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M&A成功事例をもとに解説!地方の中小企業・小規模企業でもM&Aはできる!

2019/06/25
更新日:2024/05/13

はじめに

大企業だけでなく中小企業の間でもM&Aが認知され、M&Aの成約件数も増えています。「地方の企業だと、売却するのが難しいのではないか」と感じる経営者の方も多いかもしれませんが、決してそんなことはありません。今回は、地方の中小企業・小規模企業のM&A事例をもとに、M&Aを行う前に準備することから、地方の中小企業・小規模企業に強いM&A仲介会社の探し方までを、M&Aアドバイザーの松原良太氏に解説していただきました。


1.地方の中小企業・小規模企業におけるM&Aの現状

近年、M&Aの裾野は拡大しており、地方の中小企業が当事者となるM&Aの件数も増えています。その背景として考えられるのは、中小企業の事業承継に伴う売却案件の増加や、地域の金融機関による地域再生ファンドの設立・投資実行、M&Aが社会に浸透してきたことによる買い手の意欲の高まりなどが影響しています。

2018年に行われたM&Aを地域別に見てみると、買い手3,328件、売り手2,918件と、全国的に2017年よりも増加しています。買い手と売り手の所在地を見てみると、東京都が2,550件、東京都以外が1,078件、売り手は東京都1,716件、東京都以外が1,202件という結果が明らかになりました。東京都への一極集中の状況に変化はありませんが、東京都以外の地方でもM&A件数は増加していると言うことができます。
 

■2018年1-12月 地域別のM&A状況(単位:件)

北海道・東北 2017年 2018年
買い手 72 116
売り手 131 161
関東・甲信越 2017年 2018年
買い手 1,922 2,445
売り手 1,543 2,041
近畿 2017年 2018年
買い手 322 371
売り手 257 313
北陸・中部 2017年 2018年
買い手 164 214
売り手 131 166
中国・四国 2017年 2018年
買い手 62 75
売り手 65 92
九州・沖縄 2017年 2018年
買い手 88 107
売り手 112 145

※統計データは株式会社レコフデータの集計結果(2018)より抜粋

 

M&Aによる事業承継が活発化する中、都市部と地方の差が明らかになっていますが、この要因の一つに、出口戦略としての認知度の差があると考えられます。昨今、経営戦略の一環としてM&Aを活用する企業が増えていますが、地方ではこうした考え方がまだまだ根付いているとは言えません。本来、会社は永続的に経営されるのが望ましいですが、中小企業・小規模企業の場合、経営者と会社は一体となっているケースが多く、引退を考えることはむしろ当然のことと言えます。もちろん、廃業するという選択肢もありますが、工場などは更地にしなければ売却できず、売却に際しても手間とコストがかかる場合がほとんどであるため、経営が好調なときにこそ事業承継の対策を取ることが望ましいと言えるでしょう。

また、地方のM&Aが活発化しない要因の二つ目に、M&Aについて相談できるプレイヤーの不足が挙げられます。税理士・会計士・地方金融機関が主な相談先になりますが、M&Aのプロセスは複雑で専門的な知識が求められるため、M&A仲介会社を介した方がスムーズに進みます。最近は全国の都道府県に事業引き継ぎ支援センターのような公的な機関も設置されており、以前よりも後継者探しに取り組みやすくなっています。

地方の中小企業・小規模企業がM&Aを考えるきっかけは様々で、数年前までは業績不振によるものが多かったものの、最近は後継者不足から事業承継を検討する形式が増えています。比較的若い40〜50代の経営者の中には、業績不振には陥っていないものの、将来、地域経済の動向などを見るとこのままの経営を続けていることに不安を感じ、業績が好調のうちに何らかの手を打とうという先行不安が要因で事業承継を検討する方も増えています。

 


2.地方でもM&Aはできる!地方M&Aの成功事例

M&Aが成功した経営者

M&Aを検討している地方の中小企業・小規模企業の経営者は増えています。では、どんな企業が買収されているのでしょうか。M&Aに成功した企業の事例を参考に、株式譲渡・事業譲渡を行う際のヒントを見つけましょう。

九州地方で広告制作会社を営んでいたA社の経営は順調に推移していましたが、今後の事業拡大に限界を感じ、事業譲渡を検討されていました。過去に不動産を購入していたこともあり、収益性の低い事業を第三者へ売却し、経営資源を不動産事業に集中したいというのが経営者の要望でした。

経営者にヒアリングを行ったところ、経営を維持できているものの、顕在化していない簿外の負債が出てくる可能性が極めて高い状況でした。M&Aにおいて最もメジャーな手法は株式譲渡です。株式譲渡では法人格そのものを譲渡するため、負っている買掛金や未払金などの債務は買い手へ引き継がれることになります。もちろん、簿外債務についても同様です。対して事業譲渡は譲渡の対象となる事業を契約の範囲から定めることができるため、買い手が負債の承継を拒否した場合、売り手が再び負債を負うことになってしまいます。また、事業の主体が変わる事業譲渡は、取引先や従業員との契約を改めて締結し直す必要があり、手間やコストがかかる可能性もあります。うまくニーズと合致する買い手をご紹介できるか難しい案件でした。

しかし、A社はスイッチング・コストの高いサービスを展開しており、顧客を安定して抱えているという強みもありました。課題は多いものの、買い手にこの強みをうまく訴求できればM&Aは成立すると考えたのです。そこで提案したのが、M&Aマッチングサイトへの掲載です。これまでのM&Aの流れというと、M&A仲介会社がマンツーマンで買い手を探すものでしたが、買い手候補をある程度絞らざるを得ないという課題がありました。しかし、M&Aマッチングサイトを利用することで、エリアや業種の垣根を超え、これまで出会えなかった買い手と出会うこともでき、M&A成約の可能性を広げることができます。
M&Aマッチングサイトに掲載したところ、同じ九州地方の広告代理店B社が名乗りを上げました。B社はこれまで広告制作を外注していましたが、コスト削減のため内製化したいというニーズがありました。B社にとってA社はまさにうってつけの企業で、A社の事業を買収することによりワンストップサービスの提供が可能になり、コストを削減することができるという点を評価。さらに、A社が抱えていた優良顧客を引き継ぐことで、大幅な時間と労力を削減しながら顧客を開拓できるという点も事業買収に踏み切ったきっかけでした。行われたトップ面談では同じ商圏ということもあり、すぐに意気投合。無事に契約が成立しました。

M&Aを成功に導くためには、買い手の弱みを補完できる強みを売り手が持っているかどうかが重要です。M&Aが成立したことによって、B社は内製化することができ、A社は事業を売却することができた上、顧客や従業員を守ることもできました。お互いにとってメリットのあるM&Aを実現できたと思います。

 


3.M&Aが失敗する理由は? 交渉で気をつけるべきポイント

M&Aには成功もあれば、失敗に終わるケースもあります。失敗する要因は様々ですが、事前に準備しておくことで失敗を防げることもあります。ここではM&Aを行う上で気をつけたいポイントを紹介します。

M&Aの交渉プロセスは極めてデリケートなもので、従業員や取引先に与える影響も少なくありません。特に条件交渉では、お互いに欲をかき過ぎてしまい、売り手・買い手の双方で利害が対立するケースもあります。手塩にかけた会社を売却するなら高く売りたい、会社から離れるのが不安という気持ちもわかりますが、交渉の場では冷静になった方がいいでしょう。

ここでお伝えしたいのは「中小企業のM&Aは0か100ではない」ということ。非上場株式のM&Aというと、一度に100%の株式を売り手に譲渡する方法をイメージしがちですが、譲渡の際の金額・時期・割合などの条件は、当事者同士で自由に決めることができます。そのため、M&A成約後も会社に残り、取引先の引き継ぎなどを行いながら、初年度は51%、2年目に40%、3年目に残りの9%を売却というように段階的に株式を譲渡する設計も可能です。また、先々の業績の向上が見込まれる場合には、1株あたりの価額の計算方法に直近の営業利益などの指標の増加割合などを反映させることで、譲渡金額を大きくする手法もあります。成果に応じて譲渡金額が変わるため、売り手にとってはモチベーション向上に、買い手にとってもリスクヘッジにつながるというメリットがあります。売り手と買い手の双方がWin-Winの関係を実現できるように、中小企業・小規模企業のM&Aでは友好的な交渉が基本です。

また、投資するならできる限り安く買いたいという買い手の経営者の方もいますが、いわゆる「買いたたき」が交渉失敗の要因となることもあります。その理由は、売り手に売却のインセンティブが働かないから。企業・事業を売却する理由は、4〜5年先に得られる利益をその時点でまとめて得られることを目的としている場合もあります。そうしたインセンティブが働かなければ、急いで売却する必要がなく、より売り手を評価してくれる企業に売却した方が経済的と判断されてしまいます。競合企業に先を越されてしまっては本来の目的は果たせません。買い手の経営者の方はあとから後悔しないよう、多少プレミアムを付けてでも購入するという心構えで買収に臨むことが成功のコツの1つと言えるでしょう。

 


4.買い手が注目するポイントとM&Aを成功させるために準備すること

M&A商談

買い手が最初に注目するのは、売り手の経営状況です。判断材料として用いられるのは財務諸表。貸借対照表、損益計算書をもとに、経営は健全か、借入金の金額・使い道は適正か、未払残業代はないかなどを読み解いていきます。地方の小規模企業だからといって、決算書を出さなくてもいい、あとで数字を合わせればいいということにはなりません。信用を失う可能性もあるため、信頼できる正確な資料を用意するようにしましょう。また、M&Aの条件交渉は最終契約まで時間がかかるため、月次の数字を買い手に開示する必要があります。税理士によっては別途追加料金を請求されるケースもありますが、顧問料にプラスしてでも月次の数字を出せるようにしておきましょう。

買い手が注目するもう1つのポイントは「会社の強み」です。商品の独自性、マーケットシェア、商圏、ノウハウ、システム、顧客リストなど様々な強みがありますが、重要なのは売り手目線ではなく買い手目線の強みであることです。例えば、一定以上の期間に自社商品を購入していない休眠クライアントのリストも、営業先を拡大したい買い手にとって魅力的な立派な強みになります。

「うちの会社は赤字・債務超過だから売却できない」と悩む経営者もいますが、赤字でもM&Aの可能性はあります。確かに黒字の企業と比べて売却の難易度は高まりますが、買い手にとってシナジー効果が見込める場合はその限りではありません。すべての買い手が魅力と感じる強みを作るのは簡単ではありませんが、強みと弱みを洗い出し、買い手目線で「欲しい」と思える強みを見つけることから始めましょう。

また、中小企業・小規模企業の場合、経営者が営業部長や人事部長の役割を担っていることがあります。従業員や取引先、顧客に対して経営者の依存度が高すぎると、M&Aにおいては不利に働くことも。後継者の育成をしながら、代表業務の権限移譲と、経営者に依存しないシステム構築を進めることも売り手の準備の中で重要なことです。

 


5.地方の中小企業・小規模企業に強いM&A仲介会社の探し方

日本国内におけるM&Aの件数は増加トレンドにあるとはいえ、小規模案件を扱うM&A仲介会社の絶対数が足りなく、地方に特化したM&A仲介会社も十分ではありません。首都圏のM&A仲介会社とアドバイザリー契約を結ぶことも一つの手ですが、高額な仲介手数料がネックとなり、M&Aに踏み切れないと悩む経営者もいらっしゃいます。

手数料の料金体系は各仲介会社によって異なりますが、大手のM&A仲介会社にアドバイザリー契約を依頼した場合、最低1,000〜2,000万円を請求されることも。経営状態が健全でも売上規模が小さい企業の場合、仲介手数料が売却の対価と同程度になってしまうこともめずらしくありません。

M&A仲介会社を選ぶ際にまず確認したいのは手数料の最低価格。最低価格が1,000〜2,000万円という場合は譲渡金額が2〜4億円の案件を対象にしており、売上で10〜20億円の企業が中心です。一方で100〜1,000万円程度の小規模M&Aに特化した仲介会社も存在します。

こうした中、インターネット上でM&Aの相手を探せるマッチングサイトが台頭しています。着手金無料、複数の仲介会社を比較できるサービスもあり、利用しない手はありません。何よりもこれまで出会うことのなかった買い手を見つけられることが、マッチングサイトならではの魅力と言えます。

規模が小さいからM&Aできないとあきらめるのではなく、マッチングサイトを利用したり、自社に合ったM&A仲介会社を探し、M&Aの検討を進めていきましょう。

 


話者紹介

松原 良太(一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会専務理事 株式会社エクステンド M&A事業部 部長)

M&A・事業承継を検討している方へ

当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。

一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会専務理事
株式会社エクステンド  M&A事業部 部長
松原 良太 Matsubara Ryota  

青山学院大学経済学部卒業。オーストラリアボンド大学大学院経営学修士課程(MBA)修了。都市銀行、不動産デベロッパー、IT関連、住宅関連会社取締役を経験後、2007年中小企業のM&Aアドバイザー専門会社を設立。2010年に一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)を設立し、自らも現役で中小企業・小規模M&Aのアドバイザーを行い多くの案件を手掛け、中小企業の友好的M&Aへの理解・普及・M&Aアドバイザーの養成を支援している。

 

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