電気工事業のM&A 事業承継の方法とは?成功のポイントと注意点を解説!
はじめに
専門的な技術と経験が必要な電気工事会社、その中でも特に小規模の会社においてオーナーが高齢化しているのにもかかわらず後継者がおらず、事業承継できないという声が非常に多いのが現状です。
また、事業承継は親族承継が多く、従業員承継やM&Aという選択肢は極めてまれであるのもこの業種の特徴です。今回は、電気工事会社の事業承継に詳しいtakeoverの村川さんにお話を伺いました。
1.電気工事の事業承継の実情
電気工事会社の事業承継は、「親族内承継」「親族外承継」「M&A」のいずれかで行なわれています。しかし、実情は家族で継ぐものがいないという理由だけで、オーナーが事業承継をあきらめているケースが多いです。
オーナーは団塊世代の人たちが多く、M&Aという選択を考えられない人が多いのです。M&Aに対してマイナスのイメージがあるのでしょう。めぼしい後継者がおらず、廃業を選ぶというケースが見られます。しかし、同業で規模の大きい会社が、人材確保のためにM&Aを行う事例は多々あります。
電気工事は専門技術を持っている職種です。後継者が身近にいないという理由だけで諦める必要はありません。事業承継は、家族以外にでも承継してもらうアプローチができるのです。3種類の承継方法について、それぞれの内容を確認していきましょう。
(1)親族内承継
まず、この業種においてもっともポピュラーな事業承継の方法は、自分の親族を後継者に引き継ぐ「親族内承継」でしょう。オーナー(創業者でも2代目以降でも)の子どもや身内の誰かに、経営を委ねるということです。
オーナーにしてみれば、子どもや血縁の誰かに電気工事の事業を受け継いでもらいたいと考えるのは当然の心情でしょう。自分のこともよく知っている親しい身内に事業をバトンタッチできれば、安心してセカンドライフを楽しめるというものです。
身内であれば贈与という方法だけでなく、万が一の場合は相続という形で会社の資産も引き継げます。つまり、承継が確定していたならば、オーナー本人はできるところまで働き続けるという選択肢も選べるのです。
もっといえば、引き継ぐ子どもかあるいはほかの身内が、事業を引き継いだときに発生する税務上の負担が大きく、それをただちに果たせないとしても、相続であればまだ先のことで準備期間が持てます。
もし、子どもや身内が受け入れてくれるのであれば、親族内承継を念頭において、後継者たる人に事業に対するノウハウを伝授しましょう。
しかし、電気工事会社に限らず、父親の事業を子どもが引き継ぐケースはめっきりと減ってきています。各家族によってその理由はさまざまでしょう。また、オーナー自身が子どもに無理やり事業の承継を押し付けることを好まず、子ども自身に人生の選択をさせてあげたいという、スタンスの変化も見られます。
家族や親族の中でどうしても後継者がいない場合は、従業員などの中から後継者足りうる人物を探して親族外承継を行うか、M&Aを考えてみましょう。
(2)親族外承継
親族で目ぼしい人がいない場合に多いのが、親族外の承継です。後継者は、身近な従業員や役員などから適任者を選ぶのが理想でしょう。
ともに仕事をしていて、経験もノウハウもあり、オーナーの経営に対するビジョンも理解しているというメリットがありますが、後継者は事業承継に必要となる資金の確保が必要になるため注意が必要です。親族外承継は経営権を贈与するにあたり贈与税が課せられるので、受け継ぐ人にとってはかなりの税負担になる場合も多いのです。
税金を納めることができなければ、事業を承継することができません。前もって資金を準備し、できる範囲で節税の対策を考えておく必要があります。
親族にも親族外にも後継者がいない場合は、いよいよM&Aの出番となります。
(3)M&A
身内や従業員の中に事業を引き継ぐにふさわしい人がいない場合でも、事業承継の可能性を見いだしてくれるのがM&Aです。
M&Aに対して、ネガティブなイメージを持つ人も多いようですが、最近は理解が進み、ポジティブに捉えて事業承継の手段として選択する人も増えてきました。M&Aは、ほかの会社との合併、あるいは吸収してもらうことで事業を承継するアプローチであり、現代的な事業承継といえるでしょう。
この手法で事業承継できれば、事業のスケールも先方の規模と相まって大きくなり、シナジー効果が生まれる可能性も充分にあります。日本では友好的なM&Aが多く、売手企業と買手企業の話し合い次第では、従業員の労働環境も改善されることも期待できます。
電気工事の業界を含む建設業界という大きい枠を俯瞰してみると、後継者不足で困っている会社は約7割にも上るともいわれており、業界全体がM&Aに対して前向きに取り組む時代がきているという意見もあります。
電気工事会社の関係者も、現実を認識してM&Aを視野に入れるほうが、事業承継のできる確率は間違いなく上がるでしょう。
2.事業承継をあきらめて廃業した場合のデメリット
電気工事会社が後継者を見つけることができず廃業した場合、様々なデメリットがあります。電気工事会社が廃業した場合には、以下のような芳しくない事態が起こるおそれがあるのです。
● 得意先が困る
● 従業員が困る
● 撤収に費用がかかる
顧客がおり、従業員を雇っていて、設備を持っているのなら、廃業という選択肢は避けたいものです。上記の3つの芳しくない事態をもう少し掘り下げてみましょう。
(1)得意先が困る
電気工事会社が後継者問題を解決できずに廃業してしまうと、それまでお世話になってきた得意先に大きな迷惑をかけてしまいます。とりわけ、コンスタントに発注してくれていた得意先は、新たな工事業者を探さなくてはなりません。
電気工事という職種は、定期的に取引がある企業も多いものです。できるだけ迷惑をかけないようにするためにも、廃業を決めたのであれば、なるべく早い段階で報告し新たな発注先を探してもらうようにしたいものです。
(2)従業員が困る
廃業により、従業員は生活の糧である仕事が急になくなります。もちろん、事前に報告があって転職活動をすることはできても、必ずしも望ましい職場が見つかるとは限りません。
電気工事の資格を持つ技術者なら、その技術を活かした仕事を見つけられる可能性はありますが、事務や営業の社員の転職は難しいことが予想されます。従業員だけでなく従業員の家族にも関係してきます。廃業は、多くの人に苦労を強いることになるのです。
(3)撤収に費用がかかる
電気工事会社が廃業する場合、仕事の性質上、設備の廃棄にかなりの費用がかかることも考えておかなければなりません。今の時代、廃棄には多額の費用が発生します。ましてや電気工事事業を営んでいれば、資材にせよ工具にせよ廃棄処分は必ず発生します。
ほかにも、事務所を賃貸している場合、事務所をたたむときに原状回復の費用も必要となるでしょう。数十万円から100万円程度の費用がかかるともいわれる廃棄費用を考えると、M&Aという事業承継の方法を使わない手はないでしょう。
3.電気工事会社のM&Aの事例
M&A・事業承継を検討している方へ
当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。
電気工事会社の事業承継事例を2つ紹介します。
●塚田電気工事
塚田電気工事がTTKに事業を譲渡したのは2018年です。塚田電気工事は、元請けを中心とした電気工事事業や電気通信工事事業を手がけてきましたが、情報通信設備工事事業を中心に手がけていたTKKに子会社として吸収されたのです。
TKKは、このM&Aによって電気工事事業を主力事業として事業領域をダイナミックに拡大する戦略なのでしょう。
●西日本電工
西日本電工がミライト・テクノロジーズに事業を譲渡したのは2017年です。
電気設備工事や空調設備工事などの事業を手がけていた西日本電工は、情報通信技術を活かした電気設備事業やエネルギー事業などを手がけていたミライト・テクノロジーズの子会社になりました。
西日本電工を子会社化して引き継ぐことによって、もともと強みである施工体制を一層強化することを目指しています。
4.電気工事会社のM&Aにおける注意点
電気工事会社のM&Aがうまくいかないケースを見ると、いくつかの共通する失敗要因が見えてきますが、それがそのまま事業承継の注意点と考えられます。個別に見ていきましょう。
(1)事業譲渡よりも株式譲渡が適切
一般的なM&Aの手法としては事業譲渡と株式譲渡が代表的です。しかし電気工事事業の場合権利の引き継ぎや許認可の申請などの事務手続きを考えると、事業譲渡は不適切です。なぜなら契約関係が全て巻き直しになるからです。
その点、株式譲渡であれば株主が変わるだけであり、契約関係は会社に紐付いているので手続きがシンプルです。よって、許認可が絡む電気工事事業のM&Aにおいては株式譲渡が適切と考えられます。
(2)告知のタイミングと情報管理
M&Aの告知のタイミングを間違うと、得意先や従業員が離れてしまうことも往々にしてあります。はっきりと決定する前に中途半端な情報が流れると、従業員や得意先は不安が募るだけで離れていくことになります。
最悪の場合取引中止という最悪の事態につながりかねません。また、従業員が辞めていく恐れさえあります。そのような事態を避けるためにも情報管理を徹底し、M&A確定したのであれば、誤解のないように関係者に説明をしておきましょう。
(3)役員経験者の有無
売手企業に残る人材の中で、役員経験のある人がいるかどうかによって買収価格が大きく変わることがあります。人材が価値である業種の性質から、指揮系統を理解し実践できる知識豊富な経験者がいるかどうかというのが、そのまま会社の価値に反映されます。
5.まとめ
電気工事会社の後継者問題やM&Aを成功させるためのポイントについて解説しました。年齢が高いオーナーはM&Aに抵抗がある人が多いですが、M&A自体はネガティブなものではありません。今後様々な業界でのM&A案件が増え、事例が豊富になれば、それが活路と電気工事業界においてもM&A の知見も向上することでしょう。
単に創業者利益を得るためのM&Aではなく、従業員を路頭に迷わせないためや、事業の成長を期した前向きなものとして、M&Aがより活発になることが望まれます。
〈話者紹介〉
株式会社Take Over
公認会計士・税理士
村川 博之
立命館大学経済学部卒業後、税理士事務所に就職。平成20年公認会計士試験に合格。
平成25年村川博之公認会計士・税理士事務所を開業。
平成27年M&Aを業務とする株式会社Take Overを設立し、現在に至る。
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