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中小企業のM&Aを考える時の注意点と成功の秘訣

2019/10/28
更新日:2024/05/13

はじめに

M&Aと聞くと、資本力や事業規模が大きな「大企業が行うもの」という印象を持っている人もいるかもしれません。しかし、近年では、経営者が高齢化して後継者がいないために行われるM&Aや、資金調達を目的に行うM&Aなど、中小企業のM&Aが増えています。
ここでは、中小企業がM&Aを行う際に注意すべき点と、その成功の秘訣をM&Aアドバイザーである前垣内佐和子氏に解説していただきます。


1.中小企業のM&Aが増えている

近年、中小企業のM&Aが増えています。2019年版『中小企業白書』(中小企業庁)によると、2006年前後にいったんピークを迎えたM&A件数はしばらく減少傾向にありましたが、2011年の1,687件を境に増加に転じ、2017年には3,000件と過去最高となりました。こうした動向には、どのような背景があるのでしょうか?

中小企業がM&Aを検討する主な理由を見ていきましょう。

まず、売主側がM&Aを検討する理由として、次のようなものが挙げられます。

  1. 引退したいが後継者がいない
  2. 売主である社長1名で売上をこれ以上伸ばす自信がなく将来が不安
  3. 大手の傘下に入ることで投資を加速し一気に売上を増やしたい
  4. 売却資金をコア事業に充てて、コア事業の運営に集中したい
  5. 資金調達のため
  6. 企業再生のため

「6.企業再生のため」は売主が銀行からの借入金を抱え過ぎてしまい、返済のめどが立たない場合に多いM&Aの理由です。事業の売却益で銀行に返済します。

例えば、銀行と「会社を売却するので1億円の借金を6,000万円にしてもらえませんか?」といった交渉を行い、債務を減らしてもらうのです。銀行側も、回収できないよりは減額してでも貸し付けたお金を回収したいと思うため、減額に応じることがあります。

一方、買主側がM&Aを検討する理由には、次のようなものがあります。

  1. 既存事業を買収することで、事業立ち上げに必要な「時間を買う」
  2. 上場のために収益アップを狙い「数字を買う」
  3. 従業員の技術や知識を得るために「人材を買う」
  4. 既に知られている「ブランド力を買う」
  5. 海外進出を狙う場合などに多い「販路・顧客リストを買う」
  6. 多角化を目的に「事業そのものを買う」

これらは、他社が時間をかけて蓄積してきたものをM&Aで獲得するということであり、M&Aで実現したい目的は買主によって異なります。

また、「後継者にしたいと思っていた自分の子供が跡を継ぐ意思がないから」と、社内の人間に社長職を引き受けてもらったというオーナー経営者の話を聞く機会も多くなりました。「事業承継対策の先送り」です。
そのような会社の場合、先代の経営者が亡くなるタイミングで事業承継問題が発生する恐れがあります。

例えば、先代から株券を引き継いだものの会社に興味がない子供(新オーナー)と、経営を引き継いだ新社長との間で考え方が一致せずに、会社の運営がうまくいかなくなることもあります。

もし、ご自身がこのような立場にある場合は、オーナー経営者がご存命のうちに真剣に事業承継と向かい合い、リスクを把握して、どのように対処すべきかの対策を練っておくことをおすすめします。


2.中小企業を売る際によく取られる方法

M&Aを考える時の注意点と成功の秘訣_01

次に、M&Aの手法について見てみましょう。

M&Aの手法

M&Aの手法には、「売却」「会社分割」「合併」などがあります。

  1. ■売却
    買主が会社の既存株式を取得する「株式譲渡」、事業を取得する「事業譲渡」、増資など新株や新株予約権を取得する「新株引受」、その他「株式交換」「株式移転」などの方法があります。
  2. ■会社分割
    会社を複数の法人格に分割して、それぞれに組織や事業を引き継がせる方法です。
  3. ■合併
    複数の企業が法定の手続きによって1つの会社に統合されます。

上記の手法を組み合わせる方法も存在します。

「売却」の場合の一般的な流れ

それでは、中小企業がM&Aをする際にはどのような流れで「売却」を行うのでしょうか?一般的な流れをご紹介すると、次のような手順になります。

  1. 売主は、まずは、何を目的に会社を売却するのか、売却後のビジョンを明確にさせます。同時に自社の分析を行います。自社の価値はどのくらいなのか、強みや弱みは何なのかなどを分析し、書類を作成します。
  2. 売主側が、買主候補に対し、売主の名前を非公開にしたまま打診・提案します。(1)で、売却の目的や売却後のビジョンを明確化していれば、どのような会社に売却すれば良いかも自然と決まります。
  3. 買収に興味を示す買主候補者が現れたら、売主と買主候補との間で秘密保持契約を結びます。買主候補がM&Aを実施するかどうか検討するために、売主の会社の詳細な情報を手にすることになるためです。
  4. 秘密保持契約が締結されたら、売主は買主候補が検討するのに必要な資料を開示します。財務諸表などはもちろん、売上や仕入れの詳細、保有している土地の詳細、取引先との主要な契約書なども開示します。この期間に、面談や中間契約、条件交渉を行うこともあります。
  5. 本格的にM&Aを検討したい、と買主候補が判断すると、デューデリジェンス(買収監査)を行います。これは、M&Aにおけるリスクを洗い出し、妥当な価格を算出し、M&A後の統合計画を検討する作業です。
    ケースバイケースですが3週間~1か月程度かけて詳細を確認していきます。費用は、法務、会計、税務だけで300万円程度、大手事務所へ依頼すれば3,000万円~4,000万円程度かかることもあります。
  6. デューデリジェンスで問題がなければM&A契約を締結します。
  7. 株・代金の決済と引き換えに、必要物の引き渡しを行います。銀行の会議室を借りて行うこともあります。基本的には契約日と支払日は別の日にすることが多いです。

3.中小企業がM&A時に気をつけるポイント

では、中小企業がM&Aをする際に気をつけるポイントにはどのようなものがあるのでしょうか?

優先順位や希望価格を決めておく

まず大切なポイントは、M&Aの交渉に入る前に決めておいた、どうしても譲れないこと、優先順位として決めたことを守るという点です。譲れないことや優先順位があらかじめ整理されていれば、どの交渉相手が良いのかの判断基準ができ、どのような条件であれば契約してもいいのかが見えてきます。

例えば、会社を売却したいと思っているオーナーでも、明確な優先順位を持たず、希望条件も漠然としているケースは多々あります。M&Aアドバイザーなどの専門家がサポートする場合は、最初の相談の段階で、M&Aの目的や条件を明確化することになるでしょう。

また、最終交渉段階が見えてきた頃に、売却の最低価格を設定しておくことも大切です。M&Aを進める中で、情に流されたり、長期的な交渉に疲れてしまい安く売却してしまったり、ということがないとも限りません。後々、後悔をしないためにも、金額の下限は決めておくのがおすすめです。

気をつけるポイントを守って、M&Aが成功した事例

最後に、中小企業を大手企業に売却したM&Aの成功事例をご紹介します。
売却後、会社は大手企業の傘下に入り、業績は向上。それまで雇っていたスタッフのモチベーションも、給料も上がりました。買主側の会社から新たに社長として来た人は、その業績を上げた手腕が認められて、後々のことですが、買主本体の社長になることができました。もちろん、売主もハッピーリタイアが実現しています。

この成功は、買主・売主共に目的がはっきりしていたことで叶いました。
売主のM&Aの目的は「●●歳でリタイアし、資金を得て、家族との時間に充てたい」というものでした。一方の買主の目的は「ノウハウが欲しい」ということのみ。それ以外の条件については買主が譲歩しました。

売主側の1番の目的は「資金調達」で、優先順位の高い条件は「売却までのスピード」と「従業員への保障」だったのですが、これらの条件に双方が合意してM&Aが決まりました。互いに目的と譲れない条件がはっきりしていたため、それ以外の点は柔軟に交渉を進めることができ、スムーズに双方が納得するM&Aが実現しました。

これからM&Aを検討される人は、ぜひM&Aをする上で「どうしても譲れないこと」、「自社のM&Aの優先順位」について詳細に決めておきましょう。M&Aがスムーズに進む確率が高まるはずです。


4.中小企業の担当者がM&A買い手情報を得るためには?

中小企業の経営者や担当者がM&Aを検討したいと思っても、実際に何をどうしたら良いか分からないとお困りになることでしょう。

そのような時には、経験豊富なM&AアドバイザーやM&A仲介業者といった専門家の力を借りるのがおすすめです。今すぐに売却を決めるわけではないけれど情報収集をしたい……という場合でも、まずは専門家に相談をしてみるのも良いでしょう。

 


話者紹介

前垣内 佐和子_自己紹介

キャピタル・エヴォルヴァー株式会社
M&Aアドバイザー
前垣内 佐和子(まえがいち さわこ)

大学卒業後、ヤフー株式会社に入社。社長室・経営企画部に配属される。その後、M&A業界の第一人者が立ち上げたブティック型インベストメントバンクでM&Aのアドバイザリー業務、ファイナンス支援業務、財務コンサルティング業務に従事。2009年に独立し、キャピタル・エヴォルヴァー株式会社を設立、現在に至る。

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