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薬局のM&Aは今度どうなる?買手と売手それぞれのメリットとは?

2020/01/10
更新日:2024/05/13

はじめに

近年、中小企業や個人の薬局では、人材確保が困難になり、さらに社会保障費削減のための薬価、調剤報酬の改定により、経営が厳しくなっている薬局も増えてきています。とはいえ、地域のために営業してきた思い入れのある薬局を廃業するという選択肢は、簡単にとれるものではありません。適切な情報を基にM&Aを実施することにより、大切な薬局を他社に引き継いだり、創業者利益を得たりすることが可能になります。

長年地域に貢献し続けてきた大切な薬局を守る、あるいは創業者利益を得るための具体的な手法について、調剤薬局のM&A事情に詳しい、インテグループ株式会社の松本直久さんに教えていただきました。


1.薬局業界の現状

医薬分業制度が始まって以来、調剤薬局業界では店舗数が年々増加し、現在では約6万店舗になっており、調剤薬局市場もそろそろ飽和状態といわれています。
調剤薬局の処方箋発行枚数の全国平均は1店舗あたり年間約15,000枚となっており、これ以上薬局を増やしても、1店舗あたりの処方箋発行枚数はそこまで増えないのではないかと考えられてています。今後全国的に処方箋発行枚数がそこまで増えていかないことや、人口減少が進んでくることを考えると、調剤薬局業界は今後は伸びが見込めない市場だと思っています。

現在、大手企業の薬局シェア率が20%から30%程度ということを考えると、中小企業や個人が経営している調剤薬局の割合がまだまだ高い状況です。

ほかの業界におけるM&Aでは、30代から40代の売主が多い業界もありますが、調剤薬局においてはこれらの年代の売主は少ないです。調剤薬局の経営者は50代、60代が多く、中には80代の売主がいるなど、比較的年齢層が高いというのが私の印象です。医薬分業が1980年代後半から、一気に加速したため、そのときに開業した方々が50代、60代になってきたのが一番の理由だと考えています。

調剤薬局における事業承継の現状

以前は調剤報酬や薬価が高かったため、薬剤師が独立して調剤薬局を経営しても利益を得やすくなっていました。しかし、年々調剤報酬や薬価が引き下げられていることによって利益が伸び悩んだり、今後も利益が少なくなってくることを危惧し、自分たちの子どもに事業を引き継がせたくないと考える経営者も増えています。

そのような考えを持つ経営者は、自分の子どもたちを自身の調剤薬局で勤務させながら大手企業に薬局を売却し、そのまま大手企業のもとで子どもに勤務してもらうという選択をすることもあります。

2.薬局を売る側のメリット

インタビュー写真1

M&Aを実施することによって調剤薬局を売る側には以下のメリットがあります。

(1)創業者利益の確保ができる

売却額はM&Aをする上で大きな関心事だと思います。薬局によって売却額が大きく変わってくるのが現状で、実際の売却額は都心になるほど高くなり、地方の調剤薬局になると売却額が低くなっています。近隣のクリニックの数や、処方箋の数にもよりますが、相場としては実質的な営業利益の3〜5倍程度が売却額となることが多いです。

(2)事業承継問題の解決ができる

経営者が引退をしないといけない局面になった場合、後継者がいなければそのまま薬局を閉じることになります。その場合地域の患者さんやクリニックに迷惑がかかってしまうので、調剤薬局の高齢の事業主は、常に事業承継やM&Aといったことを意識していると思います。

また、薬局を廃業する場合は廃業コストがかかってしまいます。しかし、M&Aで売却することで調剤薬局を後継者に引き継ぐことができるので、廃業コストがかかりません。クリニックとは違い、薬局の廃業コストはそこまで高額になることはありませんが、事業承継を選択してコストを抑えるという手法をとる方もおられます。

3.薬局のM&Aの流れと特徴

今まで築き上げてきた薬局を売却したいけれども、M&Aに関する知識がないため、どのような手順で売却すれば良いかわからないという人もいます。

薬局を売却する大まかな流れを理解しておくことで、心に余裕をもって売却手続きを進めていくことができるようになります。

(1)通常のM&Aと大きな差はない

調剤薬局のM&Aの流れは、ほかの企業におけるM&Aの流れとの大きな差はありません。ただし、薬局のM&Aに関しては、買手が大手企業が多いこともあり売買に慣れていることから、ほかの業界よりもスムーズに手続きが進む事例が多いです。

ほかの業種におけるM&Aでは、具体的な売却価格の話をする前に、買主が事業の内容や売上、今後の見通しなどについて資料を交えて詳しく情報収集します。しかし、調剤薬局の売買に慣れた企業の場合は、税務申告書やレセプトのみである程度の売買価格を提示し、交渉を進める企業もあります。

調剤薬局のM&Aが完了するまでの期間は、3ヶ月から半年程度が目安となっています。短い場合は2ヶ月程度で事業の売買が成立するケースもあります。

(2)デューデリジェンス前後に医師との面談を希望する企業が大多数

調剤薬局の運営は、近隣にどれくらいクリニックがあるかということや、どの程度近隣の医師が処方箋を出しているかによって利益が大きく変わってきます。

近隣クリニックの医師とうまくやっていけなければ、薬局を経営していくことができなくなってしまうため、デューデリジェンスの前後や最終契約前後に、売主同席のもとで医師と面談したいという企業がほとんどです。

(3)買手は同業者が多い

一般的なM&Aでは、異業種の会社が新規参入するために事業を買収することがよくあります。しかし、調剤薬局の場合は同業者や近接業種の企業が買手となる場合が多いです。

調剤薬局にも様々な規模がありますが、年商規模が小さな店舗を大手企業が買収することは稀です。大手企業は、最低年商1.5億円以上の店舗のみ買収対象とするなどの線引きを行っており、年商規模の小さな店舗は、中小企業や開業を希望する意欲の強い薬剤師が購入しています。

このように大手企業は年商規模の大きな店舗を購入する傾向があるのに対して、個人の薬剤師は小規模な薬局を購入する傾向にあるため、大手企業が経営する薬局と個人経営の薬局の二極化が進んできているのが現状です。そのため、調剤薬局の売買はまだまだ収束せず、業界再編の余地は大きいと考えています。

4.薬局のM&Aの相場は?

調剤薬局をM&Aする上で売買価格の相場を理解しておくことが大切です。これまで運営してきた大切な薬局を適正な価格で売買できるように、相場感を把握しておきましょう。

(1)調剤薬局の価格相場について

店舗数や売上・利益によって異なるためあまり参考にはならないかもしれませんが、最近は1億円弱から10億円弱の売買価額の案件が多いと思います。実質的な利益の3倍から5倍程度が売買価格になるケースが多いので、売買価格を決定する際の参考にしてみてください。

ただし、調剤薬局の立地条件や周囲にあるクリニックの数、処方箋の発行枚数によっては付加価値がついてさらに価格が上がる場合もあるので、細かい条件は調剤薬局によって変わってくることを理解しておきましょう。

(2)希少価値の高い調剤薬局には付加価値が付く

年間10億円近くの売上がある薬局や、1度に数十店舗売却するといった希少価値の高い案件では当然付加価値が付くので、実質的な利益の7倍程度の売買価格になることもあります。

多くの調剤薬局では1億円弱の売買価格になっているようですが、年間数件程度は数十億円の売買価格になる調剤薬局(複数店舗)もあるので、幅広い価格で調剤薬局が売買されているのが現状です。

(3)デューデリジェンス前にある程度薬局の価値は把握できる

処方箋の発行枚数と法人の営業利益が分かっていれば、デューデリジェンスをする前に調剤薬局の価値をある程度知ることができます。地域の人口やクリニックへ受診する患者数など、価格設定に役立つ情報を簡単に調べることができるため、実際に価格交渉をする段階で充分な情報が揃っていることが多いです。

(4)薬価差によって調剤薬局の利益が変動する

薬の価格は、薬を研究開発するためにかかったコストや市場でのニーズなどによって、厚生労働省が設定します。政府が設定した薬の販売価格よりも調剤薬局が薬を仕入れる価格の方が安くなり、薬価差が生じることで調剤薬局は利益を得ることができます。

薬局は、厚生労働省が設定した薬の販売価格を変更することができません。そのため、薬を安く仕入れられるほど、調剤薬局は利益を出しやすくなります。当然処方箋の枚数が多いほど薬を大量に仕入れることになるため、仕入れ値は安くなります。

そのため、小規模な調剤薬局よりも大手の企業が薬を仕入れた方が、仕入れ値を安くして薬価差を大きくできるため、薬局の利益は出やすくなります。

しかし、厚生労働省が毎年薬価を下げてきているため、年々薬価差が少なくなってきて調剤薬局の利益が出にくくなってきている現状があります。調剤薬局の中には、薬価差がこれからも確実に少なくなることを危惧して、子どもに継がせないと考えている人もいるのです。

とはいえ、薬価差が少なくなってきたとしても、個人薬局である程度の処方箋を応需できているところなどは、充分な収益を上げられているため、まだまだ利益を上げ続けられる業界だともいえます。

5.まとめ

調剤薬局の事業を承継する上で、調剤薬局業界の現状や売買の流れ、実際の売買価格の相場や調剤薬局を売却するメリットについて紹介しました。
後継者問題で悩んでいる事業主や、M&Aをしようかどうか悩んでいる事業主にとっては、実際に事業を売却する上で必要な情報を得ておくことは重要です。ここで紹介した内容を参考にして、将来を見据えた薬局運営をしていけるようにプランを立てていってください。

 


話者紹介

話者写真

インテグループ株式会社
マネージャー
松本 直久

関西大学文学部卒業後、夢の街創造委員会を経て、調剤薬局に特化したM&A仲介会社で、MVPを受賞。その後、完全成功報酬制のM&A仲介会社であるインテグループに入社し、調剤薬局等のM&A仲介に従事している。

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