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2022年問題と生産緑地制度について解説。宅地は一体どれぐらい放出されるのか?

2020/04/17
更新日:2024/05/13

はじめに

2022年に宅地が大量に放出されて不動産売却が活発になり、地価に影響を大きく与えるのではないかとささやかれる「2022年問題」。放出される対象となる、税制が優遇されてきた「生産緑地」とは一体何なのでしょうか。

地価が下落するともうわさされる2022年問題に関心が集まりつつあります。今回は都市計画や生産緑地制度に詳しいアックスコンサルティングの前田さんにお話を伺いました。


1.2022年問題と生産緑地制度

日本の水田

生産緑地と2022年問題について、ここでは事の起こりの「生産緑地制度」の意味と経緯を確認し、2022年問題について解説しましょう。

(1)そもそも生産緑地制度とは一体どういうものか?

戦後の高度経済成長に入って人口が増加し、宅地が不足してきことを背景に、市街地に無秩序に建物が多く建てられました。

そんな中、1968年に都市計画法が制定され、エリアを目的ごとに区分けできるようになり、そこで市街化区域が市街化調整区域、都市計画区域などの線引きがなされました。市街化区域は概ね10年内に宅地化を図るべきエリアとされました。

急速に市街地の農地・緑地が宅地に代わり、緑が減少することによって住環境の悪化を招き、土地が地盤保持機能や保水機能をみるみる失ったのです。その結果、災害などが頻繁に起こり、深刻な社会問題となりました。

このまま農地・緑地の宅地化が進んでよいものかと、緑地の環境機能を維持するために生産緑地法が制定されたのです。

生産緑地法は、緑地の有する環境機能などを考慮し、農林漁業との調整を図りつつ、良好な都市環境を形成していこうという目的で制定された土地制度でした。しかし、進む都市化による土地不足と地価上昇は止まらず、さらに1992年に「生産緑地」と「宅地化農地」を定めることになりました。
「生産緑地」は、生産緑地地区の区域内の土地又は森林のことです。

生産緑地法第3条第1項の規定で、具体的には以下のように決められています。

・公害又は災害の防止、農林漁業と調和した都市環境の保全等良好な生活環境の確保に相当の効用があり、公共施設等の敷地の用に供する土地として適しているものであること
・500平方メートル以上の規模の区域であること
・用排水その他の状況を勘案して農林漁業の継続が可能な条件を備えていると認められるものであること
(※生産緑地法 第2条、第3条第1項より引用)

(2)2022年問題の意味するものは?

生産緑地が宅地として、大量に放出されるといわれているのが2022年です。現在、生産緑地制度によって生産緑地の指定を受けた土地が存在します。平成30年末の国土交通省の情報によれば、1万2,500ヘクタールの生産緑地が3大都市圏内の市街化区域内に集中しているとされているのです。

生産緑地の指定を受けた土地に関しては、30年間生産緑地として運営しなければならないという期限の縛りが生まれました。それと引き換えに固定資産税の優遇を受けられる制度なのです。その期限が到来するのが2022年です。

場所は3大都市圏(首都圏・中部圏・近畿圏)が多く、東京都内でも世田谷・練馬などに多く存在し、23区内には所々に生産緑地が存在しています。

生産緑地の8割にあたる約1万500ヘクタールが、2022年に解除期限が来るといわれています。全てが解除されるわけではないでしょうが、ある一定量でも生産緑地の指定を解除されると、結果的に大量に宅地が放出されることになります。

その結果、土地の価格や賃料が下落したり空き部屋が増えたり、周辺の不動産市況が一気に下落モードになる可能性があるのです。

2.生産緑地制度を維持するための厳しい条件

生産緑地の指定を受けるためには30年間という期間の縛りがあって、解除するには30年の継続の農業、もしくは主たる従事者が年齢的もしくは体力的に農業が営めなくなるまでは農業を継続しなければなりません。

しかしその見返りも大きく、税金の額が大幅に緩和されるのです。現在該当する従事者は70代から80代になってきています。そして、2022年にも今一度の判断を迫られているということです。

固定資産税の緩和は受けられなくなりますが、生産緑地の鎖を外して、宅地または市街化農地並みの課税を受け入れるのも決して悪い話ではありません。

とはいえ、実際のところ農業だけで生計が成り立っている方は少ないようで、他に収入があるので生活できている方が大半だと思われます。しかし相続の時はどうなるのかなど、土地を承継することを考えると、慎重な選択を迫られる時期となっています。

国土交通省のアンケート調査結果によれば、全体の26%はすでに解除を選んでいます。残りの70%以上は農業を続けるのかどうかは、まだ分かりません。いずれにしても、うわさほど極端に宅地化が進むわけでもないような流れになっています。

つまり、2022年以降も生産緑地を維持し、農業を続ける方が多いようです。このような場合は「特定生産緑地」の指定をうけることになりそうです。こうした制約を嫌がって一般的な「宅地化農地」としてやっていく方もでてくる可能性はあります。この場合、固定資産税の大幅上昇は避けられないでしょう。

3.相続税の納税猶予問題と生産緑地

東京郊外のビニールハウス

猶予というと税金を納めるのが先延ばしになるだけのイメージがあると思いますが、「納税猶予」とは、実際には「納税免除」と同じ意味と考えて問題ありません。最初に納税猶予を受けることができれば、そのまま納税免除となることが通常です。しかし例外もあります。もう少し詳しく見ていきましょう。

(1)納税猶予の背景

前述のように、生産緑地の所有者は、2022年に特定生産緑地の認定を受けるかどうか、すなわち10年延長するかどうかの選択を迫られます。特定生産緑地に指定されると、農業の継続が義務づけられ、売却や転用はできません。

一方、引き続き生産緑地と同様に税制上の優遇を受けられます。現在の所有者が死亡した場合は、一定の要件を満たすと、後継者が相続税の納税猶予を受けられます。固定資産税は引き続き農地として課税されます。

つまり、特定生産緑地制度とは、生産緑地を10年間引き続き維持していくための制度と言っていいでしょう。尚、特定生産緑地の適用を受けなかった場合にも、納税猶予がすぐに解除されるわけではなく、世帯主一代に限り継続されます。

(2)大多数が生産緑地の指定を解除できない理由

問題になっているのは、特定生産緑地の適用を受けずに指定を解除し、相続税の納税猶予を受けている生産緑地が宅地化(買取申し出)をする場合の税金です。東京都内の土地の場合、固定資産税は凄まじく高くなっています。

バブル期の土地の評価は世田谷で坪500~600万円であり、平均的価格の3倍ぐらいになっていました。徐々に下落傾向にはあっても、それ相応の高額な税金を納めなければなりません。また、相続税については、遡って納税猶予していた期間の利子税も上乗せされます。

1968年に都市計画法が制定された際にも、土地は持っていて土地の評価が高くとも、現金がなくて固定資産税を払えず、やむなく生産緑地制度を利用した人も多いようです。

相続税が支払えず、物納するという制度もありますが、そうすると土地もなくなるので、土地を維持するためにも納税猶予の適用を受けるしかなかったのでしょう。そして、農業を人に任せることは認められず、自分でやらなくてはなりませんでした。

いずれにしても、相続税の納税猶予の適用を受けた方は、解除しようにも税負担を考えたら現実的には適用を受けざるをえない人がいるということです。

4.住宅開発の観点から見た2022年問題

不動産業界のデベロッパーからすると、2022年はビジネスチャンスであると考えられます。国交省のアンケート結果を参考に、生産緑地全体の26%が放出されるとしても、相当な量の宅地が市場に出回るでしょう。ざっくり見積もってもおよそ3,000ヘクタールほどの敷地面積となります。デベロッパーを始め、不動産業者やハウスメーカーが、我先にと所有者にアプローチをかけていくことでしょう。

一方で実際に生産緑地を持っている方たちは、今後の土地活用を考える上で絶好の機会であるともいえます。活用法を再構築する上でもよい機会ではないでしょうか。

23区内のような都心部であれば、様々な活用もできるでしょう。近郊のエリアであっても、十分に資産価値があります。例えば売却して資金を作ってどこか別の資産に資金を集中したり、あるいは借入を返済したりするなどの活用も考えられます。

また、アパートやマンション経営など、農業とは別の収益を考えるという選択肢もあります。金融機関としては担保があれば積極的にお金を貸してくれます。バブル時期のような高い利率ではないので、借入をするにも良いタイミングです。
このように、色々と選択の幅は広いといえるでしょう。

5.総合的には商機・好機ともいえる2022年

住宅街の山東菜の畑

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2022年の生産緑地の指定解除は、総合的な活用を考えるのにはよい選択かもしれません。今一度、生産緑地を含む不動産としての目的を考え直すことが賢明です。あくまで稼業として生産緑地を残すのであればそれでもよいでしょう。

生産緑地を他の営農者に貸して、賃料収入を得るという方法も考えられます。2018年9月1日に都市農地貸借法が制定され、地方自治体の認定を受けた農業の耕作事業者に貸すことができるようになりました。第三者を通して農業を営みたい方には、そういった「貸し農園」の方法があります。
ある程度の収入が得られる上に、誰かが営農を続けることで生産緑地であり続けることができます。国としても農業として持続させるための方法を整備しつつあります。

生産緑地を残すのであれば自分がやるか誰かにやってもらうかを選択できるのです。今後は生産緑地に関して緩和が続く可能性もあります。以前は宅地化するという前提であったのが、現在では緑地として都市にあるべきものという認識に変わりつつあるようです。

例えばその土地で生産された農作物を一定以上扱うのであれば、緑地内にレストランを作れたり、作物の直売所を設けられたりなど、農業として収益が得られやすい形には緩和されつつあります。

ただし、建築の制限や要件はまだ厳しく、今のところ、そこまで魅力のある制度にはなっていません。建築や要件について、より広い範囲に緩和されるようになれば、選択肢も広がって土地の維持もしやすくなるでしょう。

6.生産緑地所有者の注意すべきポイント

ここ数年間は、地価が少しずつ上がってきていますが、今後オリンピック景気が終息すると、下落に転じる可能性も多いにありえます。だからといって必要以上に宅地化を躊躇する必要はないですが、大切な資産を守りぬくためにも、以下の点を注意しておきましょう。

(1)資産の見直しや組み換えの機会と捉えること

2022年はある意味、資産の見直しをする良い機会とも考えられます。生産緑地も含めた自身の資産を見直して、どこの土地は活用し、どこの土地は収益性が低いから売却するという資産の見直しや、資産の組み換え時期と捉えて検討することが賢明です。

固定資産税に関しては、生産緑地になれば農地課税なので、一般の市街化区域内農地と比べて税額は低く抑えられています。むやみに指定を解除すると固定資産税が莫大にかかってきます。

(2)不動産業者のアプローチに惑わされないこと

区画整理や等価交換などを駆使して、生産緑地の中に道を通したり、隣接地との共同開発により土地の区画をきれいに整備したりして、土地を活用する考え方もあります。不動産業者やハウスメーカーなどが、生産緑地の所有者に積極的に営業を仕掛けてくることでしょう。
そういった様々な口車に左右されないで、総合的な助言ができる専門家の税理士やコンサルタントなどにアドバイスを求めるようにしましょう。冷静に土地の資産価値を見直して、組み替えが必要であれば組み換えをするという判断が必要です。

7.まとめ

多摩川の鉄橋を走る京王線

生産緑地の所有者にとっての2022年は、生産緑地を含めた資産全体を見つめ直し、ベストな活用方法を考える良い機会と捉えることができます。何を残し、何を残さないのか、相続税の資金はどのぐらい必要か、現在の保有資産でそれが叶うのかどうかなどを検討するのです。

生産緑地を維持するのであれば後継者がいるのか、農業の収支は大丈夫なのか、生活資金はどこで捻出していくのかなどが、検討すべきポイントです。2022年を前に、資産の再構築や組み換えのタイミングであるとポジティブに捉えて、信頼できるアドバイザーと一緒に解決するのが賢明でしょう。

話者紹介

前田さん
アックスコンサルティング
前田浩輝

1984年東京生まれ。2008年にアックスコンサルティングに入社。
入社以来より、不動産コンサルタント業務に従事し、会計事務所と連携して、多くの資産家の不動産に関する課題を解決している。
借地権などの特殊な案件を含め、売買に限らず、等価交換、建築提案、借地権の問題解決など、
幅広い分野に精通している。大手ハウスメーカーでの講演実績も多数。

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