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個人事業主の事業譲渡にまつわる手続きや税金、注意点について徹底解説

2021/06/09
更新日:2024/05/13

はじめに

経営者が抱える悩みの一つには、経営者自身が引退するタイミングで事業をどうするかという後継者の問題があります。特に個人事業主の場合は法人の相続とはスキームが異なる部分があるため、スムーズに事業譲渡をするためには専門的な知識を持ったアドバイザーと事業譲渡を進めていく必要があります。事業譲渡は、その相手が親族か第三者かなどによって譲渡時の金額条件や税負担等が異なるため、正しい知識を持っていないと損をしてしまう可能性があるのです。

そこで今回の記事は、S&G合同会社の代表でM&Aの専門家である岩下岳さんに、個人事業主の事業譲渡にまつわる手続きや注意点について解説していただきました。


1.個人事業主の定義とは

個人事業主とは、法人化せずに個人として事業を営んでいる人を指します。具体的には「〇〇商店」のように屋号だけをつけ、株式会社や合同会社といった法人格を持たずにビジネスをしているのが個人事業主です。つまり、法人格の有無が法人と個人事業主の違いと言えるでしょう。

個人事業主として開業する場合、法人のように登記する必要はありませんが、税務署に「開業届」を出す必要があります。また事業を行うにあたっては、法人と同様に各種の許認可を得ることが必要です。例えば飲食店の場合には、飲食業の許可がそれに該当します。

個人事業主のメリットは、売上が少ないと税負担が少なくなることです。金額によっては同じ売上でも法人税よりも所得税が少ないため、その分が利益として残ることになります。しかし、法人化したほうが社会的な信用度や契約の取りやすさといった点において有利になるため、総合的なメリットは法人のほうが大きいと言えるでしょう。

※pexelsよりイメージ引用

 

2.個人事業主による事業譲渡について解説

※pexelsよりイメージ引用

個人事業主が事業譲渡を行う場合には三つの選択肢があります。そこで、それぞれの方法について紹介していきましょう。

(1)個人事業主による三つの事業譲渡とは

個人事業主による事業譲渡の方法は以下の三つです。

1 相続

個人事業を引退する場合や個人事業主が亡くなった場合、事業を承継する方法として考えられるのが相続です。例えば個人事業主が亡くなった際、その子息が事業資産を相続して経営を続けることがあります。相続税の税率は事業資産の額によっても異なり、事業を受け取る者が10%から55%の範囲で相続税を収めなければなりません。

2 贈与

贈与とは、従業員などの第三者に事業を譲り渡すことで、経営している事業資産を与えることになります。贈与の場合も相続と同じように、資産の額に応じて事業を受け取る者が10%から55%の範囲で贈与税を収めなければなりません。ただし相続税に比べて贈与税の税率が大きく、例えば事業資産が5,000万円であるとした場合、相続の税率が20%であるのに対して贈与の場合は55%の税率をかけられます。したがって、贈与によって従業員に事業を引き継ぐのは、贈与税の支払いが多額になることからあまり現実的な選択肢ではないと言えるでしょう。

3 M&A

M&Aとは、第三者の会社または個人に事業を譲渡する方法です。M&Aで仲介会社等を利用する場合、事業を買収・売却するための費用が発生するものの、事業を受け取る買手に相続税や贈与税といった税金が発生しないメリットがあります。税金面での買手の負担は、買収の代金を支払う際に発生する消費税10%のみです。

また、買手は、事業譲渡スキームで取得した資産及びのれんを減価償却費として、数年間のうちに経費として計上出来るため、その分その年に納める税金が安くなるメリットもあります。

一方、個人事業主である売手は、売却によって得た額を手に入れることが出来ますが、M&Aの場合、前述した、相続や贈与の場合に比べ、第三者が買手となり一定の金額評価をつけて買収してもらえるため、M&A後の売手の手残りを考えた場合もM&Aは売手にとっても金銭的メリットが大きいと言えるでしょう。

M&Aには、後継者がいないため事業を譲りたいと考えるケースや、ある程度の金額で会社を売って老後資金を貯めたいと考えるケースが多くあります。例えば、高齢を理由に廃業したいと考える場合、相続や贈与よりもM&Aによって引退するほうが手元に残る資金が多くなるわけです。

3.個人事業主による事業譲渡手続きの流れ

資料の説明

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※pexelsよりイメージ引用

続いて、個人事業主が事業譲渡を行う場合の流れについて紹介します。

(1)売手における手続きの流れ

M&Aを行うとした場合、まずはM&A仲介会社を選んで会社の売却を依頼します。M&Aを仲介する会社は全国にありますが、依頼する会社によって手数料がかなり異なるため注意が必要です。中には手数料に最低金額を設け、成約した場合に一律で2,000万円といった手数料を取る会社もあります。自身の事業規模やその仲介会社に依頼して本当に買手がつくのかなどを検討するところからスタートしましょう。

M&Aの仲介会社を決定すると、その会社のアドバイザーが担当として売却までの実務をサポートします。ここでアドバイザーに事業の概要を説明し、売却時の希望条件を伝えていきましょう。このとき、事業の財務資料や許認可関係の資料、取引相手との契約書といった書類をすべてアドバイザーに提出します。以降、アドバイザーは提出された資料をもとに事業の概要を示す「事業概要書」を作成し、これがまとまった上で買収希望者を見つけるための提案活動をしていきます。

買収希望の会社が現れたならば、売手と買手の面談を行います。面談の場で事業の説明や条件のすり合わせを行いましょう。双方の条件がある程度まとまった時点で「基本合意契約」という仮契約を結びます。基本合意契約は売却手続きの中間地点において行う契約で、これまでの交渉によって合意した条件を契約書に記載し、この契約を結んだ以降M&Aの成立に向けた実務に移行します。

基本合意契約を結ぶと、買手は財務状況や契約書関係で法的に問題がないかなどを「買収監査」によってチェックします。買収監査では買手が依頼した会計士や税理士、弁護士などが実務を行います。売手は買手やその代理人から求められた資料を提出し、インタビューに対応することになります。

買収監査が終わると、その結果をもって最終契約へと進みます。事業との場合、このときに締結する契約を「事業譲渡契約」といい、最終的な契約内容を記載して手交します。その後、事業譲渡の対価が買主から売主に支払われ、M&Aは完了となります。M&A実行後は、適宜従業員様や取引先へM&Aの件や代表者変更の旨などを通知する事となります。

(2)買手における手続きの流れ

買手における手続きの流れは、基本的には個人の場合も法人の場合も同様になります。下記にて、それぞれ紹介します。

個人の場合

個人事業主が買手の場合、売手から事業を営む上で必要な資産のみを個人で譲り受け、その事業を承継する事となります。例えば飲食業を買収する場合には、店舗の内装造作や設備・備品及び取引先・人材等の事業に必要な各種資産や契約を譲り受けます。

事業譲渡スキームにより事業を買収した場合、店舗の賃貸や従業員の雇用を継続するには改めて契約を交わさなければいけません。また、取引先との契約変更や、細かいところではクレジットカード決済サービスの変更など様々な手続きが発生し、株式譲渡や出資持分譲渡の様な法人の譲渡と比較し、事業承継時の実務が煩雑になります。

法人の場合

買手が法人の場合も個人が買手の場合と同じく、事業譲渡スキームで買収する場合、上記の「①個人の場合」と同じステップを踏んで、事業を承継する事となります。

今回の記事では、個人事業主から事業を譲り受ける事業譲渡スキームについて、記載をしておりますが、売手が法人の場合、売手企業オーナーの保有する株式を取得して会社を買収することも可能です。M&Aの手法には、主に、相手方の事業資産を購入して事業を運営するか、会社ごと買ってしまって事業を運営するかの二つの選択肢があります。株式会社の場合は株式が発行されており株式の保有割合に応じて議決権が変わってきます。会社ごとを株式譲渡スキームで買収する場合、M&A後に買手が買収した会社の過半数以上の議決権を持って運営する事も考えると、最低でも51%、一般的には100%の株を譲ってもらい、会社の支配権を持って運営することが多いでしょう。

株を買って事業を譲受する場合は、事業譲渡と違い、事業継続に必要な契約や許認可、従業員との雇用契約といった各種契約、銀行口座など事業を継続する上で必要な第三者との関係が包括的に承継出来ます。事業のみを譲受するのとは異なり、株を100%買い取るだけで、今までどおりに事業を運営出来るのが特徴です。

事業譲渡に対して株式譲渡は契約などの再締結が不要なため、手続きの面ではスムーズです。しかし、一方で、それまでの売手企業が締結している契約等を包括的にすべて引き受けることになり、第三者との間において、法的リスクのある契約や将来的に負債となるような契約を結んでいないかなどの点は、買収監査時に細かくチェックする必要があります。

例えば、第三者との契約を解除する際に、多額の違約金が発生するような契約を結んでいたり、会社の代表者が会社の資産を担保に借り入れをしていたりといった将来的なリスクが隠れている場合があるため、買収監査の段階で入念にチェックしておきましょう。このほかにも、反社会的な組織との取引があった場合も社会的な信用を失うことになるため注意が必要です。

こういった将来的なリスクを考えると、資産を買い取るだけの事業譲渡のほうが手間はかかるものの、契約や債権債務の承継によるリスクは少ないと言えるでしょう。

4.個人事業主が事業譲渡する場合の税金について解説

経営資料の確認

※pexelsよりイメージ引用

個人事業主が事業を譲渡する場合、どれだけの税金がかかるかを確認しておきましょう。

(1)相続と贈与の場合

前述したとおり、相続と贈与の場合には相続税と贈与税が発生します。税率は10%から55%の間で金額に応じた税金がかかることになっています(別途、基礎控除額あり)。相続税の税率は1,000万円以下で10%、5,000万円以下で20%、2億円以下では40%となっており、最高は6億円以上の55%です。

一方の贈与税は、相続人と被相続人の関係によって「一般贈与」と「特別贈与」の2種類に区別されます。「一般贈与」とは夫婦間の贈与や兄弟間の贈与、あるいは親から20歳未満の子への贈与をいい、親から20歳以上の子への贈与は「特別贈与」となります。特別贈与の場合、600~1,000万円以下の贈与で30%の税率、4,500万円以上では55%の税率がかかることになるのです。相続よりも贈与の税額が明らかに高くなることが分かるでしょう。

(2)M&Aの場合

例えば、個人事業主が事業譲渡をした場合、事業を売却して得たお金が譲渡所得とされ、その譲渡益に対して、所得税の課税が発生します(譲渡資産によって総合課税・分離課税あり)。

一方、売手が個人事業主でなく、法人の場合は、事業の売却益に対して、法人税等(約34%)の課税が発生します。その他、ご参考までに、事業譲渡でなく、譲渡スキームが事業譲渡ではなく、株式譲渡などの法人の譲渡の場合、株式を売った金額から資本金や売却時に要した経費等を差し引いた売却益に対し、利益の額に関わらず、一律20.315%が課税されます。特に、売却金額が大きい場合には、株式譲渡等の法人ごとの譲渡の方が売手の手元に残る金額は大きくなるでしょう。

5.個人事業主が事業譲渡する場合の四つの注意点

パソコンを用いた作業

※pexelsよりイメージ引用

個人事業主が事業譲渡する場合、どのような点に注意すべきかを解説していきます。

(1)従業員の雇用について

事業譲渡の場合、買手は従業員との雇用契約を改めて結びなおす必要があります。この場合、従業員が新しい会社に移籍せずに退職するといったリスクが考えられるでしょう。従業員は新たな雇用主と雇用契約を締結することになるため、雇用条件や基本給が以前よりも厳しい条件になれば契約しない可能性があるわけです。そのため、買手としては注意して交渉に当たる必要があります。ただし一般的にはM&A成立後も今までの雇用条件で働くことが出来るように配慮する会社がほとんどのため、M&Aの成立後に従業員が大量に離職するケースはその場合、あまりありません。

(2)取引先との関係について

個人事業主の事業譲渡では社長が変わることになるため、人間関係を元に成り立っていた取引先との関係が崩れてしまうことになります。したがって、継続して取引出来なくなるといったリスクを負うこともあるでしょう。特に、経営者の人柄や個人的な関係性で大手企業などと取引していた場合には、社長が変わることで取引が終了してしまう可能性があるため、取引先に対する継続契約の依頼には売主と買主が協力して臨むことが必要です。

飲食店などのように物件を借りているビジネスの場合、事業譲渡では、基本的に建物の賃貸借契約はそのまま承継出来ません。物件に入居するためには再度審査が必要です。新しい会社の資産背景によっては、信用力で審査が通らずに物件を継続して利用出来ない可能性があります。事業譲渡をする場合、売主と買主が打ち合わせをした上で「どんな条件を揃えていれば審査に通るのか」を把握し、また家主にはこれまでどおりの賃貸契約が継続出来るように依頼する作業が必要です。

(3)資産の引継ぎについて

資産の引き継ぎについては、買収監査の際にどんな資産を保有しているのか細かく調査する買収監査があるため、大きなリスクはないと言えるでしょう。ただし、チェックした資産の資産性が妥当なのかはより精緻に確認する必要があります。例えば、建物や車の減価償却が適切に処理されているかどうかなどです。

また、有価証券は帳簿と引渡し時点での時価が違い、基準日でいくらかを把握しておく必要があります。賃貸をしている事業を引き継ぐ場合には、敷金や保証金の契約内容などを確認しておきましょう。例えば、事業用の賃貸物件であれば敷金(保証金)として預け入れている金額500万円とした場合、そのまま全額戻ってくることもありますが、賃貸借契約内容によっては原状回復をしたとしても、敷金(保証金)の20%が償却される金額として、はじめから返ってこないケースなども多いです。

その場合、帳簿に敷金が500万円と記載されていても実際には400万円しか返ってこない可能性があるため、敷金などの保証金は償却がないかどうかを確認しておく必要があるでしょう。ほかにも、帳簿に載っている金額が金庫やレジに現金として、あるいは通帳に実際にあるかどうかのチェックも必要です。もしかするとレジや金庫の現金が使い込まれている可能性があるため、調査はより精緻に行うのがよいでしょう。

資産を引き継ぐ際には負債を引き継ぐ可能性もあります。銀行からの借入であれば、返済計画表を見るとどの程度の借金で毎月の返済額がどの程度かがわかります。しかし、金融機関以外の例えば役員や従業員、親戚などから借入している場合には、どういった計画で返済することになっているかを注意して確認すべきです。

(4)自己破産のタイミングについて

事業を辞めるにあたって自己破産をするかM&Aをするかの二者択一で考えた場合、M&Aは純資産の金額がプラスでないと売りづらいと言えます。売上や利益が減少しているのであれば、債務超過にならないうちに売却を考えるべきです。
債務超過となっている会社の場合でも、損益計算書で利益が出ていれば売れる可能性はあります。利益さえあれば売却の確率はぐっと高まりますが、債務超過かつ利益が出ていない状態でM&Aの依頼をいただいても成立するのは、これまでご依頼いただいた会社のうち平均で3割程度です。債務超過で赤字の場合は、M&A出来ずに自己破産になる割合が多くなってしまうのが現状です。

6.個人事業を有利に売却するための四つの方法

女性達の会議風景

※pexelsよりイメージ引用

個人事業を売却する場合、有利に売却するための方法があります。その方法を紹介していきましょう。

(1)収益に関する数値を整理する

M&Aをより高い金額で成立させるためには、資産価値と利益を把握することが重要です。個人事業主は節税のために事業には関係のない経費を計上していることが多いため、純粋な利益や経費の額を把握していない場合があります。売却の前には実態に沿った事業の利益額がいくらになるかを計算しておきましょう。

(2)事業内容について正確に伝える

M&Aでは異業種が異業種を買うケースも多いため、業界やビジネスの内容について全く知らない人でも事業内容が理解出来るような説明に心がけましょう。M&A仲介会社に依頼している場合にはアドバイザーが事前に売手から事業や財務についてヒアリングの上、買手に提案する際に用いる概要書を作成します。アドバイザーが作成した資料を業界や会社のことを全く知らない人が見ても理解出来る内容になっているかなどもチェックしておきましょう。

(3)優秀な従業員を確保しておく

個人事業主や小さな会社の場合、社長のリーダーシップでビジネスが成り立っているケースが多いものです。社長が全ての事業を取り仕切っており、社長が抜けることで事業が立ち行かなくなるようであれば、1年〜3年先を見据えてマネージャーを育てておくこともM&Aにおいては重要です。会社を売却しても事業が継続するように、優秀な従業員の確保や育成を意識しておきましょう。

(4)シナジー効果の得られる相手先を選ぶ

M&Aにおいて多くの会社が期待しているのは相乗効果です。相乗効果が見込める会社とM&Aをすれば、その後に売上の増加が見込めるため、売手と買手のどちらにも良い影響をもたらします。

シナジーの具体的な例として「垂直統合」などが挙げられます。垂直統合とは、ビジネスの川上から川下を一つの会社がまとめて行うという概念です。例えば、物販をしている会社が販売する製品を仕入れる商社を買収すると、仕入れにかかるコストを軽減出来ます。また、さらに川上のメーカーを買収すると自社ブランドを展開出来るようになるでしょう。このように、一つのビジネスの商流全てを自社で完結させるのが垂直統合です。したがって、M&Aでは垂直統合に繋がる相手を選ぶとシナジーを得やすいと言えるでしょう。

7.事業譲渡に活用したい事業承継税制について解説

モニターに映る経営状況

※pexelsよりイメージ引用

最後に、事業譲渡に活用出来る事業承継税制について解説していきます。

(1)そもそも事業承継税制とは?

事業承継税制とは、経営者が自分の会社を親族に承継する際の相続税や第三者に事業を譲渡する場合の贈与税が一定期間免除される制度です。その上、先代の事業主が亡くなった場合には納税が免除される実質的な納税の免除制度です。以前は法人格を持つ事業主のみが事業承継税制の対象でしたが、令和元年に「個人版事業承継税制」が創設されたことで、個人事業主にも事業承継を行う場合の減免措置が適用されるようになりました。

(2)事業承継税制の利用に必要な三つの条件

事業承継税制を利用する場合、次の三つの条件をクリアしている必要があります。それぞれの条件を紹介していきましょう。

①特定事業用資産の取得であること

まずは制度の対象が「特定事業用資産」であることを押さえておきましょう。特定事業用資産とは、先代事業者が事業をするために取得した資産のことで、宅地・建物や減価償却資産が対象です。特定事業用資産として申告するためには、あらかじめ前年分の事業所得に係る青色申告書の貸借対照表に計上しておく必要があります。

②後継者要件を満たすこと

二つ目の条件は、「後継者要件」を満たすことです。後継者要件には以下の5点が挙げられます。

・経営承継円滑化法の認定を受けていること
・相続開始の直前に対象となる事業に従事していること(先代事業者が60歳未満で死亡した場合を除く)
・開業届出書を提出し、青色申告の承認を受けていること
・特定事業用資産に係る事業が資産管理事業または性風俗関連特殊営業に該当しないこと
・先代事業者等から相続等により財産を取得した者が、特定事業用宅地等について小規模宅地等の特例の適用を受けていないこと

③先代経営者要件を満たすこと

事業承継税制を利用する場合、先代経営者も「先代経営者要件」を満たす必要があります。主な要件は以下のとおりです。

【被相続人が先代事業者である場合】
相続開始の日の属する年、その前年及びその前々年の確定申告書を青色申告書により提出していること

【被相続人が先代事業者以外の場合】
・ 先代事業者の相続開始又は贈与の直前において、先代事業者と生計を一にする親族であること
・ 先代事業者からの贈与又は相続後に開始した相続に係る被相続人であること

以上、事業承継税制を利用するためにはいくつかの条件があるため、適用を考えている場合にはこれらの条件をしっかりと確認しておきましょう。

8.まとめ

ノート

※pexelsよりイメージ引用

今回は個人事業主が事業譲渡を行う場合の方法にフォーカスして解説しました。個人事業主が事業承継を行う場合、贈与や相続だけではなくM&Aによる事業の売却も有効な方法です。特に後継者がいない場合や老後の生活資金が必要な場合には、相続や贈与よりもM&Aのほうが手元に残る資金も多くなるため、圧倒的に有利と言えるでしょう。

事業を売却する場合には、成約確率、金額妥当性や相場を熟知した上での売却金額決定(より多くの売却資金確保)、スムーズな売却交渉と調整が可能といった観点からも、M&A仲介会社を利用して売却を進めるのが最も効率的でM&Aの成功率も高くなります。自社の業界や事業規模に合わせたM&A仲介会社を選択し、アドバイザーとともに事業譲渡をスムーズに進めていきましょう。

〈話者紹介〉

S&G合同会社
代表 岩下 岳

S&G合同会社代表。新卒で日立オートモティブシステムズ(株)に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。その後東証一部上場のM&A仲介業大手の(株)日本M&Aセンターへ入社。ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でのM&Aの支援実績を有する。その後、起業し飲食事業・人材紹介業等を立ち上げ(後に飲食事業は売却)。
S&G合同会社を個人で譲受け、現在は、M&Aコンサルティングに特化したサービスを提供。大手M&Aマッチングプラットフォームでは、M&Aのベストアドバイザー受賞。

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