廃業の手続きとは?破産や倒産との違い、廃業理由による違いを解説
はじめに
事業が立ち行かなくなったときに、企業はその先どうするべきかという選択を迫られます。廃業をするのか、再生に向けて然るべき手を打つのか、あるいはM&Aでどこかの企業と一緒になるのか。どの選択肢をとるかは資産状況やオーナーの判断で変わってきます。
廃業を選ぶのはどういう場合であり、破産や倒産とはどう違うのでしょうか。今回は企業の廃業や再生の案件を手掛けてこられた西村あさひ法律事務所の弁護士、柴原さんにお話を伺いました。
1.廃業や破産・倒産とは何か?
廃業や破産、倒産は同じように思われがちですが、実際はそれぞれ意味が異なります。
(1)廃業と破産の違い
そもそも「廃業」という言葉は法律用語ではありません。事業をやめるということが廃業です。廃業のひとつの方法として、法律用語でもある「破産」という手続きがあります。多くの事案は、破産以外の方法によって廃業するのです。
破産と廃業の違いは何かというと、破産は基本的に残債を払えない場合に行います。資金繰りがショートしたり債務超過であったりする場合は、破産の道を選ぶことが多いのです。ただし、オーナーに再生への意欲がある場合は破産ではなく、要件を満たせば民事再生法によって再起を図るストーリーもあります。
(2)破産と倒産の違い
破産と「倒産」は同じような意味で使われますが、正しくは違います。倒産は法律用語ではありません。業績が悪化して資金繰りがショートし、借入や給料や税金などが払えなくなって経営を続けることができない状態を表すときに使われています。
一方、破産は経営が破綻した企業の清算のための法律的な手続きのひとつです。負債が支払い不可能な場合に、債権者がその人の全ての資産から公平に弁済を受けられるようにする法律上の手続きです。
すなわち、破産した企業は倒産している状態ですが、倒産した企業が全て破産しているとは限りません。企業は破産手続きを行うことによって、全ての資産と負債が清算されることになります。
(3)個人と法人の破産の違い
会社が破産したとしても、代表者まで破産することに直接は結びつきません。しかし、その代表者が会社の債務の保証人あるいは連帯保証人になっているとしたら、支払いの義務が当然課せられます。そしてそれが支払えないとなると、個人としての破産に繫がります。
2.廃業の手続きについて
廃業の手続きについては、特に問題があるわけではない場合は「通常清算」によって廃業することが多いです。
(1)通常清算の場合
通常清算は会社法上の手続きで、全ての負債を支払うことが前提です。負債の種類には銀行からの借入金、商いの買掛金、未払いの税金、従業員への給料や退職金などがあります。これが払えるのであれば、通常清算によって廃業すれば問題ありません。払えない場合には破産あるいは他の方法を採ります。
オーナーが自分で通常清算を行う場合と、手続きが煩雑で大変だという理由で第三者が行う場合があります。全ての手続きを自分で行う人は少ないですが、不可能なことではありません。
一般的には司法書士や公認会計士、弁護士などの士業の人に依頼して行うことが多いです。それすら面倒だというオーナーも中にはいます。最も手っ取り早い方法は、廃業する会社の株式を安い価格で第三者に譲って、その後の対応を後継者である第三者に委ねる、というやり方です。
(2)自分で行うか第三者に委ねるか
負債が払えるのであれば通常清算になりますが、自分で手続きを行うのか第三者に任せるのかで時間や費用が変わってきます。また、ある程度条件が揃っていないと第三者に委ねるのは難しいといえるでしょう。
費用に充てる資金はあっても、士業の人などに相談することすら面倒だというのであれば、誰かに安く売ってその人が利益を取って清算することもあります。
最近は中小企業でも海外の支店を出していますが、海外支店の清算はさらに面倒です。わざわざ海外へ行くことも大変ですし費用もかかります。検疫なども面倒ですし、政治的な事情で行きたくても行けない状況もあるでしょう。
そのため、海外の公認会計士などに任せてしまうことがあります。あるいは、海外の子会社の株式をタダ同然で売ってしまうパターンも見受けられます。
どれが最もコストが低いかはケースバイケースであり、オーナーでは判断できないものです。そういう場合は士業の人やコンサルタントに見積もってもらうことができます。
目安の費用を教えてもらって決めるのが賢明です。もちろん、手続きの途中で何が起こるかはわからないので完璧ではないにせよ、大体のことは専門家ならわかります。
3.廃業の理由によって手続きは異なる
廃業の場合はそもそも資金が足りなくて廃業するのか、高齢で廃業するのかなどの理由の違いで全く手続きの方法が異なってきます。それぞれの考えられる代表的なパターンを、参考に挙げておきましょう。
(1)後継者がいないという理由の場合
後継者がいないという理由からの廃業で、財政的に問題がない場合は通常清算によって廃業するのが一般的です。しかし、負債が払えないほど資金が不足しているなら、破産その他の手続きに移行します。
(2)業績の悪化が理由の場合
業績が悪化して廃業を考える場合、まだ負債の支払いができる余裕があるのなら通常清算です。しかし、すでにその余裕がなくなっているなら破産その他の手続きになります。
(3)オーナーの体力ややる気が理由の場合
お金があるのなら通常清算をしてハッピーリタイアができます。しかし業績悪化を伴っている場合は、破産その他を選ぶことになります。
4.破産のデメリット
破産をするときのデメリットを確認しておきましょう。地元にいづらくなることは別として、法律的に問題なのは、保証債務が顕在化することです。例えば、会社が銀行から1億円借りていて、資金が数千万しかない場合、普通の融資においてはオーナーが保証人として連帯保証を取っている場合が多いです。
仮に会社の資産を整理しても5,000万円しかない場合、未回収の5,000万円が保証人に請求されます。そしてお金がない場合はオーナーの自宅などの資産を売却して返済することになるのです。
それでも足りない場合はどうなるのでしょう。会社だけではなく、社長自身も破産しなくてはならなくなります。法人の破産だけで済まず、個人も破産に至るのです。
覚悟を決めて破産を受け入れるのなら、何はともあれ決着がつくのです。しかし、破産という事態をどうしても受け入れたくないオーナーもいます。かといって民事再生も難しいという場合には、破産を避けられる可能性のある方法として次の方式を組み合わせます。
「第二会社方式」と「経営者保証ガイドライン」の適用という方法です。それぞれの概要を確認しておきましょう。
(1)第二会社方式
まず、業績が悪化している企業の事業の中で、収益性のある部門を会社分割あるいは事業譲渡によって切り離します。それを別の会社に承継させ、債務が残っている元の会社を後に特別清算などを用いて、整理する方法です。
(2)経営者保証ガイドライン
破産をするしかない状況の企業のオーナーに対して、「経営者保証ガイドライン」があります。あくまでガイドラインなので絶対ではないですが、ガイドラインの条件を満たせば金融機関が協力してくれることが多いのです。
詳細な規定がありますが、わかりやすくまとめると、オーナーが自分の資産をほとんど全部吐き出している場合は破産を回避することができるというものです。
ガイドラインに沿っていれば、華美でない自宅は残して良いことになっています。どこからが華美かは意見が分かれますが、ともあれ、それが叶えば最低限生活の場は残せるのです。また、年齢によって何年分の生活費を残して良いなどの規定もあります。人によって残せる額も違ってくるのです。
ひとたび個人保証を解除すれば、そのあとの年金関係や新しい仕事に就いたり始めたりすることに関して、何も問題はないのです。リセットしてやり直しができるようになります。
5.まとめ
そもそもオーナーとなった人は、それなりに自分に自信を持っていて、プライドがあるので家族にも相談しにくく、また、仕事をやめることに対する抵抗感が強い場合が多いです。それまで一生懸命やってきた人が廃業したあとどうするのかということも問題になります。
リタイアのあとにすることがないと、廃業を決めきれないのです。また、身の回りにトラブルがあった場合、廃業となると全て顕在化します。とにかくオーナーは覚悟を決めて、周りの人に相談することが必要です。
ライフプランに関して、周りがケアしてあげることも望まれます。税理士や行政書士、あるいはオーナー同士のネットワークや公的な支援機関などに相談をする選択肢があることを知っておきましょう。
話者紹介
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西村あさひ法律事務所
弁護士 柴原 多(しばはらまさる)
1996年、慶應義塾大学法学部卒業。1999年に弁護士登録(東京弁護士会)。
長年にわたり、M&A案件、事業承継・事業再生案件等を担当。M&A案件は大型案件から中小企業案件まで幅広く対応し、企業の資金繰り対応・経営者保証の相談にも従事している。また訴訟案件も、企業の紛争案件を中心に広く関与している。
最近の執筆としては、「相続法制改正のポイントと銀行実務論文」(共著、銀行実務2018年7月号)、「事業承継を考える際には、後継者及び従業員への配慮も大事」(日経MOOK「よくわかる事業承継&経営者の相続」)、等。
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