設計事務所のM&Aを解説!気になる業界動向やM&A事情
はじめに
建築設計業界には、様々な規模の設計事務所があり、中には専門性を持つ設計事務所も多数存在します。
その中で、中小設計事務所のオーナー建築士のリタイアや、大規模設計事務所の事業領域の拡大などを目的としてM&Aが進んでいます。今回は設計事務所関連のM&Aに詳しいひびき地所の山口利通さんにお話を伺いました。
目次
1.設計事務所の定義を確認
(1)設計事務所とは?
設計事務所とは、国家資格のある建築士および資格は必要としない設計士が所属する法人のことです。大きく分けると3種類の設計事務所が存在します。
第一に国家資格を持つ建築士が、ひとりあるいは従業員を雇って運営している個人設計事務所です。第二に複数の建築士や設計士が共同で運営する中小あるいは大規模の設計事務所です。
さらにこの第一や第二の設計事務所は様々に専門化、特化しています。耐震構造の計算専門に特化した設計事務所や、ホテル専門の設計事務所、介護施設専門の設計事務所、店舗を専門に手掛ける設計事務所などに細分化しているのです。
病院が、内科や皮膚科などに分かれているのと同じで、設計事務所もそれぞれ得意とする領域があります。
そして総合病院があるように、総合的にあらゆる領域を手掛けるところもあります。それが第三の設計事務所である組織系建築設計事務所です。
これは設計専業の大規模な建築設計事務所に対する通称で、この第三の設計事務所に対して第一と第二はアトリエ系建築設計事務所などと呼ばれることもあります。
組織系建築設計事務所の特徴としては、単体でありながら意匠から建築構造や建築設備はもちろん、エンジニアリングシステムなども包含して計画および設計する能力を持ち、建築工事現場における監理もできる点が挙げられます。
(2)設計事務所の現場
前述のように、設計事務所をひとくくりにするのは難しいのです。一般家庭の木造二階建ての家屋であれば、1人の建築士あるいは1社の設計事務所がすべてを手がけますが、ビルなどの大きな建物になるとまったく別です。
規模が大きくなればなるほど、それに携わる設計事務所の数が増えていきます。たとえばゼネコンが大規模なビルを建てるとしましょう。その場合、実に何社もの設計事務所が、各社の専門性に応じて建設に関わってくるのです。
耐震構造の専門の建築士や防災設備専門の建築士が入ってくるなど、大規模の建造物を作るというのは、非常に多くの専門分野ごとの建築士が必要となる作業です。
このように大なり小なり、設計建築の現場では、複数の建築士が関わってひとつの建造物を作ります。そして、それらを一社で一手に引き受けるのが組織系建築設計事務所です。
2.設計事務所の業界の向かう先、目指すもの
建築需要が縮小傾向に転じていく中で、量から質へと求められる需要の転換が顕在化するでしょう。設計事務所の業界は、継続して成長が見込める分野や領域をどうつかんでいくかが今後の課題です。
先見性のある設計事務所のオーナーたちには、市場の変動や環境の変化を視野に入れて、人材の確保や育成、海外事業の拡大などに注力しようという動きが見られます。
3.設計事務所のオーナーが事業承継に向き合う理由
M&A・事業承継を検討している方へ
当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。
(1)設計事務所オーナーが事業承継を考える年齢
設計事務所オーナーが事業承継やM&Aを真剣に考える年齢は、だいたい70〜75歳です。その年齢になると健康問題もあり、交渉なども大変になります。また、法改正などが目まぐるしくてついていけないという場合もあり、引退を考えるに至るのです。
事業承継をすることもなく、単に設計事務所を廃業する場合も少なくはありません。しかし、何人かの従業員を抱え、取引先もたくさん持っている設計事務所であれば、誰かに事業承継をしたり、どこかの会社に事業譲渡したりするという選択肢が当然挙がってきます。
個人が承継する場合は、受ける側の年齢が40〜60歳ぐらいです。それよりも若い30代やもっと若い人が事業を承継するケースはほとんどありません。その若さなら、事業承継を受ける以外にも転職や起業独立など様々な選択肢が考えられるからでしょう。
(2)設計事務所オーナーが事業承継を考える理由
オーナー建築士として長年培ってきた設計事務所を事業承継することは、事務所のターニングポイントであると同時に、オーナー自身の人生においても感慨深いものがあるでしょう。オーナーが引退を決める主な理由は以下の通りです。
● 後継者問題
● 事業自体の将来の不安
● 借入金の個人保証の重圧
● 資金繰りの悪化
設計事務所オーナーは事業承継によりこれらの悩みを全て解決して、以下のような成果が得られるのです。
● 事業譲渡の対価の獲得
● 健康問題への対処
● セカンドライフを満喫
4.設計事務所の事業承継の3つのかたち
ここからは、設計事務所の事業承継にはM&Aを含めてどういうものがあるのかを解説します。
(1)親族内事業承継
親族内事業承継とは、設計事務所オーナーの息子や親戚など、親族の誰かに設計事務所の事業を承継することです。
(2)親族外事業承継
親族外事業承継とは、設計事務所の信頼できる役員や、部下である従業員などの親族以外の人に事業を承継することです。
(3)M&Aによる事業承継
親族および従業員の中で後継者が見つからないときは、M&Aによる事業承継という選択があります。
建築士は専門性が高い職業であり個性が強い人も多く、専門性が高ければ高いほどコミュニケーションが苦手な人も多いようです。設計事務所の運営に必要な営業や交渉等がうまくいかず、大手設計事務所が吸収するパターンもあります。
5.設計事務所の事業承継のメリットとデメリットとは?
ここでは設計事務所の事業承継やM&Aを行う場合のメリットやデメリットを、先に述べた3つの承継についてそれぞれ確認しておきましょう。
(1)親族内事業承継の場合
設計事務所の親族内事業承継の場合は、よく知り尽くしている身内に承継するので安心ができる上、事業承継税制などの特例制度が活用できるメリットがあります。
後継者となる息子や親族が設計事務所運営に関するノウハウや経験がないときには、あらかじめ設計事務所に勤務させて仕事を覚えさせるなどの育成の時間を充分とっておくことが大切です。
また、事業承継以降も円滑な運営が行えるよう、従業員はもちろん各得意先などに事前に説明をしておくほうがよいでしょう。
(2)親族外事業承継の場合
設計事務所の役員あるいは従業員に事業を承継するメリットは、実際に長年に渡ってともに経営に携わってきた人の中から後継者にふさわしい人物を選べるということです。
しかし、このかたちの事業承継の場合、後継者が自社株式を買い取る必要が生じてきます。そのため承継を受ける側は、資金を準備しなければならない点がデメリットかもしれません。
(3)M&Aによる事業承継の場合
基本的に中小の設計事務所には資産がほとんどありません。事務所は賃貸で、機材といっても普通の事務用品やパソコンなどの設備だけという事務所が多く、いわば雑誌社や出版社と似ています。
資格とノウハウ、専門性を活かして、民間の住宅や施設の仕事を受けたり大手ゼネコンの下請けをしたりするのが中小の設計事務所です。M&Aとしては、大きな設計事務所や建築会社が運営のうまくいっていない小さな設計事務所を買収する案件がよく見られます。
売手側はM&A仲介会社などを通して第三者を紹介してもらえるので選択肢が大きく広がり、最適な買手側を選んで事業を承継できる可能性があります。
後継者がいない場合でも、M&Aによって従業員の雇用確保、取引先の継続を実現できる点がメリットといえます。
6.設計事務所のM&Aの現状
かつては中小企業の事業承継といえば親族内外承継の割合が高かったのですが、近年は子供に引き継ぐ意思がなかったり、後継者の資金負担によってうまくいかなかったりするケースが多いようです。よって、M&Aによる事業承継を選択する割合が高くなっています。
小規模の設計事務所の多くにはナンバー2、いわゆる番頭のような人がいて、普通の町工場のように親族内承継や、親族外の従業員承継のようなかたちで事業を承継することがしばしばあります。
一方、規模が大きい設計事務所では、同業他社である別の大規模設計事務所や組織系設計事務所が、自社の売上を増やすためやカバーできる事業領域を広げる目的でM&Aのアプローチをかけてきたりします。
その場合はその設計事務所の顧客数や顧客層、通常に受注が見込める案件の数や想定できる売上金額、あるいは有している専門性などが焦点となるでしょう。
ビルを1棟まるごと建てるような大きい案件を年間に20〜30件手掛けるような大規模な設計事務所であれば、より大規模の建築設計事務所が事業譲渡や株式譲渡で吸収してしまうことがよくあります。
業界内での設計事務所のオーナー同士で交流関係を持つことも多く、自然とそういう話が生まれやすいのです。このように規模の大きい設計事務所が、中小規模の専門性の高い設計事務所を吸収して自社の専門領域を広げるM&Aが最も主流になっています。
7.設計事務所M&A成功のポイントとは?
最も大事なことは売手側が「覚悟」を決めることでしょう。長年やってきた設計事務所に、さまざまな思いがあるのは間違いありません。しかし、買手側の相手はさまざまなリスクを考えて価格に関してシビアになります。
そこをM&A仲介会社が中に入って双方の考えを聴いて折り合いをつけるのですが、どこかの段階でオーナーが覚悟を決めなければM&Aは成立しません。
また、買手側は設計事務所のM&A成立後に何か問題が出た時のことも懸念しています。そのような場合の対応をどう考えるかを、最初に取り決めておくことが後々のトラブルを避けるためには必要です。
これには二通りの選択肢があります。何かトラブルがあった時に、元のオーナーが責任を負うという条項を譲渡契約書に盛り込む方法がひとつです。
ただしこの場合、元オーナーの存命中なら問題ありませんが、オーナーが死去した場合どうするかを考えておく必要があります。その場合は相続者である家族にまで責任を持っていくのかどうかということまで、譲渡契約書において詳細に盛り込む場合もあります。
もうひとつの方法は、そういった将来のリスクも含めて譲渡価格に反映させて、希望価格よりも下げて譲渡するから将来において何かあっても買手側で解決してほしいという「価格修正条項」のかたちで取り決める場合です。
8.設計事務所の事業承継 成功事例&失敗事例
ここではまず、設計事務所のM&Aの失敗事例の方から紹介しましょう。ある大きい設計事務所が小さい設計事務所を吸収しました。ところがM&Aが成立して事業が承継された後に、以前の仕事での設計ミスが発覚したことがあります。
その原因はM&A 以前にすでにあったにせよ、吸収した会社が訴訟を起こされる当事者になります。このように後から問題が発覚してトラブルになるケースがしばしばあるのです。
成功事例として多いのは、親族外事業承継としてオーナーとともに長年仕事をしてきた従業員が設計事務所を事業承継するケースです。
弟子ともいうべき番頭格の人を選べば、オーナーは深い信頼のもとに事業を承継できます。そして、株式の買取に関しても分割払いも認めるというかたちで負担を少なくしてあげるなどの対応をすれば、買手側の従業員も事業を受け継ぎやすくなるのです。
9.まとめ
設計事務所の業界では、オーナー建築士の高齢化による事業承継や、より専門領域を増やしていこうとする大規模設計事務所によるM&Aが行われています。
オーナーにとってはセカンドライフを心置きなく有意義に過ごすために、M&A仲介会社にしっかりと想いを伝えたうえで、事業承継を進めることが大切です。買手側の企業は、M&Aに関して契約成立以降のトラブルのリスクなどもしっかり考え合わせた上での判断が欠かせないようです。
〈話者紹介〉
ひびき地所
山口 利通 やまぐち としみち
宅地建物取引士
不動産コンサルティングマスター
ファイナンシャルプランナー(AFP)
1971年 福岡県八女市生まれ
某大手電機メーカー退職後、平成16年 株式会社ひびき地所を設立。
事業用不動産売買仲介業務を中心に、事業用不動産組成コンサルティング及び、不動産再生事業を手掛ける。近年は、不動産を中心とした事業承継・事業再生型M&A案件等のアドバイザリー周辺業務にも取り組んでいる。
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