板金業におけるM&Aの流れやメリットとは? 注意点や成功のポイントを解説
はじめに
自動車業界における板金業は、その特徴や新規参入の難しさから買手が多い状態です。しかし、売手側の経営者にはM&Aに対する認識や知識が不足しているのが現状です。
今回は、板金業でのM&Aの流れやメリット、事例とともに成功のポイントや注意点を、税理士法人小林会計事務所の小林清さん、小林弘清さんのお二人に解説していただきました。
目次
1.板金業の業界動向とは
板金業とはどのような業種なのか、まずは業種についての基礎知識と、業界動向について見ていきましょう。
(1)板金業とはどのような業種か
車が事故を起こしてぶつけたときなどに、車の外装補修をおこなうのが板金業です。傷を直す場合は、塗装をすることもあります。車の修理をする板金と塗装は一体で動くことが多いので、一般的には「板金塗装業」といいます。
(2)板金業の業界動向について
車が普及しブームが起こった昭和の時代に、車の修理や板金塗装の仕事が増えました。車の修理には、車を置くための場所が必要です。修理を待つ車を置く駐車場スペースなども必要なので、工場にはかなりの面積を確保しなくてはいけません。車のブームが起こっていた頃は土地がさほど高くはなく、そのときに修理工場を始めた経営者が40年、50年続けているので、高齢化が進んでいるのが板金業の現状です。
IT化が進んでいる現在、インターネットを使って集客をする企業も多いですが、板金業は経営者が高齢化しているため、時代の変化についていけてない会社が多いのも特徴でしょう。創業当時は十分な収益を上げていたけれど、現在は車で商売をしていても採算が合わない、または事業の継続が難しい状態が数年間続いているケースも見られます。
経営者の子供は、学生時代にアルバイトで父親の仕事を手伝いながら技術を身につけることがあります。先ほど「ITを使えば集客しやすい」と述べましたが、たとえ子供に板金や塗装の技術がないとしても、インターネットを利用した集客をしてみると、意外と簡単に集客できることも多いです。その理由は、同業者の経営者は高齢者が多いからです。ホームページなどで集客をした場合、同業他社の上を行くこともあるくらいです。このようにIT技術を駆使して営業活動を行えば、同業他社に勝てる要素が出るため、親から子への事業承継もできます。しかし、社員にまかせるとなると、先述したように年齢層が高いため、IT技術がないケースが多く不安を感じる人が多いでしょう。
(3)板金業におけるM&Aの現状
板金業でおこなわれるM&Aには、どのような背景があるのでしょうか。新規参入の難しさと参入する企業の業種には、板金業ならではの事情が関係しています。
先述のように、板金業を始めるには広い土地と工場が必要です。しかし設備の準備にかかるコストは高額のため、新規に始めようとしても難しいのが板金業です。車検を1日で完了できる仕組みを持つ民間車検場を作る、または車検場へ行かずに自社で車検をして書類を陸運局へ持っていくだけという会社を作りたくても、それなりの広さの工場が必要なので簡単にはいきません。修理工場に新規参入をしようとしても、参入そのものがなかなかできないのです。
相当な資産を持っていれば、参入できるかもしれません。新規事業を始めるには何億ものお金を土地や建物に投資しますが、それだけの土地と建物を借りること自体が簡単ではないという問題もあるでしょう。そんな中で、板金塗装業をやめたい経営者から、M&Aで事業承継ができる第三者承継が求められています。
特に板金業への新規参入が多いのは、中古車センターです。自社内に修理工場を持つと利便性が高く収益率も高くなるので、ニーズも多いのです。中古車センターでは販売が主で、修理が発生した場合は外部へ依頼しており、修理工場を持っているところはあまり多くありません。
中古車センターでは中古車販売はできても、修理工場のために一から新たに社員を入れてノウハウを教えるのは相当な時間と人員が必要となります。このような理由から、すでに設備が揃っている工場と人員を持ち、ノウハウにかける時間やコストが不要な修理工場へのニーズが高くなっています。
2.板金業でM&Aをおこなうことで得られるメリットとは
M&Aで買収・売却をすることによって、売手と買手は以下のようなメリットが得られると考えられます。
(1)売手側のメリット
廃業しようとすると、工場や機械の撤去でかなりの費用がかかります。現在の借入額が大した額ではないとしても、撤去費用で借金が残ることもあり、蓄えがあったとしてもそれらをすべて使わなければならないでしょう。更地にした後も、問題が発生する場合があります。工場で使用していたオイルが地下に染み込んでいると、土壌汚染により土地が売れない可能性もあるでしょう。このような理由から、完全な廃業はリスクが大きいのです。
加えて、工場で働く従業員の問題もあります。長い間働いてくれた社員には、退職金を支払う必要もあります。しかし、退職金の積立をしていない経営者も多く、費用の捻出が厳しいこともあり得ます。
M&Aで工場を売却できれば、工場の撤去費用は不要です。さらに退職金の支払いも必要ありません。社員を引き継いでもらえ、社員の生活を守れる点は、売手側にとって大きなメリットになります。また、借入金も引き継いでもらえれば個人保証もなくなり、経営者にとって悩みが解消できる点もメリットでしょう。廃業コストをかけるなら、M&Aをした方がメリットは大きいといえます。
(2)買手側のメリット
板金業の新規参入は簡単ではないと先ほど述べましたが、M&Aで事業承継をすれば、工場と人材を確保できます。売手側の顧客も引き継げるので、すぐに事業として成り立ちやすいのもメリットです。
3.板金業でM&Aをおこなう際の流れ
実際に板金業でM&Aがおこなわれる際、どのような流れになるのでしょうか。売手側から見た流れを主に紹介します。
(1)売手側の流れ
まず、株価評価をおこないます。どの程度の株価が適切なのかを評価し、いくらで売れるのかという話になります。従業員は基本的に引き継がれるので、借入金などについての話も煮詰めていきます。
「本当に買手が現れるのか」という不安を抱く売手企業も多いです。また、売手企業にとっては長い時間をかけて育ててきた会社ですから、買手企業はどこでもいいわけではありません。ある程度の条件を売手企業に聞き、その条件に合致する買手企業を探します。
(2)買手側の流れ
お互いに条件が合ってから、トップ面談をおこないます。その際にさらに条件などを煮詰めていき、条件を決めた後で基本合意契約書を交わします。
4.板金業でM&Aを成功させるためには
M&A・事業承継を検討している方へ
当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。
M&Aを成功させるためにはどのようなことをおこない、準備しておくべきでしょうか。売手側がおさえておくべきポイントを紹介します。
(1)正しい情報を伝える
買手側にしてみれば、利益が出ている会社の方が買いやすいものです。通常決算を含めてマイナスにもかかわらず、わざわざプラスにした決算書を出されてしまうと、買手は正しい判断ができなくなってしまいます。
正しい情報を伝えずに契約をするとトラブルになることも考えられます。そのため、正しい情報を正しく伝えること、伝えてもいいように事前準備をしておくこと、売れるような優良企業にすることがポイントです。
(2)業界動向を把握する
また、売手側も板金業界の現状をよく知っておく必要があります。現在、板金業は買手が多い状態です。先述の中古車センターや修理業者などをはじめ同業の買手の方が多いので、少しでも条件が良かったり、エリアが合致していたりすれば買われやすい状況です。
ところが、このような情報を持っていない経営者が多く、自分の会社が売れると考えていないケースが多く見られます。売手側のメリットにもあげたように、M&Aの方が廃業するよりもメリットが大きいのですが、このことを知らない経営者も多いです。それだけ板金業の経営者は持っている情報が少ないということでしょう。廃業コストをかけるくらいなら、売却が可能かを専門家に相談をして、M&Aに対する理解を深めておきましょう。
5.板金業でM&Aをおこなう際に注意すべきこととは
買手が多い板金業界のM&Aにおいても、売手が注意すべき点をしっかりと把握しておくことが大切です。
(1)情報漏洩に注意する
M&Aで一番問題となるのが、情報漏洩です。買手側の情報を売手側に伝えた後、売手企業が「○○が買おうとしている」などと他に情報を漏らしてしまうと、成約とならないばかりか、大きな問題になります。秘密保持契約書をしっかりと結び、その内容を守る企業でなければ、M&Aの対象にもならないでしょう。
ある程度規模の大きな会社では守秘義務を守られますが、中小企業ではルールの大切さを理解していないケースが多く見られます。知り合いの企業に売ろうとしている場合は特に情報が漏れやすいです。自分の勤務先が買収されることを知ると、従業員も不安になります。
また、知り合い同士での買収は、経営者同士ではまとまる話もまとまらなくなるケースが多いです。下手に知り合いに買ってもらうよりも、アドバイザーのような専門家を間に挟んだ方がいいでしょう。
(2)売手側は事実をきちんと伝え、アドバイザーに入ってもらうべき
もう一点、売手側が注意すべきこととして、「嘘をつかない」ということです。成功のポイントともつながりますが、売手側は借入金の額を正確に示さなければなりませんし、当然粉飾していないことも明らかにする必要があります。不利な情報を積極的に言わず、虚偽の説明や嘘をつくつもりではないにしても明確な情報を買手側に伝えずに事実を隠すことは、一番の問題です。成約後に隠していた事実が明るみに出てしまうと、当然ながら買手側にとっては大きな損となり、トラブルを引き起こす原因となりかねません。
6.まとめ
会社を売ることよりも、経営者が自分の会社を今後どうしようかと悩んでいるうちに、10年、15年とズルズル時間だけが経っているケースがあります。70歳、80歳と高齢になって健康面での不安を感じるようになり、はじめて決断を迫られるという経営者が多く、最も考えられる流れです。病気になったときに、初めて今後の会社について考えることもあるでしょうが、元気に働いているうちは自社をM&Aで売却をするなどの決断はしにくいものです。
後継者がいないのであれば、しばらくは経営を継続するにしても、早めに事業承継などの情報やM&Aの知識を得ておきましょう。もし廃業となった場合、廃業費用の捻出のために自宅などの財産を売却しなければ銀行に返済できない状態になる可能性もあります。会社を売却する決断をするのは難しいことですが、前もって準備と心づもりをしておき、どう対処すべきかを考えておくべきです。
話者紹介
小林 清(こばやし・きよし)(写真右)1949年生まれ、神奈川県出身。78年税理士試験合格。79年横浜にて開業。東京地方税理士会所属。税理士資格のほか、行政書士、公的資金プランナー、株式公開コンサルタントの資格を持つ。横浜の中小企業を中心に起業当初から成長に導く経営のパートナーとして、幅広いサービスを提供している。
小林 弘清(こばやし・ひろき)(写真左)
神奈川県横浜市出身。税理士法人小林会計事務所 公認会計士・税理士。趣味は ゴルフ、スノーボード、映画鑑賞。座右の銘は「クライアントファースト」。
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