M&Aアドバイザーって何?仲介業者との違いは?
はじめに
M&Aを行う場合、M&Aの専門家として登場するのが「M&Aアドバイザー」です。しかし、M&Aを検討している人の中には「M&Aアドバイザー」と「仲介業者」の違いがよく分からないという人もいるのではないでしょうか。
ここでは「M&Aアドバイザー」の役割や「仲介業者」との違いについて、M&Aアドバイザーである前垣内佐和子氏に解説していただきます。
1.M&Aアドバイザーとは
「M&Aアドバイザー」とは、専門的な知見からM&Aに関連するさまざまなアドバイスを行い、売主・買主のM&Aをサポートする専門家です。相談をはじめ、契約成立までの交渉も行います。
M&Aアドバイザーになるための資格があるわけではありませんが、ファイナンス・税務会計・法務などの基本知識がひと通り必要です。そのため、M&Aアドバイザーには、投資銀行や銀行、証券会社などの金融業界の出身者や会計士が多く在籍している傾向が見られます。
また、相手方とタフな交渉を行っていくコミュニケーション能力と忍耐能力が必要で、M&Aを取り巻く多くの要素を考慮しながら、ディール(取引)を進めていきます。
続いて、M&Aアドバイザーの仕事について見てみましょう。
M&Aの進行に沿うと、M&Aアドバイザーの仕事は大きく次の4つに分けられます。
1.M&Aをスタートさせるまで
まずは、M&A交渉をスタートさせるまでの業務です。
M&Aには、M&Aアドバイザーの提案によりM&Aを検討する「企画提案型」と、M&Aアドバイザーに相談があった売り買いの情報を元にM&AアドバイザーやM&A仲介業者、M&A情報サイトなどがマッチングを行う「マッチング型」があります。
「企画提案型」であれば、M&Aアドバイザーは候補業種・企業を選定し、分析を行い、その会社の企業価値を向上させるためのM&Aの提案を行います。そして、提案内容に基づきM&Aを実行する意思があるか、どのような考えを持っているかなどについてヒアリングします。
また、「企画提案型」か「マッチング型」かにかかわらず、もともとM&Aを検討していなかった人にも「相続対策の一環としてM&Aを利用した事業承継もご検討したほうが良いですよ」と提案することがあります。
例えば、オーナー経営者が自分の会社の株を持ったまま亡くなり、残されたご家族に株式分の相続税が発生し、苦労することがあります。もちろん、事業承継税制などを利用した納税の猶予や免除はありますが、条件を満たさないこともあるため、早め早めの相続対策が必要となり、その選択肢のひとつとしてM&Aを提案することがあります。
2.M&Aの準備を始めてからM&Aの契約まで
売主・買主のどちらかがM&Aをする意思を固めると、M&Aの準備が始まります。
M&Aアドバイザーは、売主・買主のどちらか一方の交渉代理人になるため、どちらの代理人になったかで仕事の進め方が変わります。ここでは、売主側を起点としてM&Aの流れに沿って業務内容を説明します。
ロングリスト作成とノンネームシートの提示
まず、売主側のM&Aアドバイザーは、売主に対して次のことを確認します。
- そもそも、なぜM&Aをしたいと考えているのか
- どのような買主・企業に売却したいと考えているのか
- 売却希望金額はどのくらいか
- 売却後のビジョンを、どのように考えているのか
そして、M&Aアドバイザーは、売主となる会社の経営状況、財務状況の簡易分析を行った上で、適切な買主候補をピックアップします。この候補一覧を「ロングリスト」といいます。
売主と相談しながら、ロングリストの優先順位づけを行い、打診相手を決定します。あわせて、売却スキームなども決めていきます。
この段階で買主候補には、M&Aを検討してもらうため「ノンネームシート」と呼ばれる売主の会社概要を記載した資料を提示し、売主の名前を非公開にしたままM&Aを検討してもらいます。
秘密保持契約の締結とパッケージ資料の開示
検討の結果、「一歩進んだ交渉に入りたい」と買主候補が希望した場合には、「秘密保持契約」を締結し、M&Aアドバイザーは「パッケージ資料」と呼ばれる売主の社名が入った会社概要書を買主候補に開示します。
「パッケージ資料」には、読むだけでM&Aの検討を開始できるように、会社の基本情報、財務状況、ビジネスモデル、従業員の状況などの情報が網羅されています。
「パッケージ資料」に目を通した買主候補から質問を受けた場合は、M&Aアドバイザーが代理人として随時、売主と連携をとりながら買主候補に対して回答します。
意向表明書の提出、基本合意書の締結
買主候補が本格交渉の意思を固めると、買主候補から売主宛ての「意向表明書」をM&Aアドバイザーはもらいます。意向表明書には、買主候補がどういう考えで、どういうスケジュールで、どのくらいの金額で購入したいかなどを記載してもらいます。
この意向表明書は、売主がその買主候補と引き続き交渉を進めるべきか判断するための書類です。M&Aアドバイザーは、売主が判断するのに必要な事項を考え、買主候補に記載内容を指示し、意向表明書を提出してもらうのです。
複数の買主候補から「意向表明書」を受け取ることもあります。その場合、売主と各買主候補との引き合わせを行い、お互いのM&Aに対する考え方などを確認します。
面談後、何度かやりとりを重ねた後、優先順位の高い1社との商談に入ります。最終的な契約締結に至る前の交渉段階では、「基本合意書」というM&Aの基本条件をまとめた契約書を締結して進めるのが一般的です。
また、入札形式を採用する場合は、複数同時に商談を進めることもあります。
デューデリジェンスの実施
次に、「デューデリジェンス(買収監査)」を行います。デューデリジェンスとは、買主候補と買主候補が雇った専門家が行うもので、売主をさまざまな観点からチェック(監査)していく作業です。
ビジネス、法律および会計・税務面からだけの監査を行うのが一般的ですが、対象企業によっては、有害汚染物質の有無などの環境面からみた監査、人事上のリスクを洗い出す監査、現在のIT資産が継続的にビジネスをサポートできるかといった監査を行うことがあります。
その後、M&Aによってシナジー効果がどのくらい見込めるかを分析したり、買収後にどのように組織を統合していくかの計画を策定したり、価格が妥当なのか、そもそも買収を進めても良いのかを検討します。
1社のデューデリジェンスにつき、小さい案件で300万円程度、大手事務所の場合、法律と会計だけで4,000万円ほどかかることもあります。
チェックは決められた部屋で専門家が調査をします。数日〜1週間程度のケースもあれば、2〜3週間ほどのこともあります。多くの場合、3週間〜1か月程度を経てデューデリジェンスは終了します。
その間に別の買主に売却されてしまっては困るため、買主候補側のM&Aアドバイザーは「基本合意書」に、独占交渉条項を記載するように売主側に要求します。
デューデリジェンスの間、監査を待つ売主が不安な気持ちになることもあるため、売主側のM&Aアドバイザーは、売主の精神面のフォローにも配慮しながらデューデリジェンスを取り仕切ります。
デューデリジェンスを終え、買主候補から金額などの条件が提示され、売主がおおむね納得すると、契約へと進みます。
3.契約
通常、売主のM&Aアドバイザーが取り仕切り、売主と買主とで契約条件を交渉し、契約をまとめていきます。
契約は、M&Aアドバイザーか売主側のオフィスの会議室、または法律事務所の会議室を使うのが一般的です。また、多くの場合、M&Aの契約と支払いは別日に行われるため、決済日は銀行の会議室などを借りてクロージング手続きを行うこともあります。
契約およびクロージングの際、M&Aアドバイザーは必要書類の準備を行い、売主側のアドバイザーは確実に依頼主が売買の対価を全額受け取れるように、また、買主のアドバイザーは、確実にM&A対象となった会社または事業を引き渡してもらえるように最終確認をした上で実行します。
契約書は、さまざまな可能性を想定した条項を盛り込むため、100ページを超えることもあります。
4.契約後のフォロー
買主側のM&Aアドバイザーは、M&A終了後も100日間程度、細かな対応を行うことがあります(「100日プラン」といいます)。
M&A後の最初の100日は極めて大切です。新しい環境で関係者が不安や期待を抱えている中、アドバイザーには適切な対応が求められます。
例えば、新社長の名刺やデスクの手配、ウェブサイトの更新、挨拶まわりなど、M&A後のTo doの確認をはじめ、従業員のモチベーションが下がらないようなM&Aに関する社内発表タイミングについてのアドバイスなどは、決済前に事前準備しておくのが通常です。
そして決済後は、買主は新しい経営陣、従業員との間で経営方針・戦略などを共有して、経営統合を実行していかなければなりません。M&Aアドバイザーはそのフォローも行います。
売主側のアドバイザーは、売却で得た資金をどうするのが良いか、買主と今後も関係性が続く場合は、どのようにかかわっていけば良いかなどのアドバイスを行い、M&A後のフォローをします。
2.M&Aアドバイザリーサービスの手数料について
M&Aアドバイザーに依頼をするとどのくらいの報酬がかかるのでしょうか。
一般的にはM&Aの規模に応じて、「売却金額の○%」というように、M&AアドバイザーやM&A仲介業者ごとに定めています。さらに、「完全成功報酬型」なのか、「交渉前に着手金が必要なのか」の違いがあります。そのため、条件交渉前に着手金や中間金として手数料が発生する場合があります。
着手金や中間金を考えると「完全成功報酬」と謳っているM&AアドバイザリーサービスやM&A仲介業者を選ぶほうが負担リスクは少なくなります。
ただ、M&Aに慣れている買主または売主で、M&Aアドバイザーもプロフェッショナルで能力が高く信用できる場合、「着手金」を支払うことで優先的に動いてもらえるというケースもあります。
また、「成功報酬」と謳っているM&AアドバイザリーサービスやM&A仲介業者でも、「基本合意書」締結時点で報酬の一部を中間成功報酬金として支払う場合や、特定の資料作成に費用が発生することもあります。
一方、「完全成功報酬」と謳っている場合は、M&Aの契約を締結し、M&Aが終了するまで支払いは発生しません(デューデリジェンスの際、監査を行う専門家に支払う報酬は別途、発生するのが一般的です)。
M&Aの契約を締結した後、M&Aの売買代金決済が行われず、M&Aが成立しないということもあります。
その場合でも、M&Aの成立・不成立にかかわらず「売主と買主のM&Aの契約がなされた時点で、M&Aアドバイザリーサービスの成功報酬代金を支払う」というM&Aアドバイザー契約を結んでいる場合は、M&AアドバイザーやM&A仲介業者への手数料(成功報酬)の支払いは発生します。
いずれにしても、手数料やその他の発生する費用はケースバイケースです。支払いタイミングや手数料の算出方法といった料金体系、契約期間などについて、事前にアドバイザーや仲介業者に確認しておくと良いでしょう。
3.M&A仲介業者とは
M&Aアドバイザーの役割について説明してきましたが、一方の「M&A仲介業者」についても見てみましょう。
M&A仲介業者の役割は、主にM&Aにかかわる情報提供や、売主と買主のマッチング、両者間の情報伝達です。不動産会社やお見合いの仲人さんをイメージすると分かりやすいのではないでしょうか。仲介業者の場合、情報提供およびM&A成約へ向けた環境づくりが得意分野です。
例えば、M&A実務については弁護士事務所へ任せることもあります。弁護士事務所は交渉経緯や温度感、ビジネスの内容を細部まで把握しているとは限らないため、弁護士事務所だけでは良質なM&Aの契約書を作ることができません。弁護士事務所はあくまでも、法律的な観点で実務を担う傾向にあります。
こうした背景を念頭に置いて、次に挙げるようなポイントでM&A仲介業者を選ぶと良いでしょう。
1.自らの立場を明確にしているM&A仲介業者
自分の立場を明確にしているM&A仲介業者と付き合うのが良いでしょう。例えば、次のようなことを売主・買主に伝えている仲介業者です。
- 「仲介」であることや、「仲介」とはどのようなものかを明確に説明している
- 得意分野(または不得意分野)を明確にしている
2.報酬/報酬体系の説明がある
仲介に伴う報酬額、報酬体系の説明を明確に説明していることがポイントです。また、仲介している相手方とはどのような契約になっているのか、説明を求めたときに応えてくれる仲介業者が良いでしょう。
売主・買主の双方から報酬を受け取るM&A仲介業者であれば、売主から受け取る仲介料は売却金額の一定%の報酬で、買主からは一定額を受け取るなどのシステムであることが望ましいでしょう。なぜなら、高く売却できれば報酬額も高くなるため、売価を上げようという意識が働くためです。
3.丁寧な対応であること
M&Aの内容よりも、なるべく早くM&A契約をまとめてしまおうという動きをする仲介業者よりも、M&Aの内容をはじめ、契約書や売買価格算出のポイントなどを理解して、丁寧にそのリスクを説明したり、買主・売主双方の発言を誠実に受け止めてくれる仲介業者が良いでしょう。
4.M&Aアドバイザーと仲介業者の違い
これまでM&Aアドバイザーと仲介業者について説明してきましたが、M&Aアドバイザーと仲介業者の具体的な違いを挙げるとしたら、どのような点にあるのでしょうか。
最も異なる点は、M&Aを行う時の立場と、役割の違いです。
M&Aアドバイザリーは、売主もしくは買主のどちらか一方について、依頼主の利益を最大化し、希望を叶えるための交渉を行います。M&Aが依頼主にとって損をすると判断した場合には、「御社のためにも、この案件はこれ以上、進めないほうが良い」と、交渉を打ち切るアドバイスをすることもあります。
一方のM&A仲介業者は、売主と買主の間に立ち、双方の仲介を行います。どちらか片方だけの意向を重視する代理人ではなく、情報提供やマッチングがメイン業務であることが一般的です。
このように仕事の役割が異なるM&AアドバイザーとM&A仲介業者ですから、目的に合った依頼を行うのが良いでしょう。
ただし、売主・買主が次のような環境にある場合は、M&AアドバイザーとM&A仲介業者どちらへ依頼しても対応できるでしょう。
それは、専門性が高い事業展開をしており、社内にM&Aの知識・経験を持っていて、相手方との交渉ができるM&A経験者が在籍している場合です。自社の事業領域や市場のことを理解している身内がM&Aにかかわる交渉をしたほうが、スピーディ―に話がまとまることがあります。
例えば、半導体の特殊技術のような専門的な技術知識がないと、M&Aの交渉が難しい場合です。M&AアドバイザーやM&A仲介業者は、あらゆる業界について専門知識を有しているわけではありません。もし理解がとても難しい技術分野で、自社の扱う商品や技術について専門知識を持って交渉にあたらなければならないケースでは、自社のスタッフを前面に出すことも選択肢のひとつとして考えられます。
また、自社にM&Aの知識・経験が十分にある人材がいる場合は、M&AアドバイザーとM&A仲介業者のどちらへ依頼しても、最初のマッチングと情報提供のサービスのみを受けることが多く、それほど大きな違いはないでしょう。
5.M&Aアドバイザーを選ぶポイント
M&Aアドバイザーを選ぶ際、税務・会計、法務、法律、ファイナンスの幅広い基本知識を持っていることが前提となります。
加えて、経営経験者、または事業会社で働いた経験があるM&Aアドバイザーであれば、より早く状況を理解してもらえることがあります。どのように事業が行われているのか、経営にはどのような苦労があるのか、身をもって経験している可能性が高いからです。
また、M&Aアドバイザーを選ぶときに限りませんが、何より誠実な人・業者であることが最も大切なポイントです。売主・買主の双方にとって、企業価値を高め、友好的な交渉を進めるために、信頼できるアドバイザーを選定しましょう。
話者紹介
前垣内 佐和子(まえがいち さわこ)
キャピタル・エヴォルヴァー株式会社
M&Aアドバイザー
大学卒業後、ヤフー株式会社に入社。社長室・経営企画部に配属される。その後、M&A業界の第一人者が立ち上げたブティック型インベストメントバンク(株式会社コア・コンピタンス・コーポレーション)でM&Aのアドバイザリー業務、ファイナンス支援業務、財務コンサルティング業務に従事。2009年に独立し、キャピタル・エヴォルヴァー株式会社を設立、現在に至る。
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