名古屋の事業承継の特徴とM&A成功のポイントを解説
はじめに
名古屋・東海地区の事業承継にはどのような特徴があるのでしょうか?また、この地区でM&Aを成功させるポイントとは何なのでしょうか?
事業承継の専門家であり、名古屋経済にくわしい株式会社すばる代表取締役の牧田彰俊さんに解説していただきました。
1.名古屋経済の特徴
愛知県の県民性は保守的で慎重で地元愛が強いという特徴があります。この気質は名古屋・東海地区におけるビジネス活動でも発揮されており、堅実なビジネスをされている経営者が多いようです。また、名古屋を中心として経済圏が完結していることも特徴のひとつです。東京と大阪という2大経済圏の間に位置していることや地元愛が強いことが、このような独立した経済圏を形成した背景にあると考えられます。
(1)トヨタの影響力は名古屋にも
トヨタ自動車株式会社の本社は愛知県豊田市にあり、工場や関連会社、取引先の会社が周辺に多数あるため、トヨタの影響力は名古屋を含む東海地区全域に及んでいます。
自動車工場、製造の一端を担う会社、自動車部品を提供する会社、部品を運搬する会社、トヨタ関連の従業員にサービスを提供する会社などが多数あり、トヨタの影響力の大きさは測りしれません。
わかりやすい例のひとつがトヨタカレンダーです。トヨタ自動車、子会社、関連会社、下請会社などで使用されていて、工場の稼働日に合わせたものになっており、これに合わせて会社だけではなく成人式等の公的な催し物も執り行われるのが特徴です。
工場などの製造業に従事している人だけでなく、事務職、運送業、飲食店などのサービス業、さまざまな業種に従事している人々がトヨタカレンダーに沿って仕事をしています。ひとつの企業がここまで社会全体に大きな影響を及ぼしているケースはそんなに多くはありません。トヨタ自動車の影響力の大きさは名古屋・東海地区の経済の特徴と密接に結びついています。
(2)名古屋の産業構造の特徴
名古屋・東海地区にはトヨタ関連の企業がたくさん集中していることもあり、製造業が多いという特徴があります。もともと堅実な土地柄で、「ものづくり」を重視する意識が広く浸透していることもあり、メーカーが名古屋経済の基盤を支えています。
また、為替の変動の影響を受けやすいのも名古屋経済の特徴です。自動車産業全般にも当てはまることなのですが、名古屋は輸出型のメーカーが多いため、円高になった場合に為替差損が派生します。
近年は海外での製造・販売の割合を多くするなど、メーカーも継続して対策を講じており、為替変動によるリスクはかなり軽減されてきています。
(3)名古屋経済の10年間
2008年に起こったリーマン・ショックの影響による経済の落ち込みは、東京ほど大きくはありませんでした。理由は、それほど金融業が多くないこと、堅実な土地柄で無借金経営が良いとされる傾向があることなどで、名古屋経済の独自性が幸いしたからです。
2011年に起こった東日本大震災による影響は名古屋・東海地区でもかなり大きなものがありました。距離的には関東よりも離れていますが、東北に製造拠点を持っている自動車部品のサプライヤーが数多くあっ
たからです。震災以降しばらくの期間、工場の稼働率が7割ほど落ち込んだ会社もありました。
しかし、ダメージはあったものの、回復は比較的早めでした。ここでも堅実な土地柄がプラスに働きました。他の供給ルートの確保、東北にあった工場など他の地区への分散など、しっかりとした対策を取るメーカーが多かったのです。
震災のダメージから回復して以降、名古屋経済は堅調な状況を維持しています。
2.名古屋におけるM&A
名古屋・東海地区におけるM&Aの傾向はこの10年の間でも変化していています。どう変わってきたのか、解説しましょう。
(1)M&Aへの認識の変化
10年ほど名古屋でM&Aに関わってきて、10年前は今以上に売手も買手もM&Aに対してネガティブなイメージを持っている傾向が強いと感じていました。M&Aは大企業がやるものであって、中小企業はそんなにむやみに手を出すものではないとの認識が一般的だったのです。
その潮流が変わったのはリーマン・ショックから日本経済が立ち直って回復基調になった頃です。名古屋・東海地区の経済の活性化に伴って、M&Aに対する意識も変わり、中小企業のM&Aが市民権を得るようになりました。
事業承継を進めたくても、後継者がいないため、実行できないという悩みを抱えている中小企業が増加しつつある背景も意識の変化を促す要因のひとつになっていると推測されます。
(2)名古屋のM&Aの特徴
堅実な経営を心がける会社の多いエリアなので、M&Aに関してもじっくり着実に進めていく傾向が見られます。売手にも買手にその傾向が当てはまります。よく言えば慎重なのですが、東京のような決断力もなく、大阪のような勢いもありません。
必然的にM&Aの案件を成立されるまでに長い時間がかかるケースが多くなります。他の地区だったら半年で成立する案件に1年くらいかかることも少なくありません。
(3)自動車関連のメーカー案件が多い
メーカー案件が多いのも名古屋のM&Aの特徴です。トヨタの関連会社、下請会社が数多くあり、自動車系のメーカー間のつながりが強いため、内部でM&Aを進めるケースも目立ちます。
名古屋では自動車系のメーカーのみならず、多様な業種でM&Aが行われています。それらの業種では特に目につく地域性はありませんが、独自の経済圏が完結していることもあり、土地に根ざしたM&Aの割合が多くなっています。
3.名古屋のM&Aのメリットを考察
堅実な経営が多いため、買手売手双方にとって、プラスになる優良案件がたくさんあるのが名古屋のM&Aです。それぞれの立場でどんなメリットがあるのか、見ていきましょう。
(1)売手のメリットは取引先に迷惑をかけないこと
名古屋は東京とは違って、会社を売却して得た資金によって新たな会社を設立して規模を大きくしていくといった野心的なM&Aは多くはありません。
他の地域と同様に後継者不在という問題を抱えている中小企業の経営者は多くいます。会社をどうやって存続させていくか、従業員をどう守っていくか、取引先との関係を維持していくか、といった観点からM&Aを考えるケースが多いのです。
特に自動車系メーカーは関連会社、部品を提供する会社など、取引先との関係によって成立している会社が多いため、廃業するとなったら他の会社に迷惑をかけることになってしまいます。
M&Aが成立するかどうかは自社だけの問題ではないのです。
取引先に迷惑をかけたくないという意識が他の地区よりも強い傾向があるため、取引先との関係の維持がM&Aの条件となるケースが多くなります。
さまざまな調整を経て成立したM&Aにおける売手のメリットは後継者不在問題を解決できることとともに、取引先に迷惑をかけることがなく信頼関係を維持できることなどが挙げられます。
(2)買手のメリットはエリア拡大
他の地域にも言えることですが、買手のメリットは会社の規模を拡大できることです。
買手が名古屋以外の地域に拠点を持っている場合はM&Aをきっかけとして、名古屋進出の拠点を得られるメリットも生じます。
また、買手が東京・大阪など、名古屋以外に拠点を持っている場合は、M&Aによって得た会社をより大きなマーケットで展開していけるメリットがあります。
名古屋という完結した経済圏があるがゆえに、名古屋以外の拠点ができることによって、会社の活性化につながる可能性が大きくなります。
4.名古屋でのM&A成功の秘けつ
名古屋でM&Aを成功させるには地域にあったアプローチの仕方があります。くわしく説明していきましょう。
(1)時間をかけることが大切
M&Aでは一般的には「スピード感を重視せよ」と言われることが多いのですが、名古屋ではこのやり方は通用しません。
売手も買手も慎重な方が多いので、粘り強く時間をかけることが大切なのです。
じっくり時間をかけて、相互理解を深めて信頼関係を築くことがM&A成功のポイントとなります。ただし時間がかかりすぎて、成立しないケースも出てくるので、丁寧に進行しながらもある程度はスピード感も意識する必要があります。つまりバランス感覚が求められるのです。
(2)名古屋ならではの価格設定
ケースバイケースではあるのですが、名古屋におけるM&Aは買取価格もシビアになる傾向があります。
仮に純資産100億円の会社があったとして、一般的なM&Aではこの純資産に利益3年分をプラスして設定するので、買取価格は例えば120億円ほどですが、名古屋でのM&Aはプラスαを乗せず、100億円という価格が提示される場合もあります。
いわゆるのれん代も勘案しない傾向があります。気質だけでなく、M&Aにおける価格設定も堅実なのです。
5.名古屋で話題になったM&Aの事例
近年、名古屋で成立したM&Aの事例を2つ紹介しましょう。それぞれメディアでも大きく報じられたので、ご存知の方もいらっしゃると思われますが、いずれも名古屋経済の現在を象徴するM&Aとなりました。
(1)三井屋工業のケース
三井屋工業株式会社というメーカーが2018年10月にセレンディップ・コンサルティング株式会社の子会社となりました。
三井屋工業は豊田市にある会社で、創業70年という歴史があり、トヨタ自動車の自動車部品のサプライヤーとして安定した業績を上げていたのですが、後継車不在と経営者の高齢化という問題を抱えていたため、M&Aに踏み切ったのです。
セレンディップ・コンサルティング株式会社が単独でこのM&Aを遂行するには関連する相手先の整理が大変であるため、当然、大手自動車メーカーの意向が反映していると推測されます。
このM&Aには三井屋工業株式会社の持っている独自の技術とノウハウを守り、さらに経営の近代化と最新テクノロジーの活用によって、企業を発展させていくという明確な目的がありました。経営者、従業員、取引先の企業、すべてにとってメリットの大きなM&Aとなったのです。
(2)ユニーのケース
三井屋工業とほぼ同時期の2018年10月に、ユニー・ファミリーマートホールディングスが子会社であるユニーをパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(売却の時点での社名はドン・キホーテホールディングス)に売却しました。
ユニーは1971年に名古屋を地盤としていた衣料系のスーパー「ほていや」、「西川屋」など3社の合併で生まれた総合スーパーで、コンビニエンス・ストアのサークルK、大型スーパーのアピタ、ショッピングモールのウォークなどを運営する愛知県の経済の雄だったのですが、何度かのM&Aを経て、2016年にはファミリーマートとの経営統合によって吸収合併され、2018年にドン・キホーテへと売却されました。
地域に密着した堅実な経営をしていたのですが、近年は小売業界全般に厳しい状況が続き、関東や関西と比べると経済圏が小さく、レバレッジが効きにくいなどの不利な条件もあって、買収という結果になりました。
現在はドン・キホーテの手法が導入されて、ユニーが運営していた「アピタ」、「ピアゴ」といった店舗が「MEGAドン・キホーテUNY」として生まれ変わり、業績を伸ばしています。
6.名古屋のM&Aの現在と未来
M&A・事業承継を検討している方へ
当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。
堅実であることがすべてプラスに働くとは限らないのですが、地に足がついていることが名古屋経済の特徴であり、M&Aの特徴となっています。
名古屋では強引に新規参入するといったベクトルに向かうことはほぼないのですが、売手にとっても買手にとっても納得がいくM&Aがたくさん成立しています。
名古屋でM&Aを考えている方にアドバイスするとしたら、「ともかくあせらずにじっくり付き合ってください」ということです。信頼されるまでに時間がかかりますが、一度信頼関係を構築することができたら、何か問題が生じたときに売手と買手とが協力しあって解決することも可能になります。
売手としても時間をかけて買手に会社の状況を理解してもらうことは、会社の将来にとってもプラスになるはずです。
現在もリニアモーターカーが愛知高速交通東部丘陵線で運行中ですが、2027年には東京・名古屋間で、2045年には大阪まで、リニア新幹線が開業する予定です。移動時間が短縮されて、管理も楽になるので、今後のM&Aを考える上で名古屋はお勧めのエリアであることは間違いありません。
話者紹介
株式会社すばる
代表取締役 牧田 彰俊(まきた あきとし)
牧田公認会計士事務所代表、株式会社保険のすばる代表取締役会長。有限責任監査法人トーマツ入所、各種業務の法定監査、IPO支援に携わる。その後、ファイナンシャルアドバイザリーサービス部門にてM&A アドバイザリー業務・財務デューディリジェンス業務・企業価値評価業務等に従事。組織再編によりデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に異動し、主に国内ミドルキャップ案件のM&Aアドバイザリーとして、豊富な成約実績を収める。2018年、これまで以上に柔軟に迅速に各種ニーズに応えるべく株式会社すばるを設立。2019年、M&Aクライアント企業やオーナーへのサービスライン拡充として保険のすばるを設立し、現在に至る。
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