塗装工事会社のM&Aとは?売却の事例、ポイントを詳しく解説!
はじめに
塗装工事会社は建設業界の中ではあまりメジャーな業界ではありませんが、業界特有の事業取得における特徴や注意点を理解しておかなければ、スムーズな事業承継ができなくなってしまいます。
そこで今回は、塗装工事会社の事業承継に長年携わってきた豊富な経験と知見の持ち主であるアドバンスト・ビジネス・ダイレクションズ株式会社の森様に、事業承継の流れや注意点について教えていただきました。
目次
1.塗装工事会社とは
塗装工事会社で事業承継を考えている場合は、業界の特徴や経済環境を理解しておくことが大切です。
まずは、塗装工事会社の事業内容や経済状況について解説します。
(1)何かを塗ることに特化した仕事
塗装工事とは、その言葉の通り建物の外壁などに色を塗ったり撥水加工を施したりといった、何かを塗る事に特化した工事です。塗装工事を大きな会社がメインで行っているというところはあまり多くないのが現状で、基本的には個人事業主や独立して少人数で運営している小企業が塗装事業をしていることが多いです。これはほかの建設会社などと比較すると特徴的な点となっています。
仕事の受注方法としては、大手の大企業が受注した建物などを、ほかの下請け業者が建設や構造の修繕などを行い、最終的な塗装作業を外注先として下請けするという流れになっているのが一般的です。
つまり塗装工事会社は、大手企業の孫請けに近いような立場となっているということになります。もちろん下請けや孫請けといった仕事の受注方法のみでなく、塗装だけをしてほしいという依頼を受けるために、直接仕事を受注することもありますが、多くの仕事は大手企業からニ次的または三次的に受注する仕事が占めているケースが多いです。
このような塗装工事会社は、法人格を持っていることが多いですが、ほとんどの会社では、現場で作業をする社長と数名の弟子という、職人の集まりになっているような状況です。もちろん大手の法人のように、管理職と現場作業員のように役職や業務内容が明確に分けられているところもありますが、そのような塗装工事会社は比較的少数となっています。
(2)塗装工事会社の経済環境は良好
塗装工事会社の業界としての経済環境は良好です。その理由は2つあり、1つ目は新規建物の建設が増えているということ、2つ目は老朽化している建物が多いということです。これは建物に限らず道路や橋の工事や修繕、住宅のリフォームなど、幅広い構造物で共通しているため、業界環境としては決して悪くない状況になっています。
その一方で、他の業界でも問題になっているように、塗装工事に携わる職人の数は減少傾向にあります。業界の経済環境がよければ働き手も増えるように思うかもしれませんが、建設会社と同様に塗装工事会社にも建設業法が適用されるため、専門の資格を有した人でなければ業務を行うことが出来ないのです。
また、新たに塗装工事事業を立ち上げるとしても、認可を取得しなければならなかったり、工事を受注するためにも資格者がいなければならなかったりと、事業の拡大や人員の確保といった課題は現段階では簡単に解決できそうにありません。仕事はたくさんあるにも関わらず、受注できるほどのマンパワーがないというのは、今後も大きな課題として残り続けると予想できるため、事業承継やM&Aを考える人が出てくるのです。
2.塗装工事会社の事業承継を考える理由
塗装工事会社が事業承継をする際に、どのようなことが背景になっているかを理解しておく必要があります。塗装工事会社が事業承継を考える理由は、以下の2つです。
- 有資格者を採用することが出来ない
- 建設業法により自社社員に有資格者が必要
ここからは、塗装工事会社が事業承継を考える理由について説明していきます。
(1)有資格者を採用することが出来ない
塗装工事事業の経営者は、受注できる仕事がたくさんあることが分かっていても、資格を持った職人が不足しているため、新たな仕事を受注できなくなっています。どの会社も資格を持った職人を雇用したいのですが、そう簡単に集まらないため、人材を集める代わりに塗装工事会社ごと買い取ろうと考えるようになるのです。
売上をさらに伸ばしたいと考えている塗装会社も、このような方法を取らない限り、仕事を受注することができないため、さらなる事業拡大のために事業承継という手段を選ぶようになります。
もちろん高校や大学を出た新卒の社会人を受け入れて、一から育てるという方法を選ぶこともありますが、一人前の職人に育って資格が取得できるようになるまで、少なくとも5年から6年はかかるため、人材育成のため時間とコストを割くのであれば事業承継をした方が良いと考えるのです。
このように、近年の塗装工事会社の深刻な人手不足を背景に、M&Aを選択する事業主が増えてきているというのが、この業界における事業承継の特徴です。
塗装工事会社において、上記のようにM&Aを選択するところが増えてきているため、売買契約がスムーズに進んでいくように思えます。しかし実際のところ交渉に難航する場合も多くなっています。
それは事業の売手側が、30年や40年かけて業界内の地位を確立し、これからも既存顧客との関係を継続して欲しいと考えているのに対して、事業の買手側は、取得する塗装工事会社の売上や取引先が欲しいのではなく、資格を持っている人材を取得したいと考えているため、両社の思惑が一致しないケースが多いからです。
(2)建設業法により自社社員に有資格者が必要
建設業法では、塗装工事を請け負う場合に必要な有資格者は、自社の社員でなければならないとされています。つまり自分たちが仕事を請け負って、監理技術者や主任技術者を置く場合に、子会社の有資格者を使用することは認められておらず、自社の有資格者を使用することが必要です。事業の買手側は、有資格者の人材確保のため、売手会社を子会社化するのではなく、吸収合併か事業譲渡のようなスキームをとって、人員だけ譲り受けるという形で事業承継を成立させることを望んでいます。
上記の2点から、塗装工事会社における事業承継では、今までの事業を継続させたいという売手側の思いと、事業は引き継がずに人材を増やすことで新たな仕事を受注できるようにしたいという買手の思いに溝が生じ、売買契約が難航しがちになっています。どちらか一方が相手の望みを受け入れられるのであれば問題は生じないのですが、お互いの考えがぶつかり、交渉がスムーズに進まないのが現状です。売手側の事業を継続させることに買手側が深く考えないというミスマッチが顕著に現れているのです。
3.塗装工事会社を事業承継するメリット
塗装工事会社が事業承継することには、売手側と買手側それぞれにメリットがあります。
ここからは、塗装工事会社を事業承継するメリットについて説明していきます。
(1)売手側のメリット
売手側からすると、事業を承継することで現在受注している仕事を継続できるということがあります。仕事が完了するまでに2年や3年かかるという案件は珍しくないため、事業を承継してからも現在の仕事を継続できるというのは大きなメリットです。事業を譲り受ける会社が大きい会社であればあるほど信用力も高くなっているため、事業承継により信用を失うというリスクも回避できます。従業員も買手側に引き継ぐことができるため、安定的な雇用を継続するという観点からも事業承継のメリットは大きいです。
売手側が塗装工事会社を売却しようと考える理由は、事業主の高齢化により引退を考えている人が増えてきているということが最も大きいです。その他には、現在の塗装工事会社の経済状況は良いけれども、今後は先行きが良くならないのではないかと考えて事業売却を決断するという人もいます。
このような経営者は、将来のことを考えるとこのまま独立して経営していくよりも、他資本の傘下に入ることで安定的な運営ができた方が良いと考えるようです。中には業績悪化が原因で事業を売却する人もいて、建設工事や塗装工事では仕事の受注が不安定であるという業界の特徴も、事業売却に踏み切る大きな判断材料となっているのではないかと考えています。
(2)買手側のメリット
塗装工事業界における事業承継の買手側の最も大きなメリットは、売手側の会社の人材を雇用し、自社の業務拡大に活かせるという点です。しかしこのメリットは、事業承継により売手企業を子会社化した場合では受けられず、あくまで自分の会社に吸収合併、もしくは、事業譲渡等で一体化した場合に受けられるものになります。
しかし、子会社として事業承継する場合にもメリットがあります。例えば土木工事事業をしている会社が塗装工事会社を買収したり、塗装工事会社が土木工事会社を買い取ったりと、違った業種の会社を事業承継して子会社化できれば、受注できる工事の種類が増えます。これには、工事の種類ごとに必要な資格・認可が異なるという建設業法の決まりが背景にあります。これによって、塗装工事は自社が行って土木工事は子会社が行うといった仕事の進め方ができるようになり、より会社の利益を多くすることができるのです。
このように、買収する事業が違う分野であれば、買収することで認可も一緒に取得できるということが子会社化する最大のメリットです。もちろん子会社化せずに吸収合併したとしても、資格者が残っていれば再度申請をすることで認可を受けることはできるため、どちらにせよ受注できる事業の幅が広がり、グループ全体での利益を上げることにつながります。
また買収した企業と仕入等を共有化することによるボリュームディスカウントも買手側のメリットです。グループとしての規模が大きくなれば、材料や消耗品等の単価を下げることが出来るため、コストを抑えることにつながります。塗装業界も建設業界も受注する仕事には公共工事が多く、それらの仕事を受注するためには入札を行います。入札のための積算においては、既に材料や施工などに単価が定められているため、いかにコストを抑えて仕事を完了させるかということは、利益を少しでも多く残すために重要なことです。
4.塗装工事会社のM&A事例
M&A・事業承継を検討している方へ
当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。
塗装工事会社がM&Aをする上で、実際の事例を見てみるとイメージしやすくなります。
ここからは、過去に行われたM&Aの事例を紹介します。
(1)機械商社のM&A事例
ある土木関係の機械や装置を卸している機械商社では、伝票を右から左に流すだけの仕事ではこれ以上成長できないと考えたため、工事自体を自社で受注しようという方針になりました。この会社自体が土木工事をすると販売先とバッティングしてしまうため、関連する工事業に進出することにしたのです。
しかし、その工事をするためには資格取得者が必要でしたが、求人をかけても条件に合致する人材はなかなか集まりませんでした。それでもなんとか有資格者を手に入れるために、M&Aにより従業員10人程度の会社を買収して工事ができるようになったのです。M&Aが成立したことにより、売手側の会社は解散しましたが、新たに機械商社の従業員として再雇用され、機械商社の社員として工事に従事することになりました。
(2)管工事会社のM&A事例
建設工事とは別に、空調や排水を工事する管工事というものがあります。管工事において、年間売上50億円程度の規模の大きい会社の社長が、工事から塗装までの業務範囲を広げたいという構想を持っていましたが、思うように資格を有する人材を集めることができず悩んでいました。
その問題を解決するために、M&Aをすることで年間売上3億円程度の塗装工事会社を取得して、人材不足の問題を解消したのです。管工事と塗装工事の両方が必要な工事において、管工事は自社で行い、塗装工事はM&Aをした子会社が行って、両工事の売上を自社グループ内に取り込むことができ、結果的に事業を発展させることができました。
5.塗装工事会社における事業承継の流れ
塗装工事会社が事業承継を成立させるまでには、買手側と売手側それぞれの流れがあります。
ここからは、それぞれの立場から事業承継の流れについて説明します。
(1)買手側の流れ
先ほどの管工事会社の場合でいうと、まずは会社のオーナーが事業の構想を銀行に相談します。銀行は様々な融資先の中から、管工事会社のビジョンを実現しやすいような売手企業を探します。そこで条件に合致する会社が見つかったら、具体的に会社を取得するかどうかという判断をする必要があるのですが、建設業界においてはここを判断するのが非常に難しいポイントです。
建設業界では、経営審査事項(以下、経審)という仕組みがあり、その仕組みに対応するために決算書上の財務状態と実態が乖離している場合が多くあるため、会社の力量や実態が把握しにくいという特徴があります。そのため、本当に健全な財務状況になっているか、どのような工事を誰かがキーマンとなって受注しているのかという収益構造や現場実務のフローを確認するために、専門家に調査を依頼します。この作業の流れを、一般的にはデューデリジェンスといいます。
私たちが実際にデューデリジェンスをする際は、施工現場に足を運ぶことはあまりありませんが、様々な定量データやヒアリングをして総合的に運営状況を判定します。これらの調査の結果から、一般的によく用いられるDCF法やマルチプル法という事業価値評価と、中小企業M&Aでよく用いられる時価純資産法を組み合わせることで買収価格の範囲を算定していくのです。M&Aにおいては、「正しい価格があり、絶対にこの価格でなければ成立しない」ということはないため、双方の希望価格をベースに交渉を行い、価格を最終的に決めていくことが一般的です。
(2)売手側の流れ
売手の場合は、基本的に税理士や金融機関、M&A仲介会社といった会社に相談して事業売却先を探します。金融機関の中にはネットワークがあるため、同じ地域では買手をなかなか探してくれませんが、別の地域であれば買手をスムーズに見つけてくれることが多いです。今回の管工事と塗装会社の事業承継の事例においては、銀行のネットワークの地域外で会社を見つけてもらってマッチングが成立しています。
現在の塗装工事業界では、圧倒的に優良な売手が不足しています。そのため売手の情報を持っている方が、強みがあるとされ、買手側に対して希少価値の高い案件を積極的に提案できるのです。
6.塗装工事会社の事業承継をする際のM&A仲介会社の選び方
塗装工事会社が事業承継をする際にM&A仲介会社を選ぶ場合、担当者によって大きな違いがあることを知っておきましょう。特に契約の成立を急ぐような促し方をする担当者は注意した方が良いです。安心して事業承継を相談できる担当者は、事業を買収する会社と売却する会社どちらであっても、事業承継に何を求めているかをしっかりと聞いてくれます。そうでない担当者は事業承継を相談しても、相談者の要望をあまり聞かないうちに会社のリストを提示してくるといった対応をしてきます。
きちんと事業の戦略や方針を聞いた上で、条件に合致した会社を提示してくれる担当者は、事業承継に親身になって考えてくれているといえます。地域によっては、相手側の大まかな会社情報を聞いただけで、ある程度会社名を想定することが出来てしまうケースがあります。情報管理がきちんとできていないような担当者であれば、信頼して相談することはできないでしょう。そのことを考えると、きちんと情報管理ができているM&A仲介会社を選んだ方が良いといえます。相談する側の要望に応じた会社を提案してくれるなど、プロセスをしっかりと踏みながら事業承継を進めてくれるようなM&A仲介会社を選ぶことが、納得いく事業承継を実現させるためのポイントです。
事業承継を仲介している会社の報酬体系にも注意しておく必要があります。手付金をいくらに定めているのか、成功報酬を純資産に対して計算しているのか、移動する総資産に応じて計算しているのかなど、どのような計算方法で報酬額を設定しているのかには、M&A仲介会社によって大きく違いがあります。報酬額の設定方法によっては、最終的にM&A仲介会社に支払う料金が大きく変わってくる場合があるため、注意が必要です。
7.まとめ
塗装工事会社には、建設業法によって認可が必要になる事業であるという特徴があります。事業を買収する際には、自分たちの求めている事業内容と一致するかをよく考え、引き受ける資格者の年齢や職業レベルがどれぐらいなのかという細かい部分まで明確にしておく必要があります。
また財務状態についてもよく確認しておくことが大切です。財務状態が悪い場合には、それなりの理由があるため、今後の事業運営に悪影響を及ぼさないように課題を把握しておきましょう。
事業を引き継ぐ時に、売手側の仕事が全て完了しているというケースはまずありません。事業を買収する際には、売手側が手がけている仕事を今後どうするのかを早い段階で決めておくようにすることも大切です。
<話者紹介>
アドバンスト・ビジネス・ダイレクションズ株式会社
森 智広
2007年 東京中小企業投資育成㈱入社、未上場の中堅・ベンチャー企業へのデューデリジェンス・投資・成長支援業務に従事し、自動車部品メーカー、建設機械部品メーカー、遊技機メーカー、電子部品メーカー、食品メーカー等に投資を実施。
2013年~ アドバンスト・ビジネス・ダイレクションズ㈱入社後、金属部品加工会社、運送会社等へのデューデリジェンス業務ならびに事業再生支援、および、建設会社、産業装置メーカー等に対するM&Aフィナンシャルアドバイザリー業務に従事。
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