電気設備工事業界M&A 業界の課題やM&Aの注意点とポイントを解説!
はじめに
電気は、私たちの生活になくてはならないものです。その大切な電気を扱う工事には資格が必要であり、事業会社として運営するためには都道府県知事から建設業登録業者としての許可を受けなければなりません。技術を持つ職人気質のオーナーが多いのがこの業界の特徴です。
そんな電気設備工事業界でも、オーナーの高齢化と後継者不足が重なってM&Aが徐々に進行しています。今回は、実際に電気設備工事会社を経営しながらすでに2社のM&Aに成功し、さらに現在も進行中の案件を持つM’sエレクトリックの松村さんに、当事者ならではのリアルなお話を伺いました。
目次
1.電気設備工事会社とは
電気設備工事業界は、建設業界に含まれるひとつの分野です。建設業界は様々な分野によって構成される集合体であり、それらを数えると実に30数量種類もの分野が存在します。その中で電気設備工事を専門に扱う業者が電気設備工事業者なのです。
また、電気設備工事業者の中でも細かくカテゴリーが分かれています。戸建て住宅を専門に扱う業者もあれば、マンションなどの集合住宅の専門業者もあるのです。後者は公共系の「箱物」と呼ばれる大きい倉庫や保育園、介護施設などを扱います。
さらには、扱う電圧の違いによっても業者が分かれます。100〜600ボルトまでの電圧を扱う業者は、業界の通称で「強電屋」と呼ばれます。そして、電話やインターネット関係など100ボルト以下の電圧を扱う業者は「弱電屋」と呼ばれているのです。
都道府県知事から建設登録業者の認可を得て営業している企業が、実に5.5万社以上あります。それだけでもとても多いのですが、この業界にはさらに個人事業主も多く存在しています。
請負金額が500万円以下の仕事は、電気工事士の資格さえあれば誰が請け負ってもいいことになっています。そういう個人事業主を含めると、業者の総数は数倍にも膨れ上がるのです。
2.電気設備工事業界M&A 3つの要素
どちらかといえば買手企業の視点寄りになりますが、電気設備工事業界のM&Aには3つの要素が含まれています。売上シェアの獲得と人材不足の解消、そして技術の継承です。それぞれの要素を解説しましょう。
(1)売上シェアの獲得
まずは、売上シェアの獲得です。前述のとおり電気設備工事業者は、建設業登録業者数だけでも5.5万社以上あります。これは、全国のコンビニ店舗数と同等の数字です。建設業許可を持っていない業者を含めると、その数は実に数倍に膨れます。
これだけの飽和状態の中でシェアを伸ばすことは至難の業であり、新規工事業者が粗利率の高い仕事を取っていくのは非常に困難です。新規参入をしようとしても、工事経験や実績がものをいう世界だからといえるでしょう。
事業を拡大していく上で、粗利率の高い仕事や参入障壁の高い仕事を取得するためには、実績豊富な老舗企業とM&Aで一緒になることがひとつの選択肢であり、近道といえます。
(2)人材不足の解消
次に、人材不足の解消です。「電気設備工事屋になりたい」という若者は少なく、求人募集をかけても応募はごくわずかしか集まりません。また、建設業という厳しい労働環境の中では離職率も高く、人材の確保は非常に困難です。
その問題を解決する方法のひとつとして、経験豊富な社員を抱える電気設備工事業者をM&Aの形で引き継ぐことは、人材確保という側面においても非常に有効な選択肢であるといえます。
(3)技術の継承
最後に、技術の継承です。これがある意味一番の課題でもあります。30〜40年間もこの仕事に携わってきた「職人」と呼ばれる人たちの技術が、誰にも引継がれることなく途絶えていく一方です。業界の将来のためには、素晴らしい技術をM&Aという形で引継いで残していくべきでしょう。
この業界では当たり前のように残業があり、いまだに週休2日制を実現できていません。それでいて賃金は低い。労働時間に対する対価において業界別ランキングでは常にワースト3に入るのが現状です。
肉体労働者の終身雇用、週休2日制の実現、経済面や労働環境の改善などをクリアするためには、それなりの企業規模が必要です。それも短期間で実現させなければなりません。その理由は、熟練職人が元気であるうちに実現しなければ、技術を継承できないからです。
3.電気設備工事業界M&Aの事例
M’sエレクトリックにはM&Aの実績が2件あります。ここでは、その2件のM&Aの概要を紹介しておきましょう。
(1)株式会社エス・イーの子会社化
2019年4月10日に株式会社エス・イーの株式をすべて譲受し、完全子会社化しました。2016年から案件探しを始め、事業承継関連の様々な仲介会社や行政機関に登録したのです。また自社でも専門部署を作って積極的に動いていましたが、案件自体がなかなか出てこない現状でした。
2018年10月、ようやく大手仲介会社から1件の紹介がありました。40年近い実績を持つ老舗工事会社で、技術力に特化し、参入障壁の高い工事を多く受注している株式会社エス・イーです。
九州でも指折りの技術力を持ち、人材を個別にみても業界トップクラスの技術を持つ職人が在籍する会社でしたが、後継者がいないために大手仲介会社に譲渡の相談をしたところが始まりです。当然、買手企業の候補は多数ありました。
そんな中でトップ面談を通して価値観が共鳴し、大手企業を含めて90社以上もあった候補の中から、M’sエレクトリックに興味を持たれたのです。そこからは仲介会社のスキームに従って契約手続きを進めていき、最初の交渉から6カ月ほどで事業譲渡が成立しました。
(2)吉田電気管理事務所を吸収合併
2019年8月にM’sエレクトリックは、受電設備の点検業務専門の個人事務所である吉田電気管理事務所を吸収合併しました。代表者は大手ゼネコン出身の豊富な知識と経験を持つ73歳でした。点検業務が主体で比較的肉体への負荷が少ない事業ですが、体力的な衰えから事業の継続に不安を抱いていました。
M’sエレクトリックとしては、60歳以上の職人を建築現場から点検業務へ移行することで終身雇用への足掛かりにできると考え、交渉がスタートしました。簡易的な事業と財務のデューデリジェンスを行う程度でスムーズに話が進み、2カ月ほどで譲渡に至ったのです。
この2社のM&AはM’sエレクトリックを大きく変えました。どこにでもある普通の電気設備工事会社が、エス・イーの子会社化により、高い専門性と技術力に特化した会社となり、人員も3倍以上になったのです。
その結果、工事の受注量は3~4倍になりました。つづく吉田電気管理事務所の吸収合併によって点検業務がスタートし、終身雇用に向けた大きな一歩が踏み出せたのです。
4.電気設備工事業界M&Aのメリット
M&A・事業承継を検討している方へ
当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。
M&Aを考えている電気設備工事会社のほとんどは、業績不振ではなく後継者問題を抱えているようです。老舗であればあるほど、効率の良い仕事や安定的な工事を受注している会社が多く、経営的には安定しています。
少なくともM’sエレクトリックが引き継いだ2社は、廃業して取引先に迷惑を掛けたくない、従業員の雇用を守りたいなどの悩みを持つ会社でした。社名は残して従業員は継続して雇用し、取引先とも継続して付き合えるとなれば、M&Aの選択肢にデメリットはないともいえます。
さらに、会社を牽引するという重責や借入の個人保証から解放されることで、オーナーは肩の荷を下ろしてゆっくり過ごすことができるという精神的なメリットも大きいでしょう。
買手企業としては時間と技術、さらには実績を買うという効果があります。M&Aによって、長い年月をかけて蓄積してきたものを引き継ぐことができるのです。経験や技術がモノをいうこの世界において、非常に有効な選択肢だといえるでしょう。
買手企業が想像もしていなかった世界へ短期間で入っていけるということもあり、だからこそ売手企業のオーナーの仕事に対する想いに敬意を払い、事業を引き継ぐ責任が買手企業にはあるのです。
5.電気設備工事業界M&Aの注意点
建設業界全般にいえるのは、会計面が多分にどんぶり勘定であるということです。各工事の収支ではなく、ある一定期間のお金の出入りしかわからないので、どういう工事の収益性が高く、どういう工事では低いのかがわかりません。
一緒になる企業としても、そういった点を一度確実に整理する必要があります。それをやらなければ、銀行から融資も受けられません。銀行は未来よりも現状どのように儲かっているのかを重視するからです。
6.電気設備工事業界M&A仲介会社選びのポイント
買収価格を含めた条件面の話などについては、間にM&A仲介会社が入っている方が角が立ちません。
M&Aは、売手企業が積み上げてきたものを、デューデリジェンスで判断しなければいけない、ある意味無機質なものといえます。だからこそ、そこにあるべき売手企業の想いと買手企業の想いを大切に感じ、それを繋いでくれるM&A仲介会社が好ましいといえるでしょう。
そもそも現場たたき上げのオーナーが多いこの業界では、廃業を考える以前にM&Aという現代的な選択肢を選ぶオーナーは少ないのが実状かと思います。売却を考える売手企業は大手のM&A仲介会社に依頼することがほとんどでしょう。つまり、名前の通ったM&A仲介会社に登録して、コンタクトを密に取ることが良い相手を見つけるためには大切なのです。
7.電気設備工事業界M&A成立後の注意点
現場では、文化の違う会社が一緒になり、人数も2〜3倍になります。それぞれの会社が同じ現場に共に入り、文化をなじませることが必要です。また、職人の誇りを傷つけないためにも、売手企業のやり方を押し付けるかのように口を出すことは賢明ではありません。
最終的なゴールだけを共有し、その方法においては任せる方が、結果として良いやり方が生まれることが多いのです。
財務の面では、中身を精査しながら必要のない費用を削っていき、分業体制を確立することや、部門によってはAIやロボットを入れて生産性の高い仕組みを構築することが望まれます。
M’sエレクトリックにおいては、元々非常に効率の良い仕組みを作り上げてきました。適材適所での分業制であるとか、ロボットの導入で全体の効率をあげる手法が功を奏していたのです。そういう企業風土に新しく入ってきた職人たちになじんでもらうことが、グループの業績を伸ばす鍵でした。
また、許認可の引き継ぎには注意が必要です。建設業許可を得るには、「経営管理責任者」と「専任技術者」の2名を立てないといけません。特に経営管理責任者は、5年以上の経営経験が証明できないといけないのです。専任技術者も様々な要件を満たすことが必要です。
吸収合併で1社になるのであれば、問題はありません。しかし、子会社化でグループが2社になった場合は大変です。経営管理責任者を2名、専任技術者を2名立てないといけません。経営経験が5年以上ある従業員などめったにいないのです。専任技術者も含めて4名を立てなければ、建設業許可を失うことになります。
8.まとめ
ほかの業界とは少し趣が違う、電気設備工事業界のM&A事情ではありますが、後継者不足が引き金となっていることには変わりがありません。職人のプライドを持つオーナーだからこそ、会社を売ることに抵抗感があるのは否めないでしょう。
しかし、業界としては技術を承継し、従事者の雇用を生み出すためにも有益なM&Aが盛んになることが望まれます。売手企業の技術と想いを引き継ぐつもりで買手企業が向き合うことで、お互いに意義深いM&Aが成立するのではないでしょうか。
話者紹介
株式会社M’sエレクトリック
代表取締役 松村圭一郎
福岡県北九州市出身。1986年生まれの33歳。父が松村電気設備を1986年に創業し、2002年に廃業するもそれまで従事していたホテルの仕事から心機一転、2010年に父と2人で松村電気設備を再創業。初年度の売上高500万円という危機的状況から二人三脚で乗り越え、2013年に株式会社M’sエレクトリックを設立して代表取締役に就任。2019年4月に株式会社エス・イー、同年8月に吉田電気管理事務所を事業承継し、今後も年間2件のM&Aを目標にグループ会社を経営中。
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