後継者不足の林業業界における事業承継とは?今後の見通しも解説
はじめに
林業は日常生活に身近なものではなく、イメージがつきにくいところがあります。その現場では従事者の高齢化で稼業を誰かに承継することが進んでいます。その一方で、機械化とハイテクを導入したスマート林業の存在感と将来性が注目され始めています。今回は森林に関する法律関係に精通し、林業の事業承継事情に詳しい弁護士の佐藤さんにお話を伺いました。
1.林業の現状と動向
生活の中で木には触れるものの、一般の方には縁遠い林業についての現状と動向を整理してみましょう。
(1)拡大造林は国家施策だった
第二次世界大戦後の日本において、杉を中心とした拡大造林が国家政策として行われました。もともと燃料として木を切って使っていたので、いわば日本全体にはげ山が多かったのです。そこに戦災で膨大な数の家屋が消失したので、木を切って家をどんどん作りました。
その結果、建材が必要となり、積極的に造林が行われたのです。日本は国土の7割程度が山林や森林なので、山主は、我も我もと杉など木材になるものを植えました。
その後木材の輸入が本格化します。外材の方が太くて丈夫で安いので、輸入が増加し、現状では木材自給率は3割となっています。
(2)進む林業の高齢化と後継者不足
林業全体で言えるのは従事者の高齢化や、村の青年たちの都市部への流出などによって林業人口も大幅に減少しているということです。本来後継者になるべき若者が村を後にするので、後継者不足も他業種と比較しても顕著になっています。
2.林業の業態による違いとは
林業といっても業態によって違いがあります。出発点は山の持ち主として森林を育てる山主や森林組合で、それを伐採する人が伐採事業者です。
伐採する人と運搬する人は同じであることが多く、そこから市場に出て製材業にわたります。その建材を建築業者が住宅を建設し、ようやく消費者と出会うのです。この一連の流れの中で、製材業よりも上流を林業とくくることができると思います。
林業に携わる者のうち、山主の事業承継(山林所有権の承継)については、所有権の集約化が課題となっています。過去には、生産森林組合による所有権の集約化が図られてきましたが、担い手不足もありこれも十分ではありません。今後は、機械化やハイテクを導入したスマート林業に移っていかないと、生き残っていくことが難しいといえますが、そのためにも、ある程度の規模の山林を集約する必要性が高いといえるでしょう。
山主は森林組合に、伐採業者は大手企業にと集約化が進んでいます。もともと古くから山を管理している人が山を手放すことが増えているので、資本の集約が進んでいるのです。
3.林業特有の問題
林業事業者(特に伐採事業者)が事業を営む上で問題となるのは、自分の土地を持つか持たないかです。管理している山はあってもそれを自分が所有しているかどうかということが問題になります。
また、山林特有の事情で、多くの場合地積測量がなされていないので境界がわからず、相続登記もなされていません。所有者不明の土地も問題となっています。
最近では、国産材の価格が相対的に値下がりしたことにより、建材メーカーが日本の山林に注目して、独自に林業部門持つ会社も現れています。この取り組みにより、市場を通さずに自社が所有する山で採れた杉を使用してコストを下げているようです。その際にも障害になるのは、所有者不明の土地です。
山を買う場合は、原則的には相続人を全て探して一人一人と折衝をする必要があります。地積測量ができていない場合は、境界に関する手続きもしなければならないのです。
このような現場の要請を受け、昨今、物権法の改正に関し、相続登記の義務化など、このあたりの事情も踏まえた議論がなされています。国としても、所有者不明土地問題の解決に向かっているのは間違いありません。
4.林業の将来性を担うアイディアと課題
気鋭のアイディア企業が打ち出し始めているのは、例えば自分が家を建てたいときに大黒柱を家族で伐採するとか、父親が切った木で机を作るなどのサービスです。こういったアイディアは消費者に受け入れられています。
製材業にも、効率よく木を伐採する工夫が見られます。先に建てる建物をバーチャルで顧客とやりとりして、それによって注文を出して、必要な分の木を切るのです。これまでは木を切ったものが市場に出て、それを必要な人が買っていました。需要と供給のマッチングを、効率よく最適化する動きといえるでしょう。
これらの素晴らしい動きを円滑に進めようとすると、相続登記や境界、所有者不明などの問題に帰着します。これが解決できれば林業はさらに躍進すると思います。
5.林業に関わる2つの組合とは
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林業の世界では「森林組合」と「生産森林組合」という2種類の組合が存在します。名称は似ていますが性質が違うもので混同しやすいので、それぞれを説明します。
森林組合が、山の保全や伐採を山主が共同して行うための組合であるのに対し、生産森林組合は山主側の所有権を管理しつつ、自ら森林の経営を行う組合です。雑駁に言えば、森林組合は、組合員である山主の山の管理や間伐を請け負う団体であり、生産森林組合は、自らが所有等する森林を自らの手で経営する団体ということになります。
しかし、この2つの組合についても制度疲労が指摘されていて、収益は出ない生産森林組合が地域に乱立しています。これらの組織の変更や統合をする動きも出ているのです。Aという生産森林組合がBという生産森林組合に所有権を売ったり、最近では生産森林組合も株式会社化したり、認可地縁団体に変化したりもしているのです。
生産森林組合をはじめ、山を集約化しようとする者に山林の所有権を譲るときは、単純に土地と立木を売却することになります。この際、価格は木材の質や山の北側南側でも違います。他にも搬出路が使いやすいかどうかも価格に響くのです。
6.林業におけるM&Aの現状と今後
林業は他業種と比べて、親族内承継は少ないといえるでしょう。親族外である従業員承継か、廃業型のM&Aがしばしば行われます。よく知った同業他社や建材メーカーに山を任せて自分は廃業し、従業員と契約関係を引き継いでもらうようなパターンです。
木を伐採するのは山主にとっては一大プロジェクトです。数十年かけて育てた木々に、期待外れの価格がつくことに抵抗があります。そうなると、特に山主が山林を譲ることに関する折衝は、顔が見える関係が必要です。知らない人よりも知っている人に切ってもらいたい、となるのです。
現状では、山の地価は、場所にもよりますがゼロに近いくらい安いところが多い状態です。充分な価値がなく、伐採費用の方が高いこともあるほどです。今後、所有者不明土地の問題や境界の問題が解決していけば、機械化されてスマート林業を営む成熟した企業によって、通常のM&Aが行われていくことも想像できます。
林業事業者が事業承継を検討するのなら、森林組合や自治体の担当者などに相談をするのが基本です。伐採業者の事業承継においては、地理的に近い業者に声をかけて引き継ぎ先を探すのが現実的な選択肢となるものと思います。
これまでは林業における事業承継は業者間の人間関係に基づいて行われていましたが、今後は経営状態が良好な業者や企業が残っていきます。そうなれば通常のM&Aにおける価値判断がなされるようになり、企業価値も将来的には山の木の質や量で決まってくることになります。
すでに山の木の本数や高さなどがデータ化されて、わかるようになってきています。それらをベースに会社の価値が算定されることが起こってくるでしょう。
7.まとめ
今後さらに山林山間部の村々の人口が減っていって、相続が頻繁に起きるときがきます。相続によって、所有者が分からないことは、円滑な林業の実施において極めて大きな弊害となりえます。
最近では信託銀行や一般社団法人に山を預ける(集約化する)方法を実施している地域などもあり、このような動きを一刻も早く全国に波及させ、所有権を集約することが林業の活性化のためには必要でしょう。
林業は将来的にビジネスチャンスが広がりつつある業界です。林業事業者は、地域の繋がりも重視しつつ、山の木々を活かせる方向に向かうアイディアを持った経営者への事業承継やM&Aを検討してみるのがよいのではないでしょうか。
話者紹介
弁護士 佐藤俊(さとうしゅん)
2004年慶應義塾大学法学部卒業、2005年弁護士登録。
金沢大学地域連携プロジェクト「能登里山里海マイスター育成プログラム」を修了し、森林所有権制度研究会会員として、森林に関する法律関係に精通している。
主な取扱分野は、事業再生・倒産法関連(会社更生、民事再生、私的整理)、事業承継、企業不祥事・危機管理・コンプライアンス(金融商品取引法関連案件(インサイダー案件等)製品・建築不正案件、循環取引案件等)等。
主な著作に、「ケーススタディで学ぶ債権法改正」(商事法務/2018年)等。
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