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知的財産権・特許権とは何か?M&A(事業売却)における知的資産の評価方法

2019/12/16
更新日:2024/05/13

はじめに

企業は様々な経営資源・資産を保有しています。不動産、施設、設備などの目に見える「有形資産」だけでなく、特許やノウハウ、技術、顧客とのネットワークなど目に見えない「無形資産」もあります。会社売却・事業売却を進める上で、こうした無形資産はどのように評価されるのでしょうか。ここでは、知的財産・知的財産権とは何かをわかりやすく解説しながら、自社の所有する知的資産を買手に評価してもらうポイントを、弁理士事務所「Office IP Edge」の原田正純氏に伺いました。


1.知的財産・知的財産権とは何か、わかりやすく解説

 

「知的財産(知財)」という言葉を聞いたことがある人も多いと思いますが、似たような「知的資産」という言葉もあり、言葉の意味を正確に理解している人は少ないと思います。企業は様々な資産を保有しており、不動産、機械などの有形資産は貸借対照表に計上されますが、知的財産などの無形資産は計上されないことも多いです。ここでは、知的財産(知財)とは何かをわかりやすく解説します。

知的財産権は、知的財産基本法において、次のように定義されています。

この法律で「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう。(知的財産基本法2条1項)

この法律で「知的財産権」とは、特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利をいう。(知的財産基本法2条2項)

知的財産の特徴の一つとして、「モノ」とは異なり、それ自体が財産的価値を有する情報であることが挙げられます。情報である以上は、悪意のある者に容易に模倣されるという性質を持っており、しかも消費されるということがないため、多くの者が同時に利用することができます。こうしたことから、人間の幅広い知的創造活動によって生み出されたものは、創作者の「財産」として一定の期間保護されています。

知的財産は、創作意欲の促進を目的とした「知的創造物についての権利」と、使用者の信用の維持を目的とした「営業上の標識についての権利」に大きく分けられます。前者には、「特許権」「実用新案権」「意匠権」「著作権」などが含まれ、後者には「商標権」「商号」などが含まれます。このうち、特許権、実用新案権、意匠権、商標権は「産業財産権」とも呼ばれ、特許庁が管轄しています。産業財産権は、以前に「工業所有権」と呼ばれていましたが、対象が製造業からサービス業などに拡大されたこともあり、呼び名が変わっています。これらの権利について、ポイントを解説します。

特許権
特許権とは新しい技術を保護するための権利。物の形状に限定されない、より高度な技術までを対象とする。

1.技術的思想の創作である「発明」が保護の対象
2.権利の対象となる発明の実施(生産、使用、販売など)を独占でき、権利侵害者に対して差し止めや損害賠償を請求できる
3.権利期間は出願から20年(一部25年に延長可能)

実用新案権
実用新案権とは新しい技術を保護するための権利。物の形状・構造に限った技術を対象とする。

1.物品の形状、構造または組み合わせに係る「考案」が保護の対象
2.権利の対象となる考案の実施(生産、使用、販売など)を独占でき、特許庁が作成する「実用新案技術評価書」を提示すれば、権利侵害者に対して差し止めや損害賠償を請求できる
3.無審査で、迅速・安価に登録が可能
4.権利期間は、出願から10年(特許は20年)

意匠権
意匠権とはデザインを保護するための権利。
1.意匠とは、(1)「物品」の(2)「カタチ・模様(+色)」という2つの要素からなるデザインのこと。意匠権を取るためには、その意匠が量産可能である必要がある
2.意匠権を取ったデザインの実施(生産、使用、販売など)を独占でき、権利侵害者に対して差し止めや損害賠償を請求できる
3.権利期間は、登録から最長20年

商標権
商標権とは企業のロゴ、商品・サービスを区別するために使用するマークを保護するための権利。

1.商標とは(1)事業者が使用するマーク (2)自己の商品・サービスと他人の商品・サービスを区別するために使用するマーク
2.「マーク」+「使用する商品・サービス」のセットで登録される
3.商標権を取得しておくことによって、自分の商標として半永久的に使い続けることができる
4.自分の登録商標もしくは似たような商標を使う権利侵害者に対して差し止めや損害賠償を行うことができる

■知的財産の種類


出典:経済産業省 特許庁「知的財産権について」(https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/seidogaiyo/chizai02.html

「うちの会社には、特許権や実用新案権はないからM&Aできない」と言う経営者の方もいますが、そんなことはありません。企業が所有する人材、技術、組織力、顧客とのネットワークは、それ自体が競争力の源泉となるものです。財務諸表には表れてこないこれらの目に見えにくい資産を総称して「知的資産」と呼び、これらの知的資産を有効に組み合わせて活用していくことを通じて収益性につながる経営を「知的資産経営」と呼ぶ考え方が広まりつつあります。M&A(会社売却・事業売却)する上では、こうした知的資産も重要な経営資源として企業価値評価に取り入れられます。

■知的資産の分類イメージ図

出典: 独立行政法人 中小企業基盤整備機構「知的資産経営マニュアル」より

仮に、製造業を営み、「発明」と言える技術・システムを有しているのであれば特許として出願し、サービス業などでオリジナルのデザイン・マークがあるのであれば商標として出願した方が良いでしょう。

ただし、特許権や商標権になると公開されてしまい、悪意を持った第三者が模倣するというリスクも考えられます。また、特許や商標の出願には出願料、審査料、登録料の納付が発生します。特許や商標を出願することで、対外的な信用力を高めることができるというメリットがありますが、費用対効果を考えて出願を検討した方が良いでしょう。


2.中小企業の知的資産を評価するポイント

M&A・事業承継を検討している方へ

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今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。

不動産や機械、設備などの有形資産と異なり、知的資産はその実態が掴みづらいことから客観的な評価を行うことは困難です。一般的に、特許権の価値評価手法は次のようなアプローチに分類することができます。

コストアプローチ
特許権が出願されるまでに要した支出額により、その価値を評価する考え方。過去の支出記録を集計するだけで測定ができるため、客観性と容易性に優れる。しかし、コストを価値の指標とするため、わずかなコストで特許権を取得した場合には、低く評価されてしまうデメリットも。

マーケットアプローチ
「売買事例批准方式」とも呼ばれ、実際に市場で取引された類似の特許権の価格を参照して、特許権の価値を評価する考え方。実際の取引価格をベースとするため、合理的ではあるものの、対象とする取引事例が見つからなければ実践することができないというデメリットも。また、特許権の本質として「独自性」があるため、類似の特許権を見つけることができないことも多い。

インカムアプローチ
インカムアプローチは、ある特許権が将来生み出すキャッシュフローを予測し、その利益実現に見込まれるリスクなどを考慮した割引率で割り引くことにより、価値評価を行う考え方。理論的ではあるものの、将来の予測が困難なことと、その割引率の計算に必要な数値に対して、絶対的に正しい基準値がないため、価値評価がぶれやすいというデメリットも。

特許権は、所有権として認められている以上、特許権のみを売却することも可能です。特に米国において、特許権を売買したり、その仲介をしたりする取引が活発に行われています。国内においても、大型のM&A案件を中心に知的財産そのものの金銭価値を算定することはありますが、中小企業のM&Aではあまり見られません。医薬品・ソフトウェア・バイオなどの分野では可能性として考えられますが、一般的に、買手が特許などの知的財産を評価する場合、事業と知的財産を一体として考えるケースがほとんどです。

M&A取引において、特許権を有する企業が株式譲渡を行う場合、自動的に特許権も移転されるわけではありません。一般的に「譲渡契約」の中で、特許番号や発明の名称などを記載した上で、買手が移転登録をする必要があります。また、特許権を複数の会社で共有している場合は、共有する会社の同意を得ない限り、その持分を譲渡できないという点にも注意が必要です。

また、特許が有効か、売主が瑕疵のない権利を有するか、権利に制限がないかなどについて、買手が知財デューディリジェンス(買収監査)を行うケースもあります。知財デューディリジェンスの手順は、概ね一般的なデューディリジェンスの手順と同様で、開示資料に基づき、経営層や関係者を対象に、書面・口頭でインタビューを行い、買収を行う合理性はあるか、リスクがないかなどを確認します。

ただし、デューディリジェンスを行う場合、外部の公認会計士、弁理士などの専門家に支払う費用が増大するだけでなく、監査する期間が長引くほど、特許の価値が減少する可能性があるということにも注意が必要です。さらに、知的資産は、一度開示して情報が明らかになると、資産としての価値を失う場合もあります。顧客情報や営業ノウハウを開示する場合には、秘密保持契約で取り扱いを詳細に定め、契約条項についても細心の注意を払いましょう。


3.会社売却・事業売却を成功させるために必要な準備

中小企業・小規模事業者の経営者の高齢化が進み、後継者が見つからないという課題を抱えている方も多いと思います。中でも製造業など、技術の知見が求められる企業同士のマッチングは難しく、M&A仲介会社を通じた成約が困難と言われています。製造業を経営している経営者の中には、はじめからM&Aをあきらめ、廃業を検討している方もいますが、そこまで悲観的になる必要はありません。

これからM&Aを検討する経営者に伝えたいのは、早めの準備を行うこと。早めに検討することのメリットは大きく、市場の動向や業績をにらみながらベストなタイミングで売却することができますし、売却前に企業価値を高め、より良い買手に売却できる可能性や譲渡価格が上がる可能性が高まります。早めにM&Aを検討し、会社が有する人材、技術、組織力といった無形資産の磨き上げを行う準備を始めましょう。

磨き上げを行う上で大事なポイントは、自社の知的資産を「見える化」することです。オーナー企業として会社を経営している場合、日々の業務に追われて自社の強みや人材・スキル、営業力などを整理できていないケースが散見されます。また、経営者のノウハウや特定の従業員の技能などが、他の従業員に継承されていない場合も珍しくありません。

例えば、自社にはどんなスキルを持った人材がいるのか、自社にはどんな顧客がいるのか、自社が存続している理由は何か、などを整理するのも良いでしょう。また、経営者独自のノウハウや特定の従業員の技能などは、できる限りマニュアルやビデオに残すなどして、買手に伝わるようにすることもおすすめです。

準備をするのに早すぎるということはありません。事業承継を考えてすぐ売却しようとするのではなく、自社内を見直し、M&Aを行うまでに自社の価値を高める努力を怠らないようにしましょう。記憶ではなく記録に残すことで、売却の可能性は高まっていくはずです。

 


話者紹介

Office IP Edge
代表 弁理士
原田 正純(はらだ まさずみ)

京都大学工学部を卒業後、大手総合化学メーカーに入社。環境安全部、知的財産部などに配属。弁理士資格を取得後、2013年に同社を退社。M&A・事業承継を取り扱う弁理士事務所「Office IP Edge」を設立。M&Aアドバイザー業務、中小企業の経営コンサルティング業務を柱に、特許情報などを駆使し、技術系・IT企業のマッチングに強みを持つ。日本経営管理協会認定「M&Aスペシャリスト」。

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