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フリーキャッシュフローとは? キャッシュフロー計算書の読み解き方を具体例から解説

2020/04/03
更新日:2024/05/13

はじめに

企業の価値を判断するための重要な資料に、フリーキャッシュフロー、キャッシュフロー計算書があります。現時点における会社の価値や将来性が分かる資料なだけに、M&Aの際には用いられることがあります。

とはいえ、中小企業にはキャッシュフロー計算書の作成義務はありません。そのため、中小企業オーナーの中には言葉だけは知っているけれど、詳しくは知らないという方もいるのではないでしょうか。

そこで、フリーキャッシュフローやキャッシュフロー計算書に詳しい、クローバー会計事務所の柴田亮さんに詳しく解説していただきました。


1.フリーキャッシュフローとはどのようなものか

フリーキャッシュフローとは、一言でいえば企業が自由に使えるお金のことを指します。

それでは、フリーキャッシュフローを知ると企業の何が見えてくるのでしょうか。ここでは、フリーキャッシュフローの重要性について詳しくお伝えします。

(1)フリーキャッシュフローの重要性

フリーキャッシュフローが多いということは、企業が自由に使えるお金が多いということです。自由に使えるお金があってはじめて、企業は借入金の返済や事業拡大のための設備投資を行うことができます。

そのため、フリーキャッシュフローがどれだけあるかは、企業の資金繰りにとっても大切な指標で、M&Aにおいても非常に重要な要素なのです。正常な経営をしている企業であれば、フリーキャッシュフローの範囲内で投資が行われます。フリーキャッシュフローが多ければ多いほど、営業状態は良好だと判断され、M&Aで会社を売却する際の企業価値は上がります。

(2)フリーキャッシュフローの求め方

フリーキャッシュフローの求め方には様々な方法がありますが、一般的には以下の計算式で求めます。

フリーキャッシュフロー=営業キャッシュフロー-投資キャッシュフロー

営業キャッシュフローとは、本業の営業活動から得た現金のことを指します。投資キャッシュフローは、設備投資など、企業が投資活動によって生じたキャッシュの増減を表します。営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを引いた差額が、フリーキャッシュフローとなるわけです。

ここで重要なのは、「フリーキャッシュフロー=営業利益」ではないということです。両者の違いは、カウントするタイミングの差にあります。

たとえば、製造業であれば製品を出荷した段階で売上を計上するので、その時点で営業利益は増えます。しかし、実際に製品の売上金を回収できるのは、出荷から数ヶ月先になることが一般的です。つまり、計算の上では営業利益が増えても、手元にあるキャッシュが増えているわけではないのです。フリーキャッシュフローには、未収の売上金は含まれません。M&Aの際には、両者の違いをよく認識する必要があります。

なお、キャッシュフローには、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフローのほかに、財務キャッシュフローがあります。この3つのキャッシュフローについての詳細は、後ほど詳しく解説します。

2.キャッシュフロー計算書とは

交渉成立イメージ
ここでは、キャッシュフロー計算書と損益計算書の違いを見ていきましょう。また、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローの概念も詳しく解説します。

(1)損益計算書との違い

損益計算書とは、企業が一定期間の間にどれだけ利益があって、どれくらいの費用を使って、どれだけのお金が残っているのかを表したものです。損益計算書は、未回収の売上金を含めた利益で計算したものです。これに対して、キャッシュフロー計算書は現金の収支を表しています。

未収の売上金などが影響して、損益計算書とキャッシュフロー計算書とでは数字に差が出ることが一般的ですが、会社の現状がより分かるのはキャッシュフロー計算書です。

損益計算書は、悪くいえば短期的にはごまかしようがありますが、キャッシュフロー計算書は実際の現金の流れが記録されたものであるため、ごまかしようがありません。

ただ、キャッシュフロー計算書は上場会社などの大企業には作成義務がありますが、中小企業にはありません。中小企業は、キャッシュフロー計算書と近い概念である資金繰り表を作成してお金の流れを管理しているのが一般的です。

(2)営業キャッシュフロー

営業キャッシュフローは、会社の本業の営業活動で得た現金の増減を指します。回収済みの売上金のほか、たとえば、製造業であれば原材料費にかかったお金も営業キャッシュフローとして計上します。また、従業員への給与も営業キャッシュフローに含まれます。

(3)投資キャッシュフロー

会社の新たな設備など有形の固定資産や特許権や借地権、営業権といった無形の固定資産への投資に対するキャッシュの流れを投資キャッシュフローといいます。

投資キャッシュフローがマイナスでも、将来的に営業キャッシュフローを増やすための重要な設備のための投資という場合があります。そのため、投資キャッシュフローが一時的にマイナスだとしても必ずしも悪いというわけではありません。反対に設備投資をしない会社の方が、後々売上を落としていくことが多いという事実もあります。

(4)財務キャッシュフロー

銀行などの金融機関からの借入や、返済にかかるお金の動きが財務キャッシュフローです。株式の発行による利益や配当金の支払いにかかった資金も、財務キャッシュフローに含まれます。財務キャッシュフローのマイナスは、金融機関からの借入金を返済できているということです。反対に、プラスになっている場合は、金融機関からの資金調達が順調だと見ることができます。

3.キャッシュフロー計算書の分析の具体例

成長戦略イメージ
ここでは、キャッシュフロー計算書の分析方法を具体例とともにお伝えします。

(1)フリーキャッシュフローがマイナスの場合

フリーキャッシュフローがプラスではないと、健全な経営とはいえません。長い目で見ればフリーキャッシュフローがプラスでないと、会社を維持することができません。そのため、フリーキャッシュフローがマイナスの会社には要注意です。

ただ、フリーキャッシュフローがマイナスだからといって注意すべきだと一概にいうことができないケースもあります。それは、会社が拡大していくタイミングでのマイナスです。会社が拡大していくときには設備投資にお金がかかり、売上が増えると同時に売掛金が増えます。お金を回収するために時間がかかるので、一時的にマイナスが大きくなるケースがあるのです。

反対に、事業が上手く行かずに会社が縮小するタイミングで、一時的にフリーキャッシュフローがプラスに転じるケースもあります。今まで売掛や在庫になっていたものがお金に変わるタイミングで、フリーキャッシュフローがプラスになるケースがあるのです。売上としては上がっていないけれど、キャッシュは入ってくるという状態です。

ですから、大切なのは数字だけを追うのでなく、マイナスの中身が何なのかを見ることです。たとえば、投資キャッシュフローのマイナスが大きくても、営業キャッシュフローにとってプラスに働くような投資ができていれば問題はありません。何に投資して、それが将来的に営業活動にどれほどの影響を与えるのかまで読み解く必要があるのです。

(2)投資キャッシュフローがプラスの場合

会社の設備などを売却した局面では、投資キャッシュフローがプラスになります。工場や設備など、固定資産が増えれば投資キャッシュフローはマイナスになり、固定資産が減れば投資キャッシュフローはプラスになります。

通常、投資キャッシュフローの値はマイナスになります。営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを引いたものがフリーキャッシュフローとなるため、マイナスの値が小さいほど健全な経営といえます。

しかし、事業を維持するためには必要な設備投資を行わなければなりません。さらに、将来的に営業キャッシュフローを増やすための投資であれば、積極的に行う必要があります。

投資キャッシュフローを見る際には、マイナスであることやプラスであること、数値の大きさだけに囚われないようにしましょう。なぜマイナスなのか、なぜプラスなのか、なぜこの数値なのかを個別具体的に分析する必要があるのです。

(3)投資キャッシュフローのマイナスが大きい場合

投資キャッシュフローのマイナスが大きい場合は、将来にわたって投資に見合った回収ができるのかというところがポイントになります。投資に見合う回収ができなければお金も足りなくなり、会社の価値もマイナスに評価されてしまいます。

私が見てきた例では、100万円の機械で製品を作ることができるのに、社長が1億円の機械を入れてしまったという会社がありました。これではいくら営業で利益を上げても、回収できません。

また、社運をかけるようなタイミングでは、一時的に金融機関から融資を受けて投資をしていくケースも考えられます。こういったケースでは投資キャッシュフローが大きくマイナスになりますが、将来的に投資分を回収できる可能性もあるわけです。

社運をかけるような局面ではない場合で、投資キャッシュフローが大きくマイナスになっている会社には要注意でしょう。たとえば、他店舗展開しているような企業の場合、フリーキャッシュフローの範囲内で新たな店舗を出店するのが健全な投資方法です。基本的には営業のための投資ですので、投資に見合うだけの回収ができるのかを個別に見ていく必要があるのです。

(4)財務キャッシュフローがマイナスの場合

財務キャッシュフローがマイナスだからといって、一概に健全な経営ができていないと判断することはできません。

財務キャッシュフローがプラスになるときは、成長局面にある企業が借入や増資を積極的に行っているときです。財務キャッシュフローがプラスということは、金融機関や市場から順調に資金調達できている証拠なので、金融機関や投資家から信頼を得ている企業といえるでしょう。

一方、財務キャッシュフローがマイナスになるのは、借入金を返済したり配当金を拠出したりしたときです。フリーキャッシュフローが潤沢で利益を還元する局面においては、財務キャッシュフローはマイナスになるはずです。

そのため、財務キャッシュフローがプラスだから、マイナスだからというだけで判断するのは間違っているのです。重要なのは、フリーキャッシュフローや営業キャッシュフロー、投資キャッシュフローとのバランス、さらに企業の成長局面における現在の立ち位置を複合的に見ていくことです。

財務キャッシュローがマイナスで注意が必要なのは、以下のようなケースです。

・フリーキャッシュフローが潤沢ではない
・営業キャッシュフローが継続してマイナス

フリーキャッシュフローが潤沢ではないということは、通常、追加の運転資金が必要になるはずです。ところが、この局面においても財務キャッシュフローがマイナスということは、金融機関から資金調達ができていないと見ることができます。つまり、金融機関が貸し渋りをしているというわけです。

また、営業キャッシュフローが継続してマイナスであるのに、財務キャッシュフローがマイナスである場合も注意が必要です。営業キャッシュフローが継続してマイナスであるということは、企業が成長局面に入って投資キャッシュフローが増えた場合、もしくは赤字体質である場合です。

このような場合にも、追加で企業から資金を調達する必要が生じます。にもかかわらず財務キャッシュフローがマイナスということは、資金調達がうまくできていないということを表しています。営業キャッシュフローのマイナスが軽微で一時的なものであれば、あまり心配をする必要はありません。しかし、営業キャッシュフローのマイナス数値が大きかったり、継続してマイナスだったりする会社には注意が必要です。

4.まとめ

企業が自由に使えるお金であるフリーキャッシュフローは、多ければ多いほど企業の評価が高くなり、企業の価値が上がります。どれだけのフリーキャッシュフローがその企業にあるのかという点は、売手側にとっても買手側にとってもM&Aの際に最も需要な指標のひとつです。ただ、フリーキャッシュフローは多ければ多いほど企業の評価が上がるので、個別具体的に詳しく読み解く必要はありません。

しかし、フリーキャッシュフローや営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローがまとめられたキャッシュフロー計算書を分析する際には、ある程度読み解くための知識や技術が必要になります。

単純に、営業キャッシュフローがマイナスだから、投資キャッシュフローがマイナスだからといって、健全な経営ができていないと判断することはできないのです。大切なのは、それぞれのキャッシュフローのバランスと、企業の成長局面における現在の立ち位置です。企業価値を測る際には、これらを複合的に判断するようにしましょう。

〈話者紹介〉

柴田亮さん

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クローバー会計事務所
公認会計士・税理士 柴田 亮(しばた りょう)

1973年、静岡県出身。
1997年に上智大学卒業後、地方銀行勤務を経て中堅監査法人に入社し、株式支援業務を経験。
2006年に新日本監査法人に入社し、上場企業の会計監査業務を経験。
2008年に公認会計士登録(日本公認会計士協会東京会 登録番号22420)。その後、財務系コンサルティング会社に入社し、中堅・中小企業の株価算定・事業再生・M&A業務を経験。
2011年には東京さくら監査法人のパートナーに就任(現任)し、クローバー会計事務所を開設(現任)。2012年、税理士登録(東京税理士会 登録番号120861)。

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