「廃業かM&Aか」決断のタイミングはいつ?現況を踏まえて専門家が詳細解説!
はじめに
日本の経済成長は、数多くの中小企業が支えてきたといわれています。
しかしながら、現在は長引く不況と少子高齢化という時代背景や様々な要因により、廃業を考慮せざるを得ない状況に陥っている中小企業が少なくありません。
「どの時期に廃業するか」、あるいは「M&Aを選択するにはどうすればよいか」という事業存廃のタイミングについて思案している経営者も多いことでしょう。
そこで今回は、企業の廃業とM&Aに関する専門家として活躍中であるアイユーコンサルティンググループの七島悠介税理士に、廃業とM&Aのタイミングを解説していただきました。
1.廃業を決断するタイミング
事業の存続が困難と判断した経営者は、「廃業するのはどのタイミングよいのか」という課題に直面します。廃業する理想のタイミングについて、事例をもとに考察してみましょう。
(1)廃業を決めた事例―その1
経営者には事業を継続したい意向があるものの、後継者がいないために不本意ながら廃業するというケースが地方の企業によく見られます。
たとえば、地方の企業において現在の経営者の年齢が60代で子息が30代というケースです。子息が20代で家を出て都市部の大学を卒業後、そのまま都市部の企業に就職して結婚し、家も購入しているような場合、「実家に戻って親の跡を継いで二代目経営者となる」という選択肢を選ぶケースは少ないといえます。
このように、自分の子供から「事業承継へのNO」を突きつけられた場合、社内に有能な若い後継者候補となる従業員がいればよいのですが、現実には従業員の高齢化によって継がせる人もいない場合が少なくありません。その結果、仕方なく廃業を選択せざるを得ないというパターンがよくあります。
(2)廃業を決めた事例―その2
廃業において最も深刻なケースは「連鎖廃業」です。これも地方の企業に多く、地方の産業自体が縮小してしまうこともよくあります。大口だった取引先企業が経営不振を理由に廃業してしまい、それに連鎖して廃業を余儀なくされてしまうというケースです。
たとえば、地元で大手の旅館やホテルが観光客の減少によって廃業した場合、その企業と取引していた業者が連鎖して廃業に追い込まれるケースも多く見られます。
特に、2020年前半に日本を襲ったコロナ禍では、多くの中小事業が事業存続の危機に遭いました。不特定多数の来客を相手にしている企業では、このような外的要因による経営破綻が発生し、連鎖的に廃業や倒産といった状況が生まれているのです。
(3)廃業する理想のタイミング
実際に廃業するには、事前に1年から3年くらいの準備期間が必要で、一般的には借入れを返済したあとに廃業するのがよいといわれています。すなわち、会社の借財をゼロにしてから会社をたたむのが理想のタイミングというわけです。
日本には、個人が持ち場を去るときに「立つ鳥、跡を濁さず」ということわざがありますが、会社も同様で、周囲に迷惑がかからないようにするという日本的な美学が企業にも当てはまるのです。◯年後の◯月に借金が完済するという目途があれば、その時期から逆算して廃業の準備を進めるというケースが理想です。
2.廃業を回避するための対策
「事業の後継者はいないが、なんとか廃業は回避したい」という経営者は少なくありません。そこで、廃業以外の選択肢としてM&Aが有効なのかどうかを検証してみましょう。
(1)廃業でなくM&Aという選択肢
様々な要因によって事業承継が難しくなった場合でも、廃業が唯一の選択肢というわけではありません。選択肢の1つにM&Aによる事業承継があります。
以前よりもM&Aに対する抵抗感が薄れてきていることを背景に、マイナスイメージのある「廃業」よりも、「事業の再編」というプラスイメージで自社の将来を思考する経営者が増えてきているようです。
経営者の多くが、「跡に何も残らない廃業よりも、事業を未来につなげるM&Aの方がよい」という考え方を持つようになってきたのです。
(2)廃業よりもメリットが大きいM&A
地方の地場産業が衰退し、連鎖的な倒産や廃業が増加傾向にある今、後継者への事業のバトンタッチが機能しないのならば、M&Aを選択するという考え方が現実的かつ合理的といえます。
近年、M&Aは廃業よりも経済的メリットが大きいと認識されるようになりました。「事業を人手に渡すよりも会社をたたんだほうがまし」と考える昔気質の経営者が少なくなったことも、M&Aが活性化しつつある大きな要因でしょう。廃業する前に早めに出口戦略を模索し、その結果としてM&Aに行き着くのは、むしろ賢明な決断といえるのです。
(3)M&Aのタイミング
「いざM&Aを行いたい」とはいっても、実際にM&Aを行うには一定の期間を要します。その理由には買手側企業の資金力の問題が第一に挙げられますが、売手側企業にとっても準備期間が必要なのです。
売手側企業として最も懸念されるのは、従業員の反発でしょう。特に地方企業の場合はこれが顕著に見られ、経営者が代わることによって「慣れ親しんだ職場環境が一変してしまう」ことに納得できないスタッフが少なからず出てくる可能性があるのです。
そのため、経営者がM&Aを行うことについて、従業員にいつどのように伝えるのか、そのタイミングに思案するケースがよくあります。経営者とは異なり、従業員のM&Aに対する理解度がまだ浅く、この点は都市部と地方では温度差が大きいという現実も無視できません。
ただし、現場のスタッフに対してM&Aを早めに伝達した結果、スムーズに進行したという実例も最近は増えてきています。
(4)「廃業かM&Aか」早めの決断を
「後継者不在のため仕方なく廃業する」というパターンから「廃業よりもM&Aで事業承継を」という企業が増えてきたのは、M&Aに対して周囲の理解が得られるようになってきた、という時代背景もあります。
いずれにせよ、事業承継というキーワードは、老齢を迎えた経営者の意識の中にあります。個人的には一代で事業を閉じたいという思いはあっても、地域産業の持続的発展という一歩引いた客観的観点から見れば、やはり事業を継続していく方が望ましいでしょう。
最近はM&Aを否定的に捉えず、「事業再編」という観点で捉える方が理にかなっているとする見方が増えてきています。数年後に迫る事業の転換期を、廃業という形で終わらせるのか、それともM&Aという形で残していくのか、早めに決断することが賢明です。
3.変わりゆく時代背景
政府主導の「働き方改革」は、コロナ禍という想定外ともいえる外的要因によって推進されつつあります。中小事業の経営者として、今後の社会情勢をどう捉えていけばよいのか、前向きに考えてみましょう。
(1)増え続ける逼迫した経営状況の企業
企業の経営者には、どんな業種であれキャッシュフローを生み出し続けなければならないという宿命があります。人間には寿命がありますが、会社は経営者が代わっても半永久的に生き続けることが可能です。消費者動向の変化や業界事情によって経営が傾くこともあります。あるいは天災や疫病の流行など、予期せぬ事態で廃業に追い込まれるケースも決して少なくないのが、今の企業社会をとりまく現実です。
経営危機に直面した企業は、「今すぐ会社をたたむ」か「資金の借入れで延命する」かの選択を迫られます。後者は経営者にも相応の覚悟が必要となり、このような逼迫した経営状況の企業が増えることで、M&A市場が活性化するという現状が生まれているのです。
(2)不況下により不動産M&Aが活性化?
新型コロナウイルスの感染拡大は、2008年に起きた「リーマンショック」を上回る経済的なダメージを各国に与えるといわれています。今後、日本でも倒産や廃業の増加は避けられないでしょう。すなわち、今後体力のある企業が買手となるM&Aが加速する可能性もあります。
ところで、M&Aにはいくつかのパターンがあり、売手企業の事業をそのまま承継するだけというものではありません。近年増加傾向にあるのが「不動産M&A」です。たとえば、売手側企業が所有する工場用地など資産価値のある土地を安価に確保したい買手側企業が、土地を取得する目的でM&Aに乗り出すケースです。新型コロナウイルスの感染拡大が甚大になり経済活動が停止した場合、皮肉にも不動産M&Aが活性化する傾向が出てくる可能性も考えられます。
(3)オンラインセミナーの活用
現在、M&Aセンターや地元商工会、銀行などの金融機関もM&A関連のセミナーを頻繁に開催するようになってきています。コロナ禍をきっかけとして、今後は1ヶ所に多くの人々を集める「リアルセミナー」は減少していくと思われます。
「zoom」などのWeb会議アプリを用いたオンラインセミナーが一気に普及し、これが当たり前の時代になれば、地方と都会の情報格差もなくなる可能性があります。オンラインセミナーでは場所の制限がないため、情報共有の質や速度に差がなくなっていくことでしょう。
(4)新型コロナウイルス感染症による社会構造の変化
新型コロナウイルスの感染拡大により、どの企業も先行きが不透明という現状です。特に地方の中小企業に与えた影響は深刻で、経営者は「もう以前の状態には戻れない」という不安感を抱いています。
「事業は停止状態、しかし借入金の返済はまったなし」という状況では「この機会に廃業を」と考える経営者が出てくるのも必然的なことでしょう。
現実問題として「いかにダメージを少なくして廃業するか」を思案している経営者もいるのではないでしょうか。
中小企業の多くが窮地に陥っている状況下で、企業の体力が低下しつつある現在は、M&A案件が動き出す時期ともいえます。いわば不動産価値の下落とともに土地の価格が下がる状況と同様の現象が起きており、買手側にとっては「今が買いどき」という状況が生まれているわけです。
4.まとめ
「廃業かM&Aか」、事業の存廃についてどちらを選択すべきか、企業の経営者にとって悩ましい問題です。特に、コロナ禍のような外的要因によって事業の一時停止を余儀なくされるような事態は、全く予測不能です。とはいえ企業経営者は、こういった外的要因によるビジネス状況の強制的な変化が今後も起こりうることを理解しておくほうがよいでしょう。
皮肉なことにコロナ禍によってテレワークやWeb会議など、「働き方改革」が一気に進んでいくという状況が生まれつつあります。痛みを伴う改革ではありますが、アナログ思考一辺倒だった経営者も、この機にデジタル思考に移行せざるを得ないのが現実社会の動きです。
廃業するにせよ、M&Aを決断するにせよ、どのような事態になっても即応できる体制を整えておくことが、望ましい企業のあり方といえるのではないでしょうか。
話者紹介
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税理士法人アイユーコンサルティング
社員税理士 営業統括 七島悠介
2010年、国内大手税理士法人に入社。上場会社の税務申告、相続税申告、組織再編コンサルティング、富裕層向けコンサルティングなどの多分野の業務を経験する。
2013年、税理士法人アイユーコンサルティングの前身である岩永悠税理士事務所の創業メンバーとして参画し、新規顧客開拓、営業拠点開拓など現組織の土台作りに携わる。
その後、税理士法人アイユーコンサルティング設立に伴い、社員税理士に就任。
現在、アイユーコンサルティンググループの営業統括として、1人でも多くの方々の資産承継、事業承継問題を解決するために、相続・承継のスペシャリストとして活躍中。
またその傍ら、全国で税理士・金融機関・保険会社・不動産会社向けのセミナー・勉強会の講師を多数務め、アイユーコンサルティンググループの周知に邁進している。
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