債務超過企業でもM&Aが成立する?価格算定やメリット&デメリットを解説
はじめに
企業において、資産よりも負債が多い状態を「債務超過」といいます。「倒産」という言葉が近いイメージですが、場合によっては債務超過している企業がM&Aの対象になり、買収されることもあります。
債務超過の企業に買手がつく理由は何でしょうか。
今回は、中小企業のM&Aに詳しい税理士法人中山会計の小嶋さんにお話を伺いました。
1.債務超過と赤字について
(1)債務超過とは
債務超過とは、法人が持つ資産に対して負債の方が多くなっている状態を意味します。会社が債務超過であると聞くと、「もうその会社はダメなのでは?」と思われる人も多いかもしれません。しかし、債務超過がそのまま破綻に直結するわけではないのです。
法人を個人に例えて考えてみましょう。住宅ローンでマイホームを買うとき、キャッシュで支払う人も中にはいるでしょうが、多くの場合は住宅ローンを組み、20~30年をかけて返済します。
5,000万円のマイホームを全額住宅ローンで購入した場合を例にします。その個人にとっては、プラスの財産として資産である家の価値(取得した時点で中古住宅になりますので約6-7割の価値になると仮定。)を手にする一方、マイナスの財産として5,000万円のローンを抱えることになります。ほかに多額の貯金がある場合は別として、多くの人が債務超過の状態です。しかし、この状態であっても、破産寸前であるとか、生活に制約を受けるということはありません。きちんと返済を続けている限り、普通に生活することができますし、遊びや贅沢をしても問題にはなりません。
それと同じで、債務超過であっても会社として経営を持続することは可能なので、M&Aの対象にもなり得るのです。
(2)赤字とは
赤字と債務超過は基準が違います。債務とは「負の資産」であり、資産に関してのプラスとマイナスで比較する軸が経済学でいう「ストック」です。
一方、赤字とはストックに対して「フロー」の軸であり、赤字とはある一定期間の「キャッシュフロー」がマイナスである状態です。
つまり、債務超過だけど黒字、あるいは債務超過にはなっていないが赤字であるというケースもあるので、この2つは切り離して考えるべきものです。
2.債務超過の企業の価値算定方法
債務超過の企業の価値算定方法には3種類あります。それぞれを解説します。
(1)コストアプローチ
会社が所有している資産の価値を基準とした価値算定方法で、「ネットアセットアプローチ」や「ストックアプローチ」などの呼び方もあります。代表的なものは「簿価純資産法」あるいは「時価純資産法」です。
コストアプローチのよいところは、純資産価値を基準として客観的にその企業の価値を算定できることです。また、計算自体が比較的簡単にできるという点もあります。
一方、コストアプローチによる企業価値評価に欠けている視点は、収益性や将来性、あるいは価格変動などの要素です。
さらに、純資産に元々あるべき含み益も除外されているので、その時点での評価だけによる売却が前提となります。よって、このアプローチは会社の全資産を売却するような場合、例えば会社を清算する際などにしばしば用いられます。
M&Aと同時に売手企業が消滅し、買手企業に取り込まれるケース(廃業コスト削減のためのM&A)では、将来の収益性を踏まえる必要はないので、企業価値をシンプルで客観的に算定できるコストアプローチが適しています。
逆に、売手企業の事業を継続させる場合のM&Aのバリュエーションとしては、コストアプローチは不向きな手法です。そのため、昨今のM&Aでは、特殊なケースを除いてコストアプローチが用いられることが少なくなってきています。
(2)インカムアプローチ
売手企業が将来得るであろうと予測される収益やキャッシュフローを想定し、その獲得のために見込まれるリスクをも考え合わせた割引率で割引いて評価を行なう価値算定方法です。代表的なものは「DCF法(割引キャッシュフロー法)」あるいは「配当還元法」です。
(3)マーケットアプローチ
マーケットにおいて成立する相場をもとに企業の価値を算定する手法です。代表的なものは「市場株価法」あるいは「類似会社比較法(またはマルチプル法)」です。
セオリー上、これらの複数のアプローチから適切な価格レンジを算出し、その範囲内で最終的に売却価格を決定するのが基本です。
しかし実際は、大企業は別として中小企業においては現実的なエビデンスに乏しいインカムアプローチが使われることは稀なようです。多くの中小企業の価値算定には、コストアプローチで出した価格に営業権、いわゆる「のれん」を数値化したものを足して計算されます。
例えば、資産1億円で負債が1億5千万円だとすると、マイナス5千万円ですが、のれんを8千万と想定できるなら合計で3千万円という結論になります。
ネットの情報では、企業価値算定方式について様々な意見が散見されますが、現場でトレードをしている者からの中小企業M&Aの実情からいえば、前述の折衷方式が現実的なのです。
3.債務超過企業のM&A メリットとデメリット
債務超過の企業でもM&Aで売却できることはもちろんあります。冒頭でも説明したように負債を抱えていても、本業が順調に推移して利益が生み出され、返済ができているなら問題ありません。ここでは、債務超過企業のM&Aのメリットとデメリットを、買手企業と売手企業それぞれで解説します。
(1)買手企業のメリット
買手企業としては、M&A対象となる売手企業が債務超過であった場合には、むしろ財務状況がひとつの評価基準となって買取額は低くなるので、交渉次第ではかなり「お得」な買いものになる可能性があります。
(2)売手企業のメリット
売手企業には、メリットがたくさんあります。オーナーにとっては、少なくとも借入金の個人保証から解放され、借金はチャラになります。株式の評価次第では、さらに売却益が出る場合も考えられるでしょう。また、従業員の雇用が維持できる上に、事業も存続させられます。
(3)買手企業のデメリット
売手企業が債務超過であっても、買手は将来において収益を生むと判断して買収するのであれば、そのトレード自体にはデメリットはあまり考えられません。あるとすれば、債務超過の企業を買収することに対する株主や取引銀行からの批判でしょう。
(4)売手企業のデメリット
売手企業が債務超過の場合に買収されるケースでは、デメリットはほとんどありません。メリットの方が圧倒的に多いと考えられます。なぜなら、価格がつかないいわゆる「1円の買収」であっても、借金がチャラになることを意味するからです。
4.債務超過企業のM&A 成功のポイントと注意点
M&A・事業承継を検討している方へ
当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。
債務超過企業のM&Aを成功させるポイントは、赤字だけに注目しないで冷静にその企業の「現在」と「未来」を見据えて判断することです。債務超過の期間を経て優良企業になった会社はいくらでも存在します。ベンチャー系は、ほとんどそのような感じです。
もうひとつは、売手企業も買手企業も、関係している金融機関にはきちんと報告や説明や説明をしておくことです。法的にというよりも道義的に必要かと思われます。
売手に融資している銀行からすると、何も知らされずに、ある日別の会社の子会社になっていることを後日知るのは面白くありません。
買手企業にしても、債務超過企業を買う会社に銀行が融資をしていることになるので、違法ではなくとも報告はしておく方が不要なトラブルを避けられるでしょう。
5.まとめ
債務超過の企業でもM&Aの対象になりうる裏付けの話を紹介しました。M&Aを検討している中小企業のオーナーは、売手も買手も債務超過という一面だけに囚われず、現在の経営状態や将来に見込める収益、あるいはブランド的な価値などを総合して判断し、双方が得をするM&Aを目指してほしいものです。
話者紹介
税理士法人中山会計 常務社員税理士
小嶋 純一
横浜国立大学卒業。現在税理士法人中山会計にて常務社員税理士を務める。相談し
やすさNo.1を体現する税理士として、自社の経営の実践並びにお客様の経営のサポー
トを兼務。
M&Aスペシャリスト及びM&Aシニアエキスパートの資格を有し、事業承継の出
口をサポートするコンサルティングを15年来推進。
保険会社・銀行・商工会議所・各士業等とのタイアップによるセミナーなどで講演を全国にて多数行い、身近な相談窓口として活動中。
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