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カー用品卸業界のM&A~その実態と注意事項を詳細に解説!

2020/05/27
更新日:2024/05/13

はじめに

現在、日本の自動車保有台数は約8,200万台で、ほぼ1世帯につき1台の自家用車がある計算です(2019年3月現在。一般財団法人自動車検査登録情報協会による)。1976年は1,713万台で1世帯に0.5台だったので、40年あまりで世帯数あたりの保有数は2倍に増えたことになります。かつては庶民の夢といわれたマイカーは、今や「一家に1台が当たり前」という時代になっているわけです。

急成長を成し遂げた自動車業界ですが、少子化による人口減少によって、全体の台数そのものに大きな変化はないものの、1世帯あたりの保有台数は確実に減少してきています。そして、自動車産業の発展とともに「カー・アクセサリー文化」とも呼ぶべき多種多様な自動車関連グッズを生み出し成長を続けていた「カー用品」を取り扱う小売店や卸業者にも、不況による売上ダウンという暗い影が忍び寄っています。

このような時代背景により、M&A市場では、カー用品卸業界の会社名が頻繁に挙がる時代になってきています。そこで、業界事情と実際のM&A事案に詳しい弁護士法人淀屋橋・山上合同の弁護士である藤田清文さんにカー用品卸業界におけるM&Aの実態と注意事項を詳しく解説していただきました。


1.カー用品・卸業界の現状

車

自動車で使用されるさまざまな関連商品は一般的に「カー用品」、「カー・アクセサリー」、「カーグッズ」などと呼称され、膨大な数の商品が日本全国のみならず広く海外にも流通しています。
一般ユーザーを対象とする安価なアクセサリーから実用的なグッズ、そしていわゆる「カーマニア」といわれるコアなヘビーユーザー向けの高額商品にいたるまで、幅広い商材があるという点がカー用品の特徴です。

それでは、具体的にカー用品を取り扱う業界の現状はどのようになっているのかを紹介しましょう。

(1)小売店を取引先とする卸業者の存在

一般消費財は小売店を通じて消費者に品物が渡ります。そして小売店に品物を売る(卸す)業者が「卸業者」(または「卸売業者」)です。一般的に卸業界は、メーカーと小売店という会社同士の中間に位置し、両者の橋渡し的役割を担っている存在といってよいでしょう。

もちろん、カー用品以外の分野でも一般小売店には必ず卸業者が存在しているのですが、カー用品は多種類多品目の商材であると同時に、消費者の好みも多様である特殊な商材なので、小売店よりも卸業者が業界の動向を正確に掌握しているといわれています。

(2)カー用品卸業界の特異性

カー用品卸業界では、カービジネスのネットワークを持っている卸業者と取引することが小売店の売上アップに直結する最善策だといわれています。そして、卸業者が取引する仕入先の数によって企業価値が左右されるとも称されている業界なのです。

すなわち、小売店に「あの卸業者と取引すれば、安価な商品の安定仕入が可能だ」と評価されるのが、よいカー用品卸業者の条件になっているのです。評価が高まれば、必然的に取引する小売店も多くなるので、支払条件が良好となり、なお一層高評価が得られるという構図です。
また、メーカーとしても、数多くの小売店と取引している卸業者は魅力的な取引先に映ります。

(3)高評価される卸業者の条件

カー用品メーカーの数は数百社ともいわれ、より多くのメーカーとの接点を有する業者ほど高く評価される傾向があります。そして卸業者は、メーカーと小売店のビジネス上の潤滑油のような存在となっていることから、数多くの取引先を持つ大手のカー用品卸業者は金融機能を有しているケースもあるほどです。

小売店側としては一人でも多くのユーザーを固定客にしたいという要求が強くあります。たとえばコアなユーザーによる「似ているが、少しだけ異なる部品」が欲しいというマニアックなニーズにも即応できる卸業者の存在がなにより重要なのです。すなわち、品揃えが豊富な上に専門性の高い要求にも応えられる卸業者こそが競争力の高い業者といえるわけです。

2.カー用品卸業界をめぐる事業環境

カー用品卸業者

不況下では強い逆風が吹き厳しい事業環境に置かれるといわれるのが自動車業界です。しかしながら、自動車の販売台数が低迷したとしても、カー用品の分野は工夫次第で売上が伸びる要素もあるのです。それでは、カー用品卸業界における現状を見てみましょう。

(1)自動車に対する金銭感覚の変化

かつてマイカーは庶民のあこがれであり「貯金して少しでもいい車を買う」という存在でした。購入後にも「車に関係するモノにはできるだけお金をかける」というユーザーが多くいました。しかしながら、時代の流れとともに自動車にお金をかけないユーザーが増えてきているという現実があります。

(2)車種へのこだわりが少なくなった

マイカーが高嶺の花だった時代から、ようやく庶民の手が届く時代に移り変わった1970年代には、いくつものカー雑誌が次々に発刊され、車選びのノウハウを綴った単行本が大ベストセラーとなっていました。自動車の性能やデザインなど車種に強いこだわりを持って選択するユーザーが大半を占める時代でもあったのです。
しかしながら、現在は車種にこだわりはなく、「予算と目的に応じたクルマであればそれでよし」とする層が主流を占める時代に変わってきています。

(3)カー用品業界の環境変化

前述の通りカー用品卸業界には逆風が吹いている状況です。しかしながら、年間販売台数800万台を超える自動車産業だけにその母集の数は膨大です。
したがって、カーナビやETCなど新機能や新制度の導入によって、一旦全国的なブームが起きると、それらに付随するカー用品も爆発的な売行きとなる可能性をはらんでいます。近年では、ドライブレコーダーがこれに相当します。

(4)カー用品卸業界の今後

ドライブレコーダーなどの商材が単発的にヒット商品となる可能性はあるものの、カー用品業界自体が将来的に安定して成長を続けるかというと疑問符が付きます。実際に、実店舗たるカー用品専門のショップも減少傾向にあり、ホームセンターなどでもカー用品売場は縮小されて品揃えも減ってきているのが現状です。

3.カー用品卸業界におけるM&Aの現状

業界自体は成長が鈍化しているものの、母集団の規模が大きく、消費者ニーズも急激な落ち込みはない業界だけに、カー用品卸業界におけるM&Aは活性化しつつあります。そこで、カー用品卸業界におけるM&Aの現在の状況を分析してみましょう。

(1)現在のM&A市場動向

カー用品を専門的に取り扱う小売店では、売場面積や品数などの規模が売上に直結する重要なファクターです。したがって、業界自体に規模拡大の動きが比較的起きやすいといわれています。
ただし、中間流通に位置する卸業界は、必ずしも小売店のように「規模が大きければ売上がアップする」というような単純な構造ではありません。現時点で、カー用品卸業界をめぐるM&A市場においては、同業者が自社で手薄なカテゴリの商材を扱うカー用品卸業者を買収するというケースが多いようです。

(2)売手側のメリット

売手側のメリットを挙げてみましょう。
カー用品卸業界のM&Aにおける売手側のメリットは大きく3つです。

①売却益の確保

カー用品卸業者が、自社を売りに出す最大のメリットは、「売却益を入手できる」点にあるといえます。市場自体に今以上の伸びが期待できない場合には「売りどき」を模索して決断するのも賢い選択なのではないでしょうか。
もともと、多くの在庫を抱えることさえなければリスクは最小限度にできるのがカー用品卸業の強みなので、M&A市場で買手を探すことが比較的容易な業種ともいえるでしょう。

②後継者問題の解決

中小企業のオーナーの多くに共通する深刻な事態として「後継者不在」という問題があります。M&Aによって資金力のある企業の買収が成立すれば、後継者問題も同時に解決できて事業承継がスムーズに実現するというメリットがあります。

(3)買手のメリット

カー用品卸業界のM&Aによって買手側が受けるメリットは、規模が重要な業界だからこそ大きいといえます。以下の3つがメリットとして挙げられます。

①豊富な品揃えが実現

同業者のM&Aは、買取側企業の市場規模が拡大することを意味します。自社の小売事業において品揃えが増えるだけでなく、商品の内容も充実することでコアなユーザーも獲得でき、結果的にリピーターが増加して売上アップにつながるというわけです。
これまで一般的なユーザーだけだった客層が、リピーターとなる確率が高いといわれるヘビーユーザー(高価な品物でも自分の好みであれば新商品発売ごとに何度も購入する層)を獲得できる可能性も大きくなります。

②メーカーとの取引条件改善

あらゆるショップ(実店舗)の究極的な課題は「いかに利益を増やすか」にあります。そのためには、来客数や固定客を増やすことはもちろん「安価に仕入れて利益をアップする」ことが重要なのはいうまでもありません。
M&Aによりショップの規模拡張が実現し、固定客の新規獲得につながれば、メーカーとの取引交渉で店に有利な条件を引き出すことも可能です。商材のロットが大きくなることは価格の安定に直結し、顧客増加という好循環で理想的な販売サイクルの実現となり得ます。

③経費の削減

企業にとっての永遠のテーマともいえる「経費の削減(コストカット)」がM&Aによって改善する見込みが立ちます。低価格帯商品が多くを占めるカー用品では一品あたりの利幅も低めです。
したがって、M&Aが実現すれば人件費の削減やシステム統合などによるシナジー(相乗)効果が最大限に発揮できるという大きなメリットがあるのです。

4.カー用品卸業界におけるM&Aの実例

カー用品

M&A・事業承継を検討している方へ

当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。

現実にカー用品卸業者のM&Aでの成功例としては、どのようなケースがあるのか気になるところです。実際に起きた事案を紹介します。

大手ホームセンターの実例

2019年に、大和ハウスグループの「ロイヤルホームセンター(株)」が、自動車整備関連工具製造小売業の「(株)ワールドツール」を、M&Aによって完全子会社化しました。
売手であったワールドツールは、当時、自動車整備用工具を扱う専門店「アストロプロダクツ」を全国189ヵ所で展開していました。「愛車の整備を自分でするために必要な工具が揃う店」としてカーマニアの間では高い知名度と人気がある店として知られていました。

一方、買手となった「ロイヤルホームセンター」は総合的な商材を数多く手がける全国規模の大手ホームセンターです。同社は当時から独自のブランド戦略をとっており、付加価値の高いワールドツールの商材を自社に取り込むことで、プライベートブランドの強化を図ることを第一の目的としてM&Aに踏み切ったという事情があったのです。

成功させるためのポイント

カー用品卸業の会社をM&Aで自社の傘下に納めようとする際、成功に導くポイントがあります。
その成功ポイントについて以下に解説しましょう。

(1)シナジー効果を生むための事前計画

M&Aにおいて、最大の成功といえるのは「シナジー効果」があらわれることといわれています。したがって、単に自社の商品群に買収先の商材が加わっただけでは、シナジー効果が出たとはいえません。「何をどうすればシナジー効果を生み出せるのか」をM&Aに乗り出す前の課題として事前に計画しておくことが重要です。

(2)自社との「相性」をみる

人間関係と同じく、企業間にも「相性」があります。自社の事業に売手先の業務形態や販売システム、固定客などが加わることによって、どのような事業展開が可能なのか、あるいは新規事業を発足させるために有効な対象なのか、人付き合いと同様に相手との「相性」をみて判断することも大切です。

6.買取価格を決めるポイント

成功へのイメージ

M&A全般にいえることではありますが、買手側の失敗で多いのが、相場よりも高額な金額で買って後悔する「高値掴み」に陥ることです。カー用品卸業界は、それぞれの商品構成や業務形態の差異が大きく、M&A市場での価格設定が難しいといわれています。
買手側が「高値掴み」を回避するために、カー用品卸業界のM&A市場において相場価格を判断するポイントをおさえておきましょう。

(1)収益率を確認する

カー用品のような大衆消費財の場合、価格競争が激しく、必然的に収益性が低い商品が多くなります。他方、マニアックなカー用品の場合、ブランドが確立されると、非常に高い利益率を確保できる場合もあります。M&Aの交渉では、先方の収益率をまず確認することからスタートすべきです。

(2)専門性の程度を判断する

カー用品卸業界のM&Aで価格設定が難しいのは、一般的な商品の卸業者か専門的な商品の卸業者かで大きな差異があるからです。カー用品卸業界の場合は、商品の専門性が高ければ高いほど企業価値が高くなるとされています。
「他では入手できない商品」の種類と数を多く取り扱っている業者ほど、M&A市場では高値で取引されるという道理で、必然的に買収価格も高めに推移する傾向があります。したがって、一般的な商品を扱う業者を、専門的な商品を扱う業者と混同して「高値掴み」に遭うリスクだけは避けたいものです。

7.まとめ

かつては、どことなく暗くて後ろめたいイメージで語られることが多かったM&Aですが、現在はそのようなマイナスイメージはほぼ払拭されたといってよいでしょう。少子化と消費マインドの変化によって、小売業にしても卸業にしても、カー用品業界自体の今後の成長はそれほど期待できないのが現実です。

しかし、このような状況だからこそ「今こそ売りどき」という考え方も可能です。株式投資の世界では、株価が上昇している状況なのに売却する人はいません。M&Aも同様で、今後の成長幅の期待が薄い今こそ、売手側としては今がM&Aのよいタイミングといえるかもしれません。

一方、買手側の視点からみると、今は好条件で買えるよいタイミングといえるでしょう。厳しい不況下の世相の中で、どの企業も生き残るためには、事業の規模を拡大するか、あるいは他社との差別化を打ち出して消費者を惹きつけるかの選択肢を迫られています。
企業が将来の事業計画を練る上で、カー用品卸業界の企業のM&Aが事業戦略上マッチするのなら、迷わずM&Aに乗り出すことも良い方法かもしれません。


話者紹介

藤田清文さん
藤田清文さん

東京大学法学部卒。1997年、司法試験合格。2000年、弁護士登録。2004年、神戸大学大学院経営学研究科修了(MBA)。弁護士法人淀屋橋・山上合同入所。金融庁検査局勤務を経て、弁護士に復帰。民間企業のコンプライアンス委員、社外役員等を歴任。

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