物流業界M&Aの現状や課題、成功のためのポイントや注意点を詳しく解説!
はじめに
ネット通販の増加に伴って、物流業界の市場規模は拡大の傾向にあります。働き方改革に伴うドライバーの労働環境整備などの課題も抱えています。
その中で、中小物流会社オーナーのリタイアや事業拡大などの目的でM&Aが進んでいます。
今回は、物流業界のM&Aに詳しいスパイラルグループM&Aコンサルティングの依田さんにお話を伺いました。
1.物流業界の動向
物流業界とひと言でいっても、さまざまなジャンルの企業が存在します。ここでは物流業界の定義と動向について解説しましょう。
(1)物流業界の定義
物流業界をシンプルに説明すると、運送業と倉庫業の2つに分類されます。運送にはトラックを使う陸運業以外にも鉄道や海運、あるいは航空便もありますが業者数は限られています。よって、一般的に物流業界といえば陸運業と倉庫業を総称します。
別の角度から見ると、物流業界には「B to B」、「B to C」、「C to C」があります。
「B to B」は企業から企業へ物資や製品を運ぶ業態です。石油や木材、コンクリートなどの原材料や電子部品、建設資材、食品など様々なものが対象です。
「B to C」は企業から個人への物流で、ネット通販やデパートあるいはホームセンターなどで買ったものを家庭に届けるなどの業態があります。「C to C」は個人から個人への宅配便です。
(2)物流業界の動向
物流業界の市場規模は、拡大の傾向にあります。理由としては、EC(インターネット・コマース)の拡大と、交通インフラの再整備などが挙げられます。
EC業界の拡大に伴ってネット通販利用者が増え、宅配する荷物も増えています。ただし単価は下がっており、俗にいう「貧乏ひまなし」のような状況です。
この業界の企業数は約75,000社ありますが、大手と呼ばれるものはその1%程度で、意外かもしれませんがほとんどが中小企業です。
そしてその中小企業には他業種の中小企業と同様に、オーナーの高齢化で後継者問題を抱えるところが増えており、M&Aを検討する企業も増えています。
2.物流業界M&Aのメリット
物流業界のM&Aを行うにあたって、当事者にはどのようなメリットがあるのでしょうか。売手側と買手側のそれぞれの視点から見てみましょう。
(1)売手側のメリット
M&Aにおける売手側のオーナーの年齢が若いのか、高齢者なのかによってメリットは異なります。
まず、オーナーが高齢者であり、自身のリタイアを伴う場合は、以下のような4つのメリットが考えられます。
● 後継者問題の解決
● 取引先と会社の関係が継続できる
● 従業員の雇用が守られる
● 借入の個人保証が外れることも含めて対価が得られる
借入の内訳は、土地やトラックの購入などの設備投資のためのものが多いようです。個人保証というものは、傾向としては減少してはいますが、現実にはまだまだあります。1億円を超える個人保証を抱えているオーナーはたくさんいらっしゃいます。
次に、比較的年齢層の若いオーナーが事業を続ける場合のメリットは、売却事業から手を引くか、その事業を社長として継続するかで変わります。売却事業から手を引く場合は、経営資源を他の事業に集中できるといえます。売却事業で社長を継続する場合は、他社と一緒になることで得意分野を相互に補完し、シナジー効果を期待できることでしょう。
(2)買手側のメリット
買手側の顕著なメリットは、営業に使用できる場所、携わる従業員、そして取引先(=売上)が時間をショートカットして得られるということに尽きます。
たとえば、ドライバーを採用するためには求人広告の費用がかかります。3ヶ月間求人広告を打って面接を行い、やっと人材に出会って一人雇うまでに100万円かかることもあります。売手側に10人のドライバーがいれば、それだけで1,000万円の価値があるのです。
また、買収による営業範囲の拡大に伴ってスケールメリットが生まれます。例えば、トラック購入などの設備投資において価格交渉ができます。あるいは、ドライバーが増えることで割り振りなどの融通が効きやすくなります。
3.物流業界M&Aの手法
M&A・事業承継を検討している方へ
当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。
一般的なM&Aの手法としては事業譲渡と呼ばれる売却側の営業権の一部もしくは全部の譲渡と、株式譲渡と呼ばれる会社丸ごとの譲渡があります。
物流業界のM&Aにおける手法は株式譲渡が多く、全体の8割程度です。事業譲渡のケースもありますが、物流業界は危険物取扱などの許認可がつきまといます。事業譲渡では許認可はそのまま移行できず、一から取り直しになってしまいます。
株式譲渡によって会社を丸ごと譲渡した場合は、会社に紐づいている許認可はそのまま引き継ぐことができます。ほかにも様々な事務上の手続きを含めて、株式譲渡のほうがはるかにシンプルに移行できるので、おのずと株式譲渡によるM&Aが採用されることになります。
4.物流業界M&Aの事例
最近の物流業界でのM&A事例を参考に2例紹介しておきましょう。
(1)石油運搬業と冷凍食品業者のM&A
まず、三重県の石油の運搬に特化していた運送会社の売却事例を紹介します。オーナーが高齢になり、社内の人材に後継者を決めて、すでに社長業はバトンタッチしていました。この石油運搬会社の未上場株を、愛知県の冷凍食品会社が買収しました。
石油運搬会社のオーナーとしては、このまま未上場の株を持っていても現金化ができないまま相続してしまうことになるため、売却を選択し、売却益を得ることができました。
買手側の冷凍食品会社は、石油運搬という長期にわたっての需要が見込める超安定事業を手に入れ、自社の冷凍食品の運搬も内製化でき、そのほかでも様々なスケールメリットを伴う事業拡大ができた好例といえるでしょう。
蛇足ですが、例えば食品業界が将来何かのダメージを受けた場合には、事業を多角化しているほうが事業悪化のリスクを回避できるので、とりわけ食品の真逆ともいえる石油業界を選んだのは賢明だったといえるでしょう。
(2)大手物流会社の拠点確保目的のM&A
ある飲料メーカーの子会社である物流会社は、採算が悪くて大赤字でした。そこでその飲料メーカーは子会社を切り離す形で、買手を探していました。そこに、ある大手物流会社がエリアの違う拠点を確保する目的で買収した事例です。
買手である大手物流会社からすると、その子会社は既に顧客・従業員もいて、場所もトラックもあるので、負債を引き継いでも余りあるメリットを感じて買収したわけです。これも好例といえるでしょう。
5.物流業界M&Aの成功のポイントとタイミング
物流業界のM&Aにおける成功のポイントやそのスキームを紹介します。
(1)物流業界M&A成功のポイント
物量業界がM&Aを考える際に、よい買手に出会うためには労務管理を整えておくことが大切です。労務管理が煩雑であれば買手がなかなかつきにくくなり、ついたとしても残業の未払いなどがあると、その分が売却価格から差し引かれることになります。
(2)物流業界M&A成功のタイミング
M&Aを成功させるためには、やはりオーナーが元気なうちがいいといえるでしょう。オーナーが高齢になり事業意欲がなくなると、労務管理をやろうとしても意欲的に取り組めなくなり、よい買手が見つかりにくくなります。
だからこそ、オーナーが元気で、かつ事業意欲があるうちにM&Aに取り組むのが望ましいのです。
これは、親族や従業員に事業承継する場合も同じです。ただし、その場合は個人保証がネックになります。中小企業の場合でも、借入金が1億を超える場合が多く、なかなかそれだけの負債を他人はもちろん、身内であれ引き継ぐのは困難です。
それならどこかの会社に買ってもらおうというのが自然な成り行きで、それも買手が見つからなければ廃業、最悪の場合倒産ということになります。
ですから、後継者問題を抱える会社はオーナーが元気なうちにM&Aを検討するのが賢明なのです。
6.まとめ
労務環境の整備という課題や後継者問題を抱える物流業界の中小企業にとって、現在の景況は悪くありません。この環境の下、オーナー自身が元気で事業意欲があるうちに、後継者の発掘と育成と並行しつつ、M&Aという選択肢の検討を始めるのがよりよい事業承継につながるのではないでしょうか。
話者紹介
M&Aコンサルティング
依田 真輔
1984年8月23日生まれ
慶應義塾大学商学部卒業後、株式会社キーエンスに入社し約10年間、日本国内及び中国上海にてセンサーのコンサルティング営業及びセールスマネージャーとして常にトップクラスの成績を残す(6半期連続ランキング10位以内の全社新記録を達成)。
その後、M&A業界における完全成功報酬制のリーディングカンパニー、インテグループに入社。
IT、SES、保育園、留学、物流、不動産、製造業、卸売業など数多くの業種で実績を残す。
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