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黄金株があれば拒否権も発動できる?事業承継における黄金株のメリット・デメリットを解説

2020/01/21
更新日:2024/05/13

はじめに

「黄金株(拒否権付種類株式)」とは、会社の意思決定権を掌握する際に有効な株式のことです。

例えば、一般的な「普通株」であれば、株式の34%を保有していると、株主総会における特別決議で拒否権を発動することができます。しかし、1%の保有率でも拒否権を行使することができる株の種類があります。これを「黄金株」と呼びます。

中小企業ではほとんど見かけることがないといわれる黄金株ですが、創業者が会社の実権を掌握したまま事業承継をしたいときなどに有効な手段となります。また、外からの投資を呼び込みつつ、会社の意思決定権を保持したい場合などでも、黄金株は効力を発揮します。今回はそんな黄金株の活用方法を「Seven Rich法律事務所」の石原氏に教えていただきました。


1.黄金株の役割 

事業承継 黄金株

黄金株とはどんな意義があるのでしょうか?事業承継と関連させながらみていきましょう。

(1)黄金株と事業承継 

「黄金株(拒否権付種類株式)」は、たとえ1%の保有比率でも拒否権を発動できる株式の一つです。

本来普通株の場合は34%を有していると、会社の再編に関わるような特別決議において拒否権を行使できます。つまり黄金株を保有していると、少ない株の保有率で事業承継後に会社に対する意思決定権を保持し続けたい場合に、有効な手段となります。また、外部の株主からの資金を集める場合にも、自社の議決権を守るために黄金株を活用することができます。

黄金株は通常、「種類株式」として設計することが多いです。今日ではベンチャー企業などでも見られることがあり、この種類株があれば、たった1%の出資比率であったとしても拒否権を発動することができます。

以上のように、後任に事業承継した後も自分が生きているうちは、会社の意思決定権を保持したい場合や、後継者の経営判断に不安がある時などに黄金株を活用することができます。

 

(2)黄金株と買収防衛策 

黄金株は、例えば敵対的買収などでも有効な防衛手段になります。種類株を設定した上で、買収先の相手に普通株式で50%の株を保有されることになったとしても、議決権を守ることが可能なのです。とはいえ、上場企業など株式が公開されている状態で種類株を新規発行する場合は、多数株主がいることでハードルが高いので、種類株を運用したいなら慎重に準備しておくのがベターです。

 

2.黄金株のメリットとデメリット 

Seven Rich法律事務所  石原 一樹 黄金株

黄金株を保有することで、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。

(1)黄金株のメリット 

黄金株は、発行すると、株式新規発行、配当決定権、会社の組織再編、役員の選任、定款変更、多額の借入の決定、譲渡の実行権などを持たせることができるので、会社に関わる重要な意思決定の場面で非常に強い影響力を発揮させることができます。

以上のことをふまえた上で、黄金株の主たるメリットを整理すると、次のようになります。

①黄金株(種類株)なら数%の株式保有でも効力を発動できる

②事業承継後も会社の意思決定権を保持できる

③敵対的買収の予防線を張れる

 

(2)黄金株のデメリット 

黄金株の運用次第では、経営者にとってなにかと不都合になる展開もありえます。例えば、黄金株の保有者が2人以上の場合です。このとき、互いの意見が異なってしまうと、意思決定をうまく下すことができなくなります。もしも黄金株に役員の選任権が含まれていると、最悪の場合、対立者から役職を解任されてしまうケースもありえます。

黄金株は、発行時に様々な権利を付与できるので、「黄金株を誰が保有するべきなのか」という点はくれぐれも熟慮しておくべきでしょう。仮に親族同士で黄金株を持ち合っていると、経営の実権をめぐって不利な立場に追いやられる可能性もあります。

また、黄金株は遺言書で相続相手を指定することができますが、万が一、予期せぬ不幸により、遺言書を残せないまま黄金株の保有者が亡くなった場合は、相続人全員で協議を行った上で相続先を決めなければなりません。円滑に話が進めば問題はありませんが、協議で折り合いがつかなければ、最悪の場合、黄金株を「共有する」という形で決着をつけなければなりません。黄金株の相続に関しても十分に注意が必要です。相続が争点となって会社内で分裂が起こりうるからです。

黄金株のデメリットとして言及すべき最後の点は、「上場」についてです。黄金株は、上場するときにそのまま残せるのかについて、東証や証券会社など他の利害関係者との調整も必要になります。半ば強制的に「普通株」になってしまう可能性すらあります。その場合には、上場することにより、黄金株で保持していた会社の実権を失ってしまうわけです。黄金株を発行する際は、この点にも注意したいところです。

 

3.黄金株の発行方法とその流れ 

黄金株を実際に発行する際の最大のポイントは、「種類株を誰に向けて発行するのか」という点です。

黄金株の発行方法としては、まず定款で種類株の定めをする必要があります。登記変更も必要になり、かつかなり専門的な内容でもあるため、登記手続きに関しては、実績のある司法書士や弁護士に任せるのが良いと思います。

 

4.種類株式について 

黄金株は種類株の一つといいましたが、種類株に盛り込める条項は全部で9項目あります。以下に、その9項目と簡略な説明を記述しておきます。

なお、種類株を発行する際は、以下の項目を任意の数だけ組み合わせて設計することになります。

  1.  剰余金の配当
    優先株主が、配当の剰余金を追加で受けられたり(参加型)、または受けることができないように定義されているもの(非参加型)など。ほかにも、剰余金の配当について「累積型」や「非累積型」がある。
  2.  残余財産の分配
    会社が解散する際に、負債返済後に余った財産を分配される権利。
  3.  議決権制限種類株式
    その株式を有しているかぎり、特定の議決に関して票を入れることができない取り決めのこと。
  4. 譲渡制限種類株式
    その株式を譲渡する際には、会社の承認を得なければならないという取り決めのこと。
  5. 取得請求権つき種類株式
    保有する株式を会社に買い取ってもらうよう要求できる。
  6. 取得条項つき種類株式
    特定の事由が発生した際に、会社が株主の株式を強制的に買い取ることができる。
  7.  全部取得条項つき種類株式
    株主の株式をすべて取得できる取り決め。
  8.  拒否権つき種類株式
    議決において拒否権を発動できる権利が付与されている株式のこと。本稿で扱っている黄金株でスポットが当てられているのは、この項目。
  9.  役員選任付株式
    総会において、取締役や監査役を選ぶことができる。

  

5.事業継承はまず専門家に相談しよう 

創業経営者にとって、黄金株はなにかと恩恵がありますが、事業承継される側から考えると、話がややこしくなってしまうこともあります。例えば古い会社だと、種類株は発行しているけれども登記に反映されておらず、その株式にどのような権限が付与されているのか判然としないといったケースもあります(その場合、過去の議事録に種類株について言及した記録が残っていれば遡ることも不可能ではありません)。自社に黄金株があるという事実を知らずに事業承継を行うと、手続きが複雑になったり、下手をするとご破算になることもあるので、事業承継の際には、あらかじめ専門家に相談することをおすすめします。

 


話者紹介

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Seven Rich法律事務所

代表弁護士 石原 一樹(いしはら かずき)

Seven Rich法律事務所代表弁護士・弁理士。2013年ヤフー株式会社に入社。法務部等において、法令調査、契約書作成や子会社管理、役員会議事務局等の企業法務全般の業務に従事。2015年外資系法律事務所東京オフィスにて勤務し、同オフィスパートナーが独立し設立した窪田法律事務所に参画。 特許、商標等知的財産権に関する業務に加え、破産管財事件、契約書作成等の企業法務案件(係争案件・非係争案件)、刑事案件など幅広い業務に従事。2017年スタートアップ・ITベンチャー企業に特化したリーガルサービスを提供する現在の事務所を設立。

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