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食品卸売業界のM&A事情を徹底解説!M&Aのメリットや注意点は?

2020/03/27
更新日:2024/05/13

はじめに

食品卸売業界には、飲食店業界とは違った特有の事業特性があります。そこで今回は、食品卸売業界の事M&Aや事業承継に長年携わってきた豊富な経験と知見の持ち主である、株式会社ウィットの三宅様に、業界の特性やM&Aをする際の注意点について教えていただきました。


1.食品卸売業界の特徴

食品卸売業界でM&Aや事業承継を考えている場合は、業界の特徴を理解しておくことが大切です。まずは、食品卸売業界の事業内容や業界の特性について解説します。

(1)生産者と小売業をつなぐ中間に位置する事業者

食品卸売業界は、食品のサプライチェーンのうち、生産者と小売業をつなぐ中間に位置する事業者のことを言います。食品卸の原価率は80%台半ばと高くなっており、販管費に占める物流コストが高いのが食品卸の特徴です。物流コストが高くなっている原因には、温度管理の必要性や配送頻度の高さなどがあり、昨今の人手不足によるドライバー人件費の上昇も、物流コストを高くする要因となっています。
業界の規模としては、三菱食品、国分グループ本社、日本アクセス、三井食品など財閥系を中心とした大手から、原材料の生産地に近い地方に拠点を置く中小企業まで幅広く、様々な規模の企業が食品の卸売を手掛けています。

(2)食品卸売業界の特性

食品卸売業界は一言で表すと、良くも悪くもきわめて古い体質の業界だと言えます。業界全体で大手企業や老舗企業が多いため、新規参入者が参入できる余地がなかなかないと言えます。
また、食品の加工卸会社はほとんど大手の食品メーカーの資本が入っており、メーカーが自社製品をその加工卸会社で作り、小売店で販売するというケースも多く見られます。

2.食品卸売業界のM&Aは?

実際にM&Aをするにあたって、食品卸売業界のM&Aの動向を知っておくと今後の取引の参考にできます。ここからは、食品卸売業界におけるM&Aの動向について説明します。

(1)伝統や慣例を重んじるため異業種間のM&Aが実現しにくい

食品卸売業界は、古くからの業界の仕組みが続いていて、昔からの関係性で成り立っている業界です。オーナーチェンジをした後に今まで通り事業を継続できるという保証が持てず、異業種や未経験者が買手となった場合にM&Aが実現しにくい業種であるのが特徴です。
例えば、食品卸売業界に全く携わったことのない人が会社を買ったとしても、取引先が昔からの関係性があるオーナーが変わるのであれば取引を中断するという可能性もあります。
取引先がいなくなれば売上が発生しない事業を買い取ったことになるため、利益を得るどころか大きな損失を抱えてしまいかねません。このよう取引の継続性が担保されないという点において異業種が買手になる場合はM&Aが難しいと言えます。

(2)同業種間のM&Aが多い

食品卸売業界では同業種間のM&Aが多いと言えます。昔から組合内でライバルとして事業を進めてきた会社のうち1社の業績が悪化した際に、組合内の競合の会社に買い取ってもらうという同業種内での再編というケースが多いです。ただ、近年ではサプライチェーンの川下にいる外食チェーンが食品卸会社を買収したりなど、お互いの持っていない部分を補完するようなM&Aも見られます。

3.食品卸売業界のM&Aの事例

商談

食品卸売業界におけるM&Aの実例を紹介します。

(1)卸売会社が飲食店を買収した事例

エスフーズの事例
食肉の製造、卸売会社であるエスフーズが、その強みを活かす形で関係会社を通じて焼肉店を買収したというケースがありました。今までは飲食店であれば飲食店同士で、卸売会社であれば卸売会社同士で規模を拡大していくためにM&Aが行われてきましたが、近年ではこのように川上にいる企業が川下の企業を買収していくというM&Aのケースが、少しずつ活発化してきています。

やまやの事例
もう1つの例としては、酒類販売のやまやが2013年に居酒屋「はなの舞」などを展開するチムニーを子会社化して、販路を拡大させました。その後、はなの舞では今まであまり提供していなかったワインを積極的にセールスするようになりました。
やまやとその子会社のチムニーは、2018年には居酒屋「つぼ八」を買収するなど、「川下」にあたる飲食業界へ積極的に勢力を拡大しています。直近では焼肉店10店舗と和食店1店舗の合計11店舗も買収し、さらに親会社やまやの酒類の販路拡大につなげることができました。まさに、川上の企業が川下の企業を買収し、成功した事例です。

(2)飲食店が食品卸会社を買収した事例

川下の企業が川上の企業を買収する例としては、居酒屋「鳥貴族」などのメガFC(FCとして多店舗展開する企業)として知られるトラオム(大阪市)が、北海道札幌市の水産加工会社、丸三北栄商会を買収した事例があります。トラオムは、大阪や神奈川でフランチャイズを展開しているだけでなく、自身でも居酒屋を展開しています。この企業は、仕入れ先である北海道の水産会社を買収することにより、企業の強みを活かして良いものを安く仕入れ、低価格で顧客に提供することができるようになりました。

以前は今までの付き合いの中で、川上の企業が川下の企業を買収するというのが一般的でした。近年の食品卸売業界では川下にいる企業が川上の企業を買収する事例が増えています。後継者問題で悩んでいる企業の中には廃業を選択するところもありますが、多くの企業は背に腹は代えられないということで、川上の企業を買収するというケースが少しずつ増えてきています。

(3)食品卸売業界のM&A実例から見た今後の課題

食品卸売業界は都心に拠点を置くケースはあまり多くみられません。水産系の食品卸売業界が港近くに拠点を置いているように、地方に拠点を置いているところがほとんどです。 しかし、地方に拠点を置いている企業は、新しい情報がなかなか入ってこないという課題があります。そのためM&Aについての情報もあまり入ってこず、都市に拠点を置いている企業よりも不利になります。このような企業は地方銀行を頼りにするしかありません。その場合は銀行の担当者がどれくらいM&Aの案件について情報を入手しているかが鍵となります。

年配のオーナーになると、M&Aに対してまだまだネガティブなイメージを持っている人が多いのも、事業拡大のチャンスを逃している大きな要因となっています。
例えば創業180年の歴史がある老舗の酒造のような旧体系の会社が、苦労して事業を継続しても身近に後継者がおらず、廃業しか道がないと思っているケースもあります。
しかし都心に拠点を置いている企業からすると、創業180年の酒蔵からお酒を直接仕入れて都心で提供すればヒットするだろうという、お金では買えない歴史あるコンテンツの面白さを見出すことで、赤字であっても買収したいという場合もあるでしょう。
経オーナーの体力があるうちに自社の事業の価値があることを客観的に理解し伝えていくことで、事前に倒産や廃業を回避することもM&Aの意義だと思います。

4.食品卸売業界のM&Aのメリット

提案

まだまだ課題も残っている食品卸売業界のM&Aですが、食品卸売業界でM&Aをするメリットを紹介します。

(1)M&Aによって弱みを補完し会社を成長させることができる

食品卸売業界におけるM&Aのメリットは、補完性のあるM&Aができることです。
例えば日本酒を作って卸している会社が200店舗の飲食店を買収すれば、営業をかけるまでもなく200店舗に日本酒を卸せるようになるため、企業の業績は即座に改善します。自社だけでは改善できないような成長戦略をM&Aによって実現させるケースもあれば、売手として大手の傘下に入ることで、目標を達成して事業を成長させるケースもあるのです。

(2)雇用を存続させることができる

M&Aによって倒産や廃業を回避することができ、結果的に雇用も存続させることができます。食品卸売業界で雇用されている人が高齢であるというのも業界の特徴です。従業員一覧表を作成したときに、平均年齢が75歳という会社もありました。若手社員に夢を持って働き続けてもらうために、M&Aによって事業と雇用を存続できるという点も、M&Aをするメリットの1つです。

5.M&Aの価格相場

食品卸売業界におけるM&Aの価格相場について説明します。

(1)年間償却前利益の約5倍

食品卸売業界においては、設備面と特定取引に依存するケースが多くなっています。そのため、取引形態や持続的な収益の見通しがあるかどうかをベースとして、将来的なキャッシュフローを算出していきます。
例えば土地と工場を持っていたとして、そこにレーンやトラックを20台所有しているとします。これだけで資産価値は高くなりますが、それが全て銀行からの借入金の担保になっていれば、最終的な資産価値は変わります。

買収価格の相場としては安定的かつ継続的な収益が見込める場合、5年間で回収できる程度の金額に設定することが多いです。つまり、1年間で見込める償却前利益の約5倍程度を買収価格に設定します。また、飲食業界においての中小企業の買収価格は、1年間の利益の約3倍程度が相場とされています。
しかし、例えば現在年間1億円の利益が出ているとして、必ずしも企業価値が5億円というのが正しいわけではなく、数年後には取引が継続できなくなるリスクを抱えていれば、たとえ1億円利益を上げていたとしても企業価値は5年分ではなく1年分にしかならないこともあります。
このように食品卸売業界のM&Aにおける企業の価格相場は、事業の取引の継続年数やキャッシュフローと今後の事業計画と合わせて算出する方法がメインになっています。

6.食品卸売業界のM&Aの注意点

契約

M&A・事業承継を検討している方へ

当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。

食品卸売業界でM&Aをする際は、他の業界にも共通する注意点もあれば、業界特有の注意点もあります。
安全にM&Aや事業承継するためには、注意点を理解してリスクを回避しなければなりません。
食品卸売業界におけるM&Aの注意点を紹介します。

(1)書面に現れていない暗黙のルールを知っておく

業界特有の文化や商流など、書面に表れていない暗黙のルールを知っておくことが大切です。経営者よりも力を持っている組合長の存在や、社長よりも権威をもっている人物の存在といった、これまでの事業の歴史において培われた人間関係や取引など、当事者にとっては当たり前になっており意識していないことも多く見られます。
そのため、帳簿だけでは読み取れないような事業の構成要素を可視化しておくことが重要です。業務フローや組織図など、できる限り具体的に可視化しておきましょう。
または今までは慣れ親しんだオーナーが変わった場合、取引が停止してしまう可能性があるため、オーナーの名前は会長として残しておく方法をとる場合もあります。人間関係を崩さないようにするポイントを知っておくことも、飲食業界とは違った注意点になります。

(2)しっかりサポートしてくれるM&A仲介会社を見つける

特に川下の企業から川上の企業買収が増えてきているということは、売手である川上の食品卸売会社からすると、お金は持っていたとしてもその業界に知見や経験がない人が事業を引き取って経営者になっていくことになります。そのことを考えるとしっかりサポートしてくれるM&A仲介会社を見つけておくことも、M&Aを円滑に進めていくためのポイントです。
買収する際の注意点も同様で、帳簿に現れないことが事業の継続性に大きな影響を及ぼすということを理解しておいた上で、しっかりとヒアリングできるM&A仲介会社を見つけておくことが重要です。
目に見えない部分を知らずに契約を交わしてしまうと、事業を上手く運営できなくなってしまう危険性が高くなってしまいます。

(3)期間に余裕をもって契約を進める

食品卸売業界では、売手の企業が都心から離れている場合が多いため、買収の検討から成約までの期間は、カフェなど飲食店のM&Aよりは長く、半年ほどかかります。飲食店であれば客として店舗の様子を見に行けますが、食品卸売業においては実際に視察しなければ分からないことが多いため、ある程度の時間はかかってしまうのです。

(4)自社の長所を整理する

自社の長所を整理することも大切です。商品が良いからといってどこでも卸せるわけではありません。百貨店や大手の小売店に対して取引経験があるといった実績や商品が自分たちの会社でしか作れないという希少性の高さも長所になります。その商品が将来的に衰退していくものなのか、販路を切り開いてまだまだ成長していく産業なのかという伸びしろの分析も必要です。

7.まとめ

食品卸売業界でM&Aを成功させるためには、自分たちの強みを客観的に把握することが大切です。参入障壁が高く、過去からの人間関係や歴史など、数字に現れづらい価値が眠っているのもこの業界の特徴なので、M&Aを円滑に進めるために自社の強みや構造を可視化することが重要です。

<話者紹介>

三宅 宏通氏プロフィール
株式会社ウィット
代表取締役 三宅 宏通(みやけ ひろみち)

2005年に立命館大学文学部を卒業、同年UFJ銀行に入行(現・ 三菱UFJ銀行)。上場企業を中心に融資等を担当する。2007年に飲食業界に特化したM&A仲介業、人材紹介業を手がける株式会社ウィットを設立。あらゆる規模のM&A案件を成約させる。
2018年には株式会社シンクロ・フードにウィット株式を100%譲渡し、子会社として引き続き飲食業界に特化したM&A仲介業を行っている。

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