SPCとは何か?M&Aにおいて利用する場合のメリットとデメリット、事例などを解説
はじめに
不動産や証券の流動化を促進することを目的として誕生し、その後、M&Aでも活用されるようになったのがSPCです。M&AでSPCを設立する意義、設立の流れ、メリット、デメリットなどを、M&Aにくわしいエクステンド株式会社代表取締役社長の沖原 厚則さんに解説していただきました。
1.SPCとは何か?
まずSPCとは何かを説明していきましょう。実はSPCにも2つの種類があるため、ややこしいところがあります。SPC法によって設立されるSPCと会社法によって設立されるSPCです。ここではその違いも合わせて、くわしく解説していきましょう。歴史的にはSPC法で設立されるSPCの仕組みが先に登場しました。歴史的な流れも含めて説明します。
(1)SPCの定義
SPCは英語の「Special Purpose Company(スペシャル パーパス カンパニー)」の略称で、日本語では「特別目的会社」と訳されています。その言葉どおり、特別の目的のために設立された会社をSPCというのです。特別な目的については後述します。
(2)SPCとSPC法の関係
SPCという言葉が一般的に広まったのは1998年にSPC法が公布されたのがきっかけでした。SPC法とは「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」の略称です。1998年はバブルが崩壊した直後で、株価が暴落して日本経済が不況に陥り、不動産や証券の流通が停滞していました。SPC法はそうした資産の流動化の促進という目的で作られたのです。SPC法に基づいて設立される会社がSPCということになります。SPC法ができたことで、SPCという言葉が定着しました。
その2年後、より使い勝手のよいものへとSPC法が改正されて、法律の名前も変わったのです。SPC法という略称は同じなのですが、「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」から「資産の流動化に関する法律」へと、正式名称が変わりました。簡単にいうと、法律の適応される範囲が財産権一般に拡大されたのです。
(3)SPC法によって設立されたSPCの目的と仕組み
SPC法によって設立されたSPCの目的と仕組みを説明しましょう。SPCが通常の株式会社と大きく異なる点は利益を得るための事業活動が一切できない点にあります。このことはSPC法によって定められています。利益を追求せず、何を目的とするかというと、不動産、証券などの資産の保有です。
イメージとして近いのは貯蔵庫でしょうか。SPCを設立して、会社が持っている資産をSPCという貯蔵庫に移しかえるのです。このことによって会社はオフバランス化することができます。つまり貸借対照表から不動産などの資産を切り離すことができるのです。
SPCの設立という目的があることで、会社は金融機関や第三者からの融資を受けやすくなるメリットもあります。さらに会社の資産、不動産や証券をSPCに売却することによって売却益を手に入れることができるのです。つまりSPCは会社の資金を増やすための有効な手段になります。
またSPCを設立した会社とSPCとはそれぞれ独立したものであると見なされるため、SPCを設立した会社が倒産したとしても、SPCの資産はそのまま維持されることになります。SPCは資産を守るという目的のために設立されることもあるのです。
(4)SPCとペーバーカンバニーとの違いはどこにあるか?
SPCは特別な目的を持って設立された会社ですが、会社としての事業が行われるわけではありません。会社としての事業スペースがなく、従業員もいないケースがほとんどで、会社としての実態が伴わないため、ペーパーカンパニーの一種だと判断する人もいるのではないでしょうか。しかしSPCは明確な目的を持っているという点がペーパーカンパニーとは大きく異なります。
(5)SPC法と会社法という2つの設立の仕方があるSPC
SPCはSPC法の成立によって登場しました。M&Aでも活用することができるため、M&Aで利用されるケースも目立つようになってきました。この場合はSPC法ではなく、会社法に基づいて設立されます。SPC法で設立した場合には利益を追求できないからです。
会社法に基づいて設立する場合の多くは株式会社ではなく、合同会社という形を取ります。合同会社は株式会社と違って株主と経営者とが分離していないため、経営者が出資者となる点が特徴的です。
2.M&Aで活用されるSPC
SPCがM&Aで使われる場合はLBOというM&Aの手法において設立されます。LBOとはどんな手法なのか、またSPCはどういう流れで活用されるのかを見ていきましょう。
(1)LBOとは何か?
LBOは「Leveraged Buyout(レバレッジド・バイアウト)」の略称で、レバレッジは「テコ」、バイアウトは「買収」という意味があり、M&Aの手法のひとつとして使われています。売手企業の資産を担保として融資を受け、その融資によって買手企業は売手企業を買い取り、融資の返済は買収された企業が背負う手法です。LBOを活用することで、資金力の小さな企業が大きな企業を買収することが可能になります。
(2)LBOをする流れの中でSPCが設立される
LBOを実行する際にはまずSPCを設立します。SPCの持っている独立性を活用することによって、買手企業は効率的に融資を集めることができ、返済の義務を回避することができるからです。
(3)LBOの一般的な流れ
LBOではおおよそ次のような流れで買収が行われます。
①SPCの設立
まずはM&Aの受け皿となるSPCを設立します。この場合のSPCはSPC法に基づいたものではなくて、会社法に基づいたSPCです。SPCの目的は買収する企業の株式の買取となります。
②金融機関から買収資金の融資を受ける
次に、SPCが銀行などの金融機関からM&Aの買収資金の融資を受けます。この融資をLBOローンと呼び、この一連の流れによって、SPCは多額の買収資金を得るのと同時に、多額の債務を抱えることとなります。
なおこのLBOローンの担保となるものはM&Aによって得る会社の資産と将来のキャッシュフローです。つまり融資を受ける時点ではまだM&Aが成立していないわけですから、担保は存在していません。M&Aが成立して企業を買収して所有することを前提とした、将来的な見通しによる担保である点がポイントとなります。
③SPCによるM&Aで売手企業を買収
SPCは融資によって得た資金で売手企業を買収し、買収された売手企業はSPCの子会社という位置づけになります。
④SPCと買収された企業とを合併
SPCと買収された企業とを合併させることによってLBOの一連の流れが完結し、買収された企業が融資による負債を支払っていくことになります。
3.SPCを設立するメリット
M&A・事業承継を検討している方へ
当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。
LBOをする上でSPCを設立するのは大きなメリットがあるからです。どんなメリットがあるのか、具体的に見ていきましょう。
(1)少ない資本での買収が可能
将来的に買収する企業の資産やキャッシュフローを担保として融資を受けることができ、M&A成立後、将来的には買収された企業が融資の返済を受け持つので、少ない資本での買収が可能になります。
(2)節税効果が期待できる
LBOをする場合には借り入れをすることになるので、買収が成立したのちには買収された企業は利息の返済を行う必要があります。この返済は損金として算入できるので、所得から差し引くことができ、節税効果が期待できます。
4.SPCを設立するデメリット
SPCには大きなメリットがありますが、デメリットも存在します。説明していきましょう。
(1)LBOを選択してSPCを設立するデメリット
一般的にLBOローンは通常よりも金利が高めに設定されています。借入する金額はかなりの高額になるケースが多いので、金利の負担も高額となってしまうことが想定されるのです。
(2)買収した企業の経営面でのリスク
LBOによってM&Aをする場合には多額の資金を投じて企業を買収することになるわけですが、買収した企業の経営状況が改善しなかった場合には、大きなリスクを背負うことになってしまいます。なぜならば、買収した企業の運営が順調に進むという前提で、融資を受けているからです。経営改善が思うように進まない場合は、想定していたリターンを手にできない場合もあります。M&Aを決める前の段階で、買収を考えている企業の将来性をしっかりチェックしておく必要があるのです。
5.M&AでSPCを使った事例
近年、SPCを設立してM&Aを行うケースが増えています。成功例と失敗例を紹介しましょう。
(1)ソフトバンクによるボーダフォンの買収
近年のLBOの代表的な成功例としてまずあげられるのは2006年のソフトバンクによるボーダフォン日本法人の買収でしょう。買収金額は1兆7,000億円という高額にのぼりましたが、その中の1兆円はLBOによってSPCを設立して調達した資金でした。
多額の債務を背負うことになりましたが、ボーダフォンが安定したキャッシュフローを持っていたことと、携帯電話・スマホの普及という時代の流れとが大きなプラス要因となり、ボーダフォン日本法人の買収によって、ソフトバンクは携帯電話市場での大きなアドバンテージを得て、成功を収めました。
(2)ソフトバンクによるスーパーセルの買収
もうひとつ、ソフトバンクの成功例を紹介しましょう。ソフトバンクはスマホ向けのゲームアプリも開発しています。同じくゲームアプリを開発しているガンホー・オンライン・エンターテイメントとともに共同で2013年にSPCをフィンランドに設立して、1日のプレイヤー数が1億人以上という人気ゲームを所有しているフィンランドのゲームアプリ会社、スーパーセルを子会社化しました。SPCによる買収金は約1515億円で、スーパーセルはソフトバンクの連結子会社となったのです。
その3年後の2016年にソフトバンクはスーパーセルを中国インターネットサービスの大手であるテンセント・ホールディングスに約7700億円で売却しました。それまでのスーパーセルから得た配当金が約430億円で、合わせて8130億円を得ることになったのです。
(3)ダイセンホールディングスによるさとうベネック買収の失敗例
失敗例もひとつ紹介しましょう。2012年にダンセンホールディングスがLBOによってSPCを設立して、さとうベネックを買収した事例です。さとうベネックは大分県に本社を構える大手ゼネコン会社で、経営悪化によって2006年に経営再建のために金融機関に債務を免除してもらう状況になっていました。その後、ネクスト・キャピタル・パートナーズという投資ファンドのもと、経営再建が順調に進み、2011年6月期には売上高103億円、経常利益2億円、預金20億円という数字になるまで、回復したのです。
しかしダンセンホールディングスによる買収の8か月後に、さとうベネックは44億円以上の負債を抱えて黒字倒産する事態となってしまいました。SPCによって買収資金を得た際の借入金がさとうベネックに移り、その負債を返済できる能力がなかったことが要因となったのです。
SPCを利用したM&Aにおいては買収された企業が負債を背負う仕組みになっています。そのために負債を返済できずに倒産するリスクが生じるのです。このリスクを回避するためには、買収した企業が負債を返済する力を持っているかを事前に見極めることが必要になります。
6.まとめ
SPCはもともと不動産や証券などの流動化を目的としてSPC法が施行されたことによって生まれたものです。現在も不動産の取得などで活用されているケースがかなりあります。
M&Aにおいても、SPCが活用されるケースは少なくありません。少ない資金で買収が可能となり、融資を受けた負債は買収した会社が背負うことになるため、買手企業に返済義務がないなど、メリットはたくさんあります。しかしその一方で買収した会社が負債とその利息を返済できずに倒産してしまうリスクが生じることを念頭に置かなければなりません。好況時であれば乗り切れても、不況の時期には倒産のリスクがより大きくなる傾向があります。SPCを設立してM&Aを実行する場合には、買収した企業の将来的な経営状況も予測したうえで慎重に進める必要があるのです。
話者紹介
エクステンド株式会社 代表取締役社長
沖原 厚則(おきはら あつのり)
大阪府出身。2005年、 株式会社フィナンシャル・インスティチュート入社。2015年、MBOにより株式会社フィナンシャル・インスティチュートの経営を引き継ぐ。商号を株式会社エクステンドに変更し、代表取締役に就任。人材派遣会社のM&Aにも成功。前身の会社から踏襲した事業再生コンサルティングを軸に中小企業に特化したサービスを行っている。業務改革を専門としながら、営業、財務に至るまで幅広く指導。主な著書は『接客(販売)の実務(共著)』。
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