産業廃棄物処理業界の現状と問題点とM&Aを行う際の注意点を詳しく解説
はじめに
産業廃棄物処理業は産業廃棄物の収集運搬や中間処理、最終処分など、廃棄物の一連の処理に関わる仕事です。行政の許認可が必要な業種で社会的なインフラの一つとして位置づけられており、役割が年々重くなる流れがあるます。その一方で、環境問題と密接な関わりがあること、労働条件が厳しい傾向にあることから、固有の課題を抱えているのです。産業廃棄物業界の現状と問題点、さらにはM&Aを行う際の注意点について、M&Aの専門家である株式会社エクステンドの岩永敦司さんに解説していただきました。
目次
1.産業廃棄物処理業界とは?定義と現状を解説
まずは、産業廃棄物処理業の定義と具体的な業務内容を解説します。
(1)産業廃棄物と一般廃棄物との違いとは?
廃棄物は、産業廃棄物と一般廃棄物に区分されます。産業廃棄物とは事業活動によって生じる廃棄物の中で廃棄物処理法に規定されている20種類の廃棄物のことです。燃え殻(石炭がらや焼却炉の残灰など)、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類、ゴムくず、金属くず、ガラスくず、コンクリートや陶磁器くず、鉱さい(鋳物廃砂など)、がれき、紙くず、木くず、繊維くず、動植物性残さ、動物系固形不要物、動物のふん尿と死体(畜産業で排出される家畜に関する廃棄物)など。
産業廃棄物の中でも毒性や感染性、爆発性のある廃棄物は「特別管理廃棄物」と名付けられ、厳格に管理することが義務付けられています。病院で使用された血液の付着した医療用注射針や採血管も特別管理廃棄物です。
一般廃棄物は、事業系一般廃棄物と家庭廃棄物とに分かれます。事業系とは業務によって生まれた廃棄物です。事業活動で生じる廃棄物の中で産業廃棄物に指定されていないものが事業系一般廃棄物と定義され、コンビニやスーパー、飲食店の廃棄物も事業系一般廃棄物に区分されます。家庭廃棄物は一般家庭で生じる廃棄物です。
(2)産業廃棄物処理業は三つに区分される
産業廃棄物処理業は廃棄物処理法によって三つの業種に分けられており、個別の許認可が必要です。それぞれ説明しましょう。
1収集運搬業
産業廃棄物を収集運搬する業務です。街中で見かけるゴミ収集車による作業のほかに、分別や保管も収集運搬業に分類されます。収集運搬業務を行うには都道府県の許可が必要です。業務に使用される収集車は廃棄物が飛散・流出したり、悪臭を発したりするおそれのない設備を有するといった条件を満たす必要があります。
2中間処理業
産業廃棄物を最終処分する前段階として減量化や減容化、安全化、安定化などを行うのが中間処理業です。具体的には破砕、焼却、脱水、中和、溶融などの作業を行います。また再生利用可能な廃棄物の選別も中間処理業の範囲となり、選別されたリサイクル品目や有価品目を再生業者に委託する場合もあるのです。中間処理業では中間処理施設の設置許可と中間処理業の許可という2種類の許認可が必要になります。
3最終処分業
最終処分業は、廃棄物を最終処分する業務です。中間処理された廃棄物の地中への埋め立て、海への投棄、保管などの最終処分を行います。廃棄物によっては中間処理の工程を経ずにダイレクトで最終処分されるケースも少なくありません。
2.M&Aを考える際に考慮すべき産業廃棄物処理業界の特徴
産業廃棄物処理業界は、許認可や施設の建設など制約の多い業界です。M&Aという視点も踏まえて産業廃棄物処理業界の特徴を解説していきましょう。主なものは以下の6つです。
(1)地域に根ざしたビジネス
産業廃棄物処理業の収集運搬業では遠距離を移動するとコストが高くなることから、業務活動のエリアが限定されます。中間処理や最終処分でも専門の設備が整っている施設で行われるため、必然的に地域に根ざしたビジネスになるのです。営業エリアを簡単には拡大できない業種であるからこそ、M&Aのニーズが生まれるケースもあります。
(2)許認可制で新規参入が難しい
産業廃棄物処理業界では業務を行う上で許認可が必須となっています。市町村によって許認可の申請方法などはさまざまですが、業者の枠が決められている地域もあり、新規参入が難しい業界と言えます。中間処理施設や最終処分施設の設置には、廃棄物処理法のほかに大気汚染防止法や水質汚濁防止法などさまざまな法律の適用によって規制されていることも考慮しなければなりません。施設の周辺の環境保全や周辺住民への配慮も求められ、長期的な計画と綿密な準備が必要となるのです。施設を新設するハードルが高いことも新規参入を難しくしています。
M&Aという観点では会社と紐付いている許認可の取得、中間処理施設、最終処分施設の取得などのメリットが生じる可能性が大きいと言えるでしょう。こうした特徴は買手にとってのメリットであると同時に、売手にとってはアピール・ポイントに成り得るのです。
(3)市場が細分化されていて小規模の事業者が多い
産業廃棄物処理業界の大きな特徴としてあげられるのは、小規模の事業者が多いということでしょう。環境省による平成23年度の「産業廃棄物処理実態調査」の報告書によると、平均就業員数は収集運搬業で9人、中間処理業で20人、最終処分業で9人となっています。地域産業であること、作業が細分化されていることなどから、規模の拡大が難しいことはこの産業廃棄物処理業界の課題と言えるでしょう。
(4)固定費が大きくかかる
廃棄物収集車には廃棄物の飛散・流出や悪臭の発生を抑制する設備が整った特殊車両を使用するため、通常よりも車両の固定費用が高くなる傾向があります。また産業廃棄物を分別・保管する場所、処理施設など、設備投資が高額になるケースがほとんどです。車両や施設が特殊であることは、買手と売手の双方にとってM&Aのメリットとなる可能性が高いと言えるでしょう。
(5)裁判に発展するなどのリスクがある
廃棄物処理業では裁判に発展した事例もいくつかあります。廃棄物が不法投棄された事例、廃棄物を保管しておいた土地が廃棄物によって汚染されて土地の所有者から訴えられた事例、廃棄物の中間処理方法が適切でなかった事例などです。
損害賠償額の明確な基準があるわけではないため、裁判によってしか解決できないケースも出てくるでしょう。対策として考えられるのは、廃棄物処理法などの法令、市町村の規則などを厳格に遵守することにつきます。また周辺住民の理解を得られるような日頃の地道な努力も必要でしょう。
(6)法改正の影響を大きく受ける
環境に対する社会の意識の高まりと対応して、廃棄物処理法がたびたび改正されてきた経緯があります。 2020年4月1日に施行された廃棄物処理法の改正ポイントは、一定の事業者に対して電子マニフェストの使用が義務づけられたことでした。マニフェストとは「産業廃棄物管理伝票」のことです。産業廃棄物の処理を委託者が発行する伝票で、産業廃棄物が処理業者によって適切に処理が行われたことを確認する目的で制度化されました。
電子マニフェストとはマニフェスト情報を電子化し、産業廃棄物の排出事業者と収集運搬業者と処分業者の3者が情報処理センターを介してネットワークでやり取りをする仕組みです。マニフェストをより厳格に遵守するための改正と言えるでしょう。今後、廃棄物処理法が具体的にどう改正されるかを予測することはできません。しかし「環境を守る」、「再生利用を増やす」、「廃棄物を減らす」など、社会的な役割の増大という潮流に沿った改正になるであろうことを認識して備えておくべきでしょう。
3.産業廃棄物処理業界の現状と諸問題
産業廃棄物処理業界の現状と諸問題について解説します。
(1)人口減少しつつも市場規模は横ばい
日本国内において、人口減少はさまざまな産業に大きな影響を与えています。しかし産業廃棄物処理業界では、人口減少が市場規模に対してダイレクトには直結しておらず、ほぼ横ばいの状態にあると言えるでしょう。インフラの老朽化にともなう整備などでも一定量の産業廃棄物が生じるため、産業廃棄物の量が急激に変化することは考えにくく、業界の規模や市場動向は安定しています。
(2)同業者との競争の激化
産業廃棄物処理業の中でも収集運搬業はサービスの差がつきにくい業種です。人と接触するサービス業ではないことから付加価値をつけることが難しいため、新規の顧客を獲得する場合には価格競争となる傾向があります。価格が下がる一方で人件費や運搬費などは上がる傾向にあり、利益の幅が少なくなるのです。日々の安定した需要があることがメリットとなりますが、営業努力による拡大が難しい業界と言えます。
(3)人材の確保が困難
日本の社会全体としても人口減少、高齢化の進行によって、人材不足という問題が深刻化しています。産業廃棄物処理業界は一般的に雇用条件が高いとは言えず、深夜や早朝という時間帯での業務もあって労働条件が厳しく、人材の確保が困難な業界となっているのです。M&Aによる事業規模の拡大、建設業などの隣接する他業種との兼業の推進などによって、人材不足の解消を図るケースも目立っています。
(4)業績のいい企業と悪い企業の二極化が顕著
産業廃棄物処理業の中で収集運搬業は小規模な事業が多く、環境省の実態調査でも売り上げはあまり多くありません。好調なのは中間処理業です。再生可能エネルギー分野への参入、各種リサイクル制度への対応などで売上を伸ばしている状況があります。環境省が発表する「産業廃棄物処理業の振興方策に関する提言」(※1)によると、エコシステムジャパン、ダイセキ、大栄環境、アイザック、JFE環境など、国内売上上位10社の売上高合計は拡大傾向にあるのです。
※1:環境省 報道発表資料「『産業廃棄物処理業の振興方策に関する提言』の取りまとめについて」(平成29年5月19日発表)
4.産業廃棄物処理業界におけるM&Aの現状と傾向
産業廃棄物処理業界におけるM&Aの現状と傾向がどうなっているかを解説しましょう。
(1)事業エリア拡大のためのM&A
産業廃棄物処理業は、地方自治体による許認可が必要な業種です。しかし事業者の乱立を回避し、適切な事業者数を維持する趣旨から、認可が簡単におりないケースも多くあります。買手が会社に紐付いた認可の取得を目的としてM&Aを行うケースも少なくありません。未進出地域の認可を所有する会社を買うことで、買手の事業の広域化が可能になります。エリアの拡大は事業の大規模化にもつながり、人材の確保という点でもメリットとなりえるのです。
(2)技術力を持つ会社同士のM&Aによる競争力強化
産業廃棄物処理業の中でも中間処理業では、独自の技術によって資源をリサイクルする流れが顕著になっています。プラスチック廃棄物を土として再生させるなど特殊な技術力を持った会社がたくさんあり、それらの会社同士がM&Aをすると、さらに技術力や開発力を強化していく動きがあるのです。近年は産業廃棄物処理業と環境関連業界によるM&Aも行われています。
(3)隣接する業種でのM&Aによる総合化
収集運搬業と中間処理業、そして最終処分業という産業廃棄物処理業の一連の流れをすべて網羅して兼業を目指すM&A、あるいはリサイクルなどの資源循環系の会社など隣接する業種とのM&Aもシナジー効果が期待出来ることから活発化しています。こうしたM&Aの流れは、産業廃棄物処理業の総合化という言葉で表すことが出来るでしょう。
5.産業廃棄物処理業界でM&Aを行う場合の注意点
産業廃棄物処理業界でM&Aを行う際の注意点について、買手と売手それぞれの立場から解説します。
(1)産業廃棄物処理業界におけるM&Aでの買手の注意点
まずはM&Aにおける買手の注意点を解説しましょう。
対象となる会社の業態を確認する
買手はM&Aの対象となる会社の業態を確認する必要があります。すべての業種に言えることですが、産業廃棄物処理業は激しい価格競争にさらされていること、またさまざまな規制があることなどから、特にしっかりと業務の実態を把握しておくべきでしょう。買う対象の会社が中間処理業や最終処分業の場合は環境問題とも密接に関わっていることもあるため、実際に現場に行って調査することが必須となります。
許認可・設備・人材の確認が不可欠
産業廃棄物処理業は許認可が必要な仕事のため、買う対象の会社が規定や基準を満たしていることをチェックする必要があります。収集運搬業ならば特殊車両の耐久年数、中間処理業や最終処分業ならば施設や設備の規格や耐久年数などの確認も不可欠です。また人材不足解消がM&Aの目的の一つとなっている場合は、従業員の年齢や業歴、M&A後も引き続き勤続してくれるかどうかなどを確認する必要もあるでしょう。
(2)産業廃棄物処理業界におけるM&Aでの売手の注意点
対する売手の注意点を解説しましょう。
買手を探す場合は近い順が基本
産業廃棄物処理業は地域に根ざした仕事であり、周辺住民や地域の会社とのつながりが不可欠な業種のため、買手を探す場合には近くのエリアの会社から順に声をかけていくのがおすすめです。普段から近隣の同業者とのつながりを大切にしておくといいでしょう。
透明性の高い業務活動が不可欠
許認可の必要な業種であること、環境問題などで注目を集めるケースもあることなどから、規則や規定に則った業務活動が不可欠となります。マニフェスト(産業廃棄物管理票)をしっかり管理する、日々の業務で事務的な手続きをていねいに行うなど業務の透明性を高めておくと、M&Aをする際に好条件を引き出せる可能性が大きくなるのです。
M&Aの準備は早めに行う
産業廃棄物処理業は小さな規模の会社が多いため、経営者自らが業務の軸となっているケースが少なくありません。経営者の高齢化に伴うM&Aも数多く行われていますが、体が動かなくなってからM&Aを検討するのではなく、早めに準備しておくに越したことはないでしょう。会社を売却することを考えて日々の業務を改善し、売手候補をじっくり探せると、M&Aにおいて有利な交渉が可能になるのです。
6.まとめ
産業廃棄物処理業は人口減少や景気動向の影響をまったく受けないわけではありませんが、一定量の産業廃棄物が排出されつづけるであろうことからも比較的安定した業種と言えるでしょう。許認可が必要であり、さまざまな規制が存在することや価格競争がきびしいことなどから、新規参入が難しいという特徴があります。つまりM&Aを行うメリットの大きな業界と言えるのです。
産業廃棄物処理業を継続していくことは、環境保全、雇用創出、循環型社会の形成など地域社会にとっても意義のあることと言えるでしょう。産業廃棄物処理業において、M&Aを有効に活用するという選択肢の重要性が増しているのです。
〈話者紹介〉
株式会社エクステンド
岩永 敦司(いわながあつし)
金融機関から不動産、M&Aに携わる企業に在籍。専門分野は資金調達(融資、リース)、経営戦略の立案からM&Aによる事業拡大、M&Aによる財務リストラ、経営承継まで幅広い。企業のステージにあった提案を行っている。
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