廃業かM&Aか~どちらのメリットが大きいか徹底検証~
はじめに
ここ数年、これまでなら廃業となるはずだった企業がM&Aを選択するというケースが増加傾向にあります。今までなら「自分が育てた会社を他人に売り渡したくない」という日本独特の経営者の感情がM&Aの障壁となっていたかもしれません。しかしながら、ここ数年で急速にM&Aのメリットが知れ渡るようになり、M&Aのマイナスイメージがプラスに転じ始めているようです。このような現状を反映し、業績を順調に伸ばしているM&A仲介会社も目につくようになりました。
昨今の景況感から「廃業かM&Aか」という二者択一を迫られている経営者も多いことでしょう。
そこで今回は、企業の廃業およびM&A問題に詳しい「みどり未来パートナーズ」の三村氏に詳細を解説していただきました。
1.増加傾向にある企業の廃業
2000年代、日本の中小企業を取り巻く負の傾向に「増え続ける企業の廃業」という大きな問題があります。最近の帝国データバンクなどの調査データでも廃業や倒産件数の増加に歯止めがかかっていないことが分かります。
企業が廃業にいたる最大の要因は、一般的には経営者の高齢化にあるといわれています。2020年現在、中小企業の経営者の平均年齢は60歳後半とされています。これら経営者は「自分が経営から身を引くときが廃業のとき」という考え方が大半を占めており、自分の後継者を育てていなかった、あるいは事業承継ができる後継の適任者が不在という事業が多いようです。すなわち、現代日本における中小企業の廃業増加という問題の本質は、経営者の高齢化による後継者不足にあるとみてよいでしょう。
2.廃業と倒産との違い
世間では「廃業」と「倒産」を同じととらえている人が多いようです。正確に表現すると「経営者が自らの意思で会社をたたむことを通常「廃業」といいます。これに対し、事業を継続したいが資金不足または債務超過で継続不可能となった状態が「倒産」です。実際に、廃業する企業の内実は資産的に余裕がある黒字企業がほとんどです。すなわち、資産がない状態では廃業ではなく倒産しかないということなのです。資産が目減りして倒産に追い込まれる前に廃業を選択する企業は多く、むしろ現在のような不況下の時勢で余力があるうちにきちんと会社をたためる(廃業できる)経営者は少ないといってよいでしょう。
現在では「廃業」でなく「M&A」で事業を継続させる道を選択する経営者が増えてきています。
なぜこれまでの日本の中小企業にM&Aが少なかったかというと、日本の中小企業の多くがオーナー社長によるワンマン経営体制で占められているという点に要因があります。オーナー社長のワンマン経営体制では、オーナー社長の考え方がそのまま経営手法に反映される傾向があります。特に60歳代以上のオーナー社長にはM&Aに対する拒絶反応が強く、会社をわが子のように思っているだけに「わが社を他人に売り渡すくらいなら自分の手で廃業を選ぶ」というケースが多くありました。
日本には戦前から続く「親から子へ」という企業の事業承継文化がありましたが、昭和の終わり頃から、次世代が会社を継がないという風潮が強くなってきたことも挙げられるでしょう。そこで近年「社員や取引先に迷惑や不義理がかからない」というM&Aの最大のメリットが周知拡散されるとともに「廃業ではなくM&Aを」という選択肢が増えてきたということなのです。
3.廃業時の経営者の選択肢
実際に、それまで会社経営を担ってきた経営者が引退する際、会社の今後についてどのような選択肢があるのでしょうか?
経営者の引退時における選択肢のいくつかを、その内容とともに以下に紹介しましょう。
(1)親族内承継
戦前から続いていた企業文化には「経営者が自分の子息を跡継ぎにする」という「親族内承継」が多くありました。いわゆる「家督制度」の名残が企業社会に脈絡と続いていたわけです。しかしこの傾向も次第に変化し、現在では子供は家業を継がず別の会社に就職するケースが増えてきています。経営者の中には老舗の旅館のように娘の夫を跡継ぎにし、子供がいない場合は養子を迎えるというパターンもありましたが、いずれも時代にそぐわず親族内承継は時代の流れとともに減少してきています。
(2)親族外承継
親族内承継ができないとなれば、社内で優秀な社員を跡継ぎとする「親族外承継」があります。戦前によくみられた「番頭が店を継ぐ」という方式です。ただし、経営が順調な会社ほど親族外承継は困難であるという現実があります。すなわち、利益が多く出ている会社ほど株価が高いので事業承継のための資金が調達できないのです。一社員には資金調達能力に限界があり、親族外承継を断念するケースもあります。
(3)M&A
「親族内承継」「親族外承継」のいずれもできない場合には、資金力のある第三者に会社を譲り渡すしかありません。これがM&Aで、M&Aの利点が広く知られるようになった近年はM&Aに積極的な経営者が多くなってきています。
たしかに、M&Aを嫌う経営者もまだいるのですが、経済的合理性が高いM&Aで会社を存続させることを選ぶ経営者は着実に増えています。
(4)廃業
後継者がおらずM&Aもしないとなれば、企業の経営者は「廃業」を選択するしかありません。債務超過で廃業でなく倒産せざるを得ない企業も多い中、廃業できるのは恵まれた状況ともいえます。ただし、廃業となると残った資産の売却が難しいことと、残された社員の生活や取引先の問題もあります。その点、M&Aなら株式譲渡と引継ぎ業務だけで作業的にも大きな手間がかからず、そのまま事業を継続できるメリットがあります。
4.国による多様な事業承継支援
M&A・事業承継を検討している方へ
当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。
中小企業の後継者不足による事業継承が困難という問題に対し、行政側もさまざまな支援策を実施しています。それらを項目別に紹介しましょう。
(1)事業承継税制
企業の経営者が後継者に会社を譲る事業承継における最大の障害が相続税・贈与税でした。会社の規模が大きければ大きいほど多額の納税負担となり、これによって事業承継を断念するケースも少なくなかったのです。
そこで2018年に「事業承継税制」が改正され、一定の要件のもとで相続税・贈与税も納税が猶予され、後継者の死亡などにより猶予された納税が免除されることとなったのです。また同時に、10年間の措置として納税猶予の対象となる総株式数の3分の2までとなっていた非上場株式制限が撤廃され、納税猶予割合が80%から100%に引き上げる特例措置も創設されました。
ただし、事業承継税制には取消のリスクもあり、これには25項目にもおよぶ細かい取消ルールが定められています。ちなみに、M&Aによって第三者に売却することも取消ルールに該当します。この「取消ルール」を正確に把握しておかないと安易に事業承継税制に頼ろうとして後悔するケースがあるので要注意です。
事業承継税制は事業の継続を願う経営者にとってはありがたい制度ではあるものの、後継者がいなくなるという万一の場合や、結果的にM&Aという選択肢を狭めてしまう可能性があることを熟知しておくことが大切です。事業承継税制に頼らずに従来の株価を引き下げ、施策を計画的に行っていくことも重要といえるでしょう。
(2)事業承継補助金制度
事業承継にかかる費用が補助されるのが「事業承継補助金制度」です。この制度には、事業承継時の社内整備費用やM&Aでの経費などが対象となっています。ただし、現状では「申込期間が短すぎる」「使い勝手が悪い」との批判があり、税理士会などが制度の改善要請をしています。将来的には、より利用しやすい制度に変わる可能性があります。
(3)事業引継ぎ支援センター
全国の各都道府48箇所(東京都のみ2箇所所)にあり、中小企業の事業承継をより円滑に行うためのサポート機関として設置され、特に国が力を入れているのが「事業引継ぎ支援センター」です。これまで同センターでは、地域ごとの対応に限定されており、情報漏洩を恐れて全国的なネットワークがありませんでした。しかし現在は、民間のマッチングサイトに委託して全国で企業同士のマッチングを可能にする機能が強化されてきています。これまでのM&Aでは比較的規模が大きな案件中心で中小規模の会社を引き継ぐ受け皿がありませんでした。同センターの活用により、売上高5千万~1億規模の中小企業のM&Aが成立してきているという実績が報告されています。
(4)よろず支援制度
経済産業省傘下の中小企業庁が2014年からスタートさせた制度で、全国各都道府県に1箇所ずつ「よろず支援拠点」を設置されており、そこでは中小・零細企業の経営相談に応じています。
特に深刻な後継者不足と事業継承の問題についても、各拠点に専門家を配置して相談を受ける体制が組まれています。
5.M&Aのメリット
現在、多くの中小企業の経営者が「廃業でなくM&A」を選択しています。それは「廃業するよりもM&Aの方がメリットは大きい」ことに他なりません。
ここではM&Aのメリットがどのようなものか、具体的に述べてみましょう。
(1)手続きが簡便
中小企業のM&Aでは、その大半が株式譲渡に加えて社員の雇用契約や取引先など取引契約を全て丸ごと譲渡するため、廃業と比べて手続きが簡便に済みます。解雇となった社員と家族が路頭に迷う心配もなく、取引先にも迷惑がかからないというメリットがあります。
(2)経済効果が高い
M&Aでは、売手が黒字であれば利益に応じて営業権(のれん)が付加されるので、廃業するよりも経済効果が高くなります。たとえば、売上1億円、利益500万円の企業であれば、通常3年分1千500万円の営業権が付与されることになるのです。
廃業の場合は売上1億円、利益500万円の企業であっても資産を換金する際に足元を見られて買い叩かれ、換金後の資産は約6~7割程度に目減りしてしまうといわれていますが、M&Aなら1億1千500万円で売却が可能というわけです。
6.M&Aのデメリット
メリットが多いM&Aですが、決して万能ではありません。メリットと同時に少ないながらデメリットもあることを理解しておきましょう。
以下に、M&Aのデメリットを挙げておきます。
(1)一定の期間を要する
買手が必要となるM&Aでは、思うように買手が見つからないケースも少なくありません。必然的にM&A成立まで相当の時間がかかってしまう場合があります。
(2)手数料の負担
M&Aでは、通常M&A仲介会社などを利用することが多く、企業の規模によっては、手数料が高額となる場合があります。
7.M&Aの実例
原則として、廃業かM&Aかの二者選択は資産が債務を上回っている会社に限られます。しかしながら、現実には赤字経営かつ8千万円の債務超過でありながらM&Aが成功したケースもあります。このケースでは、買手側がその地域に進出したいという思惑があり、売手側企業の取引先に魅力があったことがM&A成立の要因となっています。
すなわち、買手企業が売手企業の債務を引き受けた上、ほぼ0円(実質8千万円の営業権が付加された)で売却契約が成立したというわけです。レアケースではありますが、このように地域やよい取引先があるなど買手企業にとって魅力がある案件では「営業権」が付加され、通常なら負債を抱えて倒産するはずの企業でさえM&Aが成立する場合もあるのです。
8.まとめ
M&Aについては、かつてのマイナスイメージがここ数年でほぼ払拭されつつあります。2018年頃からM&A市場が活性化しており、並行して株式上場を果たすM&A仲介会社も増えてきています。
長年にわたって築き上げた企業のブランド価値が保たれ、社員の雇用も確保できた上に事業がそのまま継続できるとなれば、廃業よりもM&Aを選択する方がメリットはかなり高いといえるのではないでしょうか。
〈話者紹介〉
株式会社みどり未来パートナーズ
事業承継アドバイザー
三村 尚(みむら ひさし)
M&Aシニアエキスパート。香川県高松市生まれ。横浜国立大学経営学部を卒業後、百十四銀行、帝国データバンク勤務。2012年より株式会社みどり未来パートナーズ勤務。延べ2,000社の企業評価を行った経験を活かしM&Aを中心とした事業承継を手掛ける。
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