バス業界のM&A〜廃業・倒産したら会社の資産はどうなる?現状やポイントを解説!
はじめに
バスは通勤・通学・買い物など、私たちの暮らしに欠かせない移動手段のひとつ。人口減少や少子高齢化が進展する昨今、厳しい経営を強いられているバス会社も少なくありません。なかには資金繰りが悪化し、苦渋の思いから廃業を決断する経営者の方も。廃業・倒産した場合、抱えていた車両などの資産はどうなってしまうのでしょうか。今回は運輸業界のM&Aを幅広く手がけてきた、かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社の三浦正裕さんに話を伺いました。
目次
1.バス業界の市場環境について
ひと口に「バス会社」と言っても、バス会社は乗合バス事業と貸切バス事業に分けられます。「乗合バス」とは路線バスや高速バスなど、あらかじめ走る経路を定めて定期的に運行し、不特定多数の旅客を運送するバスのこと。「路線バス」とも呼ばれますが、正しくは一般乗合旅客自動車運送事業と言います。
一方の「貸切バス」とは観光バスやスクールバスなど、依頼者の要望する目的地や日数などに応じて車両を貸し出し、団体客などを運送するバスのこと。正しくは、一般貸切旅客自動車運送事業と言います。
ここからは、運行形態別に市場環境を見ていきます。
乗合バス
※国土交通省「数字で見る自動車」2020より
国土交通省が毎年行っている調査(「乗合バス事業の収支状況」について)によると、2019年度の収入は前年度と比較して1.6%の減、支出については前年度と比較して0.8%増、経常収支率については前年度から2.3ポイント悪化して92.8%という結果でした。
乗合バスの輸送人員および収入は、自家用自動車の普及などにより、1992年度以降減少傾向にあります。乗合バス事業は、2002年の規制緩和で免許制から許可制になり、タクシー会社や運送会社といった近接業種からの新規参入が相次ぎ、過剰な価格競争を招きました。
その結果、バス運転手の賃金低下や長時間労働など、過酷な労働環境が問題視されるようになり、関越自動車道における高速ツアーバスの事故が発生したことで、国の安全規制が強化されました。基準をクリアするのに必要な費用負担が重くなり、基準を満たせない事業者の撤退が相次ぎ、過剰な価格競争は緩和されました。
しかし、地方における人口減少や少子高齢化は深刻で、輸送人員も減少傾向にあります。さらに軽油価格や人件費の高騰などにより、乗合バスを取り巻く環境は依然厳しい状況にあります。全国のバス事業者の約7割が赤字になるなど、経営破綻や路線撤退に追い込まれている会社も少なくありません。
貸切バス
※国土交通省「数字で見る自動車」2020より
一方、貸切バスは2014年に導入された運賃・料金制度の改定と、インバウンド需要などから、輸送人員は増加傾向にありました。東京オリンピック・パラリンピック輸送では選手やマスコミの輸送などで貸切バスの要請も多く、団体客および旅行会社を通じたバスツアー客の利用が見込まれていました。
しかし、ここにきて新型コロナウイルスの感染拡大で、2020年4月の訪日外国人数は前年同月比マイナス99.9%にまで落ち込むなど、先行きが不透明です。また、緊急事態宣言などで観光バスツアーや修学旅行のキャンセルも相次ぎ、バス業界全体で大幅な輸送人員の減少が起きています。
乗合バスは、日常生活に不可欠な公共交通機関としての役割を担うために、新型コロナウイルス感染拡大の危機下でも輸送人員を減らしながら運行を続けていますが、地方部を中心に赤字となっている乗合バス会社が多く、今後の経営に対する危機感が高まっています。
2.バス会社が抱える課題とは?
バス事業は人件費の占める割合が大きい労働集約型の産業です。今や運転者の確保が経営を左右すると言っても過言ではなく、各社で労働条件の改善や労働環境の整備に取り組み、優秀な乗務員確保に注力しています。ここでは、バス会社が抱える課題を紹介します。
①慢性的な運転者不足
バス業界では慢性的な運転者不足という課題に直面しています。国土交通省の調査(国土交通省「数字で見る自動車」2020)によると、乗合バスの運転者は約84,000人、貸切バスの運転者は約48,000人と、この10年間ほぼ横ばいで推移していますが、長期的に見ると、乗合バスの運転者は1976年をピークに約25%減少しているのがわかります。
運転者不足には様々な原因が考えられますが、バスの運転者を希望する求職者が減少していることが大きな原因のひとつです。全産業と比べて労働時間も多く、所得も低い傾向にあるため、職業としての魅力が薄れている可能性もあるでしょう。求職者のなかには、バス運転者に対して過酷な労働環境をイメージする方も多く、こうしたイメージを払拭するために、バス会社では労働条件の見直しや待遇改善などに努めています。
また、この10年間で高齢運転者の割合は年々増加しており、今や6人に1人が60歳以上という調査結果もあります。運転者の平均年齢が50歳以上というバス会社も珍しくありません。全国的に、女性のバス運転者を積極的に採用する動きも見られますが、割合としては決して多くなく、労働時間の長さや労働環境の整備など、課題もあります。
2020年6月に道路交通法が改正され、2022年をめどに、バスの運転に必要な大型二種自動車運転免許の受験資格を「19歳以上、普通免許等1年以上」に緩和する動きも見られます。高齢化が進むバス業界において、若手運転者の確保は喫緊の課題となっています。
②信頼性の向上
2012年に発生した関越自動車道のバス事故、2016年に発生した軽井沢スキーバス事故など、バス会社による重大事故が頻発しています。運転者の過酷な勤務体制がニュースでも大きく取り上げられたことで、バス業界の信頼性は大きく下がりました。
バス業界の信頼回復や不安を払拭するために、バス会社各社では労働環境の改善や運行システムの見直し、ITを活用したバスロケーションシステムの導入など、様々な施策を行っています。全国の地方自治体がバス会社やIT企業などと連携し、自動運転バスの実証実験に乗り出す動きも見られ、バス会社にはこれまで以上に安全性・信頼性の向上が求められています。
③環境への取り組み
人々の環境への関心の高まりを背景に、全国のバス会社でエコドライブの徹底や省資源活動、環境にやさしい低公害車の採用など、環境に対する取り組みを推進しています。
平成30年に国土交通省より「電動バス導入ガイドライン」が出され、国はEVバスの普及促進を図ろうとしていますが、環境性能の高い車両や低燃費車両を導入するには多額な費用がかかり、バス会社にとって経営を圧迫する一因ともなっています。
3.廃業・倒産した場合の会社の資産はどう評価される?
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コロナ禍により、観光バス事業者の倒産、休廃業・解散がともに過去最多を更新するなど、バス業界はかつてない厳しい経営環境に置かれています。ここでは、バス会社が廃業・倒産した場合の資産について解説します。
バス会社における資産には、バス車両や営業所・バス停・自家用給油所などの不動産があります。バスの車両は一般的な乗用車と比べると生産台数も少なく、納期に時間がかかることから、高い値段で取引されるのが一般的です。そのため、残った車両は廃業時に売却することができます。
売却の相場は、車両の年式や走行距離、大きさ(大型・小型)、メーカーなどから査定されますが、あくまでも第三者から見た適正価格(中古での取引相場)で評価されます。ただし、車両の用途が限られているため、購入時と比べて価格の目減りは避けられないでしょう。
また、自家給油所を持っている場合は注意が必要です。自治体によっては土壌汚染の調査が必要になり、土壌汚染が深刻な場合、浄化費用がかかるケースも。売却する場合、土壌汚染のリスクなどが織り込まれて割安になる可能性があります。
持っている資産が多く、負債を完済できるようであれば「廃業」を選択し、残った車両や土地を売却して現金化することができますが、債権者へ債務の支払いができなくなるまで経営が悪化した場合、法律にしたがって「破産」手続きを取らなければならないことも。残った車両や土地は売却・現金化されて債権者に分配されるため、経営者のもとに残るのは多くありません。
4.バス業界におけるM&Aのメリット
近年、廃業を検討する前に、M&Aによって活路を見出そうとするバス会社も増えています。
ここでは、バス業界におけるM&Aのメリットや事例を紹介します。
M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略で、日本では「合併・買収」を意味し、2つ以上の会社が一つになったり、ある会社が他の会社を買ったりすることを指します。かつては「身売り」というイメージが先行していましたが、売手・買手ともに大きなメリットが得られることから、活発化を見せています。
バス業界のM&Aは、同業種や隣接業種との間で実行されるケースがほとんどです。買手として挙げられるのは、バス会社やタクシー会社、鉄道会社。一般貨物輸送業界の会社がバス会社をM&Aするというケースもあり、幅広く人や物を運ぶという会社であれば過去に成約した事例もあります。
M&Aは買手、売手双方にとって多くのメリットをもたらします。ここでは、それぞれのメリットについて紹介します。
買手・売手のメリット
買手がM&Aを行う目的は様々ですが、運転者不足で悩む企業も少なくなく、運転者を確保できることはM&Aのメリットです。同業種のバス会社をM&Aで買収することで、優秀な運転手を確保することができます。一方、売手にとっても、より規模の大きい買手の傘下に入ることで、雇用の継続や採用活動の強化を実現することができます。
買手のメリット
買手のメリットとして、以下のような点が挙げられます。
・運行形態の異なるバス事業を買収することで新規顧客を獲得できる
・スケールメリットを生かした管理コストの削減
・バス車両や整備施設を一括で獲得できる
・バス事業における許認可を取得し、新規参入できる
乗合バスと貸切バスでは顧客の性質も異なるため、バス会社を買収することで、新規顧客の獲得にも繋がります。未進出のエリアで営業するバス会社を譲り受けることで商圏を拡大することも可能です。
M&Aを行う最も大きなメリットとして挙げられるのが「管理コストの削減」。事業の規模が大きくなることでスケールメリットの恩恵を得ることができます。例えば、燃料や車両などを大量に仕入れることで、より安価でサービスを提供できるようになりますし、設備を共有するなどして、営業効率を高めることも可能です。
通常、異業種が新たにバス事業を始める場合、バス事業の許認可を得る必要がありますが、選択するM&Aスキームによっては、バス事業に必要な許認可を承継できるため、短期間で新規参入することが可能です。
売手のメリット
売手のメリットとして、以下のような点が挙げられます。
・バス会社、バス事業の経営を他社へ引き継ぐことで、後継者問題を解決できる
・規模の大きい会社の傘下に入ることで、事業拡大の可能性がある
・会社の借入金や個人保証から解放される
・会社売却、事業譲渡によって得られる利益の獲得
買手、売手の双方にメリットがあるM&Aですが、近年は人口減少や交通手段の多様化、長引く新型コロナウイルスの影響による業績の悪化が打撃となり、同業・隣接で買手となり得る企業は絞られてきます。そんな中、ハンズオン型コンサルティング会社の株式会社経営共創基盤傘下のみちのりホールディングスがバス会社を次々と譲り受け、DX(デジタルトランスフォーメーション)戦略にて、経営良化させるといった新しい形のM&Aも見られます。
5.バス会社のM&A事例
小規模・零細企業に限らず、中小企業のM&Aも年々増加しています。ここからはバス会社におけるM&A事例を紹介します。
神姫バスによる兵庫県養父市の全但バスの株式を追加取得
神姫バス(兵庫県姫路市)は兵庫県内を中心に、兵庫-大阪間、兵庫-岡山間などをつなぐ路線バス事業者。2015年に全但バス(兵庫県養父市)の株式を追加取得し、同社を関連会社化。株式を取得したことで、首都圏、京阪神、播磨地域等から但馬地域への送客が実現可能になりました。同じ兵庫県内にあるバス会社同士のM&Aであることから、管理コストの削減も容易だと思いますし、兵庫県内発の便を共有するなど効率化も図れて、シナジー効果の現れやすい事例と言えるでしょう。
みちのりホールディングスによる栃木県宇都宮市の東野交通の株式取得
1916年創業の東野交通(栃木県宇都宮市)は、栃木県の県央~県北エリアを広範にカバーする乗合バス事業、貸切観光バス・旅行事業、年間500万人が訪れる観光地那須におけるロープウェイ事業に加え、那須や宇都宮と首都圏を結ぶ高速バス事業を主力事業として営む、地域を代表する交通・観光事業会社。2016年にみちのりホールディングス傘下の関東自動車株式会社と経営統合を実施しました。合併を機に、みちのりホールディングス傘下の福島交通・会津バス・関東自動車・茨城交通グループが地続きとなり、同じ経営体制の下で連携することで、より地域に密着した経営が可能になると考えられています。
6.バス会社のM&Aを成功に導くアドバイス
M&Aの準備には最低でも半年から1年程度かかります。M&Aのプロセスをスムーズに進めるためにも、また買手企業にきちんと評価されるためにも、入念な準備を心がけましょう。
適切な労務管理
M&Aを行う上で、意外に見過ごされがちなポイントが労務管理です。仮にM&A後に残業代の未払問題が発覚した場合、過去に遡って請求されるリスクが残ります。長時間労働が蔓延していたり、残業代未払いが発生したりしている状況であれば、労務管理を徹底しましょう。適切な労務管理が行われている会社であれば、それがプラスとして働くこともあります。
教育制度・若手運転者
買手からすると、運転者の教育が行き届いているかどうかも重要なポイントです。前述したように、バス会社では重大な事故が相次ぎ、企業としての信頼が問われています。一度の事故で、企業のイメージダウンといった社会的な責任も生じかねないため、企業の教育制度や運転者の運転レベルは買手から見られるポイントとなります。また、所属するバス運転者の年齢層も意識しておくべき点です。若手の運転手が多いほど会社に対して将来性を感じるため、買手からの評価も高くなりがちです。腰を据えて採用活動に取り組み、若手人材の採用・教育に力を入れましょう。
運行形態の多角化・ルート開拓
買手のなかには、リスク分散を意図してM&Aを実行する企業も増えています。その意味では、乗合バス事業だけのバス会社よりも、乗合・貸切バス事業を展開するバス会社の方が高く評価される可能性があります。新たに路線バスのルートを開拓するのは難しいかもしれませんが、比較的人口減少の影響が少ないエリア間のルートを持っていると、買手も現れやすいでしょう。
バス業界のM&A事例は決して多くありませんが、M&Aを行うメリットや効果が明確であることから、比較的成約率は高い業種と言えます。売手の経営者次第ではありますが、M&Aで買手の傘下に入った後も代表者の地位に残り、買手とともに事業を拡大させている経営者の方もたくさんいます。業績が悪化するほど選択肢は少なくなってしまうため、傷が大きくなる前に、できる限り早めに相談するのが良いでしょう。
話者紹介
かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社
マネージャー
三浦 正裕(みうら まさひろ)
静岡大学教育学部卒業後、鈴与グループにてエネルギーなどの営業に従事し、2017年新規開拓実績全社1位など多数受賞。その後、株式会社日本M&Aセンターにて、幅広い業界のM&A案件に携わるなど、2019年は売上予算比153%達成。2020年にかえでファイナンシャルアドバイザリーに入社。M&A・事業承継のプレ(経営課題の把握・解決、M&A目標の設定、事業企画・アクションプランの作成、モニタリング)から実行まで、一貫したアドバイザリー業務をおこなっている。
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事業承継総合センターの特徴
- 1万社以上の中から買手企業を比較検討可能
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