株式相続に備える!知っておくべき遺産相続の流れを解説
はじめに
いろいろな資金運用の手段として、投資として個人で株式を持つ人が多くなりました。亡くなったときに発生する相続財産には、会社の株式の相続も含まれます。また、中小企業のオーナーの相続財産は、自社株がそのほとんどを占める場合もあります。また、付き合いで他社の株式を持っていることもあります。株式の相続は、法律的にいろいろと煩雑なことも多いため、面倒だという声も多いのです。
ほとんどの場合、相続は突然訪れるものなので、前もって準備ができていなかったという人も多いでしょう。株式の相続で知っておくべきこととは何でしょうか。今回は、株式の相続手続きに詳しい大野公認会計士事務所の大野貴史さんにお話を伺いました。
1.株式を含む相続の流れ
相続する資産の中に株式があった場合、基本的に株式を相続することになります。株式を含む相続に関しての一般的な流れを詳しく見ていきましょう。
(1)遺言書の有無を確認
相続が発生したとき、まずやるべきことは遺言書の有無を確認することです。なかには、遺言書の有無がわからないケースや、探しても見つからない、あるいは見つかった遺言書が改ざんされているケースもあります。
一般的には、遺言書は、故人の顧問弁護士が作成し、保管していることがあります。遺言書にはいくつか種類があり、開封にも厳しいルールがあります。自筆証書遺言や秘密証書遺言は、所定の手続きに従って開封しなければ、無効になることもあるので注意が必要です。
現実には遺言書を作る方が少なく、相続人による財産分割協議で決めることが多いようです。ここからは参考として、3種類の遺言書とその違いを確認しておきましょう。
● 自筆証書遺言
映画やドラマに出てくるような、故人が生前に自筆で書いたものです。しかし、定められたルールにのっとり作成していない遺言書は無効となります。知識がない人が作成すると、ミスが生じる可能性が高いですので、弁護士や司法書士などの専門家にチェックしてもらったほうがいいでしょう。
また、開封時のルールも厳しく、裁判所での検認の手続きを経ずに開封してしまうと無効になります。改ざんもされやすいため、現在ではあまり使われません。なお、弁護士が代行し作成した遺言書は、弁護士が保管するケースが多いです。
● 公正証書遺言
最もポピュラーで、確実に故人の遺志を反映できる方法です。原本は公証役場に保管されているので改ざんされる心配がありません。また、専門家(公証人)立会いのもとで作成されるためミスもなく、内容通りに執行されます。なお、公正証書遺言は検認が不要ですので、開封しても無効とはなりません。
● 秘密証書遺言
故人が生前に遺言の内容を誰にも知られたくないときに使われるのが、秘密証書遺言です。公証人は、その遺言書の「存在のみ」を証明し、遺言書自体は故人が自ら作成し保管をしています。実際はほとんど利用されていないやり方です。
秘密証書遺言は、そもそも発見されず、執行されない場合もあります。また、発見されとしても、その内容において秘密証書遺言の一定の要件を満たしていない場合は無効となってしまいます。裁判所の検認をせずに開封した場合も無効となるので注意が必要です。
(2)相続人の調査
遺産相続にあたっては、故人の戸籍謄本をすべて取り寄せることが必要になります。出生の事実が記載されているものまで遡って取り寄せます。片親が違う兄弟姉妹がいないかなどを徹底的に調べるためです。
実際に今まで存在を知らなかった兄弟がいることが発覚するケースもあります。また、人によっては本籍地を変更しているケースもあるでしょう。
特に本籍地を変更していなくても、最低でも4通ほど取り寄せるケースが多いです。戸籍は法改正により様式を改め、作り直す「戸籍の改製」が行われることがあるからです。
昭和23年に施行された戸籍法の改正により行われた「戸籍の改製」では、戸籍の基本単位が家から夫婦に変更され、華族、士族、平民、新平民などの身分事項欄が廃止されています。平成6年の「戸籍の改製」では、戸籍法の一部改正により、戸籍の全部または一部がコンピュータ化されました。
戸籍が改製されると、改製前の戸籍を閉じて新しい戸籍が作られ、改製前の戸籍と新しい戸籍に改製日が記載されます。この改製前と後の日付が連続しているか、改製日が一致しているかを確認する必要があります。従って、戦後生まれで結婚をしたことがあれば、最低4通の被相続人の戸籍謄本を取り寄せる必要があるのです。
戸籍謄本の取り寄せと相続人の洗い出しは、司法書士などに依頼することもできます。
(3)株式の調査
故人が所有していた株式に関しては、上場株式か非上場株式かで対応が変わります。
●上場会社の株式
証券会社から株式取引報告書などの株式に関する書類が故人あてに届いているはずなので、その書類をキーにして調べます。端株については、上場会社から故人宛に株式に関する書類(配当通知書など)が届いているはずなので、その書類をキーにして調べます。信託銀行から届いている場合もあります。
また、証券保管振替機構(通称:保振)に問い合わせをすれば、すべての株式が判明するので便利です。
●非上場会社の株式
非上場株式は、株券が発行されているのであれば、社内の金庫や貸金庫等にあるかどうかを調べます。株券が発行されていない場合は、故人の通帳等で配当記録がないかを確認します。会社から毎期の決算書が届いていれば、そこから確認することが可能です。株券もなく、配当記録や決算書もない場合は、思い当たる会社に直接聞きましょう。
●従業員持株会の持分や新株予約権
会社オーナー以外「持株会」に参加していた場合は、故人の書類(会社からの通知など)から調べます。持株会であれば、通知が来ているはずです。ただし、持株会の株式は、「死亡した場合、持株会が買い取る」という規定を定めているケースがほとんどで、持分を買い取ってもらい、その代金を受け取ることになります。
新株予約権は、権利者が死亡した場合には権利がなくなるという条項が定められている場合が多いです。
相続人が株主になるためには、相続人が発行会社に名義変更を依頼して、名義変更をしなければなりません。ただし、相続人が当然に株式を承継できるのではなく、場合によっては会社の定款で、「相続人に株式を相続するためには取締役会の承認を要する」と定められているケースもあります。
この場合、会社は相続人が株主となることを拒否することができ、その代わりに相続人から自社株を買い取るということになります。
これは相続により株式が分散してしまうと、小さい会社でどんどん株主が増えてしまい混乱してしまうので、株主から相続人を廃除するためのルールです。これがあるので、相続人は必ずしも株主にはなれるわけではないのです。親族経営の会社であっても、縁せきで経営しているなど派閥があるので、廃除したい一族を追い出すことにも利用されます。
(4)相続放棄をするか判断
相続放棄とは「正の遺産」か「負の遺産」かに関わらず、法定相続人が遺産の相続そのものを放棄する行為です。相続放棄には期限があります。相続の開始を知った時から3ヶ月以内に相続放棄の手続きを終えねばなりません。期限を過ぎると放棄できなくなります。
相続放棄するかどうかの一般的な判断基準は、多額の負債があるか、誰かの連帯保証人になっていないかなど、相続することによるデメリットの大きさです。株式だけでなく他の財産や負債も確認して、相続するのか放棄するのかを判断します。
その他によくある相続放棄の例としては、相続人たちの同意のもと、特定の相続人に相続を集中させたい場合です。
相続放棄をする場合は、相続放棄の申述書を家庭裁判所に提出しなければなりません。家庭裁判所から受理通知が届いたら相続放棄の手続きは完了です。
2.相続分割協議とは?
相続の割合の決め方としては相続人による相続分割協議で決めるのが原則です。このとき目安となるのが民法で定められている法定相続分の割合です。例えば、配偶者と子供がいる場合であれば、配偶者が1/2、子供は残りの1/2を人数で均等割りとなります。
遺産分割は法定相続割合にこだわらずに決定してもいいのですが、争いを避けるためには法定相続割合と遺留分を考慮して行うのがいいでしょう。遺留分とは、法定相続人に認められている最低限の取得分として認められている権利で、法定相続割合の半分です。遺留分を侵害する遺贈となる遺言書があった場合には、遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求をすることができます。
遺産分割がなされるまで、株式は準共有状態になります。株式の権利(議決権)を行使するときは、代表者を決めて会社に通知する必要があります。
3.相続税の計算
相続税がかかる場合の基礎控除の計算方法は以下のとおりです。
3,000万円+(600万円✖️相続人の数)
(※ 相続放棄した人もこの計算に含めます)
相続税は、相続した財産を財産評価基本通達に従って時価評価した額から、負債、葬式費用を控除して財産課税額を算出し、基礎控除を差し引いた金額に対して適用税率をかけて計算します。
(1)株式の評価方法
上場株式の評価は相続が発生した前3ヶ月の中から最も低い額となりますが、非上場株式については、国税庁の「相続税財産評価に関する基本通達」に定める算定方式に従って株式を評価します。基本的には以下の3種類の評価方式があります。
● 類似業種比準方式
● 純資産価額方式
● 配当還元方式
類似業種比準方式でいくと、利益が出て切る会社や過去の利益の累積が多い会社は株の評価額が高くなりがちです。その場合純資産価額方式で評価した方が、税務上は負担が軽くなります。
一方、不動産や証券などの含み益をたくさん持っている会社は、純資産価額方式だと株の評価額が高くなってしまいます。この場合は類似業種比準方式で評価した方が、有利になるのです。
これらの評価方法は会社の規模や相続任の持株割合に応じてケースバイケースでどの方式になるかが決まります。もしくはその評価方法の中での折衷により計算されるケースもあります。
(2)相続税の申告
相続税の申告は、相続の開始を知った日(通常は、亡くなった日)の翌日から10ヶ月以内に税務署にしなくてはいけません。
(3)相続した株式の売却方法
上場株式は、名義変更後に株式市場で売却できます。
非上場株式は、会社に買ってもらうか、会社から買手を紹介してもらい売却します。持株会や役員に売却する場合もあります。
(4)譲渡価格の計算方法
相続した株式を売却し、譲渡益が発生した場合は、確定申告が必要です。取得費は、故人が株式を取得したときの取得費を引き継げます。
例えば、故人が一株100円で10,000株を合計100万円で購入していたとすると、相続後も取得費は100万円となります。それを200万円で売却すると、売却額200万円-取得費100万円となり、差額の100万円に所得税がかかるのです。
上場株でも非上場でもこの計算は同じです。
非上場の株式を会社に売却した場合は、会社からお金をもらうことになるため、会社から配当をうけたものとみなすというみなし配当として取り扱われます。みなし配当は、配当所得として総合所得となるため、金額が多ければ多いほど高い税金となります。しかし、相続開始の翌日から、3年10ヶ月以内に譲渡すると、みなし配当が停止される特例がありますので、相続株式を会社に売却することもあります。
4.相続税の取得費加算
M&A・事業承継を検討している方へ
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相続財産については、相続財産を譲渡した場合の譲渡所得の計算上、かかった相続税を取得費に加算できるという「取得費加算の特例」というものがあります。相続税と所得税の両方が課せられると負担が重いので、相続財産の譲渡益にかかる税額を軽減することができる制度です。
詳しくいうと相続により取得した資産を一定期間内に譲渡した際に、相続税額のうち一定の金額を譲渡資産の取得費に加算することができる特例です。
たとえば、株式の相続に対して、相続税が500万円かかったとしましょう。その株式を一定期間内に譲渡した場合、その株式の譲渡所得を計算する際に、相続税の500万円を取得費に計上できるのです。
取得費とはその株式を入手するために要した費用で、通常は株式の購入金額や手数料のことです。相続税を取得費に計上できれば、譲渡所得が少なくなり、支払うべき所得税が減りますので、税金を負担が軽くなるということになります。
これも相続の開始を知った日(通常は亡くなった日)の翌日から相続申告期限以後3年を経過する日までの期限があります。早めに株式を処分したほうが税金の負担が少なくなるということです。
5.事業承継税制(非上場株式を相続又は贈与した場合の相続税・贈与税の納税猶予)
事業承継税制とは、非上場株式を相続又は贈与した場合の相続税・贈与税の納税猶予制度であり、中小企業のオーナーとその後継者のための制度です。非上場株式を相続又は贈与した場合に、相続税や贈与税の納税を猶予するというものです。団塊の世代を中心とする中小企業の経営者が事業承継の時期に差し掛かり、税負担の重さから承継がスムーズにいかない状況が増え、解決策として設けられた制度です。
事業承継税制は、非常に制約が多く、適用されること自体が現実的には困難な部分があり、利用率が低い税制でした。そこで、要件を大幅緩和し、特例事業承継税制が導入されています。元々あった事業承継税制の時限立法による特例措置です。
10年間の措置として特例が設けられました。要件の大幅な緩和に伴い、利用する会社が10倍に増えました。
この特例を利用するためには、いくつかの要件があります。大前提として、適用を希望する事業者は、令和5年3月31日までに「特例承継計画」を都道府県に提出し、なおかつ令和9年12月31日までに事業承継を完結する必要があります。
また、贈与税の納税猶予については、株式の生前贈与を受ける時点で、譲り受ける人自身がその事業会社の代表取締役に就任している必要があるといった要件を満たす必要があります。
この制度が適用できれば、株式の贈与又は相続を受けても、贈与税又は相続税の納税が猶予されるので、税務上の資金を用意せずにスムーズに事業承継ができます。また、適用のためにはさらに細かい要件を満たす必要がありますが、利用する価値がある特例です。
6.まとめ
相続が発生したときの株式の相続にフォーカスして解説しました。相続に関する制度や税制は難しいので、税理士以外の方で、すべてを覚えている人などはそれほど多くはないでしょう。しかし、実際の手続きにおいては「知りませんでした」では通りません。
期限の定めや税務上の有利不利があるので、基本的な流れと代表的な項目だけでも認識しておき、少しずつ丁寧に情報を確認しながら進めるのが賢明でしょう。
話者紹介
大野公認会計士事務所
代表
大野 貴史(おおの たかし)
監査法人を経て、税理士法人や証券会社等で、会計・税務業務に従事。大野公認会計士事務所開業。M&Aアドバイザリー業務や税務・財務DD、企業評価業務を中心に、連結納税・組織再編税制、富裕層に対するPB業務、相続・事業承継のアドバイスも行っている。
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