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事業承継における株式譲渡とは?手続きや注意点を解説

2019/12/18
更新日:2024/05/13

はじめに

会社の経営を後継者に引き継ぐ事業承継。事業承継の方法はいくつかありますが、その中でもよく用いられるのが株式譲渡です。

株式譲渡は引き継ぐ後継者のタイプによって3パターンに分かれ、それぞれメリット、デメリットがあります。公認会計士でM&A・相続・事業承継について豊富な知識をお持ちの株式会社すばる代表取締役の牧田彰俊様に、株式譲渡の手続きの流れや注意するポイントをわかりやすく解説していただきました。


1.株式譲渡とは?

株式譲渡とは、会社のオーナー(経営者)が、保有する株式を譲ることで、会社の経営を買手に引き継ぐ手続きです。事業承継による株式譲渡の手続きを考える際、まずは誰が引き継いでくれるのか、後継者を選定し、準備を行っていく必要があります。事業承継における株主譲渡手続きのパターンは、次の3つです。

(1)親族内承継

経営者本人の子息や兄弟、配偶者や娘婿などに引き継ぐのが親族内承継です。経営者の血族、親族が継ぐ方法は社内でも受け入れられやすく、日本ではなじみのある承継方法として認識されてきました。しかし近年は「子息に苦労をさせたくない」という経営者本人の思い、「会社を継がず別の道を歩みたい」という後継者の思いからそう簡単にはいかない事例も増えています。

 

(2)親族外承継

親族内に後継者が見当たらなければ、親族外の役員や従業員などから後継者を選ぶ親族外承継という方法もあります。番頭格にあたる優れた経営陣、また取引先や銀行など外部から人材を取り入れるケースもあります。

 

親族外承継の場合、以下の2つのケースがあります。

  • 経営者、あるいはオーナー一族が株主として残り、経営のみ承継する
    株は渡さずに、社長のみ交代するというケースが該当します。
  • 経営権とともに自社株も承継する
    この場合、経営陣が自社株を取得するMBO(マネジメント・バイアウト)という手法になり、後継者が自社株の取得資金をどう捻出するかという問題が懸念されます。そこで、LBO(レバレッジド・バイアウト)の手法を用いる場合があります。オーナーから経営権を買収する時に、銀行や投資ファンドの資金的なサポートを受けるやり方です。

もともとの会社の関係者が自社株を買うわけですから、承継後にトラブルになるリスクも少なく、ある程度スムーズに進むことが予想されます。一方で、中小企業は社長であるオーナー個人の連帯保証などが付された借入金が残っていることもよくあります。そのため、後継者が個人として連帯保証を行うことに踏み切れないケースや、そもそも資金的なサポートを受けるのが難しいケースもあり、結果的にM&Aへと進んでいくこともありえます。

(3)M&A

親族内承継や親族外承継を選択できず、後継者がいないとなると他の企業との合併や事業譲渡、株式譲渡(買収)という形、M&Aによる承継を考える必要があります。

 

株式譲渡の方法

事業承継における株式譲渡は、売買、贈与、相続の3つの方法で行います。

親族内であれば、後継者に生前に贈与する方法、相続によって株式を渡す方法、もしくは生前に株式を売買することになります。どの方法であっても、税金が発生します。

相続の場合は、基礎控除がある分、贈与税よりも節税できるメリットがあります。しかし一般的な相続とは違い、事業承継は一朝一夕に進むものではありません。後継者は株式だけの問題ではなく、事業内容の把握や経営ノウハウを身につけておく必要があります。また他の従業員、取引先に受け入れてもらえるかどうかなど、ある程度時間がかかることが予測されます。ですから贈与税は発生しますが、経営上の側面からは早めに準備をしておくことをおすすめします。

生前贈与の場合、少しずつ段階を踏んで贈与すれば、税額を抑えることも可能です。贈与税対策のため、株式評価が低いタイミングで贈与するのもひとつの方法です。多くの中小企業では、親族間は純資産をベースとして株式評価が決まりますから、生命保険を活用したり、不動産を購入して純資産評価額の引き下げを図るなどの方法がよく利用されています。株式評価を低くしたタイミングで、生前贈与を行うことがポイントとなります。

生前に株式を売買する場合、親族間でも適正な評価額で譲渡することが、後々の税務トラベルを避ける上でも重要です。そのため、生前贈与の場合と同様、株式の評価額を意識しながら、売買するタイミングを検討しましょう。

2.株式譲渡のメリット・デメリット

事業承継において、株式譲渡を行うメリット、デメリットをご説明します。

メリット

(1)手続きが簡単

一般には株式の売買契約を締結し、対価を支払うという流れのみなので、手続きが簡単です。

(2)会社の組織形態を変えずにすむ
株式譲渡で事業承継をするケースでは、経営スタイルはそのまま引き継げます。従業員との雇用契約もそのままで、組織の形態も変わらないというのは大きなメリットです。事業譲渡の場合とは異なり、取引先との再契約も必要ありません。

(3)株式の対価として金銭を得ることができる
売手側には対価が得られますし、廃業のコストもありません。親族外承継で経営陣や従業員が会社を引き継ぐ場合も、もちろん対価が得られます。

(4)株式譲渡時の税率が低い
個人が株式譲渡で売却益が得た際、所得税等がかかります。株式譲渡で発生する税率は売却益に対して約20%です。法人からの事業譲渡になると譲渡の対価は会社が得ることとなり、譲渡益に対して実効税率約33%の法人税等がかかります。ただし法人内で出た費用や繰越欠損金により税金として支払う額を減らすことは可能です。

相続だと控除があります。しかし規模にもよりますが、高い税率が適用されることも。贈与も同様で、高い税率が適用される場合があります。

事業の状況や財務内容などケースバイケースのため、売買を伴う株式譲渡が一概にお得とはいえません。ただ経験的には他の事業承継の方法よりもお得になるケースが多いと考えています。ですので、株式譲渡を検討している場合、まずは専門家に相談してみることをおすすめします。

デメリット

(1)簿外債務も引き継ぐ
買手は経営権を得る代償として、株だけでなく簿外債務や訴訟リスクなど負の要素も引き継ぐことになります。

(2)デューデリジェンス(DD)による問題発覚
一般的なM&Aの場合には、株式譲渡においてデューデリジェンス(以下、DD)を行う必要があります。売手側が会社の価値やリスクなどを明らかにするため、財務内容をはじめ、法務や税務など多面的に調査することを指します。

買手側にとっては、いろいろな情報が得られるDDですが、売手にとっては交渉を難しくする側面があるのも否定できません。DDは親族内承継や従業員が承継する際は行わないことも少なくありません。従業員に資金がない場合は、先にお話したLBOを行ったとしても出せる金額はここまでという結論ありきの交渉の結果で金額が決まることもありえます。売手の思うような金額にならないデメリットも含んでいます。

(3)親族内での相続では、税金が多額になる可能性がある
贈与を行うケースでは、課税方法は2通りです。1つは年間110万円までは年金がかからない暦年贈与という方法。もう1つは相続が発生した時にあらためて贈与財産と相続財産を合わせて計算、課税する相続時精算課税という方法です。なお、一度相続時精算課税を適用すると、年間110万円までの非課税枠は利用出来なくなる点に注意しましょう。

少しずつ贈与する暦年贈与であれば、年間110万円までは贈与税が課税されず、相続税の課税対象となる資産も減らすことで節税効果が期待できます。一方、相続時精算課税は60歳以上の祖父母や父母から20歳以上の子や孫へ贈与をする場合、生涯2,500万円まで贈与時に贈与税がかからず、相続時に計算する制度になります。

つまり、贈与する立場の人が亡くなったら、あらためて相続財産に加えて相続税を計算する必要が出てきます。贈与、相続のいずれにしても、税金をどうするか熟考し、プランニングして進めていかなければならないでしょう。

譲渡制限について解説

株は本来、自由に譲渡できるものですが、例外もあります。株式を譲渡するのに許可が必要となり、譲渡制限が設けられているケースです。これを譲渡制限といいます。

会社には公開会社、非公開会社の2種類があります。

上場会社は公開会社で、株の購入許可は必要ありません。もう1つの非公開会社は非上場会社のほとんどがそうで、譲渡制限が設けられています。原則として、株の譲渡には取締役会もしくは株主総会の承認が不可欠です。

譲渡制限が設けられていても、親族内の事業承継の場合はそこまで揉めることはありません。オーナー一族が株の過半数を持っているケースがほとんどだからです。しかし、非上場会社でも大規模な企業の場合、金融機関や取引先など株主が多く同意を取らなければならないケースも出てきます。

また1990年以前は、株式会社設立のために7人の発起人が必要でした。そのため創業者が資金を出し、名前だけを借りて登記を行っていたケースも多々ありました。この株を名義株といいます。7人の頭数をそろえるためだけに、出資せず名義株だけ持っているケースが珍しくありませんでした。

名義株を放置しておくと、トラブルに発展するリスクもあります。出資をしている「真実の株主」でないことを明らかにし、名義変更する旨などを書面で残しておき、権利関係を整理しておきましょう。

加えて当時を知る人間が少なくなり、名義株の所在わからない場合は、後々権利を主張する株主が出てくることも。その時に誰がどう補填するのか、買手側か売手側かなどを明記し、書面化しておくのがポイントです。買手側も、安心して手続きを進めることができます。

3.株式譲渡の具体的手順について

契約書締結のシーン

ここからは株式譲渡の手順や流れを具体的に挙げていきます。

大まかな流れとして、次の5項目に分けられます。

(1)株式譲渡承認の請求売手が会社に譲渡請求(株式譲渡承認請求書)

譲渡制限株式の数や種類譲り受ける人の氏名などを記載します。

(2)会社にて承認後、売手に通知(株式譲渡承認通知書)

先述した譲渡制限のある非公開会社で必要な手続きとなります。承認機関である取締役会(取締役会がない企業では、株主総会で承認)で承認決議が行われ、株式譲渡が承認されたら、株式譲渡請求者に対してその旨を通知します。

(3)株式譲渡契約書の締結

上記1、2の前後で株式の売手側と買手側、双方が契約を結ぶもので、主に次のような内容を盛り込みます。

  • 譲渡合意
    株式譲渡に関する合意であることを明記すること。どの会社のどんな株式をどういった条件で何株式譲渡するのかなどを具体的に書きます。
  • 譲渡金の支払い方法
    支払い方法や金額、期限など
  • 株式譲渡の表明保証
    売手が買手に対し及び買手が売手に対して、記載されている事項が真実かつ正確であることを保証するものです。例えば売手が株の所有者本人であるということ、会社の財務状況が適切に作成・開示されていることや事業内容に法令違反がないかどうか等など、ケースバイケースで内容は異なります。
  • 契約解除
    契約解除になる事由や契約違反などについて明記します。

(4)売手買手にて株式名義書換請求書

株を譲渡しても、株式名簿を書き換える手続きがなされていなければ、書類上は株主であると主張するのが難しくなります。名義書換請求という手続きを行う必要があります。

(5)会社にて株主名簿の書換(株主名簿記載事項証明書)

株主名簿記載事項証明書は、買手である新株主が株を譲り受けたことを確認する書類です。

一般的なM&Aの流れでは、DDは重要です。ですが、親族内承継などの場合はDDをそれほど重視しないこともあります。親族外の従業員や役員が自社株の取得資金を捻出できないケースでは、LBOの形態を選択し、金融機関から借り入れなければならないことも。そのための調査やDDが必須となる場合もあります。

手続きにおいては、以下の書類が必要となります。

  • 株式譲渡契約書
  • 株主名義書換請求書
  • 株主名簿
  • 株主名簿記載事項証明書の交付請求書
  • 株主名簿記載事項証明書

譲渡制限がある会社では、上記に加えて取締役会招集通知や取締役会議事録、また株主総会招集に関する取締役の決定書や株主総会招集通知、株主総会議事録、株式譲渡承認通知なども必要です。

4.株式譲渡をする際の注意点

M&A・事業承継を検討している方へ

当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。

実際に株式譲渡の手続きを行う時に、どんなポイントに気をつければいいのでしょうか。知っておくべきこと、注意点を解説します。

1.株券不発行会社の株主名義の書換について

株式譲渡において、株券発行会社と株券不発行会社では手続きが異なります。
定款や会社の登記情報などで確認しておかなくてはなりません。

2006年の会社法により、定款により株券を発行することを定めているのが株券発行会社、それ以外の会社が株券不発行会社となります。しかし、会社法施行前の株式会社は定款を変えない限りは、以前のまま、株券発行を義務づけられている状態となっています。

株券不発行会社では、売手と買手の合意で株式譲渡が行えます。株式譲渡の対抗要件、つまり第三者に株主だと主張するために、株主名簿の名義書換を行います。株券発行会社で株式譲渡を行う際、売手と買手の合意のみならず、株券を交付することが条件となります。

2.契約の合意は両者で取る

最終条件の交渉には、互いの認識を合わせる必要があります。両者に合意がなければ、後々トラブルの元となりえます。

3.譲渡時に発生する税金について

株式譲渡で得た所得には、所得税等が課せられます。収入から取得価額・必要経費を引いた所得が譲渡所得です。所得税と住民税と復興特別所得税で売却益の20.315%かかることになります。また親族内承継により相続や贈与の場合、相続税や贈与税がかかります。発生した税金を支払うのは次年度になりますから、税金分の資金を使ってしまわないよう計画をたてることが大切です。

事業承継についての税金の納税猶予や免税が適用される事業承継税制を検討する方法もあります。相続時精算課税制度との併用も可能になりました。

しかし、いくつかの条件を満たす必要があったり、認定が取り消された場合には相続税よりも高率の税額となるリスクも考えられます。

また資産を管理会社に任せている場合、売却益が資産管理会社に入る場合は法人税等が発生します。所得が多い場合、法人税の方が支払う税金は安くなることもあります。

事業承継における株式譲渡は専門的な知識が必要となります。手続きも煩雑で、税金の問題ひとつとっても、企業ごとに事情が異なるのが実情です。株式譲渡を親族内でするのか、親族外にするのか、またM&Aを用いるのかによってもケースバイケースです。専門知識に長けた専門家のアドバイスをあおぐことをおすすめします。

 


話者紹介


株式会社すばる
代表取締役 牧田 彰俊(まきた あきとし)
牧田公認会計士事務所代表、株式会社保険のすばる代表取締役会長。有限責任監査法人トーマツ入所、各種業務の法定監査、IPO支援に携わる。その後、ファイナンシャルアドバイザリーサービス部門にてM&A アドバイザリー業務・財務デューディリジェンス業務・企業価値評価業務等に従事。組織再編によりデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に異動し、主に国内ミドルキャップ案件のM&Aアドバイザリーとして、豊富な成約実績を収める。2018年、これまで以上に柔軟に迅速に各種ニーズに応えるべく株式会社すばるを設立。2019年、M&Aクライアント企業やオーナーへのサービスライン拡充として保険のすばるを設立し、現在に至る。

 

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