廃業する場合に留意すべき固定資産の扱い方
はじめに
日本国内だけでなく、世界的にも経済情勢が悪化する厳しい背景があり、廃業を決断する中小企業の経営者や個人事業主が増加しています。会社を解散すると決断した場合にはやるべきことがたくさんあり、手続きは簡単ではありません。具体的にどのように進めていけばいいのか、わからない人もたくさんいるのではないでしょうか? 廃業をスムーズに進行するにはさまざまな知識が必要となります。固定資産に関する知識もそのひとつです。廃業を決断した場合に固定資産の扱いに関して、どのようなことに留意する必要があるのでしょうか。廃業とM&AにくわしいLiens税理士事務所代表の齋藤幸生さんにお話をうかがいました。
目次
1.そもそも廃業とは何か?
そもそも廃業とは何なのか、倒産とはどこが違うのでしょうか。まずは廃業の基本的な定義から説明しましょう。
(1)廃業の定義
廃業とは会社の経営者が自主的に会社をたたむことです。個人事業主が自主的に事業を終わらせる場合にも廃業という言葉を使います。廃業の計画を立てて準備をし、従業員や取引先に告知し、会社の解散を実行。その際に融資先からの借入金を清算します。資金が足りなくて清算が完了しない場合、廃業は成立しません。
法人の場合は法務局に登録してある法人登記を抹消することで、廃業が成立し、個人事業主が廃業する場合には、税務署と所轄の都道府県税事務所に廃業届を提出して手続きをします。
(2)廃業と倒産の違いとは?
廃業が自らの意志によって選択して計画的に行うものであるのに対して、倒産は経営者の意志に関係なく、陥ってしまう状態を表しています。法律用語ではないので、明確な定義はありません。一般的には業績不振が続き、営業利益が上がらず、債務が返済できなくなって、経済活動を行えなくなった状態を倒産と呼び、法人の場合には「経営破綻」という言葉を使うこともあります。
廃業が計画的に行われるものであるのに対して、倒産はそのタイミングが事前にはわからないため、周囲に与える影響が大きくなりがちです。廃業に対してマイナスのイメージを持っている人もいるかもしれませんが、倒産とは違って計画的に行うことが可能であり、廃業を選択する中小企業の半数以上が黒字であるというデータもあります。廃業を選択できる時点で、プラス面もあるという考え方もできるのです。廃業は時間をかけて計画的に行うことができるので、マイナスの影響を最小限に抑えられるという利点もあります。
(3)なぜ廃業を選択するのか
2020年4月に発表された中小企業白書・小規模企業白書によると、2019年に休業もしくは廃業した企業の61.4%が黒字という数字が出ています。黒字でありながら、廃業を選択する大きな理由となっているのは後継者がいないことです。少子高齢化と経営者の高齢化が重なり、後継者不足は深刻な社会問題となっています。
この他にも将来の展望が見えない、経営に対する意欲が減退してきたなどの理由をあげる経営者も少なくありません。弊所では、コロナ禍で業績が悪化した企業からの廃業相談が増えています。しかし廃業はマイナス面だけではありません。しっかりとした道筋をつけることによって、将来への道を切り開く第一歩にすることも可能だからです。そのためには廃業に関する正しい知識を知っておいたほうがいいでしょう。次の章でその流れを説明します。
2.中小企業における一般的な廃業の流れ
会社を廃業する際には「解散」と「清算」という2つの大きな作業を完了する必要があります。「解散」も「清算」も衝動的にいきなり行うものではありません。しっかりとした計画を立てて、入念に準備して進行するものです。おおまかに説明すると、一般的には次のようなスケジュールに沿って行うことになります。
(1)営業終了日を決定
最初にやるべきなのは会社としての営業活動の停止日を確定することです。在庫の状況、取引先との関係、従業員の将来の準備など、さまざまな要素を考慮した上で決める必要があります。
(2)株主総会で廃業の承認と清算人の選任
株式会社の場合は株主総会を開いて、会社の廃業の承認が必要となります。大企業の場合は過半数の株主が出席している株主総会で3分の2以上の賛成が必要で、書面決議の場合は全員の賛成が必要です。廃業の承認と同時に清算人を決めます。特殊な事情がない限り、会社の経営者が清算人となり、会社解散後に清算の実務にあたります。清算の具体的な業務は借入金などの返済、資産の整理、会社名義の不動産、銀行口座などを解約、名義変更などです。
(3)解散登記、清算人選任登記、解散届けなど各種手続き
清算人は法務局に行き、解散登記と清算人選任登記の手続きを完了します。また税務署で解散登記の届出の作業も必要です。なお解散登記は3万円、清算人登記は9000円かかります。
この他に都道府県税事務所での法人住民税や法人事業税、税務署で法人税の届出をします。
(4)官報に解散公告を掲載
会社が廃業するにあたって、債権者には借金を返済してもらう権利があります。その権利を保証するという目的から会社法499条によって、官報に解散公告を掲載しなければならないと定められています。掲載期間は2か月以上です。この期間が過ぎなければ、廃業の手続きを進められません。
(5)清算人による清算手続きの実施
清算人は清算手続きをする必要があります。債務の弁済と債権回収の2つです。この際に固定資産など、帳簿に掲載されている資産をすべて売却して現金化して弁財にあて、清算によって財産が残った場合は株主に分配します。
(6)決算書類作成と株主総会での承認
清算の手続きがすべて完了したら決算書類を作成し、さらにその書類の承認手続きを株主総会で行います。この時点で会社が消滅して、廃業が成立したことになるのです。
(7)確定申告
廃業が成立してから1か月以内に清算確定申告書と確定保険料申告書を提出する必要があります。さらに清算結了登記の手続きをして、廃業に関するすべての手続きが完了します。ちなみに清算結了登記には登録免許税がかかり、金額は2000円です。
解散までにはたくさんの届出をしなければならず、費用もかかります。手続きにはかなり時間がかかることを想定する必要があるのです。また清算にあたって固定資産をどう扱うかで、現金化した場合の金額が変わってくる可能性があるので、基本的な知識を身につけおいたほうがいいでしょう。
3.固定資産とは何なのか?
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廃業を選択した場合は固定資産をどう扱うかがひとつのポイントになります。そもそも固定資産とは何なのか。まずは定義から説明します。
(1)固定資産の定義
固定資産とは「固定」という言葉が使われていることからもわかるように、ある一定の期間以上、保有している資産を指し、具体的には1年以上という条件がついています。またあくまでも会社が保有するものであり、販売を目的としたものは固定資産には含まれません。
固定資産となるものは土地、建物、工場の機械設備、車両、ソフトウェア、電話加入権など。これらの中で取得価額が10万円以上のものが「固定資産」となり、税法上、20万円未満のものは一括償却資産、30万円未満のものは少額減価償却資産としての処理が認められています。
(2)固定資産の種類
固定資産の種類は大きく分けると、有形と無形の2つになります。
1.有形固定資産
有形固定資産とははっきりとした形のある資産のことです。土地、建物、工場などの設備、車両を指しており、それぞれ課税の仕方に違いがあるため、下記の3つに分類されています。
①土地・家屋
②償却資産
③車両
2.無形固定資産
無形固定資産とは形のない資産のことです。ソフトウェア、商標権、特許権、営業権などが該当します。無形固定資産は基本的には課税の対象にはなりません。
4.廃業する場合に固定資産の処理で注意すべきこと
廃業を決めた場合に固定資産をどうすべきなのか、説明していきましょう。
(1)早めに固定資産を現金化
廃業する場合には固定資産はなるべく早めに現金化することをおすすめしています。廃業にはある程度の費用がかかるので、清算時に現金化することによって、一連の手続きがスムーズに運ぶからです。
ただし、土地や建物などの不動産の現金化には時間がかかる場合もあります。買手がすぐに見つかればいいのですが、買手が見つからなかったり、金額的に折り合いがつかずに長引いたりすることも考えられるからです。土地を売るのに時間がかかり、廃業の手続きを完了するまでに数年かかったケースもあります。
(2)工場の設備などは逆に処分の費用がかかる
工場で使っている機械など、特殊なものは売却できないケースがあります。細かいところでは社内のパーテーションなどの買い取りはほとんど期待できません。工場で使われている特殊な機械、大型の設備なども売却できない場合は資産としての価値がなくなってしまうだけでなく、処分するための費用がかかります。
(3)ソフトウェアに関する特殊な事例
一般的に事務で使っていたソフトウェアなどは固定資産としては計算されません。ただし、例外もあります。担当していた外資系のある企業はゲームソフトを開発していたため、ゲームソフトが固定資産の項目に載っていました。ところが資金難に陥って、廃業することになってしまったのです。ゲームソフトを売って、現金化することもできず、所有したままでは固定資産となってしまうため、破棄処分しました。
これは特殊な例ですが、固定資産は現金化できるものはなるべくすみかに現金化し、できないものは破棄処分するのがいいでしょう。会社の業績が悪いわけではなく、買手がいるならば、廃業ではなくて、M&Aを選択したほうが固定資産という観点でもメリットが大きくなります。
5.M&Aにおける固定資産の価値
廃業ではなく、M&Aを選択できるのであれば、多くの場合、固定資産の価値は変わってくる可能性があります。
(1)M&Aで固定資産の評価が変わる可能性も
M&Aによって会社を買い取った側がそのまま会社の運営を継続するのであれば、土地や建物だけでなく、工場の機械などの設備や会社の備品、車両なども資産として計算することになる可能性が高くなり、買取価格に含まれることになります。
(2)M&Aではのれんも無形の固定資産に
M&Aを選択した場合、のれん、いわゆる営業権も無形の固定資産として計算されるケースがでてきます。廃業よりもM&Aを行う方が資産を残せる可能性は大きいのです。
6.廃業をする場合に考えなければならない固定資産税
廃業をする際に気をつけなければならないのは、固定資産税です。廃業の手続きが終わった後も固定資産税を払う義務が残されていることを忘れてはいけません。
(1)廃業した後の固定資産税はどうなる?
固定資産税はその年の1月1日の時点での所有者が払うことになっています。たとえば、2020年の1月1日以降に廃業した場合、2020年1月1日の時点で土地、建物などの固定資産を所有していたわけですから、2020年4月1日から始まる年度分として課税されるのです。月割などはなく、1年分の固定資産税を支払わなければなりません。
廃業にあたって、借入金などすべての清算が完了しても、その後固定資産税を支払う義務が生じる可能性が高いので、固定資産税のことも想定して、廃業を進めていく必要があります。
7.まとめ
固定資産はその内容によって、減価償却の計算の仕方が変わってきます。また税制上の扱いもさまざまです。廃業する場合に、固定資産をどのように扱っていくのがいいか、個人だけでは限界があるので、普段から会社の帳簿を扱っている顧問税理士など、専門家に相談するのがいいでしょう。
廃業を決断する前に、事業承継、特にM&Aの可能性がないのか、考えてみることをおすすめします。手元に残る資産の額が大きくなる可能性があるだけでなく、会社が存続することによって、従業員、取引先、地域住民などにもメリットとなることがたくさんあるからです。M&Aの専門家に気軽に相談してみてください。
話者紹介
齋藤幸生(さいとうゆきお)
Liens税理士事務所代表 インバウンド税理士
税理士として独立以前から日本に進出する海外企業の支援活動を継続。創業や起業のスタートアップ、国際税務などを数多く担当。フォワーディング業、貿易業、建設業を中心に税務顧問や経営コンサルティング。経営革新等支援機関としては経営力向上計画、先端設備等計画、ものづくり補助金申請を中心に作成、提出、コンサルティング。クラウド会計MFクラウド公認メンバー。経営革新等支援機関 税理士会新宿支部 情報システム部 幹事。東京税理士会所属。東京商工会議所新宿支部 商業分科会。
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