廃業より事業承継を選択すべき?メリットとデメリットを専門家が解説
はじめに
経営から身を引く際に、廃業と事業承継のどちらを選択すべきなのか迷う経営者は少なくないのではないでしょうか。後継者とともに事業承継への準備が進んでいる場合は別ですが、後継者も見つかっておらず、さらに企業の経営状態が芳しくない場合は、廃業をひとつの選択肢として考える経営者もいることでしょう。
そこで今回は、税理士法人アイユーコンサルティングに在籍し、相続・承継のスペシャリストとして幅広く活躍している、税理士の七島悠介さんに詳しくお話を伺いました。
1.そもそも廃業とは
廃業とは、経営者が後継者不在や健康問題を理由に、自ら計画的に事業を清算することをいいます。廃業と間違えやすいものに倒産がありますが、倒産は資金が底をついて会社の借金を法的に清算することをいいます。やむを得ず会社をたたむ倒産とは異なり、廃業はあらかじめ計画を立てて会社をたたむことを意味します。
廃業を選ばざるを得ない主な理由は、次のとおりです。
・後継者不在
・事業承継のための資金不足
・経営者の健康問題
2017年版の中小企業白書によれば、休廃業または解散時における中小企業の経営者の平均年齢は68.4歳となっており、2025年には70歳を超えると予想されています。
経営が忙しく事業承継を後回しにしてきた経営者が、いざ後継者を見つけようとしてもなかなか見つからず廃業を選択せざるを得ないのが現状です。
従来のような親族内承継も、今はあえて避ける経営者も多いようです。価値観の変化や考え方の多様性から、子どもには自分のような辛い思いをさせず、自由に生きて欲しいと考える経営者は少なくありません。
子どもがすでに別の会社で働いていて生活が安定している場合、「継がせる不幸」を背負わせたくないと考えるのは、親として当たり前の心情といえるのではないでしょうか。
2.事業承継とは
(1)事業承継の定義
「事業承継」とは、字句どおりの「事業を承継する」、すなわち「会社の経営を現在の経営者から別の人に引き継ぐこと」を意味するビジネス用語です。
近年の少子高齢化の影響により、事業を承継する適任者がなかなか見つからない中小企業が増えてきています。
(2)事業承継の種類
事業承継には、大別して「親族への承継」、「従業員への承継」、「第三者への承継(M&A)」の3種類があります。
近年は、親族や従業員への承継が減少気味となっており、M&Aによる第三者企業への承継が増えてきているというのが現状です。
(3)親族外承継の問題点
親族への承継ができない場合には、従業員に継がせる親族外承継も選択肢のひとつです。しかし、そこには株式購入の問題が生じます。また、経営者と従業員とでは責任の重さが大きく異なります。
仮に株式購入の問題がクリアできたとしても、会社や従業員の将来のためにも、財務状況を把握したうえで引き継がせることが不可欠でしょう。
3.事業承継のメリットとは
事業承継の大きなメリットは、社会的貢献の提供と雇用の創出を維持できる点です。企業は、何らかの商品やサービスを提供することにより利益を生み出します。商品やサービスを提供して人々の生活を豊かにすることで、大きな社会的貢献を果たしているといえるでしょう。
また、企業は雇用の場を創出します。従業員は企業で働くことで報酬を得て、家族を養うことができるのです。雇用の場を創出することも、社会的貢献のひとつといえるかもしれません。事業承継を行うことで企業が存続すれば、このような社会的貢献を提供し続けられるのです。
また、経営者の個人的な立場から見ると、事業承継後に相談役となって働き続けることで相談役報酬を得ることができるのもメリットのひとつです。M&Aによる事業承継であれば、純資産の売却益だけでなく、純利益の3~5年分といわれる「営業権の売却益」を得ることが可能です。廃業ではなく事業承継を選ぶことで、経営者は経済的なメリットが得られるわけです。
4.事業承継のデメリットとは
事業承継のデメリットは、事業承継後も数年は経営者が経営の場から離れられないことです。通常であれば、事業承継を行って2〜3年は並走して後継者に事業の引き継ぎを行います。経営者が若くて、体力気力ともに十分であればよいのですが、老齢であったり、健康問題を抱えていたりする場合、先行きに不安が残ることは否めません。
また、前述したように、M&Aでの事業承継であれば買手が十分な資力を有しているケースも多いため、株式購入も問題なく行うことができますが、親族内承継や従業員への承継であれば株式購入資金の問題が生じます。そして、親族内承継は相続問題や税金問題も絡んで、経営以外の問題も起こりやすいという現実があります。
5.廃業のメリットとは
廃業のメリットとして最も大きいのは、経営状態によるものの、現時点での資産を保持できるという点です。
廃業は、会社が自主的に事業を終わらせることなので倒産とは異なります。
従業員や取引先には早めに通達し、廃業までの課程を整然と手際よく進行させることで、関係者の不安を解消することができます。
6.廃業のデメリットとは
事業承継ではなく廃業を選んだ場合は、従業員の再就職先を見つける必要があります。従業員が路頭に迷うことがないように、可能な限り手を尽くさなければなりません。
また、取引先にも迷惑をかけることになるかもしれません。会社が取引先にとってメインの顧客であれば、取引先まで共倒れする可能性もあります。地方の中小企業の廃業は、その地域の経済にも少なからず影響を及ぼすのです。
廃業を選んだ場合、借入金の返済が終わればいいのですが、計画段階で算出した清算価値を得ることができなければ借金が残ります。事業をたたんだ後の借金をどうやって返済するかは、切実な問題となります。
7.改正された事業承継税制とは
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中小企業の事業承継をする際の最大のネックでもあった課税負担の問題を緩和するために、2018年に税制の大幅な改正が行われ、よりスムーズな事業承継が実現可能となりました。
これまでも「経営承継円滑化法」の認定を条件として、後継者への贈与税・相続税が猶予または免除されるという「事業承継税制」という制度がありました。
税制改正によって、事業承継税制とは別に、2027年12月31日までの期限限定で、課税の特例措置が適用されます。
「事業承継税制(一般措置)」は、後継者が非上場会社の株式等(法人の場合)・事業用資産(個人事業者の場合)を先代経営者等から贈与・相続により取得した際、経営承継円滑化法による都道府県知事の認定を受けると、贈与税・相続税の納税が猶予又は免除される制度です。
同制度の適用条件は次のとおりです。
①2018年(平成30年)4月1日から2023年(平成35年)3月31日までに都道府県庁に「特例承継計画」を提出し、確認を受けていること。
②2018年(平成30年)1月1日から2027年(平成39年)12月31日までに、贈与・相続(遺贈を含む)により自社の株式等を取得すること。
ただし、2017年(平成29年)12月31日以前に贈与・相続等により株式を取得した場合、特例制度の認定を受けることや、通常の認定から特例の認定への切り替えは不可となっています。
また、一般措置の認定を受けた場合でも、先代経営者以外の株主からの株式の贈与・相続については、認定後5年間の有効期間内に申告期限が到来するものに限り、追加で認定を受けることが可能です。
※詳細については、次の「中小企業庁」のウェブサイトを参照してください。
引用元:事業承継税制(贈与税・相続税の納税猶予及び免税制度について)
8.まとめ
経営者にとって、廃業と事業承継のどちらを選択すべきか難しい問題ですが、経営には寿命がつきものだということを忘れずに、早めに準備に取りかかることが大切です。
現在は、M&Aによる事業承継も活発に行われています。M&Aによる事業承継では、想像もしていなかった異業界からのオファーを受ける事例もあります。
事業承継によって会社を存続させる道を検討してみてはいかがでしょうか。
話者紹介
税理士法人アイユーコンサルティング
社員税理士 営業統括 七島悠介
2010年、国内大手税理士法人に入社。上場会社の税務申告、相続税申告、組織再編コンサルティング、富裕層向けコンサルティングなどの多分野の業務を経験する。
2013年、税理士法人アイユーコンサルティングの前身である岩永悠税理士事務所の創業メンバーとして参画し、新規顧客開拓、営業拠点開拓など現組織の土台作りに携わる。
その後、税理士法人アイユーコンサルティング設立に伴い、社員税理士に就任。
現在、アイユーコンサルティンググループの営業統括として、1人でも多くの方々の資産承継、事業承継問題を解決するために、相続・承継のスペシャリストとして活躍中。
またその傍ら、全国で税理士・金融機関・保険会社・不動産会社向けのセミナー・勉強会の講師を多数務め、アイユーコンサルティンググループの周知に邁進している。
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