M&Aの成功報酬の相場や報酬体系を解説!M&A仲介会社の選別ポイントとは?
はじめに
不動産業などとは異なり、法的あるいは公的資格がなくても名乗ることができるのがM&A仲介会社です。報酬に関する規定や逸脱した場合の罰則や制裁などもないため、各M&A仲介会社がそれぞれ成功報酬を決めているのが現状です。
M&A仲介会社の成功報酬はどのように設定されているのでしょうか。M&Aの成功報酬の体系や相場、M&A仲介会社の選別ポイントについて、フォーナレッジ代表の加藤綱義さんにお話を伺いました。
1.M&A業務遂行の対価としての成功報酬
何を遂行すれば成功だと認められるのかは、成功報酬において重要な点といえるでしょう。
(1)M&A仲介会社の業務
中小企業庁が2020年3月31日に策定した「中小M&Aガイドライン」の中に、M&A仲介会社がどこまで業務を行うのかという業務範囲が提示されています。この中小M&Aガイドラインには、M&A仲介会社や金融機関などのM&A支援機関が適切に支援を実施することが重要だという趣旨・目的が謳われています。M&A仲介会社を名乗る業者が増えたことに伴い、売手は、M&A仲介会社に対してM&Aに対する不信感や不満を抱くようになりました。こうした不信感や不満感がM&Aを躊躇する要因だとガイドラインの中に挙げられており、粗悪なM&A仲介会社が増えていることへの喚起を促しています。
中小M&Aガイドラインの中にはM&A仲介会社との業務委託契約書の雛形も記載されています。そこから抜粋したM&A仲介会社の業務範囲は以下のように記載されています。
①候補先の紹介及び斡旋
②候補先の業務、財務及び経営戦略に関する情報の提供
③本件取引の是非を検討及び決定するに際しての助言及び補助
④候補先又はその親会社若しくは株主に対する本件取引の提案
⑤本件取引の交渉への立会い
⑥本件取引のスキーム、価格その他取引条件にかかる助言
⑦本件取引の推進に必要な資料、企業概要書、諸手続き及びスケジューリング等にかかる助言並びに補助
⑧その他前各号に付随するサービスの提供
出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン」(2020年3月)
①の紹介と斡旋だけ行い、②から⑧までの業務を一切遂行せずに手数料だけ貰う粗悪なM&A仲介会社も存在しています。しかしこうした会社は本来、M&A仲介会社とは呼びません。つまり、①から⑧までの業務をきちんと遂行したことに対して成功報酬が支払われるというのが重要だと思います。端的に述べると、売手・買手企業のマッチングから売手の事業評価、スキームの作成やクロージングまでの助言、立会いをするのが正しいM&A仲介会社の姿です。
(2)デューデリジェンスとPMIは会社ごとで千差万別
デューデリジェンス(買収監査)やM&A成立後の統合(PMI)などの工程をコンサルティングすることはM&A仲介会社の業務内容ではありません。M&A仲介会社がデューデリジェンスを実施して全く問題ないと判断し、売手を買収することも確かに可能です。しかし、デューデリジェンスとは道義的にはM&A仲介会社ではなく買手が行うべきなので、M&A仲介会社によるデューデリジェンスは買手にとってあまり意味がないのです。
買収後のPMIも同様です。M&A成立後の事業統合も本来はM&Aとは別枠です。M&A仲介会社とは別のコンサルタントが本来実施する工程で、譲渡対価のやりとり(決済)をして権利や株式、事業が移転する工程(クロージング)までがM&A仲介会社の業務範囲です。そのため、中小M&Aガイドラインが言及する①から⑧には、デューデリジェンスもM&A成立後の統合までどの範囲まで面倒を見るべきかについても入っていません。
ただし、デューデリジェンスに関してはM&A仲介会社でも扱いは変わります。例えば、監査法人や会計事務所が母体のM&A仲介会社は大抵、「弊社がデューデリジェンスを実施するので、弊社に買手のアドバイザーを任せてください」という仕事の取り方をするなど、例外はあります。またコンサルティング系のM&A仲介会社であればPMIも業務に入る場合があり、デューデリジェンスに関しては信頼関係があればM&A仲介会社が実施するのが安心だという作用が働くこともあります。
2.M&Aの報酬体系と相場
M&Aの報酬体系として、以下が挙げられます。
(1)着手金
着手金は、案件化料や企業(価値)評価料など、言い方が変わることもあります。要するに、企業を買収するための商品化という作業及び買手探しに対して一定の報酬をM&A仲介会社が要求します。そのため、M&Aが成立しなかったとしても返金されないのが一般的です。一方でM&Aが成立した場合には成功報酬に充当する、つまり着手金を払った分は成功報酬の額から引いて最終的に残りを支払うというのが一般的です。
M&Aについて相談し、案件化するために財務諸表を貰うなど、売手の簡易デューデリジェンスのような作業をM&A仲介会社が実施します。その稼働相当の着手金を貰うという考え方をM&A仲介会社がもっています。
相場
案件が大きいほど、場合によってはM&A仲介会社も専門家や弁護士、公認会計士などを使って案件化するケースもあると思います。中小企業のM&Aの場合、30万円から300万円程度が相場だと思います。
(2)月額報酬(リテイナーフィー)
月額報酬は、M&A仲介会社によって考え方が様々です。月額固定制が一般的ですが、M&Aの難易度やM&Aアドバイザーの実績、技量や案件に関わる人数など、稼働に応じて月額報酬が決まりますので、一定の相場がいくらかを述べるのが難しい部分です。
ただし考え方としては着手金と一緒で、M&A仲介会社としてどうしても必要な活動費としての意味合いが強いです。裏を返せば、リテイナーフィー(月額報酬)として毎月顧問料を貰うため、クライアントから片手間でM&A仲介会社を行っていると思われてはいけないということです。基本的には案件にM&Aアドバイザーが張り付き、定められた時間内に専任的な業務を行うことが正しいM&A仲介会社の姿です。
相場
M&Aアドバイザーを最低1人、その案件の売手や買手のために張り付かせるためには、新入社員を使っても最低でも1人30万円、場合によっては数十万円や100万円を超えるケースもあると思います。
もちろん1人がいくつもの担当をしていることをクライアントが納得すれば、許容されることもありえます。ディールの難しさにもよりますが、1人が専任で1~2ヶ月、場合によっては半年、1年間稼働するので、その契約期間分の月額報酬を支払うというのが通常ではないかと思います。
着手金と月額報酬の区別は?
着手金でも月額報酬と同様の考え方をするM&A仲介会社もあります。稼働に対してかかる最低コストからM&A仲介会社が算出した金額を月額報酬としてクライアントが支払う分場合もあれば、同額を着手金として支払ってもらう場合もあります。月額報酬と着手金は互いに姿を変えている報酬体系だと言えるかもしれません。
着手金と月額報酬のどちらかしか取らない、両方取る、両方取らない、いずれのケースもあります。ただし、着手金と一緒で一度支払うと返還されない費用というのが一般的です。他方、月額報酬は成功報酬に充当されないのが一般的です。そのため、月額報酬とは呼ばずに、交通費や調査費など実費で日当を支払うケースもあります。
いずれにしても着手金や月額報酬など各M&A仲介会社によって扱いが異なるので、しっかりと理解して納得することが重要です。
(3)中間金
M&A業務の最初から最後までに発生する何らかの費用を総じて中間金と呼びます。一般的に、M&A成立の確度が高くないと中間金を支払う意味がないと思うので、基本合意の段階で支払うケースが一番多いです。基本合意後のデューデリジェンスで問題がなければ、最終契約、クロージングへと移行します。
M&A仲介会社によっては、買手が一方的に売手に差し出す意向表明を正式に受理した段階で中間金を貰う会社もありますし、さらに手前のトップ面談を設定するのに中間金を貰う会社もあると聞いています。
中間金を支払う際の注意点
どのタイミングで中間金を支払うかを、M&A仲介会社に確認が必要です。売手目線だと、買手候補とトップ面談を設定し中間金を支払ったとします。それにも関わらずM&Aが成立しなければ、別の買手候補と再びトップ面談となります。この場合、中間金を更に支払うケースも考えられます。
他にも、買手候補と1社でも面談をしたらその分だけ中間金を支払うなど、様々なパターンがあります。中間金を毎回取られるのか、成功報酬に充当されるかどうかは注意するポイントでしょう。
相場
50~200万円という低額の場合もあれば、成功報酬のうち5%ないし20%を支払うなど、M&A仲介会社ごとに設定されています。
もっともいろいろなケースが考えられるので、中間金を設定しないのが売手・買手双方にとっては良いかもしれません。
3.金額によって成功報酬の料率が変動するレーマン方式
成功報酬に対して、レーマン方式という方式をどの会社も基本使っています。
基準価額 | 料率/金額 | |
区分1 | 100億円超の部分 | 1.0% |
区分2 | 50億円超から100億円以下の部分 | 2.0% |
区分3 | 10億円超から 50億円以下の部分 | 3.0% |
区分4 | 5億円超から 10億円以下の部分 | 4.0% |
区分5 | 1億円以上から 5億円以下の部分 | 5.0% |
どのM&A仲介会社でも各区分によって料率や金額が決まっています。ただし、料率はどのM&A仲介会社もほぼ一緒ですが、何に対して料率をかけるのかは各M&A仲介会社によって異なる点に注意して欲しいです。
(1)事業譲渡の場合
事業譲渡価格が7億円であれば、基準価額の7億円のうち5億円までは料率が5%、残り2億円は料率4%になり、
5億円×5%+2億円×4%=3,300万円
と計算するのがレーマン方式です。基準価額の7億円に対し価率が4%で7億円×4%と計算しない点を注意してください。
(2)株式譲渡の場合
株式譲渡は少し複雑になります。株式譲渡価格が7億円で、会社の総資産が20億円の場合、株価分7億円を支払うことでその会社の20億円の総資産を手に入れることができます。もう少し細分化し、現預金が3億円で負債は5億円というケースを想定しましょう。この場合、成功報酬の計算方法は各M&A仲介会社によって異なります。
①ケース1
株式譲渡価格が7億円をそのまま基準価額と定め、
5億円×5%+2億円×4%=3,300万円
を成功報酬として要求するM&A仲介会社があります。これが一番シンプルなパターンです。
②ケース2
移動した総資産を基準価額とし、成功報酬を要求するM&A仲介会社があります。この場合、負債や現預金を全く無視して20億円の総資産に対してレーマン方式の表をもとに計算しています。つまり、
5億円×5%+5億円×4%+10億円×3%=7,500万円
を成功報酬として支払う計算になります。
③ケース3
株式譲渡価格に負債を加えるM&A仲介会社もあります。この場合、負債が5億円なので、
7億円+5億円=12億円
が基準価額になります。そうすると、
5億円×5%+5億円×4%+2億円×3%=5,100万円
を月額報酬として支払う計算になります。
負債を加える理由を分かりやすく理解してもらうために、もう少しシンプルなケースを考えてみます。たとえば株式譲渡価格が1円、負債は5億円という企業を想定しましょう。現預金は1円もありません。この場合、5億1円の事業譲渡の価値をつけたという発想になります。負債を買い取ったとイメージしてもいいかもしれません。つまり、この金額を基準価額とし、レーマン方式を使うという発想が出てくるわけです。
④ケース4
しかし、負債だけでなく現預金もあるという企業もあるでしょう。これがケース4です。 負債が5億円ありますが現預金が3億円あるので、3億円分の負債を返せば実際の負債は2億円だろうというのは、ある意味筋が通ります。つまり
7億円+5億円-3億円=9億円
が基準価額になり、
5億円×5%+4億円×4%=4,100万円
を月額報酬で支払う計算になります。ちなみに弊社はケース4の計算方式を採用しています。
このように成功報酬の計算方式にはルールがないので、M&A仲介会社との業務委託契約書をしっかり理解して納得することが重要です。
(3)気をつけるべき最低報酬
成功報酬でもう1点気をつけるべきことが、各M&A仲介会社が最低報酬を決めている点です。例えば大手の銀行や証券ならば3,000万円、大手M&A仲介会社だと2,000万円のように最低報酬を定めています。中堅的なM&A仲介会社でも1,000万円で、数人規模のM&A仲介会社であれば300~500万円位が最低報酬の一般的なラインです。
後述するように、この最低報酬がスモールM&A(小規模会社や個人事業の会社を対象としたM&A )においては大きな壁になります。
4.M&A仲介会社を選別するポイント
M&A・事業承継を検討している方へ
当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。
中小M&Aガイドラインから逸脱しても法的あるいは公的な罰則や制裁がないため、M&A仲介会社を見極めることが重要になります。そこで、M&A仲介会社をどのように選べばいいのかについて、ポイントを4つ挙げます。
(1)M&A仲介会社の実績
依頼するM&A仲介会社がどのようなM&Aの実績をもっているかを確認する必要があります。M&Aを成立させた件数が多いというのは、依頼する売手にとっても安心感があると思います。
また、どういう業種や業態のM&Aを扱った経験があるかも重要です。売却ないし買収する企業と似た業種を扱っているM&A仲介会社はより安心感があります。きちんとしたM&A仲介会社は実績を開示しているので、それをはぐらかすようであればその業者には実績がないまたは少ないのでしょう。
M&A成立までに何が起こるかわからないのがM&A、特にスモールM&Aの実情です。似た業種を扱った経験のあるM&A仲介会社ならば注意すべき点に気づきやすいでしょう。医療系や飲食などの業種に特化した仲介会社もあるので、各M&A仲介会社の得意な分野を把握することも重要です。
(2)M&Aアドバイザーへの信頼感
M&A仲介会社として豊富な実績があっても担当するM&Aアドバイザーに経験があるとは限りません。例えば、大手M&A仲介会社は多くのM&Aアドバイザーを抱えています。ただし、若手のM&Aアドバイザーの主な業務は営業です。買手になりうる企業に対し、どういう企業や業種、予算やエリアで買収する気持ちがあるかなど、買収ニーズを彼らはヒアリングしています。一方売り案件ですと、大手M&A仲介会社は事業承継セミナーを開催します。そのセミナーを地銀、信金、会計事務所等関係各所の方々が各地の後継者のいない社長たちに紹介し、彼らが出席することで売り案件が発掘されていきます。
もちろん大手M&A仲介会社にも経験のあるM&Aアドバイザーがいて、彼らがリードしながら若手がサブをやる仕組みになっていることもあります。ただし、このような業務形態でM&Aの経験があるとM&Aアドバイザーから告げられても、彼らが適切なアドバイスをできるとは限りません。そのため、M&Aアドバイザーにどういう経験があったかを確認する必要があります。別に経験が乏しくても会社の仕組みとしてサポートがあるので大丈夫というように、担当するM&Aアドバイザーを信頼できればいいとは思います。ただし、できる振りややった振りをするM&Aアドバイザーもたくさんいます。M&Aアドバイザーにも得意分野や苦手分野があるので、しっかり見極める必要があります。
(3)報酬とのバランス
例えば、5,000万円の案件を最低報酬2,000万円のM&A仲介会社に依頼すると、3,000万円しか売手に残りません。買手は5,000万円を売手に支払った上、M&A仲介会社に最低報酬2,000万円を支払うので、計7,000万円で売手を買収することになります。この最低報酬が壁になりM&Aが進展しないこともあるので、M&Aの規模と報酬とのバランスをきちんと見極める必要があります。
(4)士業など外部との協力体制
弁護士や司法書士、公認会計士や税理士、中小企業診断士といった士業や、同業M&A仲介会社との連携が挙げられます。要するに、「自社だけでなく外部との協力体制があるので買手を探せます」「自社だけではM&A成立まで漕ぎつけなくても、きちんと協力してくれる弁護士や会計士が周りにいます」とM&A仲介会社が返答できるかどうかです。
たとえばM&A仲介を前提にしている会社は、売手と買手両方の仲介を手掛けています。そうすると、その仲介会社のもつネットワーク内でマッチングするので、M&Aの幅が狭まるともいえます。売手と買手の仲介が別であれば、仲間の仲介会社が探すことでM&Aの幅はより広がります。
士業とのネットワークも同様で、スキーム作りやクロージングまでの手続きなどさまざまな工程が必要な場合があります。また、デューデリジェンスはM&A仲介会社の業務範囲ではないとはいえ、買手がM&Aにおいて信頼できる弁護士や会計士を知っているとは限りません。そういう場合に、外部との協力体制のあるM&A仲介会社は売手に顧問を紹介できます。
5.まとめ
以前、売手の仲介を行いましたが、買手のM&A仲介会社の本業は人材派遣会社でした。あとから分かりましたが、その会社にはM&Aの実績はなく、弊社とともに担当したM&Aの案件がクロージングまで漕ぎつけられた初めてのM&Aだったそうです。
こうしたケースもあるため、成功報酬の体系を含めて、どういう点でM&A仲介会社を選べばいいかが鍵となります。売手や買手となる企業が事前によく理解することが重要となるでしょう。
〈話者紹介〉
フォーナレッジ 代表取締役
加藤綱義(かとうつなよし)
日本電信電話株式会社(NTT)に入社。主に本社では広報部門、支店では営業部門に従事。ジー・コミュニケーションに転職し、常務取締役としてフランチャイズ加盟及び物件開発、経営企画、管理、外食、公開準備等を管轄。M&Aでは、「とりあえず吾平」「焼肉屋さかい」「英会話NOVA」を含め30件近い企業・事業の買収を担当。さかい(現ジー・テイスト)、いなよしキャピタルパートナーズ(現NOVAホールディングス)の代表取締役の就任ののち、2011年11月に独立しフォーナレッジを創業し、以来56件のM&Aに携わる(2020年10月現在)。
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