建設業の売却を成功させるために何が必要か?高値で売るためのポイントを解説
はじめに
近年、建設業のM&Aが増加傾向にあり、事業承継や事業の拡大あるいは売却・合併または廃業を考えている建設業の会社も少なくありません。
コロナ禍という未曽有の事態に直面した建設業界において、企業の売却を成功させるためにはどのような方策が必要なのでしょうか?
建設業界におけるM&A事情に詳しく、数々の実績を有する株式会社M&Aベストパートナーズの代表取締役副社長として活躍されている松尾直樹さんに詳細を解説していただきました。
1.建設業界の現状と課題とは?
2020年の経済界を震撼させたコロナ禍は、いまだ収束の気配さえ見えず、先行き不透明な状況が続いています。新型コロナウイルス感染症の影響が大きい業界もありますが、建設業界の現在の仕事はコロナ禍以前の発注分が大半なので、影響が出てくるのはむしろこれからともいわれています。
そこで、建設業界における現状分析と今後の課題に触れてみましょう。
(1)建設業界の現状とは
建設業界の現状として、以下のような事項が挙げられます。
・高い建設需要が継続中である
「オリンピック特需」は一段落したものの、建設業界全体として俯瞰すると、例年に比較しても2020年12月の時点で建設需要は高い状態が継続しています。
コロナ禍の影響度の大きさは職種内容によって企業格差がかなり大きいといえるでしょう。
・コロナ禍の影響は最小限に留まっている
建設関連では、ホテルや飲食店の工事などは少なからずコロナ禍の悪影響を受けています。しかしながら、インフラ周りや公共事業関連では発注量が減少したという報道は少なく、コロナ禍によって建設現場の作業が中断したという話は建設業界ではあまり聞かれないようです。
菅内閣は災害に耐える国家造りを主要政策に掲げており、政府も国土強靱化対策に力を入れているので、災害対策事業としての公共・インフラ事業系は、むしろ今の時期に強みを発揮するといえるでしょう。
・2021年以降も大規模な建設プロジェクトが進行予定
再開発需要も堅調に推移しており、2021年以降も政府主導の大規模な建設プロジェクトは順調に進行するとみられています。
ただし、中小の建設関連会社の中には、現在は無風状態であるものの、2021年前半から徐々に受注が減少に転じ、コロナ禍の悪影響が表面化することを危惧する経営者は少なくありません。
コロナ禍による景気の冷え込みが建設業に及ぶと、中小企業はその逆風をまともに受ける恐れがあるでしょう。
コロナ禍のような災厄が起きると、観光業や飲食業など毎日の来客に依存する業界は、客足という形ですぐに影響が表れます。これらに比べて、建設業界の企業の仕事は、コロナ禍以前に発注した受注分もあることや、発注者が新規投資に左右される為、景気への影響は1~2年遅れて表面化するのが特徴です。
(2)建設業界の課題とは
コロナ禍を別にしても、現時点で深刻な問題を抱えている企業は、建設業界においても決して少数派ではありません。それらの課題点のうち、代表的なものを以下に挙げてみましょう。
・深刻な高齢化
少子高齢化が社会問題となっている日本産業界ですが、建設業界においての労働力不足は少子高齢化だけが根本原因ではないでしょう。
職場での高齢化が進んでいることに加え、若い人が入ってこないという問題が顕在化してきており、現場は高齢者が過半数を占めるという現状も珍しくありません。
もともと、建設業は野外で仕事をすることが多く、体力的にきついというイメージがあります。それでも賃金の高さが魅力となって若い労働者が集まってきていましたが、近年この状況が変わりつつあるのです。
・困難な労働者の確保
昨今、以前なら、建設業界は待遇面での魅力が高いと言われていました。しかし近年は、業種・職種の多様化が進み、野外で体力を使う必要のないデスクワークであっても、建設業並みの厚遇がある企業が増えてきているというのが現実です。
すなわち今の若者にとって、建設業界は待遇面で高い魅力が感じられない業種になりつつあるのです。
機械化やIT化が進む産業界にあって「労働力を機械やコンピュータに移管する」ということが、建設業界に関してはまだ遠い未来の話な上に、現場ではベテラン社員からの厳しい指導に耐えられない若者が多いというのが現状です。昔も今も、建設業界は労働者への依存度が高い「労働集約型企業」の典型といわれているので、若い労働力の確保が困難になっている現状は深刻です。
・後継者不足による廃業の増加
経営者の子息が社長の跡を継がないケースが増えているのも建設業界の大きな課題点です。後継者が見つからずやむなく廃業・解散となるケースは年ごとに増加傾向にあります。業種や業態の特殊性によって他の業界に比べて若返りが遅れている点が産業界から指摘されています。
不況下で仕事が激減し倒産に追い込まれるのならあきらめもつきますが、継続した仕事がありながら事業承継がうまくいかずに廃業を余儀なくされる建設会社も少なくありません。
建設業界では、2013年くらいからマーケットが堅調に推移しており、ここ数年も他の業界と比較して大きな変化もありませんでした。ただし、今後は新しいビジネスの大きな潮流が起きると、複数の課題点が一気に表面化する恐れは十分にあります。
労働集約型企業からの脱皮が、どの建設会社もまだ実現できない以上、経営者の老齢化や体調不良による会社存続の危機は目前にあるといっても過言ではないでしょう。
建設業界の業務や現場での作業が人から機械に取って代わられるような状況はまだずっと先の未来の話なのです。
2.建設業界のM&A需要とは?
社員の高齢化に後継者不足、今後起こり得る景気の後退。建設業界を取り巻く課題は山積です。最近では、建設業界のM&A需要は現在どのように推移しているのでしょうか。以下に、建設業界におけるM&Aについて解説しましょう。
(1)人材獲得のためのM&Aが急増
人材、それもできるだけ若い世代の確保が急務とされる建設業界において、人材獲得のための有効な手段としてM&Aを活用する建設会社が増えてきています。
特に、現在安定的に仕事の需要がある分野の建設事業にとっては、人材確保さえできれば、安定的に売上を伸ばしていく事が可能です。
2021年以降も建設業には、国の政策に則った大規模な公共事業の他にも、河川、高速道路の補修、マンションの修繕などのメンテナンス作業の需要が多く見込まれています。これに比例して建設業界のM&A市場も活性化しているのが実情です。
(2)異業種や関連業種とのM&Aが増える
M&Aでは、建設業とは全く関連性がない異業種よりも、業務面で親和度が高い業者同士の結びつきが多いとされています。
建設業界とは作業現場で交わることが多く、仕事上で関連がある建設企業や、施工を建設会社に外注している不動産企業やからのM&Aアプローチが増加傾向にあります。
3.建設業の事業売却を成功させるには?
M&A・事業承継を検討している方へ
当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。
建設業が事業の売却を成功させるには、どのような点に留意すればよいのでしょうか?以下に重要と思われるポイントを解説しましょう。
(1)アピールポイント明確にする
建設業が事業の売却を成功させるには、現時点で利益が出ているかどうかが重要なファクターとなります。そして、経営者たる社長の権限移譲を事前に決めておくことが大切です。
建設業は労働集約型企業ではあるものの、万一社長がいなくなった場合に、会社の運営に支障をきたすようでは健全な体質の企業とはいえません。したがって、社長不在でも正常に運営できる組織と仕組みを構築しておくことが必要なのです。その他には「有資格者を増やしておく」「他社との差別化を図る」など、魅力ある会社作りを行うための事業改革を挙行する英断が求められます。
建設業は他業種に比較して社長への依存度が高いともいわれています。俗に表現すると「親分肌の社長が社員を掌握している」という構図がいまだに残っている会社も少なくないのです。「職人気質」の社員も多く「社長の人徳によって社員を統率し会社が運営されている」会社が多いのが建設業の特異性といえるでしょう。
しかしながら、そのような古い体質では社長の子息への事業承継もうまくいかないことが多く、仮に事業を売却しようとしても、社員がほとんど辞めてしまう事態になりかねません。体質改善が事業売却成功の第一条件といってよいでしょう。
(2)買手のスケジュールを基に計画を立てる
建設会社で社長のカリスマ性が強固な会社なら、事業を売却しても会長職などの名誉職に就いてもらい、形式上は前社長の影響力を残しておくという方法がとられるケースもまれではありません。すなわち、前社長の存在感をうまく使って新しい事業を成長に導いておくという「ソフトランディング方式」でのM&Aが、社長の影響力が強い会社を買収する際の理想の形といえるかもしれません。
前社長が新会社に残るケースではⅯ&A成立から3~5年は在籍することが多いようです。仮に、65歳で引退をするのならば、60歳から動き出せるように50代後半から長期的スパンで将来を計画しておくことが大切です。すなわち、売却を考え始めてから成立まで5~10年はかかると思って早めに準備しておくことです。
(3)最適な事業売却の方法を採用する
社長引退後の会社の方向性としては「子息または社員への承継」「売却」「廃業」「M&A」「IPO」など、いくつかの選択肢があります。社長の子息や社員に優秀な人材がいればその人物が会社を引き継ぐのが最適な方法です。そして、事業承継できる人材がいないという場合の次善策として会社売却を考えるケースが多くあります。仮に事業承継できる見込みがあったとしても、万一のことを考えてM&Aも同時平行で検討することが望ましいでしょう。
近年は、会社が生き延びていくために他社と組んで事業を伸ばしていくという考え方をする経営者が増えてきています。すなわち、会社を成長させていくためにM&Aを選択するという前向きな思考です。長引く不況の時代、地方都市ではすでに企業淘汰が始まっているともいわれています。中小企業が生き延びるためには、大手や中堅企業の傘下に入るという選択肢も決して悪い考えではありません。
「社長が引退するので仕方なくM&A」という考えはすでに時代遅れで、将来に向けて事業の発展のためにM&Aを選択する」という考え方に転換することが重要でしょう。
(4)譲渡する資産や条件をしっかりと決める
労働集約型企業である建設業界は、労働力が最大の財産なので資産は以外に少ないものです。形ある資産といえば建機や資材くらいで、いずれも償却期限が早いものが大半です。M&Aを想定するのなら、今のうちに自社の資産をきちんと見極めておくことが大切です。公共事業では必須となる「施工管理技士」が自社に何人いるのかも把握しておきましょう。
建設業は、テリトリーのエリアや業種によって売却金額にかなり差があります。実際の企業相場はM&A専門業者しかわからないともいわれているくらいなので、日頃から自社の資産価値を把握しておき、適正な売却相場を見極める必要があるのです。
4.建設会社を売却する際に生じる問題とは?
以下に、建設会社を売却する際に起こりうる問題点を挙げておきましょう。
(1)買手へのメリットが小さいケースとは?
「当社は公共事業を受注していないので買手がつかないのでは?」という心配は無用です。建設会社を買収しようとする企業は、必ずしも公共工事の受注を目的とはしていないからです。公共事業以外でも、民間企業との取引で実績を重ねた会社には十分な価値があります。
買手のメリットがそれほど大きくないケースとは、取引相手ではなく、その会社の規模が小さすぎる場合です。小規模な会社だと労働集約が分離してしまう恐れがあるのです。具体的にいうと、現場監督や職人がそれぞれ取引先とのつながりが強いことが多く、会社売却後に優秀な人材が他社に転職したり独立したりするケースが少なくありません。
小規模な会社ほど社員ひとりが複数の業務をこなしている場合が多く「できる社員ほど離れていく」ことがよくありのです。また、経営母体が代わったことで取引先も離れてしまうケースもまれではありません。
(2)建設業特有の問題をクリアするのが難しい
建設業には、常勤の「経営業務管理責任者」を置くことが法律で義務付けられています。買手の社長が経営業務管理責任者であった場合に問題が生じます。買収によって社長が引退する場合、社内に経営業務管理責任者としての適任者がいなければ問題です。経営業務管理責任者は建設業での経営実務が必要なので、人材の確保が難しいことから、M&Aの支障となる可能性があります。
5.建設事業を高値で売却するには?
建設事業を行う企業のM&Aが高値で成立するにはどのような条件があるのでしょうか?
以下に、代表例を紹介しましょう。
(1)他社にはない技術や特許を所有している
売上に対する利益率が高い上に、安定した受注が見込める取引先を持っている企業や特許を取得している会社は、他社が追随できない独占的な仕事を継続できる可能性があり、買手には大きな魅力があります。
また、水中土木やトンネルに特化した防水工事など特殊な技術を要する仕事をこなせる企業も高値売却の可能性が高いといえます。他社が手を付けないニッチな修繕工事や危険が伴う作業に実績がある企業、特殊な橋の補修工事がこなせる企業や離島専門の工事会社なども、それらの特異性によって高値で売買される可能性があります。
(2)取引先や下請け先と良好な関係を築いている
取引先や下請け企業との信頼関係が厚い企業は、信用度が高く評価される傾向にあります。独自の人間関係を築いていて仕事が受注できている会社は、社長や社員の人間力によって信頼を勝ち得ているので、そのような企業体質を生んだ企業としての価値が高くなるのです。
(3)入札や受注実績が豊富である
公共事業の入札資格を有している企業にも高評価が付きます。入札のA・B・Cランクは会社に付くので、実績のないランク外の会社は入札に参加することさえできません。Aランクの実績がすぐに得られるわけではないので、すでにAランクの実績がある会社は買収後も社名を残す必要があります。
(4)優れた人材が揃っている
優秀な社員が多く在籍し、若手の有資格者がいる会社は、ある意味買収には最強といえる条件が揃っています。建設業界は、労働集約型企業であるだけに、若い人材は特に重要で貴重な存在としてみられます。
(5)財務面や税務面で問題がない
コンプライアンスが厳しくみられる時代だけに、過去に追徴課税を課せられたことがある会社は敬遠されがちです。税務面に対してはクリーンに対処している会社ほど「信用度が高い」という評価を受けます。もちろん、談合などの違法行為での摘発が全くない会社は「買収しても安心な会社」と評価されるのはいうまでもありません。
6.まとめ
現在の建設業界が抱えているさまざまな問題点を掘り下げると同時に、建設業界におけるM&Aの実態や、実際に会社を売却する際の留意点などを解説しました。
M&Aは「売り時・買い時」の見極めが非常に難しいといわれています。いざという時のために、いつでもM&Aに対処できる準備は必要ですが、困ったときはやはり事業承継を数多く手がけているM&A専門の会社に相談するのが一番の早道といえるでしょう。
話者紹介
株式会社M&Aベストパートナーズ
代表取締役副社長 松尾直樹
大学在学時、箱根駅伝に2度出場。卒業後、大手証券会社にて富裕層向けのリテール営業を経験した後、大手M&A仲介会社のM&Aキャピタルパートナーズに転職。主に、不動産・建設業界を担当して、事業承継及びM&Aアドバイザリー業務に従事。不動産仲介、管理、ゼネコン、住宅メーカー、設備工事会社等における成約実績を多数有する。2018年、株式会社M&Aベストパートナーズを設立。
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