ビューティサロン(美容院・美容室)のM&Aを解説。売手のメリットや成功のポイントは?
はじめに
近年、美容院(美容室)のM&A案件の増加と共に、M&Aによる売却を有効な出口戦略の一つと考える若いオーナー経営者も増えているようです。ビューティサロンのM&A動向と事例、買手側・売却側双方のメリット、売手が抑えておくべき成功ポイント・注意点などについて、美容院(美容室)M&A支援に強いスパイラルグループ株式会社M&Aコンサルティング代表取締役の松栄遥様に解説していただきました。
1.ビューティーサロン(美容院・美容室)のM&A動向
近年、投資ファンドによる美容院(美容室)の買収が増えています。そこには、ある程度の規模と実績のあるビューティサロン運営会社を買収して更に成長させ、将来的にIPOによる上場益や売却益を狙う投資ファンドの思惑があると考えられます。投資ファンドによるM&Aは、比較的大規模な美容院(美容室)を対象にしたものがほとんどですが、小規模の美容院(美容室)でもM&Aを行うケースが増えつつあります。
こうした背景もあり、ビューティサロンを売却したいと考えるオーナー経営者が増加傾向にあると思われます。若いオーナーを中心に、他店のM&Aに関する情報を耳にして「あそこは数億で売却したらしい」「自分もお店を大きくして数億の売却を目指したい」といった意識が生まれ、M&Aを一つの目標にするサロンオーナー経営者も一定数います。他にも、ビューティサロンの売却で得た資金を基に別事業を展開したいと考える方や、多店舗展開には成功したが、これ以上の店舗を展開できるイメージが湧かないということでM&Aを決断する方もいます。
また、経営不振により売却を検討する事業者もいます。東京商工リサーチによると、理・美容業の倒産件数は過去30年間で最多の119件(2019年)となり、4年連続で増加しています。理・美容業界は参入障壁が低く新規参入しやすい業界であることに加え、1000円カットなどの低価格チェーンの台頭、人口減の中での顧客囲い込み競争の激化などにより、都市部を中心に過当競争が続いています。特に都市部においては、新規の顧客を獲得するために、大手検索・予約サイトに広告を掲載せざるを得ない状況で、集客コストが上がり、経営を圧迫しています。また、美容師の免許を持っていればどこでも仕事ができるため、人材の流動性が高く、美容師の採用に苦戦している事業者も多い状況です。美容院(美容室)を経営するオーナー経営者のほとんどが、スタイリストからそのまま経営者になることが多いため、経営の知識に長けているオーナー経営者は少なく、多店舗展開できる美容院(美容室)はひと握り。こうした背景もあり、美容院(美容室)のM&Aは増加傾向にあります。
2.ビューティーサロン(美容院・美容室)のM&A事例
先に述べたように、美容院(美容室)のM&Aは規模を問わず増えています。ここでは、近年起こった美容院(美容室)M&Aの事例を紹介します。
【美容院・美容室M&A事例1】
この事例は弊社グループで仲介した事例になりますが、香港系投資ファンドのCLSAキャピタルパートナーズは、2018年3月に美容室チェーンAguグループの株式の過半数を約100憶円で取得しました。CLSA社はAguグループに複数の取締役を派遣し、フランチャイズ支援を含めた管理・企画機能の拡充や出店サポート、バックオフィス組織の充実化を積極的に支援しています。買収当時は271店舗でしたが、2019年10月時点で408店舗にまで拡大し、国内1000店舗、北米1000店舗を目指すとしています。
【美容院・美容室M&A事例2】
株式会社百五銀行は、2019年に自行が100%出資する投資専門会社・百五みらい投資株式会社を立ち上げ、東京・千葉・埼玉に11店舗の業務委託ヘアサロンを展開するHM company・Relato合同会社の株式を取得しました。弊社グループで仲介した事例ですが、売手企業の経営者から相談いただいた際、10店舗のうち1店舗は出店1年未満、さらに11店舗目の出店も決まっていた状況でしたので、来期・その翌期の着地見込みを店舗別に作成して買手にプレゼン。事業計画が高く評価され、当初の希望価格を上回る価格で譲渡することができました。百五みらい投資株式会社は、自行のノウハウやネットワークを活かし、同サロンの全国展開を検討している模様です。
【美容院・美容室M&A事例3】
投資ファンドの日本協創投資株式会社と株式会社福岡キャピタルパートナーズは、2017年6月、ヘアサロン・アイラッシュサロン等を全国で100店舗以上展開する株式会社ヘッドライトの株式を共同で取得しました。両社は協力してヘッドライト社の積極的な出店を支援している模様です。
【美容院・美容室M&A事例4】
美容事業や和装宝飾事業等を展開する株式会社ヤマノホールディングスは、2019年8月、株式会社L.B.G(以下、LBG社)と株式譲渡契約を締結し、連結子会社化しました。LBG社は「La Bonheur」ブランド名で、首都圏を中心に中高価格帯の美容室を展開しています。この買収により、ヤマノホールディングスはLBG社の出店支援を行うと共に、自社で展開する中高年層向けの低中価格帯美容サービスとの連携を強化し、美容事業全体としての成長を加速させる見込みです。なお、本案件は、上記1〜3の事例とは異なり、同業種の会社同士のM&A案件と言えます。
【美容院・美容室M&A事例5】
エステティック業界をリードするミス・パリ・グループは、表参道、青山、渋谷、銀座など都心の一等地に11店舗を展開するヘアサロン「Euphoria(ユーフォリア)」とパートナーシップを締結。ユーフォリアを傘下に収めることで、理美容業界に参入し、美容総合商社として全方位的な事業拡大を図ることを明らかにしました。ミスパリグループの関連校「ミス・パリ・ビューティ専門学校」には美容学科があり、ユーフォリアの教育システムを導入して、店舗スタッフの直接指導を受ける機会を設けているようです。
3.買手側・売手側双方のメリット
M&A・事業承継を検討している方へ
当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。
ここでは、美容院(美容室)M&Aを行う買手と売手のメリットについて説明します。
【買手側のメリット】
買手が投資ファンドの場合、ある程度の規模と成長力のあるビューティサロンを買収することで、自社の資金力と経営スキルを基に短期間で大きく成長させ、IPO等により多額の上場益や売却益を得ることが可能になります。
買手が同業種や隣接業種の場合、店舗拡大ペースを加速させることができます。場合によっては、複数のブランドを展開できる可能性も広がります。例えば、現在はハイブランド(1万円以上の高価格帯)の美容院(美容室)を持っている場合、ローブランド(1000円前後の低価格帯)やミドルブランド(4000~5000円前後)を展開する美容院(美容室)を買収すれば、シナジー効果が期待できます。
美容師不足で悩むサロンのオーナー経営者は少なくありません。美容師として一人前になるためにはある程度の年数が必要ですが、トップスタイリストになる前に退職してしまうスタッフも多いものです。しかし、M&Aを行うことで店舗間における人材の移動が容易になり、退職防止につながる効果も期待できます。例えば、ローブランドやミドルブランドの美容院(美容室)は、アシスタント不要の店舗が多いため、早い段階からスタッフを現場に立たせることが可能です。そこでの仕事に慣れたらハイブランドの店舗へ移動させたり、反対にハイブランドの店舗でのアシスタント業務に耐えられなくなったらミドルブランドやローブランドの美容院(美容室)に移動させるといった人材の入れ替えも可能です。
異業種からの参入については、既存事業とのなんらかのシナジーが期待できることを前提に買収を行います。従って、美容業との親和性の高い事業を持っていれば、それとのシナジー効果を得たり、あるいは自社の高い経営スキルやマーケティングスキルを活かしてサロン経営を改善し、事業を立て直したり、成長を加速させたりすることも可能です。
【売手側のメリット】
自社を売却するメリットとしては、自力でこれ以上の成長が難しい場合に、投資ファンドなどの経営のプロに事業を委ねることで、短期間で事業を拡大させることができる点が挙げられます。
また、売却益を基に別事業を始めたり、早期リタイア・ハッピーリタイアを目指すことも可能でしょう。案件数は少ないですが、後継者不在の場合、ある程度の顧客基盤があれば事業承継することも可能です。
4.売手が抑えておくべき成功ポイント・注意点
ここでは、売手がM&Aに成功するために必要なポイントや注意点について説明します。
①組織として機能する体制を構築する
M&Aで成功するためには、特定の個人に依存した属人的な美容院(美容室)ではなく、組織として機能する体制を構築しておくことが極めて大切です。オーナー、幹部社員、店長、スタイリスト、アシスタントなど、役割分担を明確にし、効率的に連携が図れる組織を作り、多店舗展開していく。そのためには人材教育のためのマニュアルなども必要でしょう。また、組織としての特色を出していくことも大切です。例えば人材であったり、店舗の雰囲気であったり。「このサロンを買いたい」と思わせる特徴があれば、買手も増えやすいでしょう。
②固定客の数や比率をKPIとして定める
固定客の数や比率をKPI(重要業績評価指標)として定め、それを目標に事業を展開していくことも必要です。大手検索・予約サイトに依存した新規顧客獲得ばかりでは、なかなか利益が出ません。固定客(リピーター)を増やすためには何が必要なのか。顧客とのコミュニケーション、技術、店舗の雰囲気、あるいは魅力的な物販が必要なのか。そういったことをしっかりと分析し対策を講じてく必要があります。一定の固定客がいれば、企業価値評価の際にそれをのれんとして計上することも可能です。
③売上を伸ばしコストを下げる
企業価値評価の際、最終的には利益が重要視されます。売上をできるだけ伸ばし、コストをできるだけ下げるよう努力しましょう。売上を伸ばすためには、固定客を増やすべきなのか、新規顧客を増やすべきなのか。回転率を上げるべきなのか、単価を上げるべきなのか。あるいは店舗での商品販売が必要なのか。コストについては、賃料(テナント料)、人件費、公告宣伝費、材料費、水道光熱費などのコストの管理を、会社全体としてだけではなく、店舗別に収支をまとめ、コスト削減の余地がないかどうかを店舗間で比較分析しながら適切な対策を講じていく必要があります。
また、顧客分析も必要です。男女比、年齢構成、新規顧客と固定客、新規顧客の流入経路、メニュー、担当スタイリスト…。大手検索・予約サイト経由の新規顧客が多いのであれば、SNSやMEOでの集客をもっと強化していくことも一つの手でしょう。他エリアに新規出店する際には、例えば店舗物件は30坪以内で、売り上げに占める賃料(テナント料)の割合は15%以下にする、といった基準を設定することも有効です。事業計画や出店計画、顧客管理、店舗別収支の資料を揃えることで、売却の可能性が高まるばかりか、売却価格に大きく影響します。売却する際には意識して揃えるようにしましょう。
④美容師から見ても魅力のある会社にする
美容師としての技術は、残念ながらM&Aにおいてはあまり評価されません。技術が優れた美容師がいることで売買価格にプレミアを付けるといったことはしません。それよりも、組織がしっかりしていて利益を出せる体制になっているかどうかが重要です。美容師として最低限の技術は必要ですが、固定客の獲得のためには技術の優秀さ以上にコミュニケーション力や人間性の方が大事だと言われています。
一方、美容院(美容室)で働く美容師の数は重要視します。買手も人材の流出・流入が激しい業界であることはわかっていますので、人材の出入りがあることは問題ではありません。年間を通じて減少しているのであれば問題ですが、そうでなければそれほど問題にはなりません。むしろ、美容師が抜けてもすぐに入ってくることを評価する場合もあります。それは、給与水準がいい、働きやすい、立地がいい、社長が魅力的、店舗を任せてもらえるチャンスがある、といったなんらかの魅力があるからその美容院(美容室)に入社するわけです。そうした魅力のあるサロンかどうかを改めて確認し、より魅力的なサロンになるよう努めましょう。
話者紹介
スパイラルグループ株式会社M&Aコンサルティング
代表取締役
松栄 遥(まつえ はるか)
横浜国立大学工学部卒業後、2012年に株式会社キーエンスに入社し、工場内の生産ラインで使用する画像処理センサーのコンサルティング営業に従事。常に国内トップクラスの成績を残す(受賞歴多数)。2015年、バンタンデザイン研究所にてクリエイティブを修学の後、2016年に株式会社日本M&Aセンターに転職。役員室所属として、数多くのディールを成約に導き、年間新人賞を受賞する。その後も第一線で活躍し、2019年に「企業価値を高めて売却を狙う“スケール型M&A”」を実現させるスパイラルコンサルティングを立ち上げる。また同年、“事業承継問題“を解決すべく、株式会社M&Aコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。
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