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不動産賃貸業で事業承継税制を活用する際のポイントと注意点を詳しく解説

2021/05/13
更新日:2024/05/13

はじめに

平成30年度の事業承継税制の改正によって、事業承継における相続税・贈与税の納税猶予の適用要件が大幅に緩和され、活用できる範囲が広がりました。しかし不動産賃貸業は他の業種と比べると、税制の優遇措置の適用要件を満たすのは簡単ではありません。しかし事業の展開の仕方によって、活用が可能になるケースもあります。どのような場合に新・事業承継税制を活用できるのか。活用する際のポイントや注意点について、コンパッソ税理士法人の税理士・乙成保徳さんに詳しく解説していただきました。


1.新・事業承継税制とはどんな制度なのか

書類を見ながらミーティング

※photoACよりイメージ引用

まず平成30年度に改正された新・事業承継税制の概要を説明しましょう。

(1)事業承継税制の概要と改正された背景

事業承継税制は中小企業の事業承継を円滑に進めることを目的として平成21年に創設された優遇税制です。事業承継の際に後継者に課せられる相続税・贈与税の支払いが一定期間猶予され、いくつかの要件を満たしていれば支払いが猶予され続けるため、実質的に相続税と贈与税がゼロになります。

もともと事業承継税制は中小企業における経営者の高齢化の進行と後継者不在という慢性的な問題に対応するために作られたものです。しかし導入当初の事業承継税制は適用要件が厳しく、決して使い勝手が良いとは言えないものでした。中小企業の事業承継をさらに促進するために、適用要件を大幅に緩和する方向で平成30年度に改正されたのが「新・事業承継税制」です。

(2)平成30年度の税制改正で適用の要件が緩和

新・事業承継税制に変更され、贈与税・相続税を納めることを猶予する、さまざまな要件が緩和されました。特に大きな改正点は次の4つです。詳しく見ていきましょう。

1 納税猶予対象の株式の上限撤廃

施行当初の事業承継税制では納税が猶予されるのは保有する株式の2/3という上限が設定されていました。新・事業承継税制では上限が撤廃されて、すべての株式で適用されるようになったのです。また、以前の税制では猶予される割合が80%までだったのが、新税制では100%に変更されました。つまり、要件を満たせば、株式の贈与・相続に関する納税がすべて免除されることになるのです。

2 税制の対象となる後継者候補の数の拡大

旧事業承継税制では対象となるのが一人の後継者のみだったのが、新・事業承継税制では最大で3名までを対象とすることが可能になりました。例えば先代の経営者の子どもが複数いて、すぐには後継者を決められない場合でも、事業承継計画で対象となる後継者を3名まで設定して計画書に盛り込むことが出来るようになったのです。現実に即した改正といえるでしょう。

3 税制適用後の猶予打ち切りリスクの軽減

旧事業承継税制では税制を適用した後の5年間で、承継前の平均8割の雇用を維持しなければ、納税の猶予を打ち切るという条件がありました。この要件が高いハードルとなって、事業承継の促進の妨げとなっているケースもあったのです。

先代から後継者へと会社を承継することによって、取引先がいくつか減る場合もあるでしょう。また先代の引退に伴って、従業員の何割かが退職・転職を選択するケースも少なくありません。5年以内に、8割の雇用を維持できるかどうかを予測するのは難しく、後継者は納税の猶予打ち切りの不安を抱えることになってしまいます。

新・事業承継税制ではそうした後継者の不安を解消する効果が期待できます。新・事業承継税制では仮に8割以上という雇用条件を下回ったとしても、すぐには納税猶予が打ち切りにならないと定められています。認定支援機関に意見書を提出して指導助言を受けることによって、納税の猶予を継続することが可能になったのです。

4 事業承継後に廃業する場合には株価の下落を反映

旧事業承継税制では事業承継後に廃業したり、会社を売却したりする際に、承継した時点での株価をもとに贈与税と相続税が算出されていました。しかし新・事業承継税制では、廃業もしくは売却する時点での評価額をもとにして納税額を計算するので、株価が下がった場合にはその下落に合わせて減額されることになります。つまり、株価の下落を考慮することによっても後継者の将来的な不安が軽減される効果が期待できるのです。

(3)令和5年3月までに「特例承継計画」の提出が必須

新・事業承継税制では要件が大幅に緩和されましたが、適用されるためには、令和5年3月31日までに「特例承継計画」の提出が義務付けられています。「特例承継計画」とは事業承継の対象会社の後継者の名前と承継後の5年間の経営の見通しなどの計画が記載されたものです。

経営計画は基本的には1年ごとに具体的に記載していくことになります。しかし承継前の経営実態に基づいて計画を立てていけば良いので、計画書の作成はさほど難易度の高いものではありません。顧問税理士など専門家に相談し、作成と諸手続を依頼するのが一般的です。「特例承継計画」の提出先は会社のある都道府県庁となります。事業承継はこの「特例承継計画」に則って進めていくことが大前提となります。

(4)旧事業承継税制も継続中

新・事業承継税制に改正されたのちでも旧事業承継税制を活用することはできます。新・事業承継税制ではさまざまな適用条件が大幅に緩和されており、メリットがたくさんあるので、あえて旧事業承継税制を使用する意味はないでしょう。ただし、期限までに「特例承継計画」を提出しないなど、特例が認められなくなってしまった場合には、旧事業承継税制を活用するという選択肢をとることもできます。

2.不動産賃貸業における新・事業承継税制の適用要件

青空と賃貸アパート

※photoACよりイメージ引用

不動産賃貸業は事業承継税制の適用が難しいとされています。不動産賃貸業の多くが「事業」と見なされず、対象外となる場合が多いからです。対象外となるのはどのような場合なのか、適用されるために必要な要件とはどのようなものなのかを解説します。

(1)資産管理会社は原則としては新・事業承継税制の対象外

原則的に資産管理会社には事業承継税制は適用されません。新・事業承継税制のみならず、旧事業承継税制も含めて、原則的に対象外となっているのです。その理由は明示されていませんが、富裕層が所有する不動産などの資産を資産運用会社に移転することによって、相続税・贈与税の減免を行うことを防止するという意味合いがあると考えられます。

事業承継税制が適用されるのは、あくまでも「雇用をもたらす事業」に対してです。事業実態を伴わない会社、納税猶予を目的として設立された会社に適用するとなると、事業承継を推進するという趣旨からはずれる恐れがあります。不公平感が生じないようにするためにも、資産管理会社は原則として新・事業承継税制の対象外になっているのです。

(2)資産管理会社は「資産保有型会社」と「資産運用型会社」の二つに分けられる

資産管理会社には二つのタイプがあります。「資産保有型会社」と「資産運用型会社」です。それぞれ明確な定義があり、該当する場合には原則として、新・事業承継税制が適用されません。それぞれの具体的な定義を説明しましょう。

1 「資産保有型会社」の定義

「資産保有型会社」とはその名称どおり、保有している資産の7割以上を特定資産が占めている会社と定義されています。特定資産とは自社の業務で使っていない不動産、株式や国債などの有価証券、現預金、貴金属などのことです。

2 「資産運用型会社」の定義

不動産賃貸業における「資産運用型会社」は直近の事業年度の総収入額に対して、不動産の家賃収入など、資産を運用することによって得た収入の割合が75%以上を占める会社を指します。

3.資産運用型会社で事業承継税制が適用される例外とは?

住宅を背景として積み上げられたコイン

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資産管理会社は原則的には新・事業承継税制が適用されません。しかしいくつかの事業実態要件を満たすことによって適用される場合もあります。その要件とは次の三つです。

(1)3年以上事業を行っている

相続もしくは贈与日まで3年以上継続して事業を行っていることが新・事業承継税制が適用される一つ目の要件となります。不動産賃貸業の場合の主な事業は不動産賃貸ということになるでしょう。子会社、グループ企業への不動産賃貸ではなくて、第三者への不動産賃貸を行っていることが要件となります。つまり雇用を創出する事業を指します。

(2)従業員が5人以上いる

二つ目の要件は従業員が5人以上いることです。ここでの従業員の定義では親族およびアルバイトやパートなどの非常勤は除外されます。つまり正規の従業員が5人いることが条件となるのです。小規模の不動産賃貸業を営んでいる場合は、この要件をクリアするのは簡単ではありません。

(3)従業員が勤務する事業所がある

三つ目の要件は従業員の勤務する事業所があるということです。事業所は所有しているものでも賃貸でも構いません。ただし、経営者や親族の自宅を事業所として登録している場合にはこの要件を満たしていないということになります。三つの要件をすべて満たした場合に初めて事業実態があると認められ、新・事業承継税制の適用が可能になるのです。

4.不動産賃貸業で事業承継税制を活用するためのポイントと注意点

ミニチュアの住宅を差し出すビジネスマン

※photoACよりイメージ引用

不動産賃貸業では前章で説明した三つの要件を満たすのは決して簡単なことではありません。しかし事業実態のある会社へと事業内容を改善することによって要件を満たし、事業承継税制を活用することは可能です。そのためのポイントを解説しましょう。

(1)事業の外部委託をやめて内製化を進める

不動産賃貸業で事業承継税制を適用する上でもっともネックとなるのは従業員の数でしょう。不動産の管理だけならば、家族や親族だけでも十分に可能である上に、外部に管理を委託しているケースが多いからです。従業員5人以上という要件をクリアするためには、不動産管理業務などの外部委託をやめて内製化を進めることがポイントなります。

(2)事業を拡大する

不動産管理をすべて自社の社員で行ったとしても、小規模の不動産管理の場合ならば従業員の数は5人も必要ないというのが一般的です。後継者が新規事業を展開するノウハウや資金を持っているならば、不動産賃貸とは違う事業を展開するという選択肢も考えられるでしょう。ただし、リスクも高くなってしまうことを念頭に置いておく必要があります。

不動産管理に隣接する業務へと拡大していくのも一つの方法です。ビルの賃貸業務を行っているならば、ビルの清掃や警備なども自社の従業員の仕事として請け負っていくことで、業務の範囲を拡大していくこともできるでしょう。事業実態を着実に積み上げていくことで事業承継税制を活用できる可能性も大きくなります。

(3)長期的な視野に立って判断する

事業を拡大して事業実態を作ることによって、事業承継税制の適用要件を満たすことが可能となります。しかし事業を拡大した場合には、従業員の雇用の維持や事務所の維持など、当然コストも増加することを考慮に入れなければなりません。つまり、長期的な視野に立って健全な事業の運営を最優先する必要があるのです。

まとめ

住宅やマンションの模型

※photoACよりイメージ引用

不動産賃貸業において事業承継税制を活用するためにはさまざまな要件を満たす必要があります。他の業種と比べると適用のハードルは高く、どのような要件を満たせばいいのか、注意すべきポイントは何か、正しい知識を得ることが必要になります。そしてまた、納税回避を目的とするのではなく、実態の伴った事業の展開を目指すべきでしょう。

 

事業承継税制とは、中小企業の経営者が廃業ではなく事業承継を選択する後押しをするものであり、会社が存続することを支援・促進する目的で創設されたものということになります。その趣旨を理解し、長期的な視野に立って事業を展開していくことが求められるのです。

〈話者紹介〉

乙成保徳さん

コンパッソ税理士法人 業務部課長
乙成保徳(おとなりやすのり)平成29年 税理士登録

一般法人や個人事業のほか、医療法人税務、相続、事業承継など対応可能な分野は多岐にわたる。
また、国内税務だけでなく、国際税務にも精通しているほか、経営にかかわる知識にも定評があり、
きめ細かいサービスで顧客からの信頼が厚い。

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