事業承継を行うベストタイミングとは?タイミングを考えるときのポイントと注意点を徹底解説
はじめに
そろそろ事業承継を、と考えていても目の前の仕事に追われ、まだ大丈夫と先延ばしにした結果、気づけばもう70代に差し掛かるという経営者も多いのではないでしょうか。次の後継者へ引き継ぎたいと考えていても、そもそも次の後継者が決まっていないという状況もありえるでしょう。
事業承継を行うベストタイミングはいつなのか、また事業承継を考える際に注意すべき点を、TOMAコンサルタンツグループ株式会社TOMA税理士法人の前川敏之さんに詳しく話を聞きました。
1.事業承継のタイミングを考える上で重要な2つのポイントとは?
事業承継をする場合は、会社の事業や経営状態、後継者の有無など、会社や経営者を取り巻く状況を把握することが大事です。事業承継をする際に、考えるべきポイントとはどのようなことでしょうか。
(1)会社の経営状態の把握
会社の経営状態が安定している場合は、現経営者の求心力を十分に保ったままの事業承継になるので、社内でのトラブルも起こりにくく、事業承継もスムーズにいきやすいといえます。
事業承継をすると社内は不安定になりやすいので、まずは経営者が交代しても安定した状態を目指すべきで、そのためにも経営が安定しているときに事業承継を行うことは理にかなっているといえます。
一方、現経営者の力不足で業績悪化が続いている場合は、早めの事業承継をおすすめします。一般的に事業承継をすると、会社の経営状況は良くなる傾向にあります。一概に全て良くなるとはいえませんが、業績悪化をそのままにしておくことは得策とはいえません。
(2)後継者の有無と、後継者自身の覚悟や能力
事業承継を考える場合、最も重要なことは後継者の選任といえます。事業承継をする側が60代後半から70代であれば、すでに後継者に会社の経営を任せて第一線から退いているべきです。しかしながら、経営者が70代になっても、後継者がまだ決まっていないという会社があるのが実情です。
まずは、後継者候補をリストアップすることから始めましょう。親族内や社内に後継者がいない場合は、社外から第三者の優秀な人を後継者として迎えるか、M&Aを選択するかなど早めの対策が必要になります。
親族内に後継者がいる場合でも、後継者自身が自覚を持ってすでに経営に携わっていればスムーズな事業承継も考えられますが、まだ年齢的に若かったりすると、重責に耐えられないなど問題が起こることもありえます。一方、後継者が50代後半を超えると、会社を継いだ後すぐに次の後継者を探さなければならず、ただの引き継ぎ役になってしまいます。
一般的に、後継者が40代のときの事業承継がベストタイミングだと考えられています。中小企業庁の調査によると、事業承継を行ったときの後継者の年齢は、30代後半では早すぎで、50代になると遅すぎると感じるようです。この結果からも、後継者が40代のころに事業承継を進めることをおすすめします。
親族内や社内から選んだ人材を後継者として時間をかけ育てていくのか、または心当たりの後継者がいなければM&Aを考えるのか、後継者の有無や後継者自身の覚悟や能力によって、事業承継のタイミングは異なってきます。
2.事業承継を成功させるための注意点
ここでは、事業承継を成功させるためにどのような点に注意すればいいのか説明していきます。
(1)5年から10年という長いスパンで事業承継を考える
事業承継はどのような形であれ、5年から10年もの長い時間をかけて進めるほうが上手くいきます。
親族内に後継者がいない場合でも、社内に優秀な人材がいれば、後継者として経営を任せることも考えられます。このような場合は、従業員だった人がトップとなって会社を引っ張っていくのですから、ほかの従業員が納得できるような能力や人望が求められるでしょう。事業承継を長いスパンで考えていれば、経営だけでなく営業や取引先との関係まで、時間をかけて教育してバトンを渡すことができます。
もし、後継者がいないという状況であれば、M&Aを考えることになります。運よくすぐに買手が見つかればいいのですが、見つからない場合は、やはり時間をかけて買手を見つけることになります。5年から10年という時間的余裕があれば、納得できる買手を探すことができます。
事業承継を長期間で計画することによって、選択肢が増え、たとえ問題が生じても余裕を持って解決していくことができます。
(2)後継者の意思を確認する
事業承継を進める上で大事な後継者の選任ですが、後継者自身が覚悟を持っているかどうかはより重要といえます。
社会のIT化やグローバル化で、会社を取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。今までと同じような経営では先細ることが予想されるのであれば、方向転換をして新しい事業を始める必要もあるでしょう。国内での利益が見込めない場合、海外展開も選択の一つになります。
変化の大きい社会の中で、ご自身の家族だけでなく従業員の家族まで面倒を見る覚悟がなければ、経営者としての責任を全うすることはできません。どのような状況でも会社を守り切るという覚悟があるのかどうか、後継者の意思確認は非常に重要です。
(3)業種・業態・立地等の再検証
事業承継は、ご自身の会社の業種や業態が、社会の中でどのような立ち位置なのか、再検討する絶好のタイミングといえます。
たとえば出版会社であれば、電子書籍があるなかで、今までと同じような手法の経営では生き残ることは難しいでしょう。IT化やグローバル化の波をどのように乗り越えていくのか、後継者とともに方向性を再検討する必要があります。
また、中小企業であれば、ネットワークに参加することも必要です。情報が価値を持つ時代のなかでは、ご自身の会社だけで戦うのではなく、ネットワークに参加して多くの企業と情報を共有しながら発展していくことも大事になってきます。
(4)現経営者は早めの引退予告をする
現経営者が体力的に問題なく働いているうちは、年齢的な危機感を持てず、事業承継は後回しになってしまいます。2代目ともなると目の前の仕事をこなすのに忙しく、後継者のことをじっくり考える余裕はありません。
しかし、理想をいえば現経営者が60代になるころには後継者が決まっているべきです。会社の経営には、寿命があります。その点をしっかりと自覚し、ご自身が会社を継いだときから次の後継者を考え始めるくらいの早めの準備が何より大切です。
事業承継をするときは、現経営者は会長職に就き後継者を社長に迎え、後継者が会社を問題なく経営できるようになるまで並走期間を設けることをおすすめします。現経営者が早めの引退予告をし、充分な並走期間を設けることで、従業員や取引先も事業承継に対する心構えができます。
3.事業承継計画書の作成
事業承継をする場合は、事前に事業承継計画書を作成します。事業承継計画書を作成することで、頭のなかで漠然と考えていたことをより客観的に捉えられるようになります
(1)事業承継計画書を作成するメリットとは
事業承継計画書には、いつまでに何をどのように進めるのか、具体的な日付を入れることが重要です。事前に期日を明確に決めることで、進捗状況を把握することも容易になります。
さらに、現経営者と後継者が一緒に作成することで、お互いの認識をすり合わせることができます。今まで培ってきた事業をさらに発展させていくのか、またはまったく違う事業を展開するのかなど、会社のトップが同じ将来像を抱きながら事業承継を進めなければ、事業承継は上手くいきません。
事業承継計画書を作成し、親族や従業員、取引先や金融機関に会社の将来像を見せることで、彼らの協力が得やすくなります。
(2)事業承継計画書を作成するタイミングは
事業承継を考え始めたら、具体的な後継者が決まっていない状況でも、まずは専門家に相談することをおすすめします。専門家と一緒に事業承継を計画していくことで、現在の経営の問題点も把握でき、漠然と考えていた内容をしっかりと整理することが可能になります。現経営者が50代から60代のときに、一度は専門家に相談しましょう。
事業承継計画書は1回作成したら終わりではなく、何度もアップデートが必要です。事業承継の間にも社会が変化していくので、社会の変化に応じた修正が度々必要となります。
4.節税対策と相続対策について
多くの中小企業において、後継者不足は大きな問題となっています。国は、少しでも後継者の負担を軽くして企業が存続できるよう、さまざまな政策でサポートしています。
そのうちの一つ、事業承継税制は、後継者が相続や贈与などで取得した株式に対する税金を、一定の条件の下、納税を猶予するものです。株式を相続した後継者が税金を納めることができず、法人を解散しなければならなくなるような状況を防ぐのに役立っています。
事業承継をするときは、税金や相続の問題など多くの要素が絡んできます。特に親族内での事業承継の場合は、法定相続人のことを考慮しなければ禍根を残すことになりかねません。本来は、後継者が経営に集中できるよう、全ての株式を後継者が相続できるように取り計らうべきです。
事業承継において相続リスクがあるのなら弁護士、税金面での問題であれば税理士や公認会計士と、ご自信の事業承継のフェーズに合った相談先を見付け事業承継を進めましょう。
5.事業承継する前の事前準備とは
M&A・事業承継を検討している方へ
当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。
事業承継をする前には、社内の環境整備をする必要があります。中小企業では、社長のみが経営に携わり、社長以外は従業員という形はよく見受けられます。後継者を迎えるのであれば、曖昧にしていた社内制度をルール化し、誰が見てもわかりやすく整えることで、後継者が経営しやすくなります。
M&Aを考える場合は、自社の決算書以外の強みを整理することもいいアイデアです。取引先の実績や従業員そのものなど、思ってもみないことが企業の強みとなりえます。どのようなことが市場のなかで価値があるのか、自社だけで考えるには限界がありますので、このようなときこそ専門家の知恵を借りましょう。
事業承継は、現経営者や後継者、従業員が会社を改めて見直すきっかけとなり、社会に貢献している会社であると共通認識を持てれば、事業承継後も会社の士気は自然と高まります。
6.まとめ
現経営者が元気で問題なく経営している間は、事業承継は後回しにされる傾向にありますが、会社の経営には寿命があることを理解し早めの対策をとることが大事です。早めの対策を取ることで、さまざまな選択肢の中から、会社にとってよりよい選択をすることができます。
現経営者が60代のころには、後継者がすでに決まっていることが理想です。会社の経営状況や現経営者や後継者の年齢を考えて、事業承継のタイミングを決めましょう。後継者が40代のころの事業承継が、ベストタイミングとの調査結果もありますので、ぜひ参考にしてください。
事業承継は、相続や税金問題など多くの要素を加味しながら進める必要がありますので、専門家に一度相談することをおすすめします。
話者紹介
TOMAコンサルタンツグループ株式会社TOMA税理士法人の戦略税務コンサル部
部長 前川敏之さん
TOMA税理士法人 戦略税務コンサル部 部長 税理士
税理士試験合格後、大手税理士法人を経てTOMAコンサルタンツグループ入社。
TOMA税理士法人では事業承継部門を統括し、年間100件以上の事業承継案件に携わる。親族への株式の承継から、親族外の後継者への経営の承継まで、中小企業の事業承継案件を幅広くサポートしている。
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