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「役員退職金」を活用した事業承継 (M&A) とは?税金やメリットも解説!

2020/02/15
更新日:2024/05/13

はじめに

経営者が退職をする際には、多くの場合後継者に株式を譲渡するか、または贈与することになります。しかし、何の対処もせずにただ株を譲渡または贈与してしまうと、所得税や贈与税が発生し、手残り金額が少なくなってしまいます。

そこでよく活用されるのが「退職金」。退職金はこれらの税金に比べて税率が低いため、株式譲渡の際の課税額を抑えることができるのです。退職に伴う事業承継を最も効率的にするための「退職金の活用方法」を、栗林法律事務所の栗林勉さんに教えていただきました。


1.事業承継時に退職金を発生させるメリットとは

中小企業の経営者が後継者に株式譲渡をして引退をする場合、退職金をできるだけ多くもらい株式譲渡額を抑えることで節税ができます。理由は以下の通りです。

(1)退職金にかかる税額と、譲渡所得にかかる税額の差は6%以上

株式の譲渡により対価が発生すると、そこには所得税がかかります。個人にかかる所得税は20.315%(復興特別所得税を含む)、退職金にかかる税率は14%です。よって取引の授受額は変わらなくとも、税率の差によって譲渡側の手残り金額に差が出るのです。

(2)贈与の場合は課税額が50%以上にのぼるケースもある

株式を譲渡するのではなく、後継者に贈与するというケースもあります。しかしこの場合は贈与税が課税され、受け手の手残り金額が少なくなります。

贈与税は110万円を超える資産を受け継いだ場合に発生するもの。200万円以下であれば10%ですが、3000万円以上であれば50%以上にものぼります(控除有り。税率は誰から誰に贈与するかで変わり、子や孫への贈与は若干税率が低くなります)。

例を見てみましょう。

(例)A社の株式を持つオーナーが、B社に株式譲渡をして退職する。
もともとA社の株式の総額が1億円であったときと、
①1億円分の株式譲渡を行ったパターン、
②退職金を活用して事業継承をするパターンを検証する

①1億円分の株式譲渡を行ったパターン

B社はA社に1億円を支払い、受け取ったオーナーはそこから20.315%の株式譲渡所得税を支払わなくてはなりません。

・B社がA社に支払う額 1億円
・オーナーの手残り金額
1億円−1億円×20.315%=7968万5000円

②退職金を活用して事業承継をするパターン

B社はA社に1億円を支払い、A社はそこからオーナーに2000万円を退職金として支払った。受け取ったオーナーは残りの8000万円から20.315%の株式譲渡所得税を支払わなくてはならない。

・B社がA社に支払う額 1億円
・オーナーの手残り金額
退職金:2千万円−2千万円×14%=1720万円
株式譲渡による手残り:8千万円−8千万円×20.315%=6374万8000万円
総額:1720万円+6374万8000円=8094万8000円

(3)退職金には控除もある

さらに、退職金には勤続年数に応じた控除も認められています。このため手残りの差はより大きくなることもポイントです。

〜勤続年数が20年以下の場合の控除額〜
40万円×勤続年数
(控除額が80万円未満の場合は一律で80万円が控除額となる)

〜勤続年数が20年以上の場合の控除額〜
800万円+70万円×(勤続年数−20)

2. 退職金として認められる金額には限度がある

株式譲渡によって発生した所得は、一部を退職金にすることで節税ができることがわかりました。では、発生したほとんどの所得を退職金にすることはできるのでしょうか。

(1)退職金金額の求め方

退職金として認められる金額には上限があります。よって株式譲渡で発生した所得のほとんどを退職金にすることはできません。退職金は下記のような計算で求めることができます。

月額給与×勤続年数×貢献倍率

「貢献倍率」とは、企業が退職金規定で定める数値のことです。この値が大きいほど退職金の金額は高くなりますが、異常に高い数値は税務署が認めません。

〈例〉月収100万円の経営者が30年勤続した企業を退職するときの退職金の金額

100万円×30×3=9000万円

(2)税務署への対策はどうする?

退職金の金額が異常に高いと判断された場合、税務署がそれを否認することがあります。対策として「退職金規定をあらかじめ明文化して定めておく」ようにしましょう。

貢献倍率の数値について過去の判例を調べると、5程度は否認され、3.4〜3.5は容認される傾向があります。

3. 退職金を受け取ると手残り金が減る場合も……

車いすの老人

高齢の経営者が退職する場合などは、本人が死亡した後に遺族が退職金を受け取ることも考えられます。このような場合、税金はどのようにかかるのでしょうか。

(1)退職金を遺族が受け取ると、かかるのは所得税だけじゃない!

これまで見てきた通り、退職金を受け取る際には14%の所得税がかかります(控除額を除く)。さらに退職金を受け取るのが本人以外となった場合は贈与税が課税され、最大55%の課税がなされます。

本人が受け取った場合と、遺族が受け取った場合の2つの例を見てみましょう。

〈例〉30年勤めた会社から2000万円の退職金を本人が受け取った場合の手残り

・控除後の金額
70万円×30-600万=1500万
2100万−600万=1500万

・所得税引き後の金額
1500万—1500万×14%=1290万円

〈例〉30年勤めた会社から2000万円の退職金を、遺族である子が受け取った場合の手残り金額

・控除後の金額
70万円×30-600万=1500万
2100万−600万=1500万

・所得税税引き後の金額
1500万—1500万×14%=1290万円

・相続税税引き後の金額
1290万−50万=1240万
1290万—1240万×15%=1104万円

※1000万1円以上3000万円以下の相続では50万円が控除額となり、税率は15%になります

このように、退職金は本人が受け取る場合と遺族が受け取る場合では手残り金額に差が出ます。資産を効率的に残すために、退職金はいつ、誰が受け取るのを家族で確認しておきましょう。

(2)生命保険を退職金の原資にするときは注意を

利回りのいい生命保険で退職金の原資を用意するケースがありますが、これには注意が必要です。利回りの良い生命保険料は一定の期間決まった金額の納付が求められますが、これは高額に設定されていることが多く、まとまった還元額が受けられるまで積立続けられる人は多くありません。

積立が続けられず途中で解約すると、積立金の60%程度しか返ってこないことがあります。
また支払われるのが保険金であっても、所得税や相続税、贈与税などはこれまで見てきた通りに課税されます。

退職金を活用した節税スキームは広く行われていることですので、経営者が退職する際には一考してみるといいでしょう。しかし、残った従業員や事業が将来に不安を覚えず、安定して働き続けられる環境を残してあげることも大切です。退職金の金額は、譲渡する企業に残す資産のことも考えながら設定するようにしましょう。

話者紹介

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栗林法律事務所 弁護士 栗林 勉(くりばやし・つとむ)

1991年司法試験合格、1993年に弁護士登録し、あさひ法律事務所で国際関係に絡む案件を担当する。1996年よりジョージア大学のロースクールで学び、ニューヨーク州の司法試験に合格。アメリカに進出している日系企業をサポートする。2003年に独立し事務所を開設。国際取引や中小企業のM&Aをサポートしている。

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