マーケティングが重要な健康食品/サプリ業界 M&Aの方法や事例 注意点を詳しく解説!
はじめに
1つの商品当たりの顧客寿命が7ヶ月とある程度リピートが見込まれるのが健康食品/サプリ業界です。健康食品/サプリ業界は、原価率がそれほど高くないけれど、広告などに力を入れることで瞬時に大きな売上が得られる業界でもあります。
健康食品/サプリ業界の場合、40代の経営者が多く、M&Aの手法や売手の目的もほかの業界とは若干異なる点も見受けられます。今回は健康食品/サプリ業界のM&Aの事情について、柳澤国際税務会計事務所の柳澤賢仁さんにお話を伺いました。
1.健康食品/サプリ業界の概況
青汁のようなロングヒット商品から、薄毛、瘦身、ダイエットといったコンプレックス解消系、ビタミンやミネラルといった単純な栄養補助商品まで幅広く扱っているのが健康食品/サプリ業界です。
(1)地方に多い健康食品/サプリ業界の会社
健康食品/サプリ業界の会社は九州に多い印象です。地方で事業に携わっているのが顧客に良い印象を与えているのかもしれません。青汁の場合、地方豪族企業で商品がヒットしたというケースが非常に多いです。その一方で、健康食品をメインで行う上場企業はあまり思い浮かびません。
(2)マーケティングや製品の良さが重要
たとえば青汁の場合、顧客寿命は7ヶ月だといわれています。ある程度、顧客のリピートが見込まれる商売ともいえます。そのため、離脱する顧客よりも新規を増やして純増していくというイメージがあります。
また、健康食品/サプリ業界ではヒット商品を作る必要があります。たとえば青汁は長年継続して売れています。商品の差別化も難しいので、重要なのはマーケティングです。青汁業界には創業3期で売上が100億を超える企業もあります。経営者がビジネスに関して長けているのでしょうが、そのような会社の周辺にいるのは基本的にマーケターです。もともと健康食品に携わっているのではなく、商材の売り方を理解している人たちです。サプリ業界のマーケットの規模は大きいので、サプリ事業をすれば成功すると彼らは踏んだのではないでしょうか。
上記の通り、健康食品/サプリ業界においてはとくにマーケティングが重要です。いまでこそサブスクリプションという言葉が流行していますが、これに関連する企業のビジネスモデルをいろいろ確認してわかるのは、月額継続課金できるビジネスは強いということです。健康食品も同様で、顧客寿命が平均で7カ月なので、どのようにすれば儲けられるかについての方程式がある程度立てやすいです。
もちろん、マーケティングだけでなく製品がいいと大きな儲けを会社にもたらします。例えば、味が苦手だという人が多い青汁の場合、フルーツを混ぜるなどしてデメリットの部分を排除することで、製品の良さを出すことも可能です。またネーミングの良さが売上を左右することもあります。
(3)Eコマースとの相性のよさ
健康食品/サプリ業界はEコマースとの相性がいいといえます。つまり、インターネットなどを使った販売方法に向いているということです。もともと雑誌の最後のページに広告を掲載するなどして、顧客を取っていた業界が、インターネットが普及した現在、ECサイトを運営し業績をあげています。SEOなどのデジタルマーケティングによって消費者の目に止まることで、雑誌の最後のページに目が行くことと同じ効果をもたらしているといえます。前述の通り、健康食品/サプリ業界にはマーケティングが重要と申し上げましたが、Eコマースは最適なマーケティング方法だといえます。
(4)参入障壁の低さ
ビジネスの大原則として参入障壁の問題があります。しかし健康食品/サプリ業界の場合、参入障壁が高くありません。薬事法で制限を受けるものではないので、作ろうと思えば誰でも商品を作れます。健康食品やサプリ業界畑の出身でない人がサプリを売るケースも多く、誰でも簡単に商品を大量生産できます。
売るチャネルもECサイトや広告通販、テレビショッピングなどいろいろあります。私が知っている限りで、サプリを1時間で6,000万円分販売した人がいます。つまりチャネルさえしっかり押さえていれば在庫を抱えても大丈夫なので、作って売るということの繰り返しで成功することができます。
中には1商品だけでうまく経営できている会社もありますし、商品が別のものとほとんど差別化されていなくても売れることもあります。ただ、健康食品/サプリ業界の会社は常にヒット商品の開発に力を入れており、定番の顧客がリピートする商材を作っておく必要があると思います。
(5)市場規模が大きいが競合も多い
日本は高齢化社会なので、ほかのジャンルと違って、健康食品/サプリ業界の場合にはマーケットの規模も大きくなると予想されます。ただ業界内には競合する会社が多いので、商品をどこで差別化するかという問題があります。
競合が多い分、潰れていく会社もあるでしょう。成功する会社は基本的に広告宣伝費に力を入れています。サプリの場合、広告が下手な会社は売上を伸ばせません。M&Aアドバイザーとしてではなく、デューデリジェンス(買収監査)でサプリの会社に入った経験がありますが、原価率は1パーセントでした。そのため広告宣伝費が仕入れに近いともいえます。逆にいうと抜きん出て高品質の商品というのは健康食品/サプリ業界にはおそらくなくて、アイディア勝負という側面が強いようです。
2.健康食品/サプリ業界におけるM&Aについて
健康食品/サプリ業界におけるM&Aの実態はどうなっているのでしょうか。
(1)どんな会社が買手になるのか
M&Aの買手として、次の2つが挙げられます。
①同業他社
M&A全般にいえますが、買手として挙げられるのは同業他社です。弊社が実務的に扱っているのが、自社の取引先を買うなど、商流における川上と川下の間でのM&Aです。
ただし青汁の例のように、アイディア次第で儲けを出せるのが健康食品/サプリ業界です。アイディアをもった人たちが既存の健康食品/サプリ業界の会社を買収するという印象はありません。すでに勝ち組になった会社を買収する必要すらありません。要するに、自分たちで商材のアイディアを開発するだけです。あとは、販売チャネルでマーケットできます。
②PEファンド
全くの別ルートですと、PEファンド(プライベート・エクイティファンド)が会社を買収するケースがあります。
PEファンドは銀行等の金融機関との関係性が強く、ファンドを1個組成すると100億円や200億円といったお金を調達できます。その資金を元に中小企業を買収して、バリュアブルな会社にして他者に売却することを繰り返しています。
PEファンドが行いたいのは会社の再生で、基本的にはバイアウト(株を買収し経営権を取得)です。経営が下手だと思う会社を見つけて、自分たちが投資している別のリソースとつなげて、その会社を成長させます。そういうロードマップを描けると、安く仕込んで高く儲けることが可能です。
(2)買手の目的
買手によってM&Aの目的は異なります。同業他社の場合、買手側は単純に自社の規模を大きくしたいという目的をもっています。商流の川上や川下の会社が同業他社を買収するというのは、儲けを享受したいという意図があるのではないでしょうか。小売業者側からみて非常に売れている商品があったときに、卸業者はもっと売れているに違いないと判断し、川下である小売業者が川上の卸業者を買収するケースがあります。日本の中小企業のM&Aの買手の8割以上は、上場企業だといわれています。
PEファンド(プライベート・エクイティファンド)の場合、この会社が伸びると踏んだら買収し、IPO(Initial Public Offering=新規公開株式)やM&Aで他社に売却するのが目的です。CPO(Cost Per Order)やCPA(Cost Per Acquisition)といった一顧客あたりのコストがみえて、広告宣伝費をどれだけ投入し商品をどれだけ増やせばどの程度売上が伸びるのかという方程式が立つと、あとは売上を伸ばすだけという構図です。
逆にいうと、老舗の青汁屋のように売上がグイグイ伸びている会社を高いバリュエーションで買収することはないと思います。経営者が売上を伸ばす自信のない会社をM&Aで買収するケースの方が多くみられます。
(3)M&Aの傾向
M&Aの傾向としては、前述した通り、上場企業が買収するケースが統計上数多くあります。サプリ業界に興味のある上場企業で、自社の技術の周辺領域がサプリであれば、クロスセルを狙うのが目的です。
事業承継の場合、売手は高齢の経営者が多いイメージですが、高齢者で健康食品やサプリの会社を経営しているという印象はあまりありません。地方の会社の場合、M&Aよりも事業承継を選びます。成功している会社であれば、息子を次期社長として育てます。後継者がいない場合にはどうしても会社を手放さざるをえないので、M&Aによって売却することになります。
3.健康食品/サプリ業界 でM&Aをするメリット
健康食品/サプリ業界にしかないM&Aのメリットはあるのでしょうか。
(1)売手側のメリット
健康食品やサプリに限りませんが、会社を売る理由は大きく2つです。一つは後継者がいないこと、もう一つは経営者が本業に集中したいことです。本業に集中したい経営者のなかには、自社の経営に疲れたという理由でM&Aをする方もいます。基本的には理由はどちらかに当てはまるので、そのニーズに対する答えとしてM&Aがあります。また、一夜にして莫大なお金が手に入るというメリットもあります。たとえば、M&Aにより、一夜にして5億円を手に入れることも可能です。
(2)買手側のメリット
健康食品/サプリ業界は非常に大規模なマーケットをもっています。単純にビタミンやミネラルなどのサプリはもちろん、ダイエットや薄毛などコンプレックス系を含めるとマーケットの規模も大きく、潜在顧客を相当数抱える業界です。そのため、売上のある会社を買収すれば経営次第では大きく成功することもできます。
4.健康食品/サプリ業界 のM&A事例
PEファンドが中小企業を買収する事例は結構あり、例外ではありません。弊社の知っている会社の場合、広告宣伝が上手で、業績が急激に伸びるケースもあります。社長や経営陣が経営に疲弊したため会社の売却を希望したところ、PEファンドが候補としてあがりました。PEファンドがその会社を買収した理由はマネジメントをしっかりすれば業績が伸ばせるという方程式をしっかり立てられたからです。買収後の旨味を感じられないと、買手はM&Aに踏み切りません。
健康食品/サプリ業界というのは、PEファンドが売手企業を発見しやすい業界かもしれません。IT系と違ってサプリ系の会社の株価は跳ね上がりません。そういう意味で、起業家側の出口戦略がIPOではなくてM&Aになることが多い気がします。
経営者の年齢に限らず、今後自社の成長が難しいと判断すれば、PEファンドに売却するケースもあります。私どもの事業所に相談に訪れる社長の多くは40代です。この年代の経営者の方々は、ITバブルの頃に社会人になって、起業に成功する夢をみていた人たちです。しかし40代になって現実問題として上場もできないので次の戦略をどう立てるのかという段階になり、M&Aに向かう社長が最近は多いです。シリアルアントルプルナー(連続起業家)という言葉が流行っていますが、会社を売ってまた起業する40代の社長も多いですね。
5.まとめ
税理士として起業家にお話しするのは、起業の出口戦略はIPO、M&A、相続、廃業、倒産の5つしかないということです。起業に夢中なので、会社を作った時点で出口戦略を考えている経営者はいません。倒産はお金を貸してくれた人に迷惑をかけるので、一番やってはいけないことです。廃業は誰にも迷惑をかけずに畳むことで、相続はIPOもM&Aもせずに死ぬまで働いて後継者に譲ることです。ただ最近、死ぬまで働きたくない人たちが多いので、選択肢はIPOかM&Aしかありません。それでIPOが無理となると、M&Aしか選択肢はなくなります。
死に体のM&Aというのもあります。民事再生も一種のM&Aです。会社の再生にもいろいろあって、裁判所が介入する民事再生や、裁判所を介入させずに自分で解決しようとする事業再生もあります。どんな方法でも売手がハッピーエンドになるのは難しいのですが、売手のオーナーもどこかで落としどころを見つける必要があります。
話者紹介
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柳澤国際税務会計事務所
代表 柳澤 賢仁(やなぎさわ けんじ)
慶応義塾大学大学院経済学研究科修士課程を修了後、アーサー・アンダーセン税務事務所、KPMG税理士法人を経て、2004年に独立。
アーサー・アンダーセン税務事務所、KPMG税理士法人時代には、Transaction Advisory Groupにて、M&Aや税務デューデリジェンス、リース、不良債権・不動産の流動化・証券化等の金融系事務に従事。
独立後に支援したスタートアップのなかから2社のIPO(株式公開)が実現し、現在も起業家の海外進出支援やビジネスモデル構築、ベンチャーファイナンス、M&Aなど幅広い分野で支援を行う。
2011年よりアジア20か国の会計事務所ネットワークOne Asiaを構築し、ワンストップで起業家や中小企業の海外展開、富裕層の海外移転をサポートしている。
ベンチャー三田会発起人。
第30回(平成19年度)「日税研究賞」(税理士の部)を史上最年少で受賞。
趣味はゴルフ(ベストスコア 71)。
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