事業内容や資産状況に加え、代表者の性格と信頼性があったから。M&Aのプロセスを進める上で、希望条件が叶うか、従業員の待遇はどうなるか、譲渡価格は適正かといったさまざま不安がありました。しかし、アルカディア・システムズは当方の事業とのシナジー効果が高いだけでなく、希望条件や従業員の待遇に関する要望についても受け入れていただきました。何より、買手経営者や、事業を引き継ぐ責任者に恵まれたことが、最大の決め手なのかもしれません。
M&Aを実施する上で大切なのは、自社の強みと方針を主張し根気強く相手を探すこと。特に、M&Aにおいて売手の立場は弱くなりがちで、買手の経営に関する情報も入手しづらく、買手選びに迷いが生じるものです。しかし、信頼できる仲介会社、担当者、そして買手経営者に出会える時が必ずあります。諦めずに相手を探してほしいと思います。また、当社の従業員については新しい環境でたくましく成長し、さらに会社を拡大させることを期待しています。
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