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株式譲渡でのトラブルを回避!そのための5つの注意点を解説

2020/03/17
更新日:2024/05/13

はじめに

現在のオーナーが、後継者に株式を譲渡することによって経営権を引き継がせる「株式譲渡」。他の事業承継の手法より、手続きが簡易で素早い事業承継が可能ということもあり、同族企業などの中小企業がM&Aによる事業承継を行う際に多く用いられる手法です。

株式譲渡はメリットの多い事業承継の手法ですが、株式譲渡をする際には注意点もあります。株式譲渡をする際に明確な取り決めをしていなかったため、後々、損害賠償請求をされてしまうということも珍しい話ではありません。そこで今回は、M&A時の株式譲渡におけるトラブル回避の方法について、株式譲渡に詳しい株式会社みどり未来パートナーズ事業承継アドバイザー・三村尚さんにお話を伺いました。


1.株式譲渡とは

株式譲渡のストラクチャー

まずは、株式譲渡がどのようなものなのか、その概要を見ていきましょう。株式譲渡とは文字どおり、株式を譲り渡すことによって現オーナーから他社に経営権を引き継がせる事業承継のひとつです。株式譲渡のメリット、流れ、必要な書類について詳しく見ていきましょう。

(1)他のM&A手法に比べ迅速・簡易

株式譲渡の最も大きなメリットは、他の事業承継の手法に比べると事務手続きが簡易で、事業承継を迅速に進めることができる点です。

株式譲渡による事業承継の場合、売手である現オーナーが従業員や債権者、取引先といったステークホルダーの了承を得る手続きは基本的には必要ありません。取締役会や株主総会で株式譲渡が認められ、株主名簿の書き換えや株券の受け渡しなど、決められた手続きを行えば株式譲渡は完了します。

手続きが他のM&Aの手法よりも迅速で簡易なので、いち早く株式の現金化ができるという点も現オーナー側にはメリットになるでしょう。

(2)株式譲渡の流れ

株式譲渡に関する手続きの一般的な流れは、以下のとおりです。

・株式譲渡承認請求の提出
・取締役会もしくは株主総会の開催
・株式譲渡契約の締結
・株主名義の書き換え

まずは、株式譲渡承認請求を会社に提出します。株主譲渡承認請求に決まった書式はありませんが、譲渡する株式の数や種類、譲渡する相手を記載した請求書を会社に提出することが一般的です。

株式譲渡承認請求を会社に提出した後、取締役会もしくは株主総会を開催します。ここで株主譲渡の可否が判断されます。株主譲渡が取締役会もしくは株主総会で認められれば、株式を譲渡する相手と株式譲渡契約を結びます。契約締結時には、株式数、対価を明記し、契約内容が真実かつ正確である旨が記載された表明保証条項に合意します。

株式譲渡の契約を締結した後、新たな株主の名前に株主名義を書き換えます。株主名義の書き換えをもって、株式譲渡による事業承継は完了します。

(3)株式譲渡時の必要書類

株式譲渡の際に必要な書類は、契約内容が記載された株式譲渡契約書です。株式の譲渡に制限がかけられておらず、事業承継先が息子などの親族である場合、株式譲渡契約書のみで株式譲渡の手続きが完了する場合もあります。

ただ、一般的な中小企業の株には、株式の譲渡制限が設けられています。これは、株式を譲渡する場合には株主総会や取締役会の承認が必要という株式です。株式譲渡の承認をするのは、株主総会もしくは取締役会が一般的ですが、どの機関で株式譲渡の承認を得るかによって用意するべき書類が変わります。

株式譲渡の承認機関が株主総会の場合は、株式譲渡契約書に加えて、以下の書類が必要です。

・譲渡承認請求書兼名義書換請求書
・取締役会議事録
・株主への提案書
・株主からの同意書
・株主総会議事録
・譲渡承認の通知書
・株主名簿

なお、株式譲渡の承認機関が取締役会の場合は、株主への提案書、株主からの同意書、株主総会議事録の3点は必要ありません。

2.株式譲渡の注意点①経営者保証

握手(M&A契約締結) 

ここからは、株式譲渡を行う際の注意点を詳しく見ていきましょう。株式譲渡をしたものの、後々のことをきちんと決めていないが故にトラブルに巻き込まれてしまった、などということがないようにしたいですね。まずは、会社の借入金を経営者が個人で保証をつける「経営者保証」の観点からの注意点をお伝えします。

既存保証債務の扱いを確認する

会社が銀行などから借り入れをする際は、オーナー(代表取締役)が連帯保証人になっていることが一般的です。株式を第三者に譲渡するとき、連帯保証の扱いをどのようにするのかをきちんと取り決めなければなりません。
連帯保証の支払い義務が残っている場合、もし会社が潰れてしまったら、株式を譲渡した後であっても連帯保証の支払い義務は元のオーナーに残ります。連帯保証の支払い義務が残るということは、債務を支払う義務が残っているということです。これを避けるために、会社の借入金とともに連帯保証は株式譲渡をした相手に引き受けてもらうことが一般的です。たとえば、契約時の書類に「連帯保証を◯ヶ月以内に外す」などの項目を入れます。「会社は人手に渡ったが連帯保証の支払い義務だけは残ってしまう」という事態に陥らないよう注意してください。

3.株式譲渡の注意点②譲渡が可能か

株式譲渡のストラクチャー

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次の注意点は、そもそも譲渡が可能な株式なのか否かです。当然のことですが、譲渡が可能な株式でなければ株式譲渡はできません。確認すべきポイントは以下の2点です。

・株券発行の有無
・譲渡制限の有無

以下で詳しく見ていきましょう。

(1)株券発行の有無

現在は株券の不発行が原則ですが、以前は株券を発行することが一般的でした。ただし、定款に株券発行の定めがありながら、株券を発行していない会社も散見されるため、自社の株券が形式上および実質上どのような状況にあるのか、把握する必要があります。

(2)譲渡制限の有無

多くの中小企業では、自社が発行する株式に譲渡制限をかけています。自分たちの会社の不利益になる第三者に株式が勝手に譲渡されることを防ぐためです。また、自社が発行する株式の所有権が誰なのかを明確にしておく目的もあります。譲渡制限がかけられた株式を譲渡する場合には、株主総会や取締役会の承認を得る必要があります。

4.株式譲渡の注意点③株式譲渡契約書

株式譲渡のストラクチャー

株式譲渡契約書の作成については、準備を万全にしておかないと、のちに大きなリスクを抱え込んでしまうことがあります。場合によっては譲渡自体が破談になる可能性もあるので、契約時には会社や業界の実情に沿った契約書を作成する必要があります。

会社ごとに契約書をカスタマイズする

契約書を細かく書けば書くほど事業承継後のリスクは低くなります。しかしながら、売手と買手の利害が反するときにあまりにも細かく規定を決定してしまうと、その事業承継そのものがうまくいかなくなることでしょう。売手、もしくは買手側の顧問弁護士が契約書を作成する場合、契約書の内容が片方だけ有利になっていることが一般的です。弁護士は依頼者の利益を最大化することを目的に契約書を作成するからです。しかし、株式譲渡契約書は、売手と買手双方の立場に立って考えられたものでなければ契約自体が上手くいきません。

また、会社や業界ごとにリスクがそれぞれ違うので、本当に必要な事項を契約書に書かなければなりません。会社ごとの特有のリスクや課題に沿ってカスタマイズした契約書にしなければならないのです。たとえば、残業の集計が古いシステムでサービス残業が出ている会社では、事業承継後における残業代の取り扱いや、誰にいくら支払わなければならないのかなどを明確にしておく必要があります。このように、株式譲渡契約書には会社の実情に合わせた内容を明記することが重要です。

5.株式譲渡の注意点④税金面

譲渡所得税

中小企業のオーナー経営者が株式を譲渡する際には、上場株式を売却する際と同様に税金が発生することがあります。ここでは、株式譲渡に伴う税金について見ていきます。

(1)譲渡所得税が課される

株式譲渡をすると、株式の譲渡益に対して譲渡所得税が課せられます。株式譲渡の際に課せられる税金は複雑ですので、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

(2)税金の計算例

税金の詳細は、税理士など税の専門家に任せるべきですが、株式譲渡をした場合のおおよその税金を知りたいのではないでしょうか。株式譲渡に課せられる税金は、以下の計算方法で算出されます。

株式の譲渡益×20.315%

たとえば、株式の譲渡益が1億円だった場合に課せられる譲渡所得税は、2,031万5,000円という計算です。不動産の売却益である場合は、所有期間に応じて約20%~約40%と税率に幅がありますが、株式の場合は、譲渡益がいくらであっても係数の20.315%は一律です。譲渡所得税20.315%の内訳は、所得税(15%)、住民税(5%)、特別復興所得税(0.315%)になります。なお、譲渡益は、譲渡金額から株式取得費やM&A手数料など必要経費を差し引いて計算します。

6.株式譲渡の注意点⑤専門家に相談すべき

株式譲渡のストラクチャー
上場会社の株式売買とは違い、中小企業の株式の譲渡は株券発行の有無や株式譲渡制限の有無など、確認すべき事項が多く手続きも煩雑です。そのため、譲渡を検討する早い段階からM&Aによる株式譲渡の経験が豊富な専門家に相談することをおすすめします。

専門家や専門機関に相談する

株式譲渡は手続きが煩雑とはいえ、司法書士や弁護士などの専門家であれば、形式的に株式譲渡手続きを完了させることは可能です。ただし、案件ごとのリスクを踏まえた株式譲渡契約をサポートし、譲渡後にトラブルが発生しないように適切な手続きを取ること、トラブルが発生した際に責任の所在が明確になる手続きを取ることは、M&A取引の経験が豊富な専門家でなければ難しいと思われます。

また、経験豊富であることはもちろん重要なことですが、オーナー経営者と相談相手の相性も大切だと感じます。オーナー経営者にとって、会社の売却は一生に一度あるかないかの重大なイベントです。それだけに、「自社を高く評価してほしい」、「従業員を大切にしてほしい」など、オーナー経営者の思いを共有できる相性の良いパートナーを相談相手として選ぶことが重要ではないでしょうか。

まとめ

中小企業のM&A取引において、約90%の会社が選択する手法が株式譲渡です。株式譲渡は、他の手法と比べると手続きが迅速で簡易な点が大きなメリットです。ただし、買手にとっては不要な資産や偶発債務、簿外債務を意図せず引き継いでしまうリスクがあります。そのため、売手も気をつけておかなければ取引後に思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。

日本の中小企業の約65%が後継者不在に悩まされており、今後ますます株式譲渡による事業承継型のM&Aは増えていくものと考えられています。
とはいえ、お伝えしたように株式譲渡には注意しなければならない点もあります。事前のリスクマネジメント、リスクコントロールを怠ったために契約後にトラブルとなることは、売手も買手も避けたいところです。契約後のトラブルを回避するために、株式譲渡の際にはまず経験豊富な専門家に相談することをおすすめします。

〈話者紹介〉

三村尚さん
資格:M&Aシニアエキスパート(認定番号:00D-00-0029)
専門分野、担当業務:M&Aコンサルティング、事業承継対策
香川県高松市生まれ。横浜国立大学(経営学部)卒業後、百十四銀行、帝国データバンク勤務。
2012年より株式会社みどり未来パートナーズ勤務。
金融機関、調査会社での勤務時を含め、延べ2,000社の企業評価を行った経験を活かし、M&Aを中心とした事業承継を手掛ける。

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