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事例で解説!売手と買手の視点で見るM&Aのメリット・デメリットとは?

2019/12/26
更新日:2024/05/13

はじめに

M&Aは売手・買手それぞれにとって大きな効果・影響をもたらします。売手が抱える後継者不在や廃業の問題を解決し、買手が抱える人材不足やノウハウ不足を獲得できるなど、M&Aを活用することで双方に大きなメリットがあります。その一方で、相手がいるからこそ、時間やお金など不確定要素に追われたり、思うようなシナジー効果が出なかったりするというデメリット・リスクも存在します。ここでは、M&Aのメリット・デメリットを解説するとともに、中小企業の事例も紹介します。


1.M&Aによる売手のメリット(事例紹介)

中小企業の経営者が事業承継を行うには、親族への承継(相続・贈与)、社内の役職員への承継(MBO)、清算(廃業)、第三者への承継(M&A)の4パターンが考えられます。ここでは、第三者への承継(M&A)を軸に、M&Aを活用することでもたらされるメリットを解説します。

後継者問題の解消

多くの会社ではオーナー社長に承継するような親族がいなかったり、親族(子供)がいたとしても別の職業に就いていたりして、後継者不足に悩まされています。近年では、親族に家業を引き継がせて苦労をさせたくないという経営者の考えもあり、親族内への承継が減りつつあります。となると、社内の役職員への承継が選択肢に挙がってきますが、オーナー所有の株式を引き受けるだけの資力が不足していたり、代表となった場合、会社借入の連帯保証人になることが多くなることから、役職員の家族から反対されたりと、簡単なことではありません。これらの後継者問題を解決に導くことができる方法として、M&Aが注目されています。

事例
親族内で代々引き継いできた家業の豆腐屋を営むB社長。地域住民から長く愛され、創業から100年が経っていました。自分の子どもに会社を引き継ぐ意思はなく、従業員に会社を任せるのが不安と感じたB社長は、第三者への事業承継(M&A)を検討。食品業を営むC社が手を挙げ、M&Aが実現。B社のブランド名を残すことができ、また、後継者不在という問題を解決したB社長は、C社に株式を売却した後も現場に立って豆腐屋を切り盛りしています。

株式、事業を現金化できる(創業者利益の実現)

M&Aによる株式・事業譲渡を行うと、対価を現金で受け取れるというメリットがあります。事業の親族内承継では、「経営」は親族に継がせても、オーナー所有の「株式」は通常相続として解決するので、オーナー社長が株式の対価を得ることは少ないと思います。廃業という選択肢を取ることもできますが、中小企業の場合、オーナー経営者が個人保証によって会社の負債を背負っているケースも多く見られ、こうした場合では経営者個人に負債が残り、金融機関からの借入れの返済に追われることも。しかし、M&Aを活用することで、獲得した資金を用いて別のビジネスを始めることや、引退後の生活資金に充てることも可能になります。また、会社清算(廃業)したときは会社の資産を現金化して、負債を返済した後に残った現金等(≒時価純資産、清算価値)が株主(オーナー)の手元に残りますが、M&Aでは通常、時価純資産・清算価値に加えて、「のれん」といわれる会社のノウハウ等を評価した価値が上乗せされて取引され、廃業するよりも、手元に残る金額が多くなるケースが多くなる傾向にあります。

事例
ある飲食店のオーナーA社長は、30代で会社を設立し、その後40年間にわたって社長を務めていましたが、自身や従業員の高齢化に悩み、事業を承継してくれる人を探していました。社長には子どもがいましたが、遠方で違う事業を営んでおり、承継することを断念。第三者への事業承継(M&A)を行ったことで、経営者の老後の生活資金を獲得することができハッピーリタイアを実現。

雇用問題の解決

事業承継を検討する経営者の中には、会社清算(廃業)を選ぶ方も少なくありません。しかし、会社清算(廃業)がもたらす影響は大きく、従業員も退職せざるを得ない、取引先にも迷惑をかける状況になるので、選択肢としておすすめできません。また、代々受け継がれてきた家業などの場合「自分の代で会社をたたむ」ことに対する責任も強くなるでしょう。M&Aによる売却を選択すれば、従業員の雇用を継続することができます。オーナー経営者の中には、「従業員の待遇は守られるのか」「従業員がリストラに遭わないか」と不安に感じる方もいますが、人手不足で悩む買手も多く、日本においてはドラスティックなリストラが買手によって行われることはほとんどないですし、事業承継の条件として、従業員の継続雇用をあげるオーナー社長もいます。また、福利厚生の充実した体制をもつ資金力のある買手も多く、結果的に従業員の待遇や福利厚生が改善される場合がほとんどです。

事例
東京都内で製造メーカーを営むD社長。社歴も50年を超え、特殊な加工技術に優れていたことから、優良企業との取引が中心になっていました。しかし、大病を患い一命を取り留めたものの毎日会社に出勤することが難しい状況でした。取引先企業の中から自社の経営を引き継ぎたいと言ってくれる会社が現れ、株式譲渡を選択。残された従業員の雇用が心配でしたが、全員の雇用継続と待遇維持を約束してもらい、成約に至りました。

集中戦略の手段として活用

近年、「選択と集中」を実施するために、M&Aを活用する企業が増えています。不採算事業やノンコア事業を譲渡することで資金を獲得し、その資金を用いてコア事業に経営資源を集中することができます。若手経営者の中には、キャッシュを生むコア事業をあえて売却し、新たに事業を始めるという方も見られます。

事例
売手は、某地方中枢都市において、不動産賃貸業とマンション管理会社を営むE社。長年にわたって事業を継続しており、良好な業績を上げていましたが、かねてから従業員の採用の面で両社の事業継続に限界を感じており、また、自身は不動産賃貸業に専念したいという思いもあり、マンション管理会社の譲渡を決断。従業員の採用に対する課題から解放され、本業に集中したことで毎月安定的に不動産賃貸収入を得ています。

協業によるシナジー追及

M&Aとは、一般的に対象会社の株式を売買することで経営の支配権を獲得することを意味しますが、広義のM&Aには、業務提携を主な目的にマイノリティ出資で双方の強固な関係性を築く「資本業務提携」も含まれます。例えば、営業力に課題のあるメーカーが、自社商品の販売拡大を目的に、営業力の強い会社と業務提携を締結するケースも見られます。会社の成長戦略として、M&Aを活用することも可能です。

事例
F社はソフトウェアの開発力に優れ、これまでに何本もの業務支援ソフトウェアを世に送り出してきました。さらなる成長を考えたときに、自前で販路の開拓をすることに限界を感じ、営業力に定評のあるG社と資本提携を実施。G社という心強いパートナーを得たことで、販路の開拓のみならずソフトウェアの共同開発に乗り出し、経営資源を拡充することに成功。G社の販売力を活用することで、スピーディーな収益化を実現できました。

事業承継(事業の存続・発展)

後継者不在などで会社清算(廃業)を選択する場合、前述のように従業員の雇用や取引先へ深刻な影響を与えるばかりか、これまで築いてきた技術・ノウハウ・ブランド・会社名も消滅してしまいます。M&Aで会社や事業を第三者に託すことで、ブランドや会社名、事業などを承継することができ、会社の存続とさらなる発展が期待できます.

事例
祖父の代から地域に根ざした旅館業を営むH社は、民泊業社や従業員不足などの課題に直面し、売上・利益ともに減少傾向にありました。事業の先行き不安、後継者不在を理由に廃業を検討していましたが、「自分の代で旅館をたたんで良いのか」と悩み、M&A仲介会社に相談を持ちかけました。知名度が高い旅館だったため、買手はすぐに現れ、M&Aが実現。H社長にとっては、これまで代々築いてきた旅館の名前を残すことができました。


2.M&Aによる買手のメリット(事例紹介)

M&Aは会社の成長を加速させる経営戦略として、売上規模や業界・業態を問わず様々な企業で活用されています。ここでは、M&Aにより買手にもたらされるメリットを解説します。

時間を買うことができる

買手にとってM&Aの最大のメリットは「時間を買うこと」です。ゼロから新規事業を立ち上げる場合には、新規顧客や商圏など、すべて最初から開拓していかなくてはなりません。また、人材の育成にも時間と労力がかかり、新規事業が軌道に乗るかどうか、わかりません。M&Aでは、すでにできあがった状態の会社・事業を買収するため、買手にとって大幅な時間と労力の削減につながります。また、M&Aでは、決算書などで対象企業・事業の実績を把握した上で買収できるため、投資に対する回収期間を予測しやすいというメリットもあります。ゼロから新規事業を興すことと比較して、経営上のリスクを抑えることができるでしょう。

事例
ある自動車メーカーK社は、新規事業として住宅販売業への進出を検討していました。しかし、自社内で住宅販売事業に人員を割くことができず、また住宅販売事業のノウハウもないことから、住宅販売事業を営むL社の買収を検討。自社内で新規事業を興すよりも、短期間で異業種への進出を図ることができ、3年で買収金額を回収することに成功。

有形・無形資産の獲得

売手を買収する場合、原則、会社や事業に関係ある有形・無形の資産(ブランド・顧客・商圏・価値ある不動産・動産・従業員)はそのまま買手に引き継がれます。経営に必要な(ヒト・モノ・ノウハウ)をスピーディーに獲得できるのは、買手の大きなメリットでしょう。近年は、人手不足で悩む買手も多く、M&Aを活用することで人材を確保したり、外注していた部門を内製化する企業も見られます。

事例
不動産の売買・賃貸を行うI社。自社内にシステム開発部門を設立し、顧客管理のデジタル化を進めようとしていました。SEの育成には時間がかかる上に、引き抜きや独立、離職などのリスクも考慮すると、自社で採用するのは難しいと考え、IT・システム開発を行うJ社を買収。SEを多数抱え、社内のデジタル化を推進することに成功。自社内だけでなく、BtoB領域にも進出し、新たなビジネスチャンスを獲得することができました。

同業種を買収することで「規模の経済性」を発揮

「規模の経済性」とは、単一事業(製品)の大量生産を行うことで、製品一単位あたりの固定費が低下し、原価を抑えることができるという現象を指します。例えば、管理部門の共通化やバイイングパワー(仕入れ力)の強化により、コスト削減が可能です。

事例
再編が進む調剤薬局業界で、生き残りをかけるために他エリアへの進出を決意したM社。そのエリアには地域の病院や住民と良好な関係性を築いてきたN社がありました。N社に買収を持ちかけM&Aを実現。地域集中出店により、一括での在庫管理や、店舗間での人材異動が容易になり、配送コストや人件費の削減にもつながりました。

上流、下流の工程を内製化

自前だけの営業努力だけで業績を拡大するのは限界があります。買収により上流・下流の周辺事業を取り込むことで、内製化による利益率向上を実現することができます。例えば製造業などの場合、これまで外注していた部品の組立工場や販売代理店を買収することで、ワンストップサービスの提供が可能になり、コストを抑えることができます。
プレス機メーカー大手のO社は、プレスの設計・製作を行うP社を買収することで、プレス機の企画から設計、製作、販売までをワンストップで提供することに成功。また、自社内のプレス機の製造・販売だけでなく、工場を対象にしたプレス機の企画・設計事業を新たに開始し、新規事業をスタートしました。

多角化経営

自社の事業が一事業・一顧客に偏っている場合には、買収により事業の多角化を実現できます。既存の事業・顧客に固執することなく、新市場のシェア拡大も期待できるでしょう。M&Aを活用することで会社の事業・顧客ポートフォリオを形成し、リスク分散をはかることができます。

事例
30年以上、広告制作を営んできたQ社は、これまで法人を対象にDMやパンフレットの制作請負を行ってきましたが、新分野進出のためにWeb制作会社と印刷会社をM&Aしました。これにより、既存顧客にWebサービスや印刷サービスを付加して提供できるようになり、顧客満足度を高めることができました。

同業他社の買収によるシェアの拡大

業績が順調に伸びて、他エリアへの進出を考えたとき、そのエリアに同業他社が根を張っていて進出できないというケースは少なくありません。その同業他社を買収できれば、シェアを一気に拡大することができ、売上向上を期待することができます。

事例
規制の強化や少子化問題による不景気の影響からか、売上の低迷や資金繰りに苦しむタクシー事業者R社。経営危機を打開するために台数増を狙ってタクシー事業者S社を買収。車両や乗務員といった資源をスムーズに獲得することができ、経営も安定。駅前への入構権を獲得することもでき、顧客の信頼やサービスの評価を構築することにつながりました。

株価向上

上場企業の場合、M&Aのリリースに市場が反応して株価が上昇することがあります。M&Aによって今後の業績が向上すると投資家が判断した場合、M&Aがプラス材料として働き、買手の株価は上昇します。ただし、M&Aでの買収価格が高すぎたり、M&A後の業績が下がったりすれば、株価が下落する可能性もゼロではありません。

事例
携帯電話やインターネット関連企業などを運営する上場しているSグループが、通信サービスを提供するT社を買収。この買収が好材料と受け取られ、株価は高値をマーク。この買収によって業績や企業イメージ、信頼度が向上し、その後も株価が堅調に推移しました。


3.M&Aによる売手のデメリットとリスク

M&Aの取引は、相手がいて成立するもので、経営者自身で選択できる会社清算(廃業)や親族内承継と比べて、不確定要素に付きまとわれます。どんなデメリットがあるかを把握した上で、慎重にM&Aを検討しましょう。

売却益に対して税金がかかる

中小企業のM&Aにおいて最も活用される「株式譲渡」では、株主の所有する株式を買手に売却し、その売却代金を受け取ることができます。しかし、売却代金がそのまま手元に残るのではなく、税金が課せられることに注意しましょう。個人が非上場株式を譲渡した場合、譲渡所得*に対して20.315%(2019年12月時点)の税金が課されます。
*売却代金(譲渡価格)から取得費・手数料を差し引いた金額

時間的な制約のもとで取引を行う

M&Aで会社や事業を売却するには、まず買手を探す必要があります。買手候補が見つかったとしても、すぐに売却できるわけではなく、財務状況をまとめたり、条件交渉を行ったりと、成約までに半年から数年がかかる場合もあります。また、長い準備期間を設けたとしても、双方の条件が折り合わずに破談となることも珍しくありません。会社清算(廃業)と比べて、M&Aは時間がかかるので、念入りな計画と準備が必要になります。


4.M&Aによる買手のデメリットとリスク

M&A・事業承継を検討している方へ

当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。

買手にとって、M&Aは事業拡大・事業成長のための時間短縮を期待できるというメリットがある一方で、対象企業の実態を知らない状態から、短期間でM&Aの検討を始めることになるため、大きなリスクを抱えることになります。ここでは、買手側の視点からデメリット(リスク)を紹介します。

資金の調達が必要になる

企業の買収には多額の資金が必要になります。対象企業が中・小規模であっても、独自の技術、製品を有する企業の株式には、莫大な評価額がつくケースもあります。その場合、自己資金の流出は避けられません。自己資金だけではなく、金融機関から買収資金を調田することもありますが、金融機関は融資に見合う資産や安定的な収益性がないM&Aへの融資は厳しく判断する傾向がありますし、融資までに時間がかかり、M&Aのタイミングと必ずしも合わないことがあります。資金の調達はM&Aにおける課題の一つと言えるでしょう。

M&A成立後の融合に時間がかかる

事業の引き継ぎや実質的な経営は、クロージングしてからスタートします。特に、異なる企業文化や制度を持つ企業同士の融合には、組織体系や人事制度、システムなどの統合に多くの時間を要するため、注意が必要です。「自分たちの会社の方が上」というような意識があると、従業員同士の軋轢が生じる可能性も考えられます。

M&Aのリスクは、売手よりも買手の方が大きいと言われています。対象企業がどれだけ小規模であっても、極論すれば無限のリスクが潜んでいます。M&Aを実行する上では、いかにそのリスクをコントールできるかが重要です。以前に紹介した「M&Aに伴うリスクとは?売手・買手が成功するためのリスクマネジメント」を参考に、M&Aで発生するリスクを理解し、M&Aを上手に活用していただければと思います。

 


話者紹介

株式会社クラリスキャピタル
代表取締役
牧野 安与(まきの あよ)

早稲田大学政治経済学部を卒業後、意匠建築設計事務所やコンサルティング会社を経て、かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社にてM&Aアドバイザリー業務に携わる。着手金なし、中間手数料なし、成功報酬のみのリーズナブルな料金体系で、中堅・中小企業専門のM&A仲介会社として数多くの成約実績を残す。リフィニティブ(旧トムソン・ロイター)が発表した2015・2016年のSmall-Cap M&A Financial Advisor Reviewに案件ページでランクインするなど、地域や業種を問わず様々なM&Aに携わる。著書に『M&Aによる事業再生の実務』(中央経済社)がある。

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