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結婚式場・ウェディング業界のM&A動向・事例について解説

はじめに

婚礼・ウェディング・結婚式業界は、少子化や晩婚化の進展や価値観の変化などにより市場規模の縮小が続いており、経営改善や事業撤退を目的としたM&Aが幅広く展開されています。婚礼・ウェディング・結婚式業界の市場およびM&A動向と事例、売手が押さえておきたいM&Aの成功ポイントや注意点などについて、株式会社INNOVATION LEADERS代表取締役の村田理恵様に聞きました。


1. 結婚式場・ウェディング業界の市場動向

婚礼・ウェディング業界の市場動向
婚礼・ウェディング・結婚式業界は、少子化や晩婚化の進展、結婚式に対する価値観の変化などにより、2000年以降市場規模の縮小が続いています。ブライダル関連市場規模(挙式披露宴・披露パーティ、新婚家具、新婚旅行、ブライダルジュエリー、結納式・結納品、結婚情報サービスの主要6分野)は約2.5兆円、最も市場規模が大きい挙式披露宴・披露パーティ市場規模は約1.4兆円と言われており、その後も減少トレンドが続いているとみられます。実際、厚生労働省の人口動態統計によると、婚姻件数は1970年に約110万組でしたが、2018年に約59万組まで減少しています。

加えて、近年の節約志向の強まりから小規模な結婚式が増えており、50人から100人程度のゲストを呼んで、300万~350万円程度の費用をかけて式を挙げるといった大型の結婚式を挙げる人が少なくなっています。反対に、結婚式を挙げる代わりに、ドレスを着て写真を撮り、ゲストハウスやレストランで食事して終わりといった「少人数婚」や、海外旅行を兼ねた「海外ウェディング」のシェアは拡大傾向となっています。

少子化や晩婚化の影響により、婚礼・ウェディング業界の市場規模縮小は余儀なくされています。その一方で、若者のライフスタイルが変化し、従来のような「結婚式は必ず挙げるもの」という価値観に変化が見られていることも大きな原因です。おもてなし志向の高まりで、招待客1人あたりにかける費用が増加しているという調査もありますが、結婚式場を使用しない、お金をあまりかけない小規模結婚式が増えており、全体として単価は下降している状況です。さらに、結婚式に参列したことがないために「結婚式を挙げる」というイメージが湧かないという人も増えており、ブライダル業界は負のスパイラルに陥っている状況と言っても過言ではないでしょう。


2. 結婚式場・ウェディング業界のM&A動向

婚礼・ウェディング業界のM&A動向
婚礼・ウェディング業界における事業承継は、後継者(親族内・従業員)への承継に加え、M&A(第三者)への売却も多いです。M&Aを決断する理由は様々ですが、人口動態の変化により人口が減ったことによる収益の悪化からブライダル事業(結婚式場)を手放さざるを得えなくなった企業も多くあります。

M&Aの手法として株式譲渡や事業譲渡がありますが、婚礼・ウェディング業界では事業譲渡を選択するケースがほとんどです。通常、株式譲渡を選択した場合は売手の銀行借入や経営者の連帯保証も譲渡されますが、婚礼・ウェディング業界の買手は、結婚式場の運営事業だけを譲受ける事業譲渡を選択する傾向が多いです。一方、売手は譲渡益で銀行借入の一部を返済することもできます。複数事業を営む売手にとって、M&Aを行うことで「選択と集中」ができます。実質的には婚礼・ウエディング事業からの撤退という側面もありますが、経営改善のための売却が多いのが実態です。

ブライダル業界のビジネスモデルは基本的にシンプルで、式場を用意し、結婚情報誌などに広告を出稿して集客を行い、式場見学に訪れた顧客との打ち合わせを経て、結婚式当日の運営を行うという流れです。ただ、式場の内装費に莫大なコストがかかるため、初期投資が非常に大きいという特徴があります。

M&Aの成功を左右する重要なポイントが式場です。一般的に、顧客は新しく綺麗な結婚式場を選ぶ傾向が多いので、ブライダル業界は不動産が勝負のビジネスと言えるでしょう。婚礼組数が多い時は比較的スピーディーに投資コストを回収できますが、回収期間が長引くと業績が悪化し、施設のメンテナンス費用も捻出できないという事態に陥ってしまうため注意が必要です。

ブライダル業界のM&Aで、買手候補として挙げられるのが同業者です。買収の目的としては、収益の拡大・シェアの拡大が大半です。結婚式場だけを所有している企業が映像制作、お花、レンタルドレスといった隣接事業を取り込むことを目的にM&Aを行うことも考えられますが、数として多くありません。近年では、ブライダル業界の先行き不安から、ホテル事業に進出する企業も見られます。ブライダル事業とホテル事業は「不動産」が価値を持つという共通点はあるものの、オペレーションが全く異なるため、買収前に想像するようなシナジー効果が充分に得られていない印象があります。

M&Aを行う場合、売手が出てきてから買手を探すという流れが一般的ですが、婚礼・ウェディング業界の場合、明確な「買いニーズ」を持つ買手が複数あるため、買手先行でM&Aが行われることも最近の事例としては多くなりつつあります。エリア、内装・外観、周辺環境など、買手よってニーズは異なりますが、この地域にこのような結婚式場があれば買収を検討したいという具体的なニーズを持っています。売手が現れたらそのニーズに合致する買手に紹介できるので、双方のマッチングが早く、成約までのスケジュールが短いという特徴があります。


3. 結婚式場・ウェディング業界のM&A事例

婚礼・ウェディング業界のM&A事例

M&A・事業承継を検討している方へ

当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。


ここでは婚礼・ウェディング・結婚式業界の最近のM&A事例についていくつか紹介します。

①エスクリによるラヴィマーナ神戸のM&A(事業譲渡)

全国でブライダル事業を展開する株式会社エスクリ(東京都港区)は、2020年1月、株式会社ラヴィマーナ神戸(兵庫県神戸市)が運営する結婚式場「ラヴィマーナ神戸」と同施設の衣裳事業を2020年3月に事業譲受することを発表ました。両社のノウハウを融合し、同施設において効率的かつ質の高いサービスを提供し、マーケットシェアの拡大と更なる企業価値の向上を図るとしています。エスクリグループは、施設のスタイルにこだわらず、初期投資を抑えたM&Aにより、全国の利便性の高い場所にある施設の譲り受けを展開しています。

②くふうカンパニーによるフルスロットルズのM&A(株式譲渡)

積極的なM&Aにより結婚関連事業や不動産関連事業などを幅広く展開する株式会社くふうカンパニー(東京都港区)は、2019年6月、連結子会社である株式会社みんなのウェディングを通じて、ウェディングドレス販売や結婚式プロデュース事業を展開する株式会社フルスロットルズを株式譲渡により買収しました。同社は、2018年11月にも結婚式プロデュース事業を手がける株式会社アールキューブ(東京都渋谷区)を買収しており、結婚式のプランニングや挙式までをグループでトータルに提供できる体制を構築し、ウェブとリアルを合わせたサービスの一元化を目指しています。

③パートナーエージェントによるメイションのM&A(株式譲渡&吸収合併)

結婚相談事業を展開する株式会社パートナーエージェント(東京都品川区)は、2019年4月、連結子会社である株式会社ライジング(東京都新宿区)を通じて、格安婚サービス「スマ婚」を展開する株式会社メイション(東京都新宿区)を買収しました。株式取得後、株式会社ライジングを存続会社とする吸収合併を行い、株式会社メイションに商号変更しました。本件により、パートナーエージェント社は、婚活から成婚後までの一気通貫したサービスを提供することで顧客利益の最大化が図ると共に、市場拡大が見込めるナシ婚(結婚披露宴を行わず、役所に婚姻届を提出するだけで済ませるもの)において両社の知見やノウハウを融合することで新たな価値提供を図るとしています。

④クラウディアホールディングスによる内田写真のM&A(事業譲渡)

ブライダル事業を展開する株式会社クラウディアホールディングス(京都府京都市)は、2019年3月、内田写真株式会社(大阪府大阪市)の写真撮影業等を事業承継しました。両社の強みを活かし、相乗効果を発揮することで写真事業の更なるシェア拡大を図るとしています。同社はコンシューマー事業領域の中長期的な業績の拡大を図るため、リゾート挙式事業の注力地域の選択と集中を進める一方で、写真事業や美容事業を今後のシェア拡大を進めるべき事業領域に位置付け、積極的に投資する方針を掲げています。


4. 売却側(売手)・買収側(買手)双方のメリット

売却側(売手)・買収側(買手)双方のメリット

【売手のメリット】

先述のように、婚礼・ウェディング業界では、現在では後継者に事業承継を行うケースは多くありません。収益悪化が有利子負債の返済を困難にし、その結果式場を手放さざるを得えなくなり、売却を決断するケースが多いことも事実です。従って、売却することで非採算事業から撤退し、経営改善を図ることが最大のメリットと言えます。

また、買手に事業を引き継ぐことで、社会的重要性が高い婚礼パーティの実施引き継ぎ、従業員の雇用の維持、安定的な事業経営、規模の拡大による広告費の改善・効率化などもメリットとして挙げられます。

【買手のメリット】

一方、買手のメリットは、事業エリアの拡大と人手の確保です。新規エリアに出店するよりもM&Aを行った方が売上の予測が立てやすいですし、より安価に出店できれば投資回収期間も早くなります。また、調理スタッフなど採用が年々難しくなっている貴重な人材を確保できるというのも大きなメリットです。さらに上場企業の場合、買収によって売上高が増加し、株価の上昇も期待できます。


5. 売手が抑えておきたい成功ポイント・注意点

売手が抑えておきたい成功ポイント・注意点
最後に、M&Aを行う上で売手が押さえておきたい成功ポイントや注意点について説明します。

①できるだけ早めに相談する

経営者自身で考えているよりも財務諸表が痛んでいることが多くあります。売却の決心がついていない段階でも、早めにプロの<企業価値診断>をすることをお勧めします。

また、最初に相談をする目安として、結婚情報誌への広告掲載料の捻出が厳しくなってきた段階があります。広告掲載費用は非常に高額です。利益が出なければ広告費を捻出できなくなり、結果として組数も減ってきます。事業譲渡のタイミングで組数が減っていると買手が手を挙げにくくなるため、出来る限り早めの売却検討をおすすめします。オーナー様の中には、売却情報が漏れるのではないかと心配されM&Aのプロへの相談が遅くなる方も多いですが、情報は機密保持契約書でも守られているため、早めの相談が鍵になります。

②M&Aのプロに依頼する

式場の売却を検討する際に、M&Aのプロに依頼することも大切です。情報を漏らしたくないという想いから、買手経営者と個人的に売買する方もいますが、うまくまとまらないケースが大半です。M&Aを行う場合、買手との間で基本合意と最終合意の2回の契約を締結し、その間にデューディリジェンス(買収監査)も行います。個人間で売買すると、デューディリジェンスもほどほどに事業譲渡を行った結果、金銭面や条件面で後々大きなトラブルになってしまう場合も多くあります。

③エリアや施設の特徴を正しく把握する

買手が売手を見る一番のポイントはエリア・立地で、次いで業績(財務内容や組数)、そして自分達が持つ式場の嗜好・雰囲気に合っているかどうかです。

そのため、自社の施設が属するエリアの現在の特性を理解することは重要なポイントです。例えば、どれだけ見込み顧客がいるのか、どれだけ結婚式ニーズがあるエリアなのかを知ることも良いでしょう。「手塩にかけてきた結婚式場だからこそ、高く売りたい」「自分はこれだけ頑張ってきた」という気持ちはわかりますが、思い込みや過去の数値から現在の数値の意識変更を行い、公正な目でエリアの特性を理解することが大切です。

また、バンケット(パーティールーム)が複数ある施設の運営が得意な買手もいれば、バンケットが1つだけの施設の運営が得意な買手もいます。また、スタイリッシュな結婚式場を希望する買手もいれば、グリーンに囲まれた式場を希望する買手もいます。自社の施設がどのような特徴を持っているのかを改めて確認しておきましょう。

M&Aの際には、冷たく聞こえるかもしれませんが、施設や事業が金融商品として評価される側面があります。それにおいては市場価値の理解がとても重要です。

④自社施設をメンテナンスして綺麗に保つ

少しでも高く売るためには、常に施設のメンテナンスを行い、綺麗に保つことが大切です。例えば、グリーンは手入れされているか、タイルの割れや設備の破損はないかなど、愛情を持って手入れしている施設は活気があり、建物が少々古くても顧客が付きます。婚礼・ウェディング事業は不動産ありきのビジネスですので、こまめに施設のメンテナンスを行うことが大切です。普段の会場見学をするお客様も、ご売却の際にご見学される譲受企業側も同じような目線で施設の活気さや清潔さを感じています。普段からの手入れや意識がとても伝わる場面です。

⑤ホームページを見栄えよくしておく

ブライダルM&Aの場合には、施設の見栄えのみならず、ホームページの見栄えもよくしておくと買手が付きやすくなります。譲受企業側の初期の情報収集時に印象が良いことと、銀行の融資も受けやすくなる可能性も高まります。M&Aを検討する場合に、ホームページのリニューアルも行い、自社の施設や特徴がわかりやすく伝わるデザイン、構成に見直すのも手段の一つです。


話者紹介

株式会社INNOVATION LEADERS村田理恵氏
株式会社INNOVATION LEADERS
代表取締役
村田 理恵(むらた りえ)
大学卒業後、ブライダル会社(東証一部上場)に入りブライダル業界にて、ウエディングプランナー、新商品開発、販促マーケティング、新規事業開発、ウェブポータルサイト開発責任者など、企画から営業、開発、販促に従事する。株式会社INNOVATION LEADERSを起業後、リアルサンプリングマーケティングツール『プレゼント付録』の展開、冠婚葬祭に特化したM&A仲介サービスでは婚礼M&Aの成約実績が高く、他、IT、旅行、化粧品、建築M&A仲介業界を牽引する斬新なサービスを続々と展開している。他、親子間での事業承継サービスを中心にお手伝いする事業会社も展開している。

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