黒字倒産が起こる原因を解説。廃業以外の選択肢はある?
はじめに
企業が存続できなくなることを「倒産」といいますが、赤字で収益をあげられない会社だけが倒産するのではありません。黒字で利益が出ているように見える企業でも、場合によっては倒産してしまいます。
この「黒字倒産」はなぜ起こってしまうのでしょうか。今回は、黒字倒産の原因と対応策、黒字倒産になりにくい企業体質の作り方について企業経営や資金調達に精通しているSeven Rich会計事務所の日野陽一さんにお話を伺いました。
1.黒字倒産とは?黒字なのになぜ倒産?
まずは、黒字倒産の概要について解説していきましょう。
(1)黒字倒産の定義
黒字倒産とは、損益計算書上では黒字でも、キャッシュフローが悪化することで倒産してしまうことを指します。損益計算書は企業の利益を計算するための書類ですが、損益計算書上では黒字が出ているものの、資金繰りが様々な理由で止まってしまったため倒産することがあります。東京商工リサーチの調査によると、倒産した企業の約半数は直前の決算で黒字となっており、実は黒字でも倒産している企業が多いことがわかります。
参考URL:東京商工リサーチ「2019年『倒産企業の財務データ分析』調査」
「倒産」という言葉はよく耳にする言葉ですが、実は法律用語ではないため明確な定義はありません。一般的には企業経営が行き詰まり、弁済しなければならない債務を弁済できなくなった状態を指しています。この他にも、会社が「破産」「特別清算」「民事再生」「会社更生」のいずれかの状態に陥った場合にも使用されます。また、手形が切れず債務の支払いができなくなった場合や仕入先への支払いや従業員への給与支払いが滞ってしまった場合に使われることもあるでしょう。
2.黒字倒産が起こる理由は3つ
損益計算書上では利益が出ている状態で発生する黒字倒産はなぜ起こってしまうのでしょうか。
一般的な企業の取引サイクルは「材料の仕入れ」「商品の販売」「売掛債権の回収」という3つのステップがあります。このステップの中に黒字倒産になる理由が潜んでいるため、その理由について解説していきましょう。
(1)売掛債権の未回収
商品を販売したものの、その代金が入金されていない状態が「売掛債権の未回収」の状態です。商品を販売したにも関わらず売掛債権を回収できないとキャッシュフローが悪化します。キャッシュフローが悪化した状態で材料費の支払いや従業員への給与支払いを続けると、いつかは資金がショートして会社が倒産してしまうでしょう。
売掛債権の未回収によって黒字倒産になる理由は、損益計算書の持つ特性にあります。損益計算書上では、商品を販売すると「売上」として利益が計上されています。しかし未回収である売掛金のため、実際にキャッシュが手元にあるわけではありません。損益計算書上はプラスでも、売掛金の状態のままでは、仕入代金の支払いや従業員の給料などを支払うことはできないため、売掛債権の未回収によって会社が倒産してしまう場合があります。
このとき、売掛債権を回収できる可能性が低いことが分かっている場合には、損益計算書の「貸倒引当金繰入額」として損失計上をしておくと良いでしょう。損失計上すると損益計算書上の利益額に影響は出ますが、実態の経営状態をより正確に反映させられます。ただし、大口取引先の売掛債権が突然回収不能になった場合には、過去の損益計算書に影響額が反映されないため黒字倒産になることもあるでしょう。
(2)在庫の滞留
黒字倒産は商品の販売がうまくいかず、在庫が滞留することでも発生します。毎月、材料を仕入れている場合いは材料の支払いが続き、商品が販売できなければキャッシュフローは悪化する一方です。この時にも、損益計算書の持つ特性によって表面上は黒字ながら資金がショートして会社が倒産する場合があります。
損益計算書に売上と費用を計上する場合、実際に売れた商品の売上と費用しか計上しません。例えばパソコンを1,000台仕入れて10台しか売れなかった場合、損益計算書上では10台分の売上と費用しか計算せず、表面上は黒字となります。残りの990台は在庫として扱われ、販売するたびに売上と費用に計上されます。しかし実際には1,000台分のパソコン仕入れ代はすでに支払っており、その分だけキャシュフローは悪化しています。在庫のままでは新たな商品の仕入れや給与の支払いはできません。このように在庫が滞留することで資金がショートし、倒産に至る場合もあります。
(3)投資の失敗
製造業などでは、設備投資をしたものの計画通りに売上を立てられずキャッシュフローが悪化する場合もあります。設備投資をする場合、銀行などの金融機関から融資を受けるのが一般的です。設備投資そのものの支払いは融資によって完了しますが、当然その後には融資の返済が始まります。計画通りに売上が立てられないと売上よりも融資の返済によるキャッシュアウトが大きくなり、資金がショートして倒産してしまう場合もあります。
3.実際に黒字倒産した事例
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黒字倒産の事例として株式会社アーバンコーポレイションの事例を紹介します。同社は不動産会社で、土地や古くなったオフィスなどの建物を買い取り、リノベーションやマンションを建設してファンドなどに売却するという不動産流動化ビジネスを展開していました。
不動産業界はそのビジネスモデルから担保として認められやすい不動産を多数保有している会社が大半です。同社も新たな土地や建物を購入する際には既に自社で保有している土地や建物を担保に銀行から資金調達をしていました。
しかし2008年のリーマンショックによる不動産不況の影響で、在庫となった不動産が大量に発生。在庫が積み上がったものの、損益計算書上では販売した物件の売上と費用しか計上しないため表面的には黒字を維持できていました。しかし、実際には在庫を抱え銀行融資の支払いが重なっていったため、最終的に資金がショートして融資の返済ができなくなり倒産することになりました。
負債額は約2,500億円で、倒産時に同社が保有していた在庫は売上に換算すると2年分にまで膨れ上がっていました。直前の決算において当期純利益は約300億円の黒字だったので、損益計算書上の利益と実態のキャッシュフローに大きな乖離があり、在庫の滞留や投資の失敗によって黒字倒産に至ることがわかります。
4.黒字倒産を防ぐには?
黒字倒産を防ぐためにはどんな対策をしていくべきでしょうか。ここでは黒字倒産にならないためのポイントを解説していきます。
(1)本業でしっかりと営業キャッシュフローを稼ぐ
黒字倒産を防ぐ最も重要なポイントは、本業でしっかりと営業キャッシュフローを稼ぐことです。キャッシュフローには本業で利益をあげることで得られる「営業キャッシュフロー」と保有資産や有価証券の売却などで得られる「投資キャッシュフロー」、銀行融資などで得られる「財務キャッシュフロー」があります。この中で営業キャッシュフローを向上させることが会社全体のキャッシュフローの向上に繋がります。
事例で紹介したアーバンコーポレイションは、営業キャッシュフローがずっとマイナスでした。しかし、多くの不動産を保有していたことから不動産を担保に銀行融資によって財務キャッシュフローを向上させていました。営業キャッシュフローの赤字分を財務キャッシュフローの黒字で補填していましたが、営業キャッシュフローが向上しないと追加融資も受けられず返済が滞ることになります。
まずは、本業でしっかりと利益をだす体制を作ることが黒字倒産を防ぐために重要です。
(2)CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の改善
黒字倒産を防ぐために、収益をあげるだけでなく「CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)」(以下CCC)を向上させることも有効です。まずは、CCCの概要について解説していきましょう。
CCCとは
CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)とは企業が商品・原材料などを仕入れるための債務を支払ってから、商品を販売することで発生した売掛債権が回収されるまでにかかる日数のことです。
CCCが短ければ、少ない運転資金で事業運営ができるためキャッシュフローがより良くなります。
CCCの計算式
CCCは以下のような計算式で算出します
CCC=売掛債権回転期間+棚卸資産回転期間-仕入債務回転期間
「売掛債権回転期間」…商品を販売してから入金するまでの期間
「棚卸資産回転期間」…商品を仕入れてから販売するまでの期間
「仕入債務回転期間」…商品を仕入から代金を支払うまでの期間
例えば、仕入債務回転期間が40日で棚卸資産回転日数が45日、売上債権回転日数50日の場合は以下のような計算となります。
CCC=50日+45日-40日=55日
CCCが、短ければ短いほど少ない運転資金で運営できるようになるため、できだけCCCを短期間にできるように業務改善を図っていくことが大切です。
(3)CCCの改善方法
CCCを改善するためはどのような対策をすればよいでしょうか。ここでは売掛債権回転期間、棚卸資産回転期間、仕入債務回転期間のそれぞれのポイントごとに改善方法を紹介していきます。
売掛債権回転期間を改善する
売掛債権回転期間は商品を販売してから入金するまでの期間を示しているため、短い方がCCCの向上に寄与します。売掛債権回転期間を短くするためには大きく3つの方法があります。
1、入金サイトの短縮を交渉する
これまでは商品を販売したあと2ヶ月後に入金されていたとします。この入金サイトを1ヵ月後に変更するとCCCが1ヶ月短くなるため有効です。しかし、相手から見るとキャッシュフローの悪化に繋がるため、取引先によっては簡単に応じてくれない場合があります。この時に入金サイトを短くするために値引きしてしまうと、却ってキャッシュフローが悪化する可能性があるので注意してください。
入金を1ヶ月短くする代わりに5%の値引きをする場合、キャッシュフローが向上することで再投資し、1ヶ月で得られる利益が5%未満であればキャッシュフローは今以上に悪化してしまいます。入金を早めても再投資できるような商品や商材がなく、キャッシュフローに余裕がある場合にはサイトを改善する必要はないため、自社の状況を見極めて方針を決めていきましょう。
2、ファクタリングを利用する
ファクタリングとは、売掛債権をファクタリング会社に売却することで売掛債権をすぐにキャッシュにできるサービスです。ファクタリングをすると、4営業日程度で入金が行われるため、すぐにキャッシュフローが改善するのが魅力です。ただし手数料が3%〜10%と高額なので、ファクタリングを多用すると利益が減少するので注意が必要です。ファクタリングを利用するかどうかは資金繰りの状況を確認しながら慎重に判断しましょう。
3、手付金をもらう
手付金は、商品やサービスを提供することが決まった段階で支払う費用のことです。例えば建設業界では材料の仕入れなどに多額の費用を要するため、契約を締結した段階で費用の半分を、建物が完成した時点で残りの費用を支払うといった方法が一般的です(前受金といいます)。手付金を支払う習慣があるかどうかは業界や取引先によって異なるため、個々に交渉していく必要があるでしょう。
棚卸資産回転期間
棚卸資産回転期間は、商品を仕入れてから販売するまでの期間です。一般的には支払いサイトが決まっており、商品の仕入れから仕入れ代金の支払いまでに1ヵ月程度の期間があります。この場合、棚卸資産回転期間が1ヵ月以内であれば仕入れた商品の支払いを、仕入れた商品の売り上げで支払うことが可能です。逆に、棚卸資産回転期間が1ヵ月以上ある場合は、別の商品の売り上げや、銀行から融資した運転資金を支払いに回す必要があるため、キャッシュフローが悪化します。
企業としては商品を仕入れる際に欠品を防ぎたいと考え、多く仕入れることでボリュームディスカウントが期待できるので、できるだけ多く仕入れたいと考えがちです。しかし商品が売れなければキャッシュフローが悪化します。在庫管理や需要予測、生産計画を適切に行うことで棚卸資産回転期間を短くしてCCCを改善していきましょう。
仕入債務回転期間
商品仕入から仕入代金を支払うまでの期間が仕入債務回転期間です。キャッシュフローの観点からは代金を支払うまでの期間が長いほど有利になります。仕入債務回転期間を伸ばすためには支払いサイトの延長を交渉するのが一般的ですが、相手のキャッシュフローが悪化するため、これまで受けていた値引きなどのサービスを受けられない可能性があります。
この時も売掛債権回転期間と同じように仕入債務回転期間を延ばすことで発生する費用と、キャッシュフローを改善することで再投資し、得られる費用の割合がどうなるかを確認しておきましょう。
仕入れよりも債権回収が早く発生するビジネスモデルが有利
CCCの観点では、AmazonやAppleなどのように、まず購入者が商品を購入してから商品の仕入れが発生するビシネスは有利とされています。これらの企業では販売した商品の入金は10日程度で行われるものの、商品の仕入れ先への支払いは3ヶ月後などに設定されています。そうすることで仕入れの支払いが発生する前に顧客からの入金を使って別の商品を仕入れ、さらに利益を上げることができるようになります。
これらの企業はCCCがマイナスである場合もあり、優秀なキャッシュフローを活かした積極的な投資によって急速に成長してきました。このようにビジネスモデルを見直すことでCCCを抜本的に改善することも不可能ではありません。
(4)資金調達
黒字倒産を防ぐためには、キャシュフローを向上させることが大事です。それには、銀行などの金融機関から資金調達をすることも有効です。ただし融資の場合は財務的キャッシュフローを向上させるだけなので根本的な解決にはならないことに留意しておきましょう。
また、上場企業であれば増資によって資金調達を行うことも可能です。企業の経営状態やキャッシュフローによってはこれらの方法で黒字倒産を回避する必要もあるでしょう。
5.黒字倒産したら廃業しかない?
黒字倒産をするとそのまま廃業するしかないのでしょうか。ここでは黒字倒産に至った場合の選択肢について解説してきましょう。
(1)倒産には4つの選択肢がある
企業が倒産した場合、「破産」「特別清算」「民事再生」「会社更生」の4つの選択肢があります。倒産した場合の選択肢としては以下の4形態があります。
破産及び特別清算の場合は、会社を清算し廃業しなくてはいけません。帝国データバンクによると2019年に倒産した企業のうち破産を選択した企業は90%以上です。つまり、ほぼ全ての企業が破産を選択していることになります。
一方の民事再生と会社更生は「再生型」と呼ばれ事業を再生させるための手続きで、再生計画をもとに会社の再建を図っていきます。よって破産したあとは必ず廃業しなければならない訳ではありません。しかし、中小企業の場合は会社更生を適用されることがないため、民事再生によって再生を目指すのが廃業を防ぐ唯一の方法であるといえるでしょう。
ただし、民事再生を選択したからといって、必ず事業継続ができるわけではありません。民事再生の場合は、スポンサー企業が再生企業の株を買い、債権などを支払っていく必要があります。2020年に倒産した大手アパレル会社レナウンのように、スポンサー企業は見つからない場合は結果として廃業となってしまう点に注意してください。
参考URL:帝国データバンク「破産情報 2020年 6月報」
(2)M&Aによって廃業を防ぐ
黒字倒産の状況でも事業を売却することは可能です。債権者も、売れる事業や資産があれば売却して債権回収に充てることは認めているため、民事再生と同時にM&Aによって廃業を防ぐことも検討していくと良いでしょう。特に中小企業の場合は、スポンサー企業を見つけて民事再生に取り組むよりも、M&Aによって事業を承継していくほうが現実的な選択肢といえます。
仮に会社が倒産しそうになったら、早めにM&Aができないかを専門家に相談すると良いでしょう。この場合、時間が経つと条件はどんどん悪化していくので、できるだけ早めに相談することをおすすめします。
6.まとめ
黒字倒産は損益計算書上では利益をあげているものの、実際にはキャッシュフローの悪化により事業継続ができなくなり倒産することを指します。黒字倒産の原因は売掛債権の未回収や在庫の滞留、投資の失敗など様々ですが、キャッシュフローを改善することで黒字倒産しにくい企業体制を作っていくことが重要です。
キャッシュフローの改善にはCCCを短くするのが有効です。入金を早める、過剰な在庫を抱えない、債権の支払いを延長するなどの対策を講じることで黒字倒産のリスクを減らすことができます。
万が一、黒字倒産を検討しなくてはならない事態になった際は、事業を存続させるためにもM&Aによって事業を切り離して売却することや、債権も含めて受け入れてくれる相手を見つけることが重要です。この場合、事業を存続させることは簡単ではありませんが、M&Aの専門家に相談することで解決策が見つかる可能性があります。M&Aに着手するのであれば条件が悪くならないよう早めに相談することがポイントです。しっかりと専門家と話をして、事業を存続させる方法を見つけていきましょう。
〈話者紹介〉
Seven Rich会計事務所
日野陽一(ひのよういち)
2011年に青色申告会に入社。2015年に公認会計士試験に合格し、有限責任監査法人トーマツ東京事務所に入所。金融機関の法定監査などに携わる。2018年からはSeven Rich会計事務所に勤務し、ベンチャーやスタートアップ企業を中心に資金調達やIPOの支援、税務申告のサポート等を行っている。
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