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事業承継を阻害する要因のひとつである自社株問題 スムーズにするための相続税対策を解説!

2020/05/31
更新日:2024/05/13

はじめに

高齢化が進む日本の中小企業。親族や従業員、第三者に事業を承継する時期が差し迫っている高齢の経営者が多いのが現状です。そのような状況下で事業承継がスムーズに進んでいないことの理由に、後継者不足や自社株の贈与、相続に多額の税負担がかかる等の問題があります。

自社株にかかる税負担の軽減対策としては、株価を下げることや持株会社を設立すること、事業承継税制を活用すること等が考えられます。そこで自社株の承継問題や対策方法についてアクタス税理士法人の代表である加藤幸人さんにお話を伺いました。


1.事業承継を取り巻く問題

はじめに、株などの財産承継を含めた事業承継の課題について説明しましょう。

(1)日本の中小企業に欠けている理念・価値観の承継

私は、「ファミリービジネス概論」という講座を、明治大学の大学院で担当しています。経営の承継や財産の承継という観点を中心に授業を行っております。ファミリービジネス(同族経営)は、株式の公開・未公開、規模の大小によらず、創業者やその一族が経営や出資によって参画している会社を指し、日本の企業の約95%を占めているといわれています。

私は、ファミリービジネスというのは、ファミリーの持ち株数や経営に参画するメンバーの数ではなく、会社の理念や価値観が大切ではないかと思います。会社の理念や価値観に重きを置き、それを発展・伝承させ、社内に広く浸透させることこそがファミリービジネスのもっとも重要なポイントでしょう。その点、日本の中小企業の事業承継においては、会社の理念や価値観の承継という「その会社らしさ」を承継する部分が足りないように思います。社長の頭のなかに理念や価値観が入っていても従業員にそれを伝えておらず、社長と従業員との分断化が中小企業の成長を阻害しているように感じています。

事業承継には、会社経営の引継ぎの全体を考える「経営の承継」、自社株や権利関係の承継を考える「財産の承継」、先ほどお話しした理念や価値観の承継を考える「らしさの承継」といった3つの側面があると考えます。今回お話する自社株の問題というのは、事業承継に関わる事項全体のほんの一部です。そのため、理念や価値観の承継を含め、事業承継を全体から俯瞰して、事業承継の方法を考えてほしいと思います。

(2)事業承継の2つのケース

中小企業の事業承継は2つのケースに分類されます。1つめは財務状況や事業内容がよい継続可能な会社です。この場合は、後継者が親族や従業員にいなくてもM&Aにより第三者へ事業承継を行える可能性があります。今回お話する自社株問題もこちらに含まれます。2つ目は財務内容や事業内容が厳しい会社です。こちらは、廃業問題も視野にいれる必要があるでしょう。

財務状況のよい会社は経営の承継問題や後継者選定を片付けて、後継者がいなければM&Aや外部からの承継を考える必要があります。後継者に財産承継を行う場合については自社株対策が必要です。

その一方、厳しい経営状況に置かれた会社は、債務超過で返済ができない場合などは、債務処理を含めて廃業問題を考えなければなりません。

ただ、そのような継続が難しい会社の事業承継についても新しい動きがあります。会社を廃業する場合にも、経営資源を別会社に引き継ぐことで、引き継ぐ側と引き継がれる側の双方にメリットがあるということが2019年の中小企業白書に記載されています。ただし、廃業になった場合でも過剰債務で借金が残って返しきれないという問題があります。そこをどう解決するかは、廃業時の大きな問題です。

2.自社株の承継方法

加藤幸人さん
自社株の承継方法として次のような方法が考えられます。

①経営者から後継者に株式を直接売却

後継者に株式を承継する方法としては、譲渡と贈与があります。まずは、後継者が自社株を購入する方法です。この場合、後継者が資金調達する必要があります。株価が高くなった株式を全部買うと、借入金などの資金調達も大変ですし、その後の返済も大変です。株式を譲渡した場合の税金は、分離課税で20.315%の税率です。

②会社に株式を売却(会社が自己株を取得)

株主である経営者から会社が株式を買い取る方法も考えられます。買い取った株式は自己株式となり議決権はありませんので、後継者がすでに何%かの株式を保有している場合には、自己株式の分だけ相対的に後継者の持株比率が上がり、議決権割合が高くなります。しかし自社株の買取のケースでは、株式の売却の一部がみなし配当として所得課税が総合課税になる問題があるため、株主である経営者の税的メリットがありません。

③持株会社の設立

株式を購入する受け皿として持株会社を設立する方法は多く行われています。一般的には、承継者が会社を設立し、その会社が株主である経営者から株式を買えば、持株会社を通じて間接的に承継者が自社株を所有できます。持株会社の購入資金の調達は金融機関からの借り入れでも会社の借入でもでも構いません。

④自社株の贈与

株式を後継者に承継する方法としては、譲渡のほかに贈与が考えられます。まずは、暦年課税の贈与ですが、年間110万円の基礎控除があり、この基礎控除額以下の贈与であれば贈与税は無税になります。もうひとつは相続時精算課税制度で、簡単に言いますと、生前贈与をした場合に2,500万円までは贈与税が無税になる代わりに、その生前贈与した財産を相続の際に相続税の対象として課税するという制度です。相続時精算課税制度を利用した場合、相続時には、その時点の評価額ではなく、贈与時の評価額で相続税が計算されます。株価が上昇することが見込まれる場合には、節税対策にもなります。

⑤事業承継税制を活用した株式の承継

株式を承継するもうひとつの方法は、事業承継税制の活用です。事業承継税制は、贈与でも、相続でもどちらも利用が可能となっています。ただ、事業承継税制は、会社が経済産業大臣の認定を受けるための申請を行い、一定の要件を満たしたうえで、申告等を行うなどの手続きが必要となります。

このように譲渡、贈与、相続のいずれかによるにせよ、株式の承継に際しては税金の負担が発生します。税負担を軽減するためにはできるだけ低い価格で株式を承継したいので、株価を下げる株価対策をして株式を一気に承継するのが一般的です。その際に株式の評価方法としては「純資産価額方式」と「類似業種比準価額方式」の2つの方式が中心となります。どちらの方式を使うか、あるいは折衷した方式を使うかなどについては、会社の規模により変わってきます。いずれにせよ、純資産価額や類似業種比準価額の株価を下げる策を講じながら、承継方法を検討し実行していきます。

3.自社株の評価方法

株式の贈与の場合、暦年贈与や相続時精算課税制度、事業承継税制等のどの方法を活用したとしても、株価が下がっていた方がいいです。

非上場株式の評価方法には、現時点での会社の財産価値のみで評価する「純資産価額方式」と、同業の上場会社の株価や利益などの一定の指標をもとに評価する「類似業種比準価額方式」、配当を基に評価する「配当還元方式」の3種類があります。株式を多く保有している経営者の場合、純資産価額方式と類似業種比準価額方式を原則的な評価方式として利用することになります。原則的な評価方式では、2つの方式のうち、価額が低い方を利用する場合や2つの方式を折衷して使う場合など、会社の規模に応じてその評価方法が変わります。一般的には、類似業種比準価額方式に基づいて評価したほうが、株価が低く算出される可能性があります。株価を低くするために会社の規模や総資産の状況への対策を行うことで、類似業種比準価額方式の比率を高められる可能性が出てきます。

不動産や借入金、増資などによって総資産を増やすことによって、会社規模が変わり類似業種比準価額の比率を高められることがあります。総資産のほかに従業員数や取引金額等の状況によってどの評価方法が該当するのか折衷割合がどうなるかが決まります。例えば、総資産が一定額以上で従業員が5人超の中会社に分類される場合、さらに取引金額が大きくなるほど中会社の上位に分類され類似業種比準価額の比率が高くなり、株価が下がる可能性が高くなります。また従業員が70人超の場合だと大会社に該当するため、類似業種比準価額方式が適用され、株価が下がる可能性があります。

規模の拡大により従業員を増やすのはなかなか難しいことですが、人の採用が増加する可能性があるのであれば類似業種比準価額方式の比率が高まり、株価が下がる可能性があります。また会社で借入をするなど総資産や金融資産が膨らめば、同様に株価が下がる可能性があります。

中小企業は、株式評価の区分で「中会社」に該当することが多く、その場合には、純資産価額と類似業種比準価額の折衷で株式の評価が行われます。そのため、純資産価額と類似業種比準価額の両評価方法の対象である利益金額や純資産価額を下げる、資産圧縮などの策を講じることにより株価が下がることになります。株を贈与するタイミングを見計い利益圧縮や資産圧縮などの策を講じて、株価が下がった時点で株の贈与を図ると、贈与税が抑えられます。

4.事業承継税制の活用について

事業承継で財産の贈与や相続を行うときに、事業承継税制を活用すれば株式について相続税や贈与税の納税が猶予されます。平成30年(2018年)に特例事業承継税制が誕生し、使いやすさは向上しました。
この制度の内容について解説していきます。

(1)従来の事業承継税制

経営承継円滑化法が平成20年(2008年)に施行されて、自社株の承継方法のひとつとして事業承継税制がこの法律に定められました。従来の事業承継税制は使い勝手が悪くて、平成20年以降、相続と贈与を合わせて年間で多くても200件など、なかなか利用件数が増えませんでした。

事業承継税制の使い勝手を悪くしていたのが、主に対象株式数の制限と雇用確保要件です。対象株式数の制限とは、この税制を活用できる対象の株数が決められており、オーナーの持株全体の3分の2までが対象でした。相続で制度を利用すると猶予できる税金は80%だけでしたので、全部で約半分しか税金が猶予されなかったのです。

もうひとつの要因である雇用確保要件については、事業承継後5年間で平均8割の雇用維持が必要でした。事業承継したのち、先代の経営者だった親が亡くなってから会社がどうなるかわからない状況下で、5年間で雇用を平均8割維持できないと猶予されていた分の税金を納める必要があります。この要件によるリスクによって、従来の事業承継税制は活用しにくいという事情がありました。

(2)平成30年の経営承継円滑化法改正

平成30年(2018年)の税制改正により、特例事業承継税制が誕生しました。適用される対象の株数が3分の2から100%に変更され、猶予割合も相続についても100%になり、無税で株を承継できるようになりました。雇用確保要件に関しても、平均80%を満たせない場合でもその理由を記載した一定の書類を提出することで納税猶予が継続され事業承継税制の使い勝手は改善されたといえます。

特例事業承継税制に関しては事前の計画策定が必要で、2018年の施行から5年以内、つまり2023年3月31日までに特例承継計画を提出しなければなりません。そのうえで10年以内に贈与や相続を行う必要があります。なお、特例承認計画を提出し10年以内に相続も贈与も行わなかった場合に罰則は発生しません。特例承継計画自体の作成もそれほど難しくなく、会社の事業内容や資本金等、先代経営者や後継者の氏名等、経営上の課題とその対応策、承継後5年間の経営計画、弁護士や税理士などの認定支援機関として登録をされている専門家の所見を記載した書類を出すだけです。このため、平成30年以降、登録件数も相当数増えています。特例事業承継計画の申請件数も全国で6,000件など、今までと全然桁が違います。

特例事業承継税制の存在を知らない経営者も多いかもしれません。その場合は、顧問税理士に相談すれば調べてもらえますし、他の税理士に相談してみてもよいでしょう。税理士は法人税等の会社の決算の申告だけではなくて、社長の事業承継を含めて株式の承継も考える必要もあります。中小企業庁も特例事業承継税制について積極的に広報しています。

5.経営者保証ガイドラインの特則について

財産承継には権利関係の承継も含まれています。権利関係で大きなウェイトを占めるのは連帯保証の問題で、この連帯保証が事業承継の障壁になっているケースが多くみられます。後継者が息子の場合には事業承継をせざるを得ないという事情もありますが、親族外や役員の昇格の場合には社長になった瞬間に連帯保証を行う必要があります。これが事業承継の阻害要因になることがあります。

そのため、経営者保証に関するガイドラインがあります。それによると、場合によっては経営者の保証を求めないようにできるというものです。このガイドラインに基づき、経営者に保証を求めない融資も増えています。事業承継については経営者保証の問題がつきまとうので、経営者保証に関するガイドラインの特則が2019年12月に新しく公表されたばかりです。

従来、経営者である親が後継者である子供に社長を譲り、自身が会長に退く場合に、親に保証を残したまま子供にも保証させるという二重徴求が行われることも少なくありませんでした。そこで二重徴求を止めて、父が保証に入っている場合には子供は連帯保証に入れず、タイミングを見計らって保証を父から息子に移すよう、ガイドラインの特則に定められるようになりました。

6.まとめ

今回、自社株問題を中心に財産承継についてお話しをしました。事業承継の問題は財産承継に限りません。
M&A関係の話では、2019年12月に経済産業省が第三者支援総合パッケージを公表しました。中小企業の事業承継におけるM&Aの阻害要因がどこにあり、それをどう解決するかを検討した結果がこのパッケージです。2020年にも第三者承継のための新しい会議が始まると公表されています。会社を他者に売却することへの抵抗感が経営者に根強く、それをどう解消していくかが会議の概要です。仲介手数料の高さや、個人保証の問題や適切な後継者が見つからないといった理由などで承継を躊躇することも少なくありません。これらの問題を解消していかないと、第三者による承継自体も進まないように思います。

話者紹介

加藤幸人さん
アクタス税理士法人
代表社員 加藤 幸人

税理士、公認会計士、社会保険労務士など約170名で構成するアクタスグループの代表を務める。税理士は「接客・サービス・コンサル業」であるという考えにもとづき、いつもお客様の立場になって徹底的に考え、経営視点でのコンサルティングを提供している。事業承継やファミリービジネスの支援も積極的に取り組んでいる。明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科兼任講師を務める(担当科目「ファミリービジネス概論」)。

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